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【第3部】祐策編
17.高虎の尋問(中編)
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否や、へらへらしていた高虎の顔が真顔になる。逆ギレか、と祐策は構えた。
「おまえ、実はセックスまだだろ」
「……!?」
しまった、と思った時には遅かった。
一瞬瞳孔を開いてしまい、反応してしまったことに気づいた。
「……やっぱりな」
「…………っ」
「おまえの性格からじゃ、言いたくない話したくない、って言っても恥ずかしそうにするのに、そんな表情も見えなかった。まだしてないから言いようもないんだろうなって」
この男わかってたのかよ、と言いかけてぐっと堪える。
確かに、自分は口下手な分、顔には表れやすいと言われたことがあった。高虎はそれをよく知っているのだ。
「はいはい、してませんよ」
「……ふうん」
「悪いですか」
「悪いなんて言ってねえよ」
「そう聞こえますけど」
おっと怖い顔すんなよ、と高虎は言うが、怖い顔になっているならそれはあんたのせいだよと内心で悪態をついた。
「まほちゃんのこと大事にしてんだな」
「そりゃ……しますよ」
「やっぱ祐策が相手でよかったよ」
高虎は嬉しそうに笑った。
「付き合って半年くらい?」
「……はい」
「期間としちゃ、まあ一線越えてもおかしくないのにな」
「……まあ」
「まほちゃん、昔、男に酷い目に遭わされてたみたいでさ」
その言葉に、祐策の顔は歪んだ。
(DVの男か?)
前に真穂子が打ち明けてくれたことを思い出した。
「恋愛には消極的なんだよな。あんないい子なのにさ。祐策ならまほちゃんに合うかもって勝手に思ってた矢先にさ、気に入った男がいてもなかなか言わなかったあの子がだよ? やけに組にいた男のことを聞くんだよな。どんな人がいたのか、とか」
特定の男の名指しはしなかったが、それとなく祐策のことを聞き出していたようだ。
「俺も祐策のこと勧めたかったからさ、おまえのことはよく言ったつもり。でもな、いつだったか……気になる人ができた、って俺に言ってきたんだよな。なんで俺に言うんだろうって思ったけど。そうか祐策のこと薦めたかったけど仕方ないなあって。今思えば、俺が薦めたい相手と、まほちゃんが気になる人が一致してたんだろ。どんな男か探ってたのかもな。俺は俺で残念だなーって思いながら、まほちゃんの恋愛相談に乗ってたわけだ」
そんなことがあったとは知らず、祐策は返す言葉もなく無言になった。
真穂子は入社してきた自分に好意を持ってくれたようだ。自然と自分も好意を持っていたわけだが。
(俺に優しくしてくれたのは……好意があったから、とか?)
何の特技もない、特別に話をするわけでもない自分なのに、何が気に入る要因だったのか、不思議だった。
「やっぱ祐策でよかったな」
「……そうですかね。何の取り柄もない男ですけど……」
「まほちゃんが言ったのか?」
「いえ」
「自信持て。おまえがいいから、まほちゃんは惚れたんだぞ」
「けど……そんな要素がないし……」
「なんでおまえがいいのか、聞いたことないのか?」
祐策は少し考えたあと、
「……ないですね」
と答えた。
自分が真穂子を好きになったきっかけは挙げることができるのだが。
「そっか、いつか本人に訊いてみろ。まあ惚れるのにも、なんでってわかんねえよな。俺も奥さんを好きになった理由がわからんわ。毎日怒られるしさ。俺はこの人のどこに惚れたんだろって思ったりすることもある」
(それ言っていいのか……?)
