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【第2部】20.恋敵
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二人で歩いていると、またトモのかつての同僚に出くわした。何度か出くわしたことがあるが、そんなに出会うものなのだろうか、と不思議に思ったほどだ。
彼はその世界にいるときは目立つ存在だったのだろう。組でも腕っ節を買われたと聞いたこともあるし、顔が知られているのだろうか。夜歩けば、男でも女でも「久しぶりだな」と声をかけられることがあった。
(まあ、この界隈じゃ、ね……)
「よう、トモさん」
「おう」
二人の男性は、聡子をじろじろと不躾に見やった。
「ずいぶん好みが変わったんっすね?」
相変わらずトモさんはもてますねえ、とうらやましそうに言う。
「今度はどこの店の女なんっすか、オレたちにも紹介してくださいよ」
元舎弟仲間だったらしい男たちはひそひそとトモに言う。
「ちげーよ、俺の……連れだよ」
「連れ? どういう意味っすか?」
「俺の女、だよ。二度も言わすな」
聡子にも聞こえてきた。
トモの台詞に、元舎弟仲間たちが目を丸くさせて聡子を見た。
トモの背後でぺこりと会釈をする。
「ええっ、彼女ってことですか! いつできたんっすか」
「どこで知り合ったんすか! 上玉じゃん!」
「女とつきあうことはねえって言ってたのに……裏切り者っ」
聡子はいたたまれない気持ちになった。
まるで自分が、智幸にふさわしくないと言われているみたいだったからだ。
「わたしが隣にいるのがそんなに変なのかな……」
聡子のつぶやきを耳にしたトモは、二人の男に詰め寄った。
「おい……さっきから聞いてりゃ人の女を……。こいつは俺が本気で惚れた女だ、おまえらにつべこべ言われる筋合いねえぞ」
じゃあな行くぞ、とトモは聡子の腕を引きその場を去た。
聡子はトモの横顔を見上げ、慌ててついていった。
少し赤くなっているトモの顔に、聡子は嬉しくなる。
後ろを振り返ると、二人の男はぽかんをこちらを見ていた。
「悪かったな」
「大丈夫です」
「昔の俺のことは、おまえも知ってるだろうけど……」
「昔は昔、今は今ですから」
「……そっか」
ありがとな、とトモは聡子の頭を撫でた。
聡子はトモに頭を撫でられるのが好きだった。
***
聡子は、トモが女と腕を組んで歩いている所に出くわした。が、トモのほうは聡子に見られていることに気づいていない。
「ねぇえー、トモ、お願い」
「イ、ヤ、だ」
「なんでよ」
「俺はおまえとつきあう気はねえ」
どうやら女に交際を迫られているらしい。
トモが密かにモテるということはわかっていた。あんな強面で口は悪いが、優しいし、気っ風がいい。乱暴だが、女子供に手をあげることはしないし、裏表もない。
「じゃあどうしたらつきあってくれるの」
「そんな日は絶対に来ない」
「あたし、遊びじゃなくて本気だったのに。わかってたでしょ」
自分と同じだ、と聡子は思った。
「会うのやめるって言ったのはそっちだろ」
「だってトモ、あたしのことちゃんと見てくれないから」
女のほうはトモに気があるようだが、トモにはその気はないようだ。
(いつ頃の話だろう……)
自分と関係を持つようになってからは、ほかの女とはあまり遊ばなくなったと言っていた。ということは二年より前と思われた。だが、全くとは言っていないし、たくさん女はいたおうなので同時の可能性はある。
「悪い、俺、つきあってる女いるんだわ」
「えっ、嘘、誰ともつきあう気はないって言ってたよね?」
女は相当驚いている様子だ。
「あの頃はな。今は本気で惚れた女がいる」
「何それ。あたしがダメでどうしてその女がいいのよ! どんな女よ!」
と彼女がヒステリックに叫ぶ。
「おまえには関係ない」
「ひどい……」
「第一、おまえは広田とつきあってんじゃねえのかよ」
「広田? ああ……あいつ? あの男はあたしに惚れてるだけ。あたしは興味ナイわよ。勝手につきまとってきて迷惑してんだから」
「広田がかわいそうだな……」
もうおまえと会うこともない、と冷たく言い放つ。
ちゃんと言ってくれてよかった、と思う聡子だったが、次の女の台詞に耳を疑った。
「わかった。じゃあ……最後のお願いきいてよ」
「なんだよ」
彼女は、トモにとんでもない願い事をしたのだった。
しかもトモはそれを了承したのだ。
(嘘……!)
