再出発

国光

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再出発

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「終わったな」
「終わりましたね」
「あっけないもんだな」
「あっけないものでしたね」
「何でこんなことになってしまったんだろう」
「社長が無茶苦茶なことばっかりするからではないでしょうか」
「それを止めるのは秘書の役目じゃないのか」
「止めました。無駄でしたけど。どうしてあんな無茶を?」
「だって、まさかこんな簡単に潰れるなんて思わなかったから」
「色々ありましたけど最後は割とあっさり行きましたね」
「最初にやばいと思った時に止めておけば会社潰れただけで財産持っていかれるくらいの負債は抱えなくて良かったんだよなあ」
「わかってたのですか?それじゃあ、なんであの時止めなかったんですか?」
「あそこで引き下がるのは男じゃないからな」
「その結果がこれですか」
「面目ない」
「我々二人とも無職です。これからどうやって食べていけばいいのでしょう」
「これを持って行け」
「これは?」
「退職金代わりだ。今までご苦労だったな。それでしばらくは生活できるだろう」
「ですが、この指輪は社長のお母様の形見ではありませんか」
「君には随分世話になった。昔からずっと。両親が事故で亡くなった時も。きっと母さんも君のために使われた方が喜んでくれるはずだ」
「社長はどうされるのですか?」
「どうにか生きていくよ」
「そんなこと言っても、私がいないと何も出来ないじゃないですか」
「出来なくない。一人で生きていける」
「そういう言葉は一人でネクタイが結べるようになってから言ってください」
「出来る……多分」
「坊ちゃま」
「その言い方は止せ。もう子供じゃないんだぞ」
「子供ですよ。私にとってはいつまでも」
「三つしか違わないのに子供扱いするな」
「はいはい。では行きましょう」
「どこに」
「まずは住む場所です。狭い部屋でも我慢してくださいね」
「一緒に来るのか?」
「はい。どこまでもお供しますよ。素敵な婚約指輪も頂いたことですし」
「いや、そんなつもりで渡したわけでは」
「私はそういうつもりで受け取りましたよ」
「俺なんかで良いのか?」
「そうでなければずっと一緒にいたりしませんよ」
「そうか。物凄い迷惑かけると思うけど、これからもよろしく頼む」
「了解です。ええと、坊ちゃまは駄目ですしもう社長ではないですし、どうお呼びすればいいでしょうか?」
「なんでもいいよ。坊ちゃま以外なら」
「わかりました。あなた」
「……どうしてそうなる」
「これが一番呼びやすいからです」
「……………」
「どうしました。あなた」
「色々と前途多難な再出発だと思ってな」
「新たな道を進む時は誰しも不安になるものです」
「不安の種類が違うような気がするが」
「どんな種類の不安ですか?」
「このままいくとある人に一生頭が上がらなくなるような気がしてきた」
「そんなこと。今更じゃないですか」
「そうだったな。行くぞ」
「はい。あなた」
「……やっぱり君には一生敵わないんだろうな」
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