「ずっと一緒にいてさ、子供も出来れば、セックスは雑にもなんのよ。最初だけだよ、イチャイチャしてんのは」
「……そりゃ、子供さんもいて、この先ずっと一緒にいれば、回数も減るんじゃないですか。神崎さんは、毎日毎日誰かとしてましたからね、それに比べたら……」
「ま、まあな」
高虎は気まずそうに口ごもった。
「まほちゃんのトラウマ、おまえなら克服してあげられると思うから。大事にしてやってほしい」
「頼まれなくても、大事にしますよ」
「そうだな。おまえが半年も手ぇ出さないなんて信じられないよなあ。ほんとに誰ともやってないのか?」
「当たり前じゃないですか!」
「ほんとに? 髪短めの細い背の高い女は?」
「いつの話ですか……」
「ぽっちゃりめでアイドル目指しててあきらめてキャバ嬢になったっていうのは」
「誰かと間違ってません?」
「あのユキミって乳デカのホステスとも? あの子、俺とトモ目当てだったじゃん。なのにおまえに寝返ったんだよな。結局はおまえのこと相当気に入ったみたいだし。祐策はトモと同じで乳のデカい女が好みだからさあ」
「……ユキミのことも! 過去の話です! さっきも言いましたけど、雪野さんに惚れてからは関係は持ってませんよ。雪野さんがいるのになんで別の女とやるんですか。やるなら彼女としたいですよ」
「お」
めちゃ本音じゃん、と高虎は笑った。
「うっさいな……」
つい普段の口調で言ってしまい、口を噤んだ。
(ほんと時々腹立つんだよこの人)
これで経営者だというのだから信じられない時がある。この下ネタ大好きな性格を帳消しにするくらいの人望がどこにあるのか、祐策にはわからない。
「早くやりてえよなあ。なあ?」
「……そりゃ、まあ……。でも無理強いはしたくないですし。時期がくれば、ね。今は、セックスは『好き』の延長するものだって思ってますんで」
「へえー」
「だからいいんです」
「……そっか。ま、とにかく。義妹を頼む」
「言われなくても」
「大事にするんだろ」
「当然ですよ。神崎さんも奥さん子供さんを大事にしてください」
「おっと祐策に言われるとはな。じゃあ祐策もまほちゃんとさっさと結婚しろよ」
「…………」
殴ってやろうか、と祐策は拳に力を入れる。
「泣かせるなよ。あ、ベッドの上で啼かせるのはいいけどな」
「……どうしても俺に殴られたいんですね?」
「怖いよー祐策くーん」
「あんたが悪いんでしょうが」
こちらは怒りの爆弾発射寸前だというのに、高虎はまたヘラヘラしている。
早く帰れよ、とにらみ返した。
どうして自分の恋人との性事情についてあれこれ言われなきゃならないんだ。全く理解できない。祐策はこの無意味な時間を早く終わらせたくて仕方がなかった。
「おまえ、実はセックスまだだろ」
「……!?」
しまった、と思った時には遅かった。
一瞬瞳孔を開いてしまい、反応してしまったことに気づいた。
「……やっぱりな」
「…………っ」
「おまえの性格からじゃ、言いたくない話したくない、って言っても恥ずかしそうにするのに、そんな表情も見えなかった。まだしてないから言いようもないんだろうなって」
この男わかってたのかよ、と言いかけてぐっと堪える。
確かに、自分は口下手な分、顔には表れやすいと言われたことがあった。高虎はそれをよく知っているのだ。
「はいはい、してませんよ」
「……ふうん」
「悪いですか」
「悪いなんて言ってねえよ」
「そう聞こえますけど」
おっと怖い顔すんなよ、と高虎は言うが、怖い顔になっているならそれはあんたのせいだよと内心で悪態をついた。
「まほちゃんのこと大事にしてんだな」
「そりゃ……しますよ」
「やっぱ祐策が相手でよかったよ」
高虎は嬉しそうに笑った。
「付き合って半年くらい?」
「……はい」
「期間としちゃ、まあ一線越えてもおかしくないのにな」
「……まあ」
「まほちゃん、昔、男に酷い目に遭わされてたみたいでさ」
その言葉に、祐策の顔は歪んだ。
(DVの男か?)
前に真穂子が打ち明けてくれたことを思い出した。
「恋愛には消極的なんだよな。あんないい子なのにさ。祐策ならまほちゃんに合うかもって勝手に思ってた矢先にさ、気に入った男がいてもなかなか言わなかったあの子がだよ? やけに組にいた男のことを聞くんだよな。どんな人がいたのか、とか」
特定の男の名指しはしなかったが、それとなく祐策のことを聞き出していたようだ。
「俺も祐策のこと勧めたかったからさ、おまえのことはよく言ったつもり。でもな、いつだったか……気になる人ができた、って俺に言ってきたんだよな。なんで俺に言うんだろうって思ったけど。そうか祐策のこと薦めたかったけど仕方ないなあって。今思えば、俺が薦めたい相手と、まほちゃんが気になる人が一致してたんだろ。どんな男か探ってたのかもな。俺は俺で残念だなーって思いながら、まほちゃんの恋愛相談に乗ってたわけだ」
そんなことがあったとは知らず、祐策は返す言葉もなく無言になった。
真穂子は入社してきた自分に好意を持ってくれたようだ。自然と自分も好意を持っていたわけだが。
(俺に優しくしてくれたのは……好意があったから、とか?)
何の特技もない、特別に話をするわけでもない自分なのに、何が気に入る要因だったのか、不思議だった。
「やっぱ祐策でよかったな」
「……そうですかね。何の取り柄もない男ですけど……」
「まほちゃんが言ったのか?」
「いえ」
「自信持て。おまえがいいから、まほちゃんは惚れたんだぞ」
「けど……そんな要素がないし……」
「なんでおまえがいいのか、聞いたことないのか?」
祐策は少し考えたあと、
「……ないですね」
と答えた。
自分が真穂子を好きになったきっかけは挙げることができるのだが。
「そっか、いつか本人に訊いてみろ。まあ惚れるのにも、なんでってわかんねえよな。俺も奥さんを好きになった理由がわからんわ。毎日怒られるしさ。俺はこの人のどこに惚れたんだろって思ったりすることもある」
(それ言っていいのか……?)
「ずっと一緒にいてさ、子供も出来れば、セックスは雑にもなんのよ。最初だけだよ、イチャイチャしてんのは」
「……そりゃ、子供さんもいて、この先ずっと一緒にいれば、回数も減るんじゃないですか。神崎さんは、毎日毎日誰かとしてましたからね、それに比べたら……」
「ま、まあな」
高虎は気まずそうに口ごもった。
「まほちゃんのトラウマ、おまえなら克服してあげられると思うから。大事にしてやってほしい」
「頼まれなくても、大事にしますよ」
「そうだな。おまえが半年も手ぇ出さないなんて信じられないよなあ。ほんとに誰ともやってないのか?」
「当たり前じゃないですか!」
「ほんとに? 髪短めの細い背の高い女は?」
「いつの話ですか……」
「ぽっちゃりめでアイドル目指しててあきらめてキャバ嬢になったっていうのは」
「誰かと間違ってません?」
「あのユキミって乳デカのホステスとも? あの子、俺とトモ目当てだったじゃん。なのにおまえに寝返ったんだよな。結局はおまえのこと相当気に入ったみたいだし。祐策はトモと同じで乳のデカい女が好みだからさあ」
「……ユキミのことも! 過去の話です! さっきも言いましたけど、雪野さんに惚れてからは関係は持ってませんよ。雪野さんがいるのになんで別の女とやるんですか。やるなら彼女としたいですよ」
「お」
めちゃ本音じゃん、と高虎は笑った。
「うっさいな……」
つい普段の口調で言ってしまい、口を噤んだ。
(ほんと時々腹立つんだよこの人)
これで経営者だというのだから信じられない時がある。この下ネタ大好きな性格を帳消しにするくらいの人望がどこにあるのか、祐策にはわからない。
「早くやりてえよなあ。なあ?」
「……そりゃ、まあ……。でも無理強いはしたくないですし。時期がくれば、ね。今は、セックスは『好き』の延長するものだって思ってますんで」
「へえー」
「だからいいんです」
「……そっか。ま、とにかく。義妹を頼む」
「言われなくても」
「大事にするんだろ」
「当然ですよ。神崎さんも奥さん子供さんを大事にしてください」
「おっと祐策に言われるとはな。じゃあ祐策もまほちゃんとさっさと結婚しろよ」
「…………」
殴ってやろうか、と祐策は拳に力を入れる。
「泣かせるなよ。あ、ベッドの上で啼かせるのはいいけどな」
「……どうしても俺に殴られたいんですね?」
「怖いよー祐策くーん」
「あんたが悪いんでしょうが」
こちらは怒りの爆弾発射寸前だというのに、高虎はまたヘラヘラしている。
早く帰れよ、とにらみ返した。
どうして自分の恋人との性事情についてあれこれ言われなきゃならないんだ。全く理解できない。祐策はこの無意味な時間を早く終わらせたくて仕方がなかった。
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