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【第2部】27.決意
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***
トモと聡子は、聡子の母親に挨拶に行き、あっさり同棲を了承してもらうことが出来た。トモの見たことのない三つボタンスーツ姿を見た聡子が、
「サラリーマンですね」
と嬉しそうに笑った。
「こんなの着たことねえわ」
聡子の母親の家に行くと、再婚相手の大野と一緒に出迎えてくれた。
大野も人が良さそうな男性だった。聡子自身もあまり会ったことがないらしく、緊張しながらも皆で賑やかに話をすることができた。
(俺のところはどうなんってるんだろうな……)
もう家族のことは忘れたはずだが、聡子に話をしてからはぼんやり考えることがある。
(まあ、会うことはないか)
今更会うこともないし、会って何があるわけでもない。
聡子の母親への挨拶を終えたあと、今度は会長の神崎の元へ行くことになっていた。
朝自分が出てきた家だが、こんな恰好で戻るのはこそばゆい。
「聡子さん、ようこそおいでくださいました」
渋い柄の着物で神崎が出迎えてくれた。
「あ、あの、こ、こちた、こちら、お口に合いますかわかりませんが、どーど、どーぞ」
手土産を渡す聡子が何故かガチガチに緊張している。
二度会ったことがあるはずなのに、どうしてこんなに噛むほどに緊張しているのだろう。トモはおかしくて笑いそうになった。
そう言って、あとで聡子に尻を叩かれたが。
茶を運んできたのは、カズだった。
「ありがとうございます」
聡子が茶をこぼしやしないか冷や冷やしたが、それはなんとか免れた。
「会長、彼女と一緒に暮らそうと思っています。その許可をもらいたくて、今日はお時間を頂戴しました」
「ほう」
「……ご挨拶をと思いまして」
聡子も口を開いた。
「別に許可などいらんだろうに」
「え」
「え」
「好きにすればよかろう。影山がいつ身を固めるのかと思っていたところだ。てっきり今日は結婚の報告かと思ったのに……つまらん」
ズズズ、と神崎はカズの淹れた茶を飲んだ。
「そこまではまだ……」
「なんだ、てっきり子でも成したかと思って、今日は祝いの席を準備しようと思っていたのに」
気が早いですよ、とトモは苦々しい顔をした。
神崎は二人の報告が期待のものでないとわかると、素っ気ない態度でトモと聡子と対峙した。
「まずは一緒に暮らしてから、と思って……」
「聡子さんはそれでいいのかな?」
「はい、わたしは智幸さんと同じ意見です」
「そうか。それなら仕方ない。結婚はお預けか……。子供もまだ先か……。いや、子供が先でも構わんかな。誰が赤ん坊を抱かせてくれるかと楽しみにしているのに」
「いや、それはちょっと順番が」
トモの言葉に、神崎は、
「おまえがそれを言うな」
とぴしゃりと言った。
「はい……」
「聡子さん、わたしは早く目出度い話が聞きたいんですよ。順番が狂ってもわたしは気にしない。困ったことがあればわたしにいつでも相談してくださいな」
「は、はい、ありがとうございます」
神崎は、聡子をとても気に入っているのだと、トモは思った。
神崎はずっと独り身だったというし、きっと恋仲の相手もいただろうけれど、今はこうして甥の高虎を可愛がり、堅気になって残ったトモたち三人とカズを可愛がってくれている。高虎の娘を可愛がっているだろうけれど、トモたち四人にも子供が出きれば、同じように可愛がってくれるつもりなのだろう。
「楽しみはとっておくかな」
神崎は小さく笑って言った。
トモと聡子は、聡子の母親に挨拶に行き、あっさり同棲を了承してもらうことが出来た。トモの見たことのない三つボタンスーツ姿を見た聡子が、
「サラリーマンですね」
と嬉しそうに笑った。
「こんなの着たことねえわ」
聡子の母親の家に行くと、再婚相手の大野と一緒に出迎えてくれた。
大野も人が良さそうな男性だった。聡子自身もあまり会ったことがないらしく、緊張しながらも皆で賑やかに話をすることができた。
(俺のところはどうなんってるんだろうな……)
もう家族のことは忘れたはずだが、聡子に話をしてからはぼんやり考えることがある。
(まあ、会うことはないか)
今更会うこともないし、会って何があるわけでもない。
聡子の母親への挨拶を終えたあと、今度は会長の神崎の元へ行くことになっていた。
朝自分が出てきた家だが、こんな恰好で戻るのはこそばゆい。
「聡子さん、ようこそおいでくださいました」
渋い柄の着物で神崎が出迎えてくれた。
「あ、あの、こ、こちた、こちら、お口に合いますかわかりませんが、どーど、どーぞ」
手土産を渡す聡子が何故かガチガチに緊張している。
二度会ったことがあるはずなのに、どうしてこんなに噛むほどに緊張しているのだろう。トモはおかしくて笑いそうになった。
そう言って、あとで聡子に尻を叩かれたが。
茶を運んできたのは、カズだった。
「ありがとうございます」
聡子が茶をこぼしやしないか冷や冷やしたが、それはなんとか免れた。
「会長、彼女と一緒に暮らそうと思っています。その許可をもらいたくて、今日はお時間を頂戴しました」
「ほう」
「……ご挨拶をと思いまして」
聡子も口を開いた。
「別に許可などいらんだろうに」
「え」
「え」
「好きにすればよかろう。影山がいつ身を固めるのかと思っていたところだ。てっきり今日は結婚の報告かと思ったのに……つまらん」
ズズズ、と神崎はカズの淹れた茶を飲んだ。
「そこまではまだ……」
「なんだ、てっきり子でも成したかと思って、今日は祝いの席を準備しようと思っていたのに」
気が早いですよ、とトモは苦々しい顔をした。
神崎は二人の報告が期待のものでないとわかると、素っ気ない態度でトモと聡子と対峙した。
「まずは一緒に暮らしてから、と思って……」
「聡子さんはそれでいいのかな?」
「はい、わたしは智幸さんと同じ意見です」
「そうか。それなら仕方ない。結婚はお預けか……。子供もまだ先か……。いや、子供が先でも構わんかな。誰が赤ん坊を抱かせてくれるかと楽しみにしているのに」
「いや、それはちょっと順番が」
トモの言葉に、神崎は、
「おまえがそれを言うな」
とぴしゃりと言った。
「はい……」
「聡子さん、わたしは早く目出度い話が聞きたいんですよ。順番が狂ってもわたしは気にしない。困ったことがあればわたしにいつでも相談してくださいな」
「は、はい、ありがとうございます」
神崎は、聡子をとても気に入っているのだと、トモは思った。
神崎はずっと独り身だったというし、きっと恋仲の相手もいただろうけれど、今はこうして甥の高虎を可愛がり、堅気になって残ったトモたち三人とカズを可愛がってくれている。高虎の娘を可愛がっているだろうけれど、トモたち四人にも子供が出きれば、同じように可愛がってくれるつもりなのだろう。
「楽しみはとっておくかな」
神崎は小さく笑って言った。
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