49 / 96
第二章 帰還勇者の事情
第三十四話 作戦
しおりを挟むミケールがユウキとの会談を終わらせて、部屋を出た。
当初の予定通りと言っても、ユウキは契約が成立する可能性は、五分五分だと考えていた。実際に、ユウキが提案した内容は、荒唐無稽だと言われてしまうような内容だ。
「ユウキ!」
レイヤが部屋に駆け込んできた。
「レイヤ。落ち着きなさいよ」
カップを片付けながら、ヒナはあきれた表情をレイヤに向ける。親しい人にしか向けない表情だ。
「ヒナ。そういうけど・・・。作戦の可否が決まるのだぞ?」
「はぁ・・・。レイヤ。貴方まで、サトシと同レベルになってしまったの?」
「あ?」
レイヤは、ヒナから”サトシ”と同レベルだと言われて、傷ついたフリをして、怒ったフリをする。
ようするに、じゃれているだけだ。それがわかっているので、ユウキも気にしないで、新しく入れられたインスタントコーヒーを飲んでいる。
ヒナは、レイヤをあしらいながら、レイヤが持ってきた魔道具をテーブルの中央に設置した。
置かれた魔道具を、レイヤが設定する。お互いにじゃれつきながらも、作業を行う手は止めないのはさすがだ。
「そうでしょ。ユウキは、作戦の一つだと言っただけで、ダメならダメで、別の作戦があると言っていたわよね?」
「わ、わかっている。でも、難易度が上がるのだろう?」
「そうね。ユウキ?」
ユウキは、二人のやり取りを聞きながら、懐かしい気持ちになっている。これから、行う自分の復讐に巻き込んでいいのか?
何度も、何度も、何度も、繰り返して考えて、口に出して・・・。仲間たちに問いかけた。
皆が、ユウキの復讐を認めて、助けると宣言している。その過程で、死んでしまっても大丈夫と宣言をする者まで存在している。
そして、本来なら二人のやり取りをユウキだけが見るのではなく、そこには一人の少女が居たことを想像して、頭を降った。
「あぁ悪い。考えていた。レイヤ。最良の結果だ。それに、難易度が上がるのは、いつものことだろう?」
レイヤとヒナは、お互いの顔を見て、ユウキが言っている”いつものこと”を咀嚼している。
そして、目線が交差して笑い出した。
「そうだね。確かに、いつもの事だね」「あぁ無理難題。無茶ぶり。それに比べれば、多少の遠回りくらいかまわない。それに、今回は安全ではないが、楽なミッションだろう?」
「あぁ。楽勝とは言わないけど・・・。俺たちは、今までも・・・。多分、これからも、同じようにやっていくのだろう」
ユウキの言葉通りに、”俺たち”には仲間がいる。自分一人ではない。そして、まだまだ道半ばだ。越えなければならない山は高く、谷は深い。
ユウキの言葉で、ヒナとレイヤはじゃれ合いをやめて、ソファーに座る。テーブルの中央に置いた魔道具が5個の光を灯しているのを確認する。
「それで?」
「まずは、お姫様を国に送っていく」
「おぉ?」「レイヤ。本当に、サトシと呼ぶわよ?ニュースを見ていないわよね?」
レイヤは、首を傾けて、ユウキに説明を求める。
レイヤの態度に最初に反応をしたのは、ユウキではなく、正面に座っていたヒナだ。
「見ているし!サトシと一緒にするな!」
ヒナの言葉で、レイヤがむきになって反論する。
「夫婦漫才は後にしてくれ、他のメンバーは?」
ヒナは、レイヤの反論を封じるために、物理的な方法を用いた。
「大丈夫。聞いているわ」
ヒナは、テーブルの上でレイヤが設定した魔道具を指さしている。
光っているのを確認すると、ユウキは納得した表情をヒナに向ける。
ユウキは、魔道具に向かって話しかける。
主語が抜けているが、内容は説明が終わっているので、大丈夫だ。サトシも、作戦の内容はしっかりと把握している。
「近いのは、モデスタとイスベルか?」
魔道具が光る。
二人からの返事が表示される。
”是”
決められたパラメータを与える事で、簡単な返事がわかるようになっている。ユウキが、返事を確認して話を続ける。
「ニュースを見ていない。レイヤは別にして、状況は把握しているだろう。知らない者は、ヒナに聞いてくれ」
「ユウキ!」
ヒナが抗議の声を上げるが、ユウキは話を続ける。
夫婦漫才で貴重な時間を無駄にしたヒナとレイヤを揶揄う意味もあるが、実際にペアのどちらかは内容を把握しているだろうと考えていた。
レイヤが、ヒナの”暴力”から抜け出して、ソファーに座りなおして、ユウキに質問をする。
「それで、ユウキ。作戦は?」
ユウキへの質問というよりも、確認に近い。ヒナとレイヤ以外には、作戦案をまとめた資料が配布されている。
そして、皆がユウキの性格を正しく理解している。
「一番、難易度が高い物を選ぼうと思う」
ユウキは、ヒナとレイヤが座っているテーブルの上に資料を滑らせる。
「ん?お姫様を送るだけじゃないのか?」
「送るだけなら、自衛隊でもできる。俺たちには、俺たちにしかできないことをやろう」
実際に、自衛隊が行うのは不可能だが、レイヤ以外の皆はユウキが言おうとしている内容が理解できた。自衛隊が行うのには、越えなければならない壁が存在しているが、実力では問題はない。
だから、自分たちにしかできないことを行おうと考えている。
「俺たちにしかできない事?」
「あぁ」
「それは?」
「紛争を終わらせるぞ。お姫様の方に正義があるとか青臭いことは言わない。俺たちは、お姫様に味方する」
