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【第3部】祐策編
3.見たくなかった
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仕事が終わりってぼんやり帰っていると、祐策は真穂子を見かけた。
(あ……雪野さん……うそ、マジで……)
こんな偶然なんてあるのか、と祐策は思い切って声をかけようとそちらに歩いていく。
買い物をしているのだろうか。そういう祐策もショッピングセンターに寄り道しているところだった。
が、次の瞬間、足を止めた。
衝撃的な場面に出会したからだ。
真穂子が小さな女の子と一緒にいるのだ。
(え……こ、子供!? 雪野さんって……結婚してたのか!?)
少なからずショックだった。
独身だとばかり思っていた。
思っている以上にショックが大きかったようだ。
ただでさえ口下手なのに、ろくに会話が出来なくなってしまった祐策だった。
誰かに確認すればいいが、それもできない。
真穂子の子供は、三才か四才……しかし祐策が就職をしてから彼女が出産した様子はない。小さく見えて実は大きな子供なのかも、とわけのわからないことを考えてしまった。
(俺が入る前に産んでたら……四歳は超えるか……)
子供に詳しくない祐策は、見かけた子供の年齢がどれくらいなのかはっきり推測することができなかった。
余所余所しくなった祐策に、首を傾げたらしい真穂子が話しかけてきた。
「宮城さん、食べたいものとか、リクエストあったら是非教えてくださいね」
「あ、うん……」
気に掛けてくれているのか真穂子が話しかけてくるが、祐策はしどろもどろだった。
「あの……最近体調悪いですか?」
「いや、そんなことはないけど」
弁当を作ってもらえるのは嬉しいが、なんだか複雑だった。
(もしかしたら旦那のついでだったのかも……)
いくら有償とはいえ、いい気はしなかった。自分はいい。彼女の夫のことを思うと申し訳なくなるのだ。
(旦那にバレたらまずいじゃん。あ、でも知ってるのかな……)
だったとしても、別の男に作ってるなんて気分悪いだろ、俺なら嫌だな、と一人悶々としてしまう祐策だった。
会社で飲み会が行われ、乗り気でがなかったが社長からの慰労だから参加すべきだという会長の意見に参加することにした。
真穂子の隣は、どうでもいいようなおっさんが陣取っている。
パートのおばさんは不参加だった。
真穂子がお酌を強要されたが、無視していた。そのかわり別の気遣いスキルを発動している。
気がつけば、いつの間にか真穂子がいなくなっていた。
もっと話が出来たらな、とは思うが仕方がない。
(俺だって雪野さんと話したいんだよ! おっさんどもが)
とは言えない。
トイレに行こうと席を立つと、真穂子と出会った。席を外していたのはそういうことらしい。
祐策が右に行こうとすれば真穂子も右側に動き、
「あ、ごめん」
左に行こうとすれば真穂子も左側に動いた。
「あはは、すみません」
「ごめん」
おかしくなって笑ってしまう。
千鳥足になっている祐策に、真穂子は心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫」
「…………」
そうには見えないですよ、と真穂子が言うのが聞こえた。
お開きになり、祐策は一次会で抜けることにした。真穂子はというと、二次会のカラオケに誘われているようだ。
(子供いるのにいいのかな……。あ、でも旦那が見てくれてるのか)
くさす自分がいる。
祐策が一人帰ろうとすると、背後から真穂子が声をかけてきた。
「宮城さん、送りますよ」
隣に真穂子が立った。
「いいよ、自分で帰れるからさ」
「わたし飲んでないですし、車で来てますから」
「いいって、別に。一人で帰れる」
真穂子が手を差し伸べたわけではないが、彼女の目の前で邪険に払う仕草をした。酔っていなければ絶対にそんなひどい行為はしなかったが、声をかけてくる真穂子を見て祐策はむしゃくしゃした。
何度か断ったが、断るのも面倒になり大人しく甘えることにした。
真穂子は軽四自動車に乗っていた。
祐策は普段は自動二輪に乗っているのだが、今日は会社に置いて飲み会に参加している。
「月曜日はどうされますか?」
「歩いて来る」
「迎えに行きましょっか?」
「いいよ、バスに乗ればいいし。歩いてもいいし」
そうですか?という真穂子の表情に陰が差した。
「道案内お願いしますね」
「……うん」
「眠いなら寝てもらってもいいですよ。なんとなく方向わかりますし」
「えっ」
祐策は驚く。
家を誰も知らないはずだ。
神崎会長の家に居候だなんて話したことはない。
「なんで知って……」
「わたしは管理部ですよ。みなさんの個人情報、ある程度は知ってますから」
「ああ……そっか……」
隠したいわけじゃないが、あまり知られたくはない。
「住所、おおまかになら覚えてます」
「……うん、じゃあ、頼む」
ちょっと眠い、と目を閉じた。
真穂子の運転が心地よくて、うとうとしてしまった。
気を遣って音を小さくした音楽も心地よい。
女に運転してもらって助手席で寝るなんて恰好悪い、とも思ったが、欲求には勝てなかった。
「宮城さん、宮城さん、着きましたよ」
「あ……ああ……うん……」
ゆっくりまぶたを開き、会長の邸宅前だと確認した。
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして」
祐策は車から降りたあと、よろける。
慌てて真穂子も降車し、祐策の手を取ってくれた。
「大丈夫ですか」
「ん、大丈夫」
真穂子に支えられ立ち上がった。
「カッコ悪……」
「今日飲み過ぎたんですね?」
「そんなつもりはないけど」
見上げた真穂子と目が合い、心臓が大きく一拍した。
「雪野さん……」
「はい」
「可愛いな」
右手を伸ばし、真穂子の左頬を撫でた。
「えっ」
ふいに彼女を抱き締め、
「いい匂いがする……」
と耳元で囁いた。
「ちょ……宮城さん、やっぱりひどく酔ってますね」
「そんなに酔ってない」
「酔ってますよ……これじゃ一人でなんて帰れなかったんじゃないですか。送って正解ですね」
彼女は苦笑し、いい加減におうちに入らないと、と背中をとんとんと叩かれた。
「もう少し、こうしてたい……」
「……もう、仕方ないですね……」
真穂子は苦笑し、ぽんぽんと背中を叩いた。
「雪野さん……柔らかい。女の子の身体だな」
細い身体なのに柔らかさを感じ、思ったことを口にしていた。
「雪野さん……」
「はいはい、今度はなんですか。おうちに入りますよ」
「……好きだ」
「え?」
「俺……雪野さんが好きだ。旦那がいても、子供がいても、好きなもんは好きなんだ……好きでいてもいいか……?」
「宮城、さん?」
「好きなんだよ……」
祐策はその場に崩れ落ちた。
「宮城さん!?」
祐策にその後の記憶はなかった。
(あ……雪野さん……うそ、マジで……)
こんな偶然なんてあるのか、と祐策は思い切って声をかけようとそちらに歩いていく。
買い物をしているのだろうか。そういう祐策もショッピングセンターに寄り道しているところだった。
が、次の瞬間、足を止めた。
衝撃的な場面に出会したからだ。
真穂子が小さな女の子と一緒にいるのだ。
(え……こ、子供!? 雪野さんって……結婚してたのか!?)
少なからずショックだった。
独身だとばかり思っていた。
思っている以上にショックが大きかったようだ。
ただでさえ口下手なのに、ろくに会話が出来なくなってしまった祐策だった。
誰かに確認すればいいが、それもできない。
真穂子の子供は、三才か四才……しかし祐策が就職をしてから彼女が出産した様子はない。小さく見えて実は大きな子供なのかも、とわけのわからないことを考えてしまった。
(俺が入る前に産んでたら……四歳は超えるか……)
子供に詳しくない祐策は、見かけた子供の年齢がどれくらいなのかはっきり推測することができなかった。
余所余所しくなった祐策に、首を傾げたらしい真穂子が話しかけてきた。
「宮城さん、食べたいものとか、リクエストあったら是非教えてくださいね」
「あ、うん……」
気に掛けてくれているのか真穂子が話しかけてくるが、祐策はしどろもどろだった。
「あの……最近体調悪いですか?」
「いや、そんなことはないけど」
弁当を作ってもらえるのは嬉しいが、なんだか複雑だった。
(もしかしたら旦那のついでだったのかも……)
いくら有償とはいえ、いい気はしなかった。自分はいい。彼女の夫のことを思うと申し訳なくなるのだ。
(旦那にバレたらまずいじゃん。あ、でも知ってるのかな……)
だったとしても、別の男に作ってるなんて気分悪いだろ、俺なら嫌だな、と一人悶々としてしまう祐策だった。
会社で飲み会が行われ、乗り気でがなかったが社長からの慰労だから参加すべきだという会長の意見に参加することにした。
真穂子の隣は、どうでもいいようなおっさんが陣取っている。
パートのおばさんは不参加だった。