聡子はその場から去った。
彼はその世界にいるときは目立つ存在だったのだろう。組でも腕っ節を買われたと聞いたこともあるし、顔が知られているのだろうか。夜歩けば、男でも女でも「久しぶりだな」と声をかけられることがあった。
(まあ、この界隈じゃ、ね……)
「よう、トモさん」
「おう」
二人の男性は、聡子をじろじろと不躾に見やった。
「ずいぶん好みが変わったんっすね?」
相変わらずトモさんはもてますねえ、とうらやましそうに言う。
「今度はどこの店の女なんっすか、オレたちにも紹介してくださいよ」
元舎弟仲間だったらしい男たちはひそひそとトモに言う。
「ちげーよ、俺の……連れだよ」
「連れ? どういう意味っすか?」
「俺の女、だよ。二度も言わすな」
聡子にも聞こえてきた。
トモの台詞に、元舎弟仲間たちが目を丸くさせて聡子を見た。
トモの背後でぺこりと会釈をする。
「ええっ、彼女ってことですか! いつできたんっすか」
「どこで知り合ったんすか! 上玉じゃん!」
「女とつきあうことはねえって言ってたのに……裏切り者っ」
聡子はいたたまれない気持ちになった。
まるで自分が、智幸にふさわしくないと言われているみたいだったからだ。
「わたしが隣にいるのがそんなに変なのかな……」
聡子のつぶやきを耳にしたトモは、二人の男に詰め寄った。
「おい……さっきから聞いてりゃ人の女を……。こいつは俺が本気で惚れた女だ、おまえらにつべこべ言われる筋合いねえぞ」
じゃあな行くぞ、とトモは聡子の腕を引きその場を去た。
聡子はトモの横顔を見上げ、慌ててついていった。
少し赤くなっているトモの顔に、聡子は嬉しくなる。
後ろを振り返ると、二人の男はぽかんをこちらを見ていた。
「悪かったな」
「大丈夫です」
「昔の俺のことは、おまえも知ってるだろうけど……」
「昔は昔、今は今ですから」
「……そっか」
ありがとな、とトモは聡子の頭を撫でた。
聡子はトモに頭を撫でられるのが好きだった。
***
聡子は、トモが女と腕を組んで歩いている所に出くわした。が、トモのほうは聡子に見られていることに気づいていない。
「ねぇえー、トモ、お願い」
「イ、ヤ、だ」
「なんでよ」
「俺はおまえとつきあう気はねえ」
どうやら女に交際を迫られているらしい。
トモが密かにモテるということはわかっていた。あんな強面で口は悪いが、優しいし、気っ風がいい。乱暴だが、女子供に手をあげることはしないし、裏表もない。
「じゃあどうしたらつきあってくれるの」
「そんな日は絶対に来ない」
「あたし、遊びじゃなくて本気だったのに。わかってたでしょ」
自分と同じだ、と聡子は思った。
「会うのやめるって言ったのはそっちだろ」
「だってトモ、あたしのことちゃんと見てくれないから」
女のほうはトモに気があるようだが、トモにはその気はないようだ。
(いつ頃の話だろう……)
自分と関係を持つようになってからは、ほかの女とはあまり遊ばなくなったと言っていた。ということは二年より前と思われた。だが、全くとは言っていないし、たくさん女はいたおうなので同時の可能性はある。
「悪い、俺、つきあってる女いるんだわ」
「えっ、嘘、誰ともつきあう気はないって言ってたよね?」
女は相当驚いている様子だ。
「あの頃はな。今は本気で惚れた女がいる」
「何それ。あたしがダメでどうしてその女がいいのよ! どんな女よ!」
と彼女がヒステリックに叫ぶ。
「おまえには関係ない」
「ひどい……」
「第一、おまえは広田とつきあってんじゃねえのかよ」
「広田? ああ……あいつ? あの男はあたしに惚れてるだけ。あたしは興味ナイわよ。勝手につきまとってきて迷惑してんだから」
「広田がかわいそうだな……」
もうおまえと会うこともない、と冷たく言い放つ。
ちゃんと言ってくれてよかった、と思う聡子だったが、次の女の台詞に耳を疑った。
「わかった。じゃあ……最後のお願いきいてよ」
「なんだよ」
彼女は、トモにとんでもない願い事をしたのだった。
しかもトモはそれを了承したのだ。
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聡子はその場から去った。
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