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【第3部】祐策編
26.エピローグ
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「疲れたけどなんか楽しかった!」
真穂子の部屋に戻ると彼女が声を上げた。
「参考にもなったし!」
「ん、確かにな」
真穂子は初対面の女子たちと話したのが楽しかったらしく、未だにニコニコしていた。舞衣とは同世代であるし、聡子は少し年下だが同じ高校の卒業生とわかって、意気投合している。
「はあ~」
真穂子はバタンとベッドに倒れ込んだ。
それを見た祐策も、真穂子に覆い被さるように雪崩れ込んだ。
「わあっ、ちょっと祐策さんっ」
「俺も疲れたからさあ~」
だがすぐに横に移って、真穂子と共に転がった。
「はああ……」
浩輔たちのいい顔も見られたし、気分がいいと感じる祐策だ。
トモや浩輔たちのように、心底から嬉しそうな楽しそうな、いい顔ができるようになりたい。
「祐策さん、気の合う人達と一緒だと口数多くなるんだね、楽しそうだったし。会社では無口なのに」
確かに無口だなと言われることが多かったが、仲間や気の置けない仲間内とだとよく話す。
「けどそれ、普通じゃないの? 話しなくてもいい相手にぺらぺら喋る必要ないし」
「それは……そうだけど。わたしとも殆ど話をしなかったじゃない?」
「まぁ、な……。真穂子とは話したくても、何話したらいいかわからなかったし」
「話してくれるようはなってよかった」
ニコニコと笑う彼女に、つられて祐策も笑ってしまう。
「真穂子がそうさせたんだよ」
「そっか~」
ふふふ、と不気味に笑う真穂子は、ニコニコがニヤニヤとした笑いになっていた。
「よおし、俺らも本腰入れて物件探すぞ」
「うん。そうだね。これからの季節、物件は埋まっちゃうよね。一応いろんなところ見て、シーズンが落ち着いた頃に不動産屋さん当たってみるのはどう?」
引っ越しシーズンに埋まらなかった部屋などを埋めようと、動いてくれる不動産屋も少なくないと真穂子は言った。部屋が埋まらないと管理手数料が入らないからでしょうしね、と彼女は教えてくれた。
(真穂子って物知りだよなあ……まあ、経理だし、FPの資格も取ってるって言ってたな、勉強してるよな)
真穂子の横顔を眺め、尊敬の眼差しを向けた。
視線に気づいた真穂子が、小首を傾げて振り向く。
「どうかした?」
「いや、可愛いなって思って」
「……またそんなこと言う」
「ほんとだって」
「そうやって煽てて何か企んでる?」
目を細め、祐策は睨まれた。
「煽ててないって。俺ってそんな信用ないのかよ」
「なくはないよ?」
じゃあ信じてよ、と祐策は真穂子の頬をつついた。
「信じるよ」
仕方ないなあ、と言うときと同じような言い方だった。
「恋愛感情ってさ、三年くらいで終わるんだって」
「あー、なんか聞いたことあるよ。愛に変わって四年、だっけ」
「らしいな。いつだったか、今日のメンバーで話したことあってさ。トモさんは三年なってないとは思うけど、三原はそれ以上って言ってた。どっちもさ、超仲良しでさ。結構惚気られるんだよな。羨ましいなあって思ったり」
「わたしたちも、そうなりたいね」
「うん、俺もそう思ってる」
喧嘩しながらでもさ、と祐策は言った。そして、頷く真穂子の頬をそっと撫でた。
祐策に撫でられ、彼女は嬉しそうに微笑む。
(やっぱ可愛いんだよな)
惚れた女なんだから当たり前だよな、と祐策も笑った。
恋も愛も消える日が来るかもしれないけれど、今は彼女に恋する気持ちしかないのだ、そんな先の事は今考える必要などない。先のことより目先のことを考えても悪くないだろう。
「今日は、疲れただろうから、たまには外食するか? 軽いものとか。俺がごちそうするし」
「……ん、わかった。それか先に風呂入る? 疲れてるし、汗流してから出る?」
「あー、それもそうだな。じゃ、一緒に入ろう」
「…………」
真穂子がまた半目で祐策を見た。どうやら軽蔑の眼差しだ。
「ダメなの? 何度も一緒に入ってるだろ」
「だって祐策さん、いつも……」
「えー……いいだろ別に……」
寒い時は風呂に入らせてもらって帰ることがあり、湯が勿体ないからという口実で、真穂子と一緒に風呂に入るのだ。しかしそれだけでは済まないことを彼女は言っているわけだ。
「いいけど……」
結局祐策の押しに負けるのは真穂子のほうなのだが。
「ごめんごめん、今日は疲れてるだろうし、しないからさ」
ほんとはしたいけど、という言葉は飲み込んだ。
「わかった。……じゃあ、先にお風呂ね? お湯溜めてくる」
「いいよ、俺がするよ」
起き上がろうとする真穂子を制して、祐策が身を起こした。
「ちょっと待っててな」
ちゅっ、とキスを落とすと、真穂子は顔を赤らめた。
(ほーら、こういうとこも可愛い)
恥ずかしがる真穂子を置いて、浴室に向かった。
(一緒に暮らすとなると、家事も分担だよな。会長宅でも、交替制で風呂とトイレ掃除やってるし、洗濯もしてるしな。そんなに苦でもないかな)
計画するのって楽しいもんだな、と一人笑う。
しかし気の合わないこともたくさん出てくるだろう。浩輔が言っていたことを思い出し、すぐに顔を曇らせた。
風呂に湯を溜める準備をし、真穂子の元に戻った。
「今溜めてる」
「ありがとう」
真穂子は起き上がって、着替えの準備をしていた。祐策の分も用意をしてくれている。こうして真穂子の部屋に自分のものがいつの間にか増えている。増えすぎる前に一緒に住まないといけない気がしてきた。
「真穂子」
「はい」
彼女は振り返った。
振り返った彼女をぎゅうっと抱き締める。
「ど、どうしたの」
「なんとなく」
真穂子が両腕を祐策の背中に回すのを感じた。
「充電」
「……いいよ。わたしも充電するから」
顔を見合わせたあと、お互い笑い合う。
額と額で触れあい、次に鼻を合わせた。
唇がすぐ近くにあるのに、触れあえない距離がなんだかもどかしい。
(触れたい)
もどかしさを感じたあと、ようやく唇が重なった。
《祐策編:fin》
真穂子の部屋に戻ると彼女が声を上げた。
「参考にもなったし!」
「ん、確かにな」
真穂子は初対面の女子たちと話したのが楽しかったらしく、未だにニコニコしていた。舞衣とは同世代であるし、聡子は少し年下だが同じ高校の卒業生とわかって、意気投合している。
「はあ~」
真穂子はバタンとベッドに倒れ込んだ。
それを見た祐策も、真穂子に覆い被さるように雪崩れ込んだ。
「わあっ、ちょっと祐策さんっ」
「俺も疲れたからさあ~」
だがすぐに横に移って、真穂子と共に転がった。
「はああ……」
浩輔たちのいい顔も見られたし、気分がいいと感じる祐策だ。
トモや浩輔たちのように、心底から嬉しそうな楽しそうな、いい顔ができるようになりたい。
「祐策さん、気の合う人達と一緒だと口数多くなるんだね、楽しそうだったし。会社では無口なのに」
確かに無口だなと言われることが多かったが、仲間や気の置けない仲間内とだとよく話す。
「けどそれ、普通じゃないの? 話しなくてもいい相手にぺらぺら喋る必要ないし」
「それは……そうだけど。わたしとも殆ど話をしなかったじゃない?」
「まぁ、な……。真穂子とは話したくても、何話したらいいかわからなかったし」
「話してくれるようはなってよかった」
ニコニコと笑う彼女に、つられて祐策も笑ってしまう。
「真穂子がそうさせたんだよ」
「そっか~」
ふふふ、と不気味に笑う真穂子は、ニコニコがニヤニヤとした笑いになっていた。
「よおし、俺らも本腰入れて物件探すぞ」
「うん。そうだね。これからの季節、物件は埋まっちゃうよね。一応いろんなところ見て、シーズンが落ち着いた頃に不動産屋さん当たってみるのはどう?」
引っ越しシーズンに埋まらなかった部屋などを埋めようと、動いてくれる不動産屋も少なくないと真穂子は言った。部屋が埋まらないと管理手数料が入らないからでしょうしね、と彼女は教えてくれた。