真穂子がお酌を強要されたが、無視していた。そのかわり別の気遣いスキルを発動している。
気がつけば、いつの間にか真穂子がいなくなっていた。
もっと話が出来たらな、とは思うが仕方がない。
(俺だって雪野さんと話したいんだよ! おっさんどもが)
とは言えない。
トイレに行こうと席を立つと、真穂子と出会った。席を外していたのはそういうことらしい。
祐策が右に行こうとすれば真穂子も右側に動き、
「あ、ごめん」
左に行こうとすれば真穂子も左側に動いた。
「あはは、すみません」
「ごめん」
おかしくなって笑ってしまう。
千鳥足になっている祐策に、真穂子は心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫」
「…………」
そうには見えないですよ、と真穂子が言うのが聞こえた。
お開きになり、祐策は一次会で抜けることにした。真穂子はというと、二次会のカラオケに誘われているようだ。
(子供いるのにいいのかな……。あ、でも旦那が見てくれてるのか)
くさす自分がいる。
祐策が一人帰ろうとすると、背後から真穂子が声をかけてきた。
「宮城さん、送りますよ」
隣に真穂子が立った。
「いいよ、自分で帰れるからさ」
「わたし飲んでないですし、車で来てますから」
「いいって、別に。一人で帰れる」
真穂子が手を差し伸べたわけではないが、彼女の目の前で邪険に払う仕草をした。酔っていなければ絶対にそんなひどい行為はしなかったが、声をかけてくる真穂子を見て祐策はむしゃくしゃした。
何度か断ったが、断るのも面倒になり大人しく甘えることにした。
真穂子は軽四自動車に乗っていた。
祐策は普段は自動二輪に乗っているのだが、今日は会社に置いて飲み会に参加している。
「月曜日はどうされますか?」
「歩いて来る」
「迎えに行きましょっか?」
「いいよ、バスに乗ればいいし。歩いてもいいし」
そうですか?という真穂子の表情に陰が差した。
「道案内お願いしますね」
「……うん」
「眠いなら寝てもらってもいいですよ。なんとなく方向わかりますし」
「えっ」
祐策は驚く。
家を誰も知らないはずだ。
神崎会長の家に居候だなんて話したことはない。
「なんで知って……」
「わたしは管理部ですよ。みなさんの個人情報、ある程度は知ってますから」
「ああ……そっか……」
隠したいわけじゃないが、あまり知られたくはない。
「住所、おおまかになら覚えてます」
「……うん、じゃあ、頼む」
ちょっと眠い、と目を閉じた。
真穂子の運転が心地よくて、うとうとしてしまった。
気を遣って音を小さくした音楽も心地よい。
女に運転してもらって助手席で寝るなんて恰好悪い、とも思ったが、欲求には勝てなかった。
「宮城さん、宮城さん、着きましたよ」
「あ……ああ……うん……」
ゆっくりまぶたを開き、会長の邸宅前だと確認した。
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして」
祐策は車から降りたあと、よろける。
慌てて真穂子も降車し、祐策の手を取ってくれた。
「大丈夫ですか」
「ん、大丈夫」
真穂子に支えられ立ち上がった。
「カッコ悪……」
「今日飲み過ぎたんですね?」
「そんなつもりはないけど」
見上げた真穂子と目が合い、心臓が大きく一拍した。
「雪野さん……」
「はい」
「可愛いな」
右手を伸ばし、真穂子の左頬を撫でた。
「えっ」
ふいに彼女を抱き締め、
「いい匂いがする……」
と耳元で囁いた。
「ちょ……宮城さん、やっぱりひどく酔ってますね」
「そんなに酔ってない」
「酔ってますよ……これじゃ一人でなんて帰れなかったんじゃないですか。送って正解ですね」
彼女は苦笑し、いい加減におうちに入らないと、と背中をとんとんと叩かれた。
「もう少し、こうしてたい……」
「……もう、仕方ないですね……」
真穂子は苦笑し、ぽんぽんと背中を叩いた。
「雪野さん……柔らかい。女の子の身体だな」
細い身体なのに柔らかさを感じ、思ったことを口にしていた。
「雪野さん……」
「はいはい、今度はなんですか。おうちに入りますよ」
「……好きだ」
「え?」
「俺……雪野さんが好きだ。旦那がいても、子供がいても、好きなもんは好きなんだ……好きでいてもいいか……?」
「宮城、さん?」
「好きなんだよ……」
祐策はその場に崩れ落ちた。
「宮城さん!?」
祐策にその後の記憶はなかった。
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