「傭兵か?」
「そうだ」
「移動は?」
「モデスタ。お前のポイントから、お姫様の国まで、1,000KMくらいだよな?」
魔道具が光る。
返事は、”是”だ。大凡、1,000KMで正解だ。
「ポイントから、ヴィルマのスキルで移動できるな?」
こちらも”是”なので問題はない。
「まずは、俺とモデスタでポイントを作る。ヴィルマとお姫様の国に移動する。その後で、転移で連れていく」
ユウキの転移には、”ポイント”が必要になる。
物理的な目印を置くわけではなく、認識できるたしかな場所が必要になる。便宜的な意味合いで、”ポイント”と呼んでいる。
「いいのか?」
「大丈夫だ。お姫様とミケールには、ギアスを刻んである。ギアスの内容は、先方にも伝えてある。破るとは思えない」
悪い方に解釈できるように言葉を選んで伝えてある。
実際には、破ったとしても、ペナルティーが発生するような事態にはならない。しかし、
「そうか?」
「あぁそれに、破られても困らない」
ユウキたちは、隠している情報はあるが、暴露されても困る類のものではない。困るのは、”異世界に初めて訪れるときにスキルが付与されてしまう”ことが知られてしまうことだ。しかし、これもユウキがいないと実行ができない。そのうえ、スキルの発動時に、タイミングを見計らって紛れ込んでも”地球からフィファーナ”の移動はユウキが認識しないと転移が行えない。
従って、ユウキたちに知られて困る情報は、存在しないと言い切っても差し支えない。
「そうだな。わかった。俺とヒナは実動部隊を組織すればいいのか?サトシたちを呼ぶのか?」
レイヤの提案に、ユウキは頷いていてから考え始めた。
答えが出るのに、それほどの時間は必要なかった。
「うーん。辞めておこう。奴らが来たら、派手になりすぎる」
レイヤは、ユウキの返答を聞いて、少しだけ”ぽかん”という表情をしたが、笑いそうになっているヒナを見て納得した。
「たしかに・・・。こっちのメンツだけで、対応は可能だ」
「そうだな。ニュースの内容だけだと、わからないことが多い。現地の状況次第で最終調整をしよう。ダメそうなら、最終兵器を投入しよう」
「わかった。情報収集が先だな」
「もちろんだ。レイヤ。大丈夫か?本当に、レイヤか?サトシじゃないよな?」
ユウキの戯言に、レイヤが大きく反応した事で、部屋が笑いに包まれる。
「ユウキ。作戦開始は?」
「お嬢様の状況次第だが、3日後を考えている」
ユウキが言っている。3日後には大きな意味はない。ユウキたちの準備はすぐに終わる。
覚悟を決めてもらうのに必要な時間が3日程度だと考えている。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~
北きつね
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。
ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。
一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。
ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。
おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。
女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。
注)作者が楽しむ為に書いています。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
異世界でもプログラム
北きつね
ファンタジー
俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。
とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。
火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。
転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。
魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる!
---
こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。
彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。
注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。
実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。
第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。
注)作者が楽しむ為に書いています。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる