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第1話「女王と幼馴染」
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ディオン・エルザードはルーネイス王国の女王エレンシアの幼馴染である。
現女王エレンシアは先代国王の十八人の子のうち十五番目に生まれ権力と無縁の田舎で慎ましく暮らしていた。そしてその田舎を治めていたのがエルザード子爵。つまりディオンの父である。
今から六年前。内乱の末、エレンシアが王位に就くことになった時、当然のようにディオンもエレンシアと一緒に王都に訪れた。
エレンシアが玉座について六年の時が流れた。
「話とはなんですか?ディオン」
二人しかいない謁見の間で、玉座からエレンシアは目の前に跪く幼馴染みに声をかけた。
「恐れながら女王陛下に申し上げます」
「聞きましょう」
「陛下も今年で御歳二十四。そろそろ婿をとってはいかがでしょうか」
それを聞いたエレンシアの顔が曇る。
僅かな沈黙を挟みエレンシアが口を開いた。
「それは貴方の意見ですか?」
「はい」
エレンシアの問いにディオンは即答した。
「本当は?」
「公爵様に頼まれまして」
次なるエレンシアの問いにディオンは再び即答した。少し申し訳なさそうに。
「そう。公爵の誰にと聞く必要はなさそうね」
「はい。全員です」
ディオンのその言葉にエレンシアはため息をついた。
「爺どもにも困ったわね」
以前から三公爵による婚姻の薦めはあった。ただし候補者は全員三人の子飼いの者。つまり三公爵は三人ともエレンシアの伴侶を王座につけて自らが後見になって国を動かそうとしていた。それから数年の時が流れた。
「ですが今回は本当に国を思っての言葉かと。私ごときに御三方が頭を下げるほどです」
三公爵ももうなりふり構っていられなくなった。一人は慣れない土下座のしすぎで額を床にぶつけて額から血を流していたくらいだ。
三人の公爵たちは、婿を取らないまま歳を重ねるエレンシアを何年も見てきて、本当に王家の血が途絶えるとの危機意識にとらわれるようになった。
正当な王家の血筋を持つのはエレンシアただ一人。内乱で他の王位継承者達は遠縁まで皆死に絶えた。
「別に血筋って言ったって、先々代のお爺様まで遡れば何人かいるじゃない」
血筋を大事にするルーネイス王国の頂点は全く血筋を気にしていなかった。そしてさっきから口調が砕けてきている。
「まあ、婿を取らない私も悪いのでしょうけど。条件が悪かったかしらね」
自分より強い者が現れたら伴侶にすることを考えてみる。
国中にそう宣言したエレンシアに挑む者たちは数えきれなかった。
結論から言えば皆が敗れた。その結果が現在の状況である。
「稀代の魔術師でもある陛下に敵う者など大陸中探しても見つからないと思われます」
強大な魔力を持つエレンシアに誰も勝てなかった。
戦場で名を上げた軍人・騎士。高名な魔術師。剣の道にのみ生きる剣聖。
ルーネイス王国の年頃の男は皆、エレンシアにぶちのめされていると言っても過言ではない。
「ディオン。貴方もいつまでそんな話し方をしているつもり?」
「今は公式の場ですので」
玉座に寄りかかって楽な姿勢になって尋ねるエレンシアに跪いたままディオンは答える。
「二人きりじゃない」
「それでもです」
体勢を変えずにディオンは言葉だけ返す。
「ディー」
「……………」
エレンシアに愛称で呼ばれながらもディオンは跪いたままであった。
「ディー」
「わかったよ」
観念したようにディオンは立ち上がった。そしてエレンシアに向かって歩き出す。
「じゃあ幼馴染として一言」
ディオンは玉座に近づいて真っ直ぐにエレンシアの目を見て口を開いた。
「エレン。結婚してくれ」
現女王エレンシアは先代国王の十八人の子のうち十五番目に生まれ権力と無縁の田舎で慎ましく暮らしていた。そしてその田舎を治めていたのがエルザード子爵。つまりディオンの父である。
今から六年前。内乱の末、エレンシアが王位に就くことになった時、当然のようにディオンもエレンシアと一緒に王都に訪れた。
エレンシアが玉座について六年の時が流れた。
「話とはなんですか?ディオン」
二人しかいない謁見の間で、玉座からエレンシアは目の前に跪く幼馴染みに声をかけた。
「恐れながら女王陛下に申し上げます」
「聞きましょう」
「陛下も今年で御歳二十四。そろそろ婿をとってはいかがでしょうか」
それを聞いたエレンシアの顔が曇る。
僅かな沈黙を挟みエレンシアが口を開いた。
「それは貴方の意見ですか?」
「はい」
エレンシアの問いにディオンは即答した。
「本当は?」
「公爵様に頼まれまして」
次なるエレンシアの問いにディオンは再び即答した。少し申し訳なさそうに。
「そう。公爵の誰にと聞く必要はなさそうね」
「はい。全員です」
ディオンのその言葉にエレンシアはため息をついた。
「爺どもにも困ったわね」
以前から三公爵による婚姻の薦めはあった。ただし候補者は全員三人の子飼いの者。つまり三公爵は三人ともエレンシアの伴侶を王座につけて自らが後見になって国を動かそうとしていた。それから数年の時が流れた。
「ですが今回は本当に国を思っての言葉かと。私ごときに御三方が頭を下げるほどです」
三公爵ももうなりふり構っていられなくなった。一人は慣れない土下座のしすぎで額を床にぶつけて額から血を流していたくらいだ。
三人の公爵たちは、婿を取らないまま歳を重ねるエレンシアを何年も見てきて、本当に王家の血が途絶えるとの危機意識にとらわれるようになった。
正当な王家の血筋を持つのはエレンシアただ一人。内乱で他の王位継承者達は遠縁まで皆死に絶えた。
「別に血筋って言ったって、先々代のお爺様まで遡れば何人かいるじゃない」
血筋を大事にするルーネイス王国の頂点は全く血筋を気にしていなかった。そしてさっきから口調が砕けてきている。
「まあ、婿を取らない私も悪いのでしょうけど。条件が悪かったかしらね」
自分より強い者が現れたら伴侶にすることを考えてみる。
国中にそう宣言したエレンシアに挑む者たちは数えきれなかった。
結論から言えば皆が敗れた。その結果が現在の状況である。
「稀代の魔術師でもある陛下に敵う者など大陸中探しても見つからないと思われます」
強大な魔力を持つエレンシアに誰も勝てなかった。
戦場で名を上げた軍人・騎士。高名な魔術師。剣の道にのみ生きる剣聖。
ルーネイス王国の年頃の男は皆、エレンシアにぶちのめされていると言っても過言ではない。
「ディオン。貴方もいつまでそんな話し方をしているつもり?」
「今は公式の場ですので」
玉座に寄りかかって楽な姿勢になって尋ねるエレンシアに跪いたままディオンは答える。
「二人きりじゃない」
「それでもです」
体勢を変えずにディオンは言葉だけ返す。
「ディー」
「……………」
エレンシアに愛称で呼ばれながらもディオンは跪いたままであった。
「ディー」
「わかったよ」
観念したようにディオンは立ち上がった。そしてエレンシアに向かって歩き出す。
「じゃあ幼馴染として一言」
ディオンは玉座に近づいて真っ直ぐにエレンシアの目を見て口を開いた。
「エレン。結婚してくれ」
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