上 下
28 / 58
ドライヴランド編

27話 オンチ鳥vsフェルリナ

しおりを挟む
 
※暴力的シーンがあります。ご注意くださいませ。
 
 

ペーター・ペペ・ピクシーアイランドは私の幼馴染おさななじみ許嫁いいなずけだった。
たくさんいじわるされて大嫌いだったけど、
今日の私は彼に感謝しなくちゃならない。
バトルだとか戦法について毎日聞かされていたおかげで、
それがいつしか私の中で蓄積ちくせきされていたのだ。


「起きろー! 起きんかー若ぼうず~~!」

湖畔に戻ってくると、オンチドードーもゼイツ准将じゅんしょうもまだそこにいた。良かった、連れて行かれてなかった。オンチドードーは私を追うどころか、蜂蜜を嫌がって毛づくろいしていた。
准将は未だ寝た状態で、その彼を起こそうとしてツリービアードが叫んでいる。

待っててゼイツ准将……! 今助けるから!

私の手には剣の代わりの、とがった枝がある。
彼らからすると、枝だけが宙に浮かんでいるように見えるはずだ。
体の後ろに隠したところで、真っ裸の透明だから透けちゃうんだ。
ツリービアードに見つかって騒がれないよう、木立にひそみながら、私はオンチ鳥へ忍び寄った。

ごくり……。
人でもあり、鳥でもあるオンチドードーの無防備な後ろ姿。
いざ背後に立つと私は二の足を踏んだ。
生き物に危害を加えるなんて、やっぱり抵抗がある。

だけど……このままじゃゼイツ准将が連れて行かれちゃう。
か、彼を守るのよ、フェルリナ。

えいっ!

びっくりしたオンチ鳥がバッと半回転する。驚いた顔の、強烈なアイラインがまぬけに見える。

もう一度、えいっ!

また枝で突くとオンチ鳥は後ろへぴょんと跳んだ。一体何が攻撃してきたのかと、瞳孔がピント合わせをしている。

「ルウッ? ララッ?」

動揺してる。私が枝を振り上げると、気づいた彼女は翼をせわしなくはためかせながら、湖の水面を後ろ向きに走った。鳥がそんな事するの初めて見た。やはり頭脳は人間なのだ。

って感心してる場合じゃない。湖の上で空中静止されてしまい、私はどんぐりや石をつかんで彼女へ投げた。
私のはねではとうてい真似できない芸当。いいな空飛べて!

「ララッ! お前フェアリーだな!」

オンチドードーが目の色を変えた。上昇していったかと思うと、こちらめがけて滑翔してきた。
逃げるからこわいんだ。立ち向かえばそうでもない。そうだよねお父様! つっこんでくる直前、私は枝先を彼女に向けて槍のように構えてみた。

ブアアッ  ズキィンッ!!

くらった! オンチ鳥に枝がぶつかった。頭脳が人間なら、目玉も人間。鳥のような動体視力はなかったのだ。
だが私もくらった。衝撃に吹き飛ばされた。

ひゃああっ。

ベシャッと水辺に倒れた。
泥跳ねを浴び、慌てて四つ這いになって立ち上がる。自分の体がこげ茶色に形をなしていた。

「おのれ卑怯者のハエ虫がァ!!」

泥だらけで私は逃げ出した。ゼイツ准将の横を走り去った。
ツリービアードが私に気づいた。「お前さんなぜ戻って来たんじゃ!?」

「!!」

ブツッ

すぐに例の、ゼイツ准将を眠らせた羽根が飛んできたけど、それは私の背中の翅がはたき落としてくれた。

バシッ  バシッ

続けざまにもう二回投げつけられた。オンチ鳥、相当ムキになっている。
だけどこれに当たって眠ってしまったら一巻の終わりだ。絶対に当たるわけにいかない。

「ハァ、ハァ、こわいッ、ひゃあっ……!?」

私の足が地面から離れた。
肩をつかまれて空へと急上昇していく。

「イヤッ!!」

「飛べないハエ虫ゴミ虫ゴミゴミゴミ♪ 落下して死ね!!」

息ができなかった。私は太陽の前に放り出された。


ビョオッ 

と風が私の羽をカイトのようにさらった。
大樹の樹冠にバッサリ受け止められ、枝葉の間を転がるようにして落ちる。
最後に羽のパラシュートで地面へ手をついた。

落下した場所は完璧な位置だった。まるで風が、森が、ジョニーが、私の味方してくれてるみたいに感じた。

私の目的は、、オンチ鳥にそう思い込ませることだった。
卑怯な手を使って、相手の頭に血を昇らせることで、冷静な判断力を奪う。
ずる賢いピクシー族のペーターが教えてくれたことだった。

「やめてやめて来ないで!」
私は尻もちをついたまま後退した。

白濁した目を血走らせて、オンチ鳥が突撃してくる瞬間、
私はすぐそばの木の根ぐらに潜りこんだ。とっさに逃げ込んだように見せたそこは、土のトンネルになっていた。

「悪あがきしやがって!」

バサササッ 私を追ってオンチドードーが潜りこんできて光が遮られる。

ハァッ ハァッ 怖い。

行き止まりのカーブ地点で、土壁に身をよせ私はへたり込んだ。

「おね、おねがい……助けて……」

茶色い瞳が私を見ている。

「飛べないハエ虫♪ ゴミ虫♪」

オンチ鳥がすぐそこまで来ている。

「おねがい……たすけてぇ……」

のっそり起き上がった巨体が、その場で激しくドルルルルルルッと毛皮を震わせる。
そして、私の前をすり抜けていった。

「バウッ! ガウウッ!」
「!? ギャッ!! ギャアアアッ!!」


ここはホシカゲグマのねぐらだった。木々を透視して見つけておいたのだ。

熊は、妖精は食べない。

彼らの好物は、あなたの顔にべったりついたハチミツなの。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる

一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。 そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。 それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

あららっ、ダメでしたのねっそんな私はイケメン皇帝陛下に攫われて~あぁんっ妊娠しちゃうの♡~

一ノ瀬 彩音
恋愛
婚約破棄されて国外追放された伯爵令嬢、リリアーネ・フィサリスはとある事情で辺境の地へと赴く。 そこで出会ったのは、帝国では見たこともないくらいに美しく、 凛々しい顔立ちをした皇帝陛下、グリファンスだった。 彼は、リリアーネを攫い、強引にその身体を暴いて――!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~

一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが そんな彼が大好きなのです。 今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、 次第に染め上げられてしまうのですが……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。  だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。  二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?   ※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。

悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~

一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、 十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。 ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。 幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、 目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。 彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。 訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、 やがて彼に対して……? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...