大人の恋愛の始め方

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【第1部】11.泥酔

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 トモは店にぱったり来なくなった。彼からの呼び出しもない。
 反対に、川村光輝はまた毎週通ってくるようになった。
 正直相手をする気力はなかったし、会いたくもなかった。よくのこのこ顔を出せるな、と呆れてしまう。
「ミヅキちゃん、あの時はごめん」
「…………」
 聡子は川村を厳重警戒している。警戒するなというほうが無理な話だ。
 営業用スマイルも出し惜しみをしつつ、川村の指名を受けた。ここまで悪態をつけば、もう二度と来ないだろう。
 傷心の聡子に、川村の存在は鬱陶しいだけだった。
「ミヅキちゃん、本当にごめん……許してもらおうなんて思ってないけど、僕は」
「許してもらおうなんて思ってないなら、もう来ないでいただけますか。迷惑です」
「……ごめん」
 聡子は口を真一文字に結び、川村の好きな酒を入れてやった。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
 相手に嫌われたとは思わないのだろうか。よく店に来ることができるものだ。神経が図太いのだろうか。
 聡子は目を合わせず、無言で川村の手元に視線を落とした。
「わたしを指名するのはやめていただけますか。迷惑です」
 ママに、川村の指名を受けたくないを相談することは出来るが、理由を話さなければいけなくなるだろう。自分の不注意や緩みが原因だと言われてしまえば、弁解の余地もなくなってしまう。
「ミヅキちゃん、俺、ほんとにほんとに本気なんだ……。申し訳ないことをしたって、反省してる。でもそれくらい君のことを手に入れたかったし、今も欲しいと思ってる」
「……さっき、わたしが言ったこと、理解できなかったんですか」
「え?」
「迷惑です、って」
「……」
 顔を上げ、川村を睨んだ。
 川村は眉を八の字にし、申し訳なさそうな表情だ。
(信じられない)
 川村のグラスを手にし、聡子はぐいっと飲んだ。
「あっ」
「……こんなの」
 ぐび、ぐび、ぐび、とそれを飲み干した。
「ミヅキちゃん……?」
「これ、付けてくださいね?」
「え、あ、う、うん……いいよ、飲んで」
 ボトルを取ると、グラスに注ぐ。
 かと思いきや、それをまた口に運んだ。
「ミヅキちゃん、一気に飲んだら危ないよ」
「うるさい!」
 川村に止められたが、聡子は拒絶した。
 視界がぐるぐるし出したが、グラスに注ぐのは止めなかった。何度か繰り返しているうちに、グラスを持つ手が震えるように不安定になっていく。
「……トモさん……会いたい……」
 ──その後の記憶はなくなった。

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