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第十章 エルフの里
第十八話 召喚
しおりを挟む「ヤス様。主様?」
ラフネスが、跪いている。
不思議に思ったのが、ラフネスの立ち位置だが、問題にはならないようだ。
まずは、立たせたい。それで、ソファーに座らせた方がいいだろう。
「大丈夫だ」
「すぐに移動を開始しますか?」
移動と言われても、リーゼには準備が必要だろう。エルフの里だと言っているのだから、森の中を歩くことになるのだろう。俺も、靴は変えた方がいいかもしれないし、準備が必要になる。
それに、森で襲われたら、いくら結界があっても、絶対に安全だとは思えない。森は、やはりエルフの主戦場だ。
「いや、掃除をしてからにしたい。俺たちが移動を開始したら、アーティファクトを狙うだろう?盗まれる心配はないが、これ以上の犠牲者は出さないほうがいいだろう」
だから、掃除をしよう。
襲ってくるのなら、街中で襲ってきてくれた方が、対処が簡単だ。それに、俺たちの武力?を見せつけた方が、今後も楽になる可能性だってある。
犠牲者を出したくないのは、エルフ族のためを思ってのことだが。無関係な者まで苦しむ必要がないと思っているからだ。
「ありがとうございます。同胞がご迷惑を・・・」
「ラフネスが謝罪する必要はない。俺たちに迷惑をかけた者は、本人が謝罪すべきだし、報いを受けさせる」
襲ってきた者は、好きにしてよいと言われている。
実験施設送りになるのは解っているのだが、マルスは他にも何か考えているようだ。奴隷として売るには、質が悪すぎる。エルフ族の全員が、美麗な姿をしているわけではない。程度の差があるだけだ。
人族の平均を、70としたら、エルフ族の平均は80か85くらいだ。人口の比率が違いすぎるので、違う可能性もあるが、綺麗だけど、醜悪な見た目だよなと思う人物も多い。
「はい。解っております」
「さて、待っていても、時間が無駄だな。釣るか?」
待っていても、動かなければ、膠着状態になってしまう。
それなら、俺が動いて餌になればつり出せるはずだ。奴らが生き残る道は、俺を殺して、リーゼを説得するしかない。
俺は、一人で出歩けば、狙っている者たちが襲ってくるだろう。
エルフの村だという認識があるだろうから、”襲う”という短絡的な方法を選ぶだろう。今までも、権力やそれに近い所に居た者たちも多いだろう。自分たちが、切り捨てられる側になり始めているという現実を受け入れられないのだろう。
「釣る?」
「どのみち、エルフの里まで、移動する必要はあるのだろう?移動時間は、どのくらいだ?」
「え?あっ・・・。森の中を、2時間ほどの移動です」
2時間も森の中を歩くのか?
ラフネスが慣れている可能性を考慮したら、3-4時間は覚悟しておいた方がよさそうだな。準備をして、明日の朝は、難しいか?明後日の朝に出て、昼過ぎにエルフの里に到着して、用事をすませて翌日か翌々日に帰ってくるくらいが、無難なスケジュールか?
「そうか、装備が必要か?」
森の中を歩くのなら装備は必要だろう。
魔物の出現が解らないけど、ユーラットの森と同程度の魔物だとしたら、装備がない状態では難しいだろう。
「装備ですか?」
「森の中には、道が整備されていないのだろう?」
「あっ。説明不足でした。エルフの里には、結界を越えなければならないのですが、その結界を越えられれば、道があります。ヤス様のアーティファクトは無理ですが、小さな・・・。一頭立ての馬車なら通過が可能です」
話が大分違ってくる。
確かに、結界の話は出ていたが・・・。
馬車での移動となると、馬車に乗っている間は、エルフ族に護衛が任せられるのか?乗ってしまえば、安全を確保しなければならないのは、馬車を用意した者たちだ。
「ん?馬車での移動を想定しているのか?」
「はい。リーゼ様がいらっしゃいます。徒歩での移動は考えておりません」
そうか、リーゼが居るのだった。
普段から接しているから忘れていたけど、あの少しだけ残念なハーフエルフは、エルフ族から見たら大切な人物だ。
守るべき対象だと考えてもいいだろう。権利の移譲ができるまでは、リーゼは害されない。
「・・・。わかった。それなら、準備の必要はないな」
「はい。馬車の手配は、長老が行います」
先に里に戻ったのは、馬車の準備をしなければならない事情もあったのだな。
それほど大きな馬車ではないのだろう。俺とリーゼとラフネスが一台に乗れるとは思えない。一頭立てだというのだから、幅は馬とほとんど同じなのだろう。そうなると、二人で並んで座るのは難しい。二人が限界だろう。
「そうか、結界を越えた辺りで待っていれば、馬車が来るのだな」
「はい。それに、認められた者とエルフ族以外は、結界を越えられません」
結界の意味が出てくるのだな。そうなると、結界を越えられるのはエルフ族だけに絞られるのか・・・。それほど変わらないけど、一人でも二人でも襲撃者が減れば対処の方法も変わってくる。
知らないのが一番の問題だが、ラフネスが協力的になっているので、情報が得られるのは助かる。
「ほぉ」
「それに、エルフ族でも結界を越えてからの襲撃は・・・」
そうか、森の中で襲撃してきたエルフ族は、問題行動だと里からも忌避される可能性があるのだな。
そうなると、抑止力としては十分だな。里での権威を確保するために、俺を殺してリーゼを手元に引き入れたい。しかし、引き入れる過程で森での襲撃が知られてしまえば、問題視されてしまう。
たしかに、森の結界を越えてしまえば襲撃の可能性はかなり低くなりそうだ。
「罰せられても、擁護ができないのだな?」
「そうです。森は神聖な場所で、招かれざる者が入ることはない。したがって、森での殺傷行為は、許されざる蛮行です」
そうなると、問題は・・・。
「わかった。そうなると、可能性が高いのは・・・」
「結界の前だと思います」
結界の前までに捕える必要が出て来る。
長老の一人か二人が、相手側になってしまっているのなら、多少の無理筋でも通してしまうだろう。俺が死んでいればいくらでも、言い訳が成り立ってしまう。リーゼが主張しても無駄だろう。
権力は、黒い物も白と言える力だ。やつらは、押し通せるだけの権力を握っているのだろう。
「面倒だな。ラフネスの予想で構わない。人数は、どのくらいになりそうだ?」
「長老の一人が・・・。しかし、多くても、100名には届かないと思います」
100人か、商人や関係者を含めると、もう少しだけ増えそうだな。200人はいると思ったほうがいいだろう。
「そのくらいなら・・・」
そのくらいなら、対応は可能だ。結界で補足して、ピットに落としてしまえばいい。
スマホが振動した。
マルスからなにか提案があるのだろう。
『マスター』
『どうした?』
『個体識別名栗鼠と、個体識別名猫と、個体識別名鷲を呼び出してください』
呼び出す?
たしか、召喚が可能だと言われている。
『なぜだ?』
『種族名エルフ、及び、種族名ハイエルフを調べました』
『おぉ』
『森に住まう者たちは、個体識別名栗鼠と、個体識別名猫と、個体識別名鷲を神聖な者として敬います。マスターが連れているだけで、まともな者たちなら襲ってきません』
『わかった』
ラフネスがいるが、問題はないだろう。
「カーバンクル。キャスパリーグ。ガルーダ。召喚」
それらしい言葉が思いつかなかった。
詠唱なんて恥ずかしい。スマホを取り出して、召喚と唱える。
魔法陣が3つ展開されて、そこから、3体が召喚された。
俺に対して頭を下げる三体。
ラフネスは、魔法陣が出現したあたりから固まってしまっている。説明を求める目をしている。
「「「マスター。ご命令を」」」
三体揃って、俺に服従の意思が示される呼び名。”マスター”を使っている。
ラフネスが驚愕の表情を浮かべて、俺と3体を交互に見つめている。
マルスの言っていた通りのようだ。
ラナやアフネスも教えて・・・。そうか、眷属だと説明をしたけど、呼び出せるとは教えていなかったし、しゃべることもなかったな。帰ったら、説明すればいいかな・・・。覚えていたら・・・。
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