4 / 5
第3話「子爵と子爵夫人」
しおりを挟む
『……ちょっと考えてみるわ』
ルーネイス王国の女王エレンシア・ルーネイスの婿探しは一歩だけ前進したのだった。
『姉に幸せになって欲しい弟の気持ちも考えてくれ』
そう告げたエレンシア女王の幼馴染であるディオン・エルザードは二人の子を持つ父親である。
家に帰れば妻と息子と娘が待っている。
「お帰りなさいませ。旦那様」
屋敷に戻ったディオンを迎えるのはエルザード子爵夫人のアリス・エルザードだった。
「……………」
「どうしました。ディオン様」
妻の言葉にディオンは俯く。
「嘘をついてしまった」
ディオンはゆっくりと口を開いた。
「王国のためも本当だ。エレンの幸せも本当だ」
ディオンは静かに呟く。
「でも、エレンを他の男に取られるような気がして嫌なんだ」
何の前振りも無く言われたにも関わらず、アリスはつぶさに状況を理解した。
「ならディオン様が手に入れればよろしいではないでしょうか」
「えっ」
ディオンは驚いた表情でアリスを見る。アリスは優しく微笑んでいる。
「それってどういう━━」
「「お父様!」」
子供たちがディオンに向かって突進してくる。
「マイス。シア」
「「お帰りなさい」」
今年で三歳になる可愛い双子達に出迎えられた。
「ただいま。二人とも。……アリス。今の言葉」
「さあ、お父様がお帰りになりましたから食事にしましょう」
ディオンは妻の言葉の真意を聞く事は出来なかった。
アリス・エルザード。旧姓アリス・ミデンはミデン男爵家の出身である。
ディオン・エルザードは女王との関係性から多数の貴族から正妻や側室の申し入れがあった。三公爵からもそれぞれ正妻候補側室候補を勧められた。
最終的には従兄妹のアリスにある条件を付けて結婚した。
ディオンに妻はひとりである。側室はいない。三公爵からは割と結婚後も勧められたが断固として断っていたのだ。
王宮に泊まることの多いディオンだが、自分の屋敷で眠るときは妻のアリスと一緒に寝ている。
「アリス」
共に眠る妻にディオンは話しかけた。
「さっきの言葉はどういうことだ?」
「そのままの意味です。女王陛下のお産みになる王子の父親が貴方でも問題ないと思います」
「いや、いろいろ問題だらけだろう」
アリスの問題ありすぎる発言にディオンは思わず身体を起こした。
女王の伴侶なら公爵家か侯爵家。最低でも伯爵家の直系でなければならない。
ギリギリアウトだがこの場合なら子爵でもいいだろう。子爵家当主で独身であれば。
つまりディオンがエレンシアの子の父親になるということは色々な問題があるのだ。
「あら。陛下が生涯子供を産まない事に比べたら大した問題ではないでしょう」
アリスも身体を起こしてそう答えた。ディオンは無言になって考える。
『ディオン・エルザードがこの世で最も愛するのはエレンシア女王陛下ただ一人である。結ばれない相手だとしても俺は陛下を想い続ける。たとえ誰か別の伴侶を得ようともそれは変わらない。それでもいいか?』
かつてディオンがアリスに結婚の条件として告げた言葉だ。
アリスはそれを受け入れた。
「俺の子供をエレンに産んでもらう?そんなこと上手くいくわけない。上手くいったとしても君はそれでいいのか?」
「ディオン様は陛下と結ばれても私と子供達を捨てたりはしませんよね」
「もちろんだ」
「なら問題ありません」
アリスは平然とそう答えるとディオンにキスをしてそのまま眠りに着いた。
ディオンは無言のまま眠る妻の姿を見て、再び横になった。
その日、ディオンは眠れぬ夜を過ごすことになるのだった。
ルーネイス王国の女王エレンシア・ルーネイスの婿探しは一歩だけ前進したのだった。
『姉に幸せになって欲しい弟の気持ちも考えてくれ』
そう告げたエレンシア女王の幼馴染であるディオン・エルザードは二人の子を持つ父親である。
家に帰れば妻と息子と娘が待っている。
「お帰りなさいませ。旦那様」
屋敷に戻ったディオンを迎えるのはエルザード子爵夫人のアリス・エルザードだった。
「……………」
「どうしました。ディオン様」
妻の言葉にディオンは俯く。
「嘘をついてしまった」
ディオンはゆっくりと口を開いた。
「王国のためも本当だ。エレンの幸せも本当だ」
ディオンは静かに呟く。
「でも、エレンを他の男に取られるような気がして嫌なんだ」
何の前振りも無く言われたにも関わらず、アリスはつぶさに状況を理解した。
「ならディオン様が手に入れればよろしいではないでしょうか」
「えっ」
ディオンは驚いた表情でアリスを見る。アリスは優しく微笑んでいる。
「それってどういう━━」
「「お父様!」」
子供たちがディオンに向かって突進してくる。
「マイス。シア」
「「お帰りなさい」」
今年で三歳になる可愛い双子達に出迎えられた。
「ただいま。二人とも。……アリス。今の言葉」
「さあ、お父様がお帰りになりましたから食事にしましょう」
ディオンは妻の言葉の真意を聞く事は出来なかった。
アリス・エルザード。旧姓アリス・ミデンはミデン男爵家の出身である。
ディオン・エルザードは女王との関係性から多数の貴族から正妻や側室の申し入れがあった。三公爵からもそれぞれ正妻候補側室候補を勧められた。
最終的には従兄妹のアリスにある条件を付けて結婚した。
ディオンに妻はひとりである。側室はいない。三公爵からは割と結婚後も勧められたが断固として断っていたのだ。
王宮に泊まることの多いディオンだが、自分の屋敷で眠るときは妻のアリスと一緒に寝ている。
「アリス」
共に眠る妻にディオンは話しかけた。
「さっきの言葉はどういうことだ?」
「そのままの意味です。女王陛下のお産みになる王子の父親が貴方でも問題ないと思います」
「いや、いろいろ問題だらけだろう」
アリスの問題ありすぎる発言にディオンは思わず身体を起こした。
女王の伴侶なら公爵家か侯爵家。最低でも伯爵家の直系でなければならない。
ギリギリアウトだがこの場合なら子爵でもいいだろう。子爵家当主で独身であれば。
つまりディオンがエレンシアの子の父親になるということは色々な問題があるのだ。
「あら。陛下が生涯子供を産まない事に比べたら大した問題ではないでしょう」
アリスも身体を起こしてそう答えた。ディオンは無言になって考える。
『ディオン・エルザードがこの世で最も愛するのはエレンシア女王陛下ただ一人である。結ばれない相手だとしても俺は陛下を想い続ける。たとえ誰か別の伴侶を得ようともそれは変わらない。それでもいいか?』
かつてディオンがアリスに結婚の条件として告げた言葉だ。
アリスはそれを受け入れた。
「俺の子供をエレンに産んでもらう?そんなこと上手くいくわけない。上手くいったとしても君はそれでいいのか?」
「ディオン様は陛下と結ばれても私と子供達を捨てたりはしませんよね」
「もちろんだ」
「なら問題ありません」
アリスは平然とそう答えるとディオンにキスをしてそのまま眠りに着いた。
ディオンは無言のまま眠る妻の姿を見て、再び横になった。
その日、ディオンは眠れぬ夜を過ごすことになるのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる