上 下
231 / 293
第十章 エルフの里

第十一話 愚者

しおりを挟む

「ヤス。ごめん」

「リーゼが謝る必要はない」

「でも・・・」

「そうだな。気になるのなら、帰ったら、西門にできた店で、奢って貰おうかな?」

「え?あっうん!いいよ!帰ったら、一緒に西門に行こう!僕が運転するからね!」

 テンションが上がったリーゼを見て、良かったと考えている。リーゼの責任ではない。エルフたちが悪いのは、ヤスにもリーゼにもわかっている。しかし、リーゼは、自分がエルフの里に来てしまったことが問題になっていると考えてしまったのだ。
 ヤスに置いていかれると心の片隅で恐怖とともに、感じてしまっていた。

 しかし、ヤスは明確に、リーゼを連れて帰ると言ったわけではないが、リーゼに解るように、”帰る”という言葉を使った。

「どうするの?」

「うーん。ノープランだな」

「えぇぇぇ」

「エルフの長老が、どんなことを言ってくるのかで、対応を変えればいい」

「え?」

 リーゼは、話の流れがわからないような表情をヤスに向ける。
 ヤスは、そんなリーゼの頭をガシガシと少しだけ乱暴な力で撫でる。

「なるようにしかならない」

「?」

「大丈夫だ。リーゼ。俺たちは、依頼を達成した。今は、”おまけ”みたいな物だし、嫌になったら帰ればいいだけだろう?」

「うん!」

 ヤスは、リーゼの表情から、不安が消えたように感じて、リーゼの頭から手を離す。

「リーゼ。奥の部屋を使えよ。今日は、いろいろ有りすぎて疲れただろう?」

「僕よりも、ヤスの方が・・・」

「俺は大丈夫だ。それに、少しだけエルフの里を見ておきたい」

「え?それなら」「リーゼは、俺たちの荷物を守って欲しい」

「?」

「ラフネスは、大丈夫だと思うが、他の奴らが・・・」

「あっ・・・。でも・・・」

 リーゼの懸念も、ヤスは理解している。エルフの奴らが、リーゼを襲おうとして来ないかということだ。ヤスは、その辺りは”大丈夫”だと判断している。

『マルス』

『はい。眷属だけで対応は可能です』

「眷属の一体を、リーゼの護衛に置いていく」

「え?ヤスは?」

「俺を襲ってくるのなら・・・。撃退する。それに、多分、襲ってこない。それに、眷属は一体だけじゃないぞ」

 ヤスが明確に断言するのには理由がある。エルフたちが、ヤスを襲っても意味が薄い。ラフネスたちが考えているのは、リーゼをエルフの里に残す方法だが、はっきりとリーゼから拒否されてしまっている。この上、資金を貸し出すと言っているヤスを襲って、星貨を奪えたとしても、奪えた奴だけがおいしい目にあって終わりになる。エルフの中の派閥間にも駆け引きがあり、ヤスとリーゼが微妙な位置でバランスを取っている。

「わかった。僕が、部屋に籠もるのも必要なことなのだね」

「そうだな」

「うん!」

 リーゼは、ヤスに役目を貰えたと考えて嬉しく思っている。
 部屋は、奥の部屋を使うが、ベッドがあるだけの部屋だ。

 ヤスは、リーザが部屋に入って、鍵をかけた音を聞いて、ソファーに浅く腰掛ける。

『マルス!』

『はい。マスター』

『部屋の周りに、結界を展開できるか?』

『魔石があれば可能です』

『魔石のサイズは?』

『最小の物でも、6時間は持ちます』

 ヤスは、魔石を取り出す。

『そうだ。マルス。魔石を換金しておいてくれ、星貨で20枚を作ってくれ』

『是。保持している魔石の78%を使います』

『大丈夫だ』

『了』

 ヤスは、リーゼの母親がリーゼに託した物が気になっている。
 エルフは、金銭やそれに類するものだと考えているようだが、リーゼが託されたブレスレットは”鍵”であり、金銭や類する物ではない。換金しても、リーゼの感情を抜いて考えれば、金貨で2-3枚だろう。高価な物ではあるが、リーゼを拐かしてまでして手に入れたい物ではない。やはり、”鍵”で”何”かが手に入ると考えるのが妥当だろう。それも、リーゼが拒否していようと関係がない。ただ、鍵だとしたら、鍵の使い方を”誰”が知っているのだろう?

『換金が終了しました』

『わかった、また、魔石を溜めないと・・・。ダンジョンに籠ればいいか・・・』

『是』

『マルス。FIT への接触があれば、捕縛しろ、殺さなければ、指の1-2本は切断して構わない』

『了。すでに、7名の接触があり、結界内に捕縛してあります』

『エルフか?』

『否。人族が3名とエルフ族が2名と不明が2名です』

『不明?』

『是。未接触の種族です』

『データはあるだろう。回してくれ』

『了』

 ヤスのスマホに、捕まった7名の画像が送られてきた。

『マルス・・・。いや、いい』

『了』

 マルスは、ヤスの問いかけに一言だけ伝えた。いつものやり取りだが、ヤスが”何”かを考えているのは、表情からでも汲み取れる。

 スマホに映る7名は、人族は商人のような格好をしている。エルフ族は、その商人を連れてきたもののようだ。リーゼに求婚したエルフの取り巻きだ。マルスが会話を録音していた。録音を聞いた、ヤスは眉間にシワを寄せて、痛くなり始める頭を抑えた。

『マルス。会話を聞いたが・・・』

 マルスは何も答えない。答える必要が無いからだ。
 ヤスが聞いた内容は、リーゼに求婚したエルフは、自分の配下に命じて、商人を連れ出して、ヤスの乗ってきたアーティファクトを手に入れたから、買い取ってほしいと持ちかけた。買い取り金額で、借金を減らそうと考えた。
 ヤスとリーゼが乗ってきたアーティファクトを、リーゼの物だと勘違いしていた。そして、ヤスはアーティファクトを操る御者だと認識した。リーゼと婚姻を結べば、アーティファクトも自分の物になると、ナチュラルに考えた。ならば、先に商人に渡して借金を減らしたほうがいいと考えて行動に移った。
 それが人族二人とエルフ族二人と不明の二人が捕まった理由だ。二組の商人に別々のエルフが拙書をしていた。残っている人族は、盗人のようだ。商人と一緒にエルフの里に入り込んで、商人の指示で盗みを働いていた。

『マルス。盗人の雇い主は別に居るのだな?』

『是』

『一晩では来ない可能性があるが、警戒する範囲を広げておいてくれ』

『了』

 FIT を盗み出すのは不可能だし、盗めたとして運用は無理だろう。好事家にでも転売ができるだけだろうけど、アーティファクトとして認識されていて、俺たちの神殿の持ち物だと認識されている。そもそも、神殿以外では魔力の充填が不可能だ。
 そんな告知をしていないから、盗めばなんとかなると思っているのかも知れないけど・・・。

 本当にエルフは愚かなのかもしれない。
 今まで接してきた者たちが、特別だったのかもしれない。

「はぁ・・・」

 FITに攻撃魔法を叩き込んだ愚か者が居る。もしかしたら、最初に捕まった7名の身内なのかも知れないが、酷いにも程がある。

『マルス。リーゼの部屋の結界を強固な物に変更。この部屋にも結界を発動。リーゼの部屋に張っている結界の上から結界を張れ』

『了』

『攻勢魔法を感知したら反撃を許可する』

『了』

『物理攻撃は、吸収して返してやれ。可能なら、武器を溶かしてしまえ』

『了』

『今、FIT を攻撃している連中は、攻撃させておけ』

『了』

『マルス。俺の護衛は、眷属で十分か?』

『是』

 短く言っているが、ヤスがやろうとしていることを肯定はしない。マルスは、ヤスが第一なのだ。
 ヤスとしては、いい加減にエルフの愚か者をどうにかしておきたい。

 ヤスが、部屋から離れたとわかれば、リーゼにアタックをするために部屋にやってくるだろう。外から見張っている者たちが、急襲すると考えられる。現状でもヤスが把握できるだけで、5人だ。ヤスが居なくなった瞬間に、仲間に連絡して、人数を増やすだろう。

 悪徳商人が一緒に来るかもしれない。ヤスとしては、悪徳商人がエルフと一緒にヤスかリーゼを襲ってくれることを期待している。
 なんにしても、リーゼの安全は最優先だが、それ以上にこの不愉快な状況を終わらせたい。考えがまとまらないまま、ヤスは行動を開始する。

 グチグチと文句を言いながら・・・。

”さて、まずはFITを攻撃している奴らのツラを拝みに行きますか・・・”
”はぁ面倒だな・・・”
”アフネスからも報酬をもらわないと・・・。交渉も面倒だけど・・・”
”ラナには追加報酬を請求しよう。エルフの教育費とでもしておくか・・・”
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

魔女の弟子ー童貞を捨てた三歳児、異世界と日本を行ったり来たりー

あに
ファンタジー
|風間小太郎《カザマコタロウ》は彼女にフラれた。公園でヤケ酒をし、美魔女と出会い一夜を共にする。 起きると三歳児になってしまってさぁ大変。しかも日本ではなく異世界?!

転生少女は欲深い

白波ハクア
ファンタジー
 南條鏡は死んだ。母親には捨てられ、父親からは虐待を受け、誰の助けも受けられずに呆気なく死んだ。  ──欲しかった。幸せな家庭、元気な体、お金、食料、力、何もかもが欲しかった。  鏡は死ぬ直前にそれを望み、脳内に謎の声が響いた。 【異界渡りを開始します】  何の因果か二度目の人生を手に入れた鏡は、意外とすぐに順応してしまう。  次こそは己の幸せを掴むため、己のスキルを駆使して剣と魔法の異世界を放浪する。そんな少女の物語。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

ある月の晩に  何百年ぶりかの天体の不思議。写真にも残そうと・・あれ?ココはどこ?何が起こった?

ポチ
ファンタジー
ある月の晩に、私は愛犬と共に異世界へ飛ばされてしまった それは、何百年かに一度起こる天体の現象だった。その日はテレビでも、あの歴史上の人物も眺めたのでしょうか・・・ なんて、取り上げられた事象だった ソレハ、私も眺めねば!何て事を言いつつ愛犬とぼんやりと眺めてスマホで写真を撮っていた・・・

処理中です...