幸せのカタチ

国光

文字の大きさ
上 下
7 / 7

第06話「悲願達成」

しおりを挟む
 村木晋太郎。四十六歳。

 順位戦A級。竜王戦1組。

 タイトル戦登場回数8回。タイトル通算0期。

 今期の竜王戦挑戦者決定戦で勝利。

 四十六歳。十五年ぶりのタイトル挑戦を決めた。

 竜王戦。

 藤堂如月竜王対村木晋太郎九段。

 相手は将棋界の神と称される天宮ではない。八度のタイトル戦のうち半分の四回は天宮に敗れてのものだが、九度目の相手は昨年竜王のタイトルを獲得したばかりの若手のホープだ。

「緊張しているの?」

 いつもの通りに自宅で朝食を食べる。妻と二人きりだ。子供たちはそれぞれ巣立っていった。

「緊張するよ。十五年ぶりだし」

 第六戦目を勝利して三勝三敗になった。

 初めてタイトル獲得に王手をかけた。九度目にして初の事である。

 今日は会場に向かって前夜祭をしていよいよ明日から最終戦が始まる。

 朝食を終えて準備を済ましていよいよ出掛けようとする。

「頑張ってね。あなた。私も応援に行くから」

「ああ」

 愛する妻に見送られて家を出た。

          *

 竜王戦最終戦二日目。三勝三敗で迎えた第七戦。

 対局は終盤。対局中だと言うのに目から涙がにじんだ。

 負けを覚悟してのことではない。

 形勢は一進一退の互角。だが、勝ちの一手が見えたのだ。

 角の駒を手に取り震えながら慎重に指した。

「!」

 竜王の表情が変わった。

 俺に出来る手は全て打った。ここからひっくり返す手があるのか。

 相手は天宮から竜王を奪った相手だ。何かして来るかもしれない。

「藤堂竜王。持ち時間を使い切りました。これより秒読みに入ります」

 竜王が持ち時間を使いきった。

「負けました」

 藤堂竜王が投了した。

 九度目のタイトル挑戦。妻と合わせると四十回目の挑戦。

 悲願の初タイトルを獲得した。

 俺は史上最年長でのタイトル獲得として世間に注目された。

「何度負けても絶対にあきらめないということを、姉弟子でもある妻から学びました。このタイトルは妻がくれたものだと思っています」

 次のタイトル戦で防衛は叶わなかったが、歌子のサポートのおかげでタイトルを勝ち取ることができた。

          *

 村木晋太郎。四十六歳。

 順位戦A級。竜王タイトル保持者。

 タイトル戦登場回数9回。タイトル通算1期。

「タイトル獲得おめでとう。晋太郎」

「ありがとう。歌子」

「四十回目の挑戦でやっと初タイトル。私の夢がようやく叶ったわ」

「いや、タイトルとったの俺だよ。四十回中の九回は俺だし」

「いいのよ。アンタのものは私のものでしょう?」

「確かに。そう言われればそうだな」

 三つ子の魂百までと言うがまさしくその通りで出会ってから四十年近く経っても力関係は変わる事はなかった。特に変えたいとも思わないが。

「さすがは私の可愛い弟」

「その扱いはもうやめてくれよ。姉さん」

 とても四十六歳と四十七歳の会話じゃないなと思いながら、妻と幸せな時間を過ごした。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

処理中です...