大人の恋愛の始め方

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【第1部】4.アルバイト

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「落ち着いたか?」
「あ、はい、すみません。大丈夫です」
「おまえはいつも謝ってばっかりだな」
「すみません……」
 ふとトモの視線が時折胸元にいくのを感じた。
「……おまえ、けっこういい……してんな……」
「え? 今何か?」
「あ、いや」
(今、いい乳してんなって聞こえたような……)
 気のせいだよね、と考えを打ち消した。
「もう二十歳くらいか?」
「……いえ、まだです。お酒が飲めない年齢なの内緒で働いています」
「二十歳になるの、いつだ」
「来月です」
「来月? ふーん」
 なんだよ訊いておいてその反応、と聡子は思った。
「酒飲めねえのに、客好みの酒作るのか」
「……作れるようになりましたよ」
 得意げに聡子は笑った。
 じゃあもう一杯頼む、とトモの酒の好みを聞いて作った。
「どうぞ」
「ありがとう」
「あのぅ……なんでわたしだってわかったんですか」
 気になっていたことを尋ねてみた。
「……こんな気の強い女、見たことねえからすぐわかったよ」
「え」
「いつだったか、客のスケベオヤジに乳揉まれて泣いてたろ」
 トモが老紳士についてこの店に来た日のことだと思われる。まさか見られていたとは。同時にトイレに行く通路でふらついて支えてもらった時のことだ。あの時点でトモは既に気付いていたのだろう。
「な、泣いてなんかいません!」
「あの時の顔が、痴漢に遭った時の顔と同じだったからな」
「……っ、嫌なこと思い出させるんですね。てかよく覚えてますね?」
(人には忘れろとか言っといて!)
 よく見てる人だよ、と聡子はもう何度この男にしたかわからない半目で見返した。
「あ、その目。前にもその目で何度か見られたよな」
「何度でも見ますよ」
 トモとの会話が弾み、聡子は久しぶりに時間を忘れて楽しんだ。


「あのお客様、そんな悪そうでもなくて安心したわ」
「はい、大丈夫でした」
 トモを見送ったあと、ママに言われ頷いた。
「泣かされてるって佳祐にきいて、何されたんだって、こっちは冷や冷やしたけど……すぐ笑ってたからもっとびっくりしたわ。あなた、気をつけなよ。見習いだからって……舐められたり、狙われて自分の大事なもの無くしたりしなさんなよ」
「……はい」
 自分の大事なもの、ってなんだろう。
 その時の聡子は特段気に留めることはなかった。


 毎週のようにトモが来店するようになっていた。
 ただゆっくり酒を飲むだけのトモだ。
 聡子はその時間が嬉しくなっていた。ただ会えるのがいつの間にか楽しみになっていたのだ。ただただ他愛のない話をするだけなのに。
 トモは、うまい料理屋の話、仲間のドジ話などを聡子に話してくれた。聡子のほうは昼間の仕事の失敗談などを話した。
 ただ、それだけだった。
「おまえの誕生日っていつだ? 確かちょっと前に『来月』って言ってたよな」
「あーはい……言いましたね」
 聡子は何気なく自分の誕生日を答えた。
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