33 / 58
ドライヴランド編
32話 ゼイツの父アイハーツ
しおりを挟む「アイハーツ、いたのか」
ゼイツ准将がやや焦ったように鼻をかく。
私はサッと目を伏せた。
ちょっと直視できなかった。なんていうか、とても冷たそうな人に見えたから。
「親父のアイハーツだ。こっちはフェルリナ、フェアリーアイランド王国の第七王女だ。任務で連れて歩いてる」
この方がゼイツ准将のお父様。
頬には銀色の無精髭をうすく生やしていて、
後ろへ梳いてある前髪が垂れて、皺の入った目じりにかかっている。
ゼイツ准将の方が背高ではあるけれど、胸板ががっしりしているところや、脚が長いところなんかに血筋を感じた。
「アイハーツ・ウウ・ドライヴランドです」
というようにおっしゃられた、その声は聞き取れないほどしわがれていた。
「これから薬作るんだ。手伝ってくれ」
准将がそう話しかけると、シンクにマグカップを下げようとしたアイハーツ様が振り返って見た。顔の表情が、なんの薬? と問いかけていた。
「王女のだよ。フェルリナ、作り方教えてくれ」
「私自分で……」
「安静にしててくれ。俺たちで作る」
ゼイツ准将がポケットからウシナウ草を出したので、私も自分の採ったのを出させてもらった。それを見てアイハーツ様がざるを選ぶ。
「みじん切りにして、水と薬品と混ぜて飲むだけです……」
「薬品?」
「アバウト先生が小包で送ってきた物で、」
「持って来てあるのか?」
「マントのポケットに……、とってきます」
私はそっとキッチンを出た。
廊下を行き、蒼い壁紙の部屋に入ると、
まず目に飛びこんできたのは、私のブーツとタイツだった。
ブーツは揃えておいてあって、ベッドの上のタイツは軽くたたんであった。
ドギャーンはぅあ!?
これ……アイハーツ様がやってくれた……のですよね?
ナポレオンマントなんて寝乱れたままだし、もしかして、ぜったい、Hなことしたのバレてるかも……。は、は、恥ず……っ!
♡
ブーツを履いているあいだ、キッチンではゼイツ准将の話し声ばかりしていた。
「薬品あったか?」
「お待たせしました、ありました」
「おし。いっちょ作るぞ」
腕まくりしたアイハーツ様が洗い終えた草をふる。まな板と包丁をテーブルに置く。座っているゼイツ准将がみじん切りを……
ダンッ ポロッ
ダンッ ポロッ パサッ
包丁をふりあげてウシナウ草をたたき割り、いきおいで床に落とす。
落としたのを拾って口に入れ、また包丁をふり下ろす。
草の真ん中をたたっ切る、その間左手は膝の上にある。
ドンッ ポサッ
「冗談ですよね?」
「あぁ?」
ゼイツ准将、まな板から目を離さない。本人はいたって真剣らしいが、
オランウータンが切り株伐ってるのと大差ない。
ちょんと私の肩に触れたのは、アイハーツ様だった。
「息子は、(料理が全然だめ)」
とかすれ声で言い、半分はジェスチャーで喋り、手をふってみせる。
「あんなに高速でパンチを繰り出せるのに、どうして……」
そう言うと、アイハーツ様は、うんと笑って答えた。
「それは、敵が大きい時だけ。(小さいと一撃も当たらない)」
的を外して宙を殴りまくるものまねをして、私をけらけらと笑わせた。
「なんか二人で楽しそうにしてんな」
アイハーツ様が床の草をつまんでは、何やってんの? と訴える。
「だったら代わってくれ」
二人が場所を交代し、アイハーツ様がみじん切りを始めると、
目にもとまらぬ速さでスタタタタタタと切っていく。
細かなのに、やり方はワイルド。終わったらザッと包丁ですくってボウルへ落とす。がっつり草をつかんでは、まな板に置く。切り刻んでいく。目元に笑みをたたえて。
二人は薬を作ってくれ、一緒に乾杯までしてくれた。
「……ぐはっ、マズイ!」
「(これ何の薬なの??)」
お城の家族にはこんな風にしてもらったことなかったから、なんだかとってもあったかい。
10
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる
一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。
そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。
それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる
一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。
そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
あららっ、ダメでしたのねっそんな私はイケメン皇帝陛下に攫われて~あぁんっ妊娠しちゃうの♡~
一ノ瀬 彩音
恋愛
婚約破棄されて国外追放された伯爵令嬢、リリアーネ・フィサリスはとある事情で辺境の地へと赴く。
そこで出会ったのは、帝国では見たこともないくらいに美しく、
凛々しい顔立ちをした皇帝陛下、グリファンスだった。
彼は、リリアーネを攫い、強引にその身体を暴いて――!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~
一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが
そんな彼が大好きなのです。
今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、
次第に染め上げられてしまうのですが……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません
青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく
でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう
この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく
そしてなぜかヒロインも姿を消していく
ほとんどエッチシーンばかりになるかも?
【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。
だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。
二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?
※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。
悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~
一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、
十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。
ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は
その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。
幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、
目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。
彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。
訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、
やがて彼に対して……?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる