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ドライヴランド編

32話 ゼイツの父アイハーツ

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「アイハーツ、いたのか」

ゼイツ准将じゅんしょうがやや焦ったように鼻をかく。

私はサッと目を伏せた。
ちょっと直視できなかった。なんていうか、とても冷たそうな人に見えたから。

「親父のアイハーツだ。こっちはフェルリナ、フェアリーアイランド王国の第七王女だ。任務で連れて歩いてる」

この方がゼイツ准将のお父様。

頬には銀色の無精髭をうすく生やしていて、
後ろへいてある前髪が垂れて、しわの入った目じりにかかっている。

ゼイツ准将の方が背高ではあるけれど、胸板ががっしりしているところや、脚が長いところなんかに血筋を感じた。

「アイハーツ・ウウ・ドライヴランドです」
というようにおっしゃられた、その声は聞き取れないほどしわがれていた。

「これから薬作るんだ。手伝ってくれ」

准将がそう話しかけると、シンクにマグカップを下げようとしたアイハーツ様が振り返って見た。顔の表情が、なんの薬? と問いかけていた。

「王女のだよ。フェルリナ、作り方教えてくれ」
「私自分で……」
「安静にしててくれ。俺たちで作る」

ゼイツ准将がポケットからウシナウ草を出したので、私も自分の採ったのを出させてもらった。それを見てアイハーツ様がざるを選ぶ。

「みじん切りにして、水と薬品と混ぜて飲むだけです……」
「薬品?」
「アバウト先生が小包で送ってきた物で、」
「持って来てあるのか?」
「マントのポケットに……、とってきます」

私はそっとキッチンを出た。

廊下を行き、蒼い壁紙の部屋に入ると、
まず目に飛びこんできたのは、私のブーツとタイツだった。
ブーツは揃えておいてあって、ベッドの上のタイツは軽くたたんであった。

ドギャーンはぅあ!?

これ……アイハーツ様がやってくれた……のですよね? 
ナポレオンマントなんて寝乱れたままだし、もしかして、ぜったい、Hなことしたのバレてるかも……。は、は、恥ず……っ!

   ♡

ブーツを履いているあいだ、キッチンではゼイツ准将の話し声ばかりしていた。

「薬品あったか?」
「お待たせしました、ありました」
「おし。いっちょ作るぞ」

腕まくりしたアイハーツ様が洗い終えた草をふる。まな板と包丁をテーブルに置く。座っているゼイツ准将がみじん切りを……

ダンッ  ポロッ

ダンッ  ポロッ パサッ

包丁をふりあげてウシナウ草をたたき割り、いきおいで床に落とす。
落としたのを拾って口に入れ、また包丁をふり下ろす。
草の真ん中をたたっ切る、その間左手は膝の上にある。

ドンッ  ポサッ

「冗談ですよね?」
「あぁ?」

ゼイツ准将、まな板から目を離さない。本人はいたって真剣らしいが、
オランウータンが切り株伐ってるのと大差ない。

ちょんと私の肩に触れたのは、アイハーツ様だった。

「息子は、(料理が全然だめ)」

とかすれ声で言い、半分はジェスチャーで喋り、手をふってみせる。

「あんなに高速でパンチを繰り出せるのに、どうして……」
そう言うと、アイハーツ様は、うんと笑って答えた。
「それは、敵が大きい時だけ。(小さいと一撃も当たらない)」
的を外して宙を殴りまくるものまねをして、私をけらけらと笑わせた。

「なんか二人で楽しそうにしてんな」

アイハーツ様が床の草をつまんでは、何やってんの? と訴える。
「だったら代わってくれ」
二人が場所を交代し、アイハーツ様がみじん切りを始めると、
目にもとまらぬ速さでスタタタタタタと切っていく。

細かなのに、やり方はワイルド。終わったらザッと包丁ですくってボウルへ落とす。がっつり草をつかんでは、まな板に置く。切り刻んでいく。目元に笑みをたたえて。

二人は薬を作ってくれ、一緒に乾杯までしてくれた。

「……ぐはっ、マズイ!」
「(これ何の薬なの??)」

お城の家族にはこんな風にしてもらったことなかったから、なんだかとってもあったかい。

 
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