(真穂子って物知りだよなあ……まあ、経理だし、FPの資格も取ってるって言ってたな、勉強してるよな)
真穂子の横顔を眺め、尊敬の眼差しを向けた。
視線に気づいた真穂子が、小首を傾げて振り向く。
「どうかした?」
「いや、可愛いなって思って」
「……またそんなこと言う」
「ほんとだって」
「そうやって煽てて何か企んでる?」
目を細め、祐策は睨まれた。
「煽ててないって。俺ってそんな信用ないのかよ」
「なくはないよ?」
じゃあ信じてよ、と祐策は真穂子の頬をつついた。
「信じるよ」
仕方ないなあ、と言うときと同じような言い方だった。
「恋愛感情ってさ、三年くらいで終わるんだって」
「あー、なんか聞いたことあるよ。愛に変わって四年、だっけ」
「らしいな。いつだったか、今日のメンバーで話したことあってさ。トモさんは三年なってないとは思うけど、三原はそれ以上って言ってた。どっちもさ、超仲良しでさ。結構惚気られるんだよな。羨ましいなあって思ったり」
「わたしたちも、そうなりたいね」
「うん、俺もそう思ってる」
喧嘩しながらでもさ、と祐策は言った。そして、頷く真穂子の頬をそっと撫でた。
祐策に撫でられ、彼女は嬉しそうに微笑む。
(やっぱ可愛いんだよな)
惚れた女なんだから当たり前だよな、と祐策も笑った。
恋も愛も消える日が来るかもしれないけれど、今は彼女に恋する気持ちしかないのだ、そんな先の事は今考える必要などない。先のことより目先のことを考えても悪くないだろう。
「今日は、疲れただろうから、たまには外食するか? 軽いものとか。俺がごちそうするし」
「……ん、わかった。それか先に風呂入る? 疲れてるし、汗流してから出る?」
「あー、それもそうだな。じゃ、一緒に入ろう」
「…………」
真穂子がまた半目で祐策を見た。どうやら軽蔑の眼差しだ。
「ダメなの? 何度も一緒に入ってるだろ」
「だって祐策さん、いつも……」
「えー……いいだろ別に……」
寒い時は風呂に入らせてもらって帰ることがあり、湯が勿体ないからという口実で、真穂子と一緒に風呂に入るのだ。しかしそれだけでは済まないことを彼女は言っているわけだ。
「いいけど……」
結局祐策の押しに負けるのは真穂子のほうなのだが。
「ごめんごめん、今日は疲れてるだろうし、しないからさ」
ほんとはしたいけど、という言葉は飲み込んだ。
「わかった。……じゃあ、先にお風呂ね? お湯溜めてくる」
「いいよ、俺がするよ」
起き上がろうとする真穂子を制して、祐策が身を起こした。
「ちょっと待っててな」
ちゅっ、とキスを落とすと、真穂子は顔を赤らめた。
(ほーら、こういうとこも可愛い)
恥ずかしがる真穂子を置いて、浴室に向かった。
(一緒に暮らすとなると、家事も分担だよな。会長宅でも、交替制で風呂とトイレ掃除やってるし、洗濯もしてるしな。そんなに苦でもないかな)
計画するのって楽しいもんだな、と一人笑う。
しかし気の合わないこともたくさん出てくるだろう。浩輔が言っていたことを思い出し、すぐに顔を曇らせた。
風呂に湯を溜める準備をし、真穂子の元に戻った。
「今溜めてる」
「ありがとう」
真穂子は起き上がって、着替えの準備をしていた。祐策の分も用意をしてくれている。こうして真穂子の部屋に自分のものがいつの間にか増えている。増えすぎる前に一緒に住まないといけない気がしてきた。
「真穂子」
「はい」
彼女は振り返った。
振り返った彼女をぎゅうっと抱き締める。
「ど、どうしたの」
「なんとなく」
真穂子が両腕を祐策の背中に回すのを感じた。
「充電」
「……いいよ。わたしも充電するから」
顔を見合わせたあと、お互い笑い合う。
額と額で触れあい、次に鼻を合わせた。
唇がすぐ近くにあるのに、触れあえない距離がなんだかもどかしい。
(触れたい)
もどかしさを感じたあと、ようやく唇が重なった。
《祐策編:fin》
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