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第十章 エルフの里
第三話 準備
しおりを挟む「リーゼ。モンキーはどうする?」
「え?ヤスに任せるよ?」
エルフの里に向かう事が決定してから、リーゼは機嫌がよくなっている。地下に出入りできるようになってからは、輪をかけて機嫌がいいのだ。
ヤスとリーゼはエルフの里に向かう準備を行っている。食料は、ツバキたちが準備をしてくれている。移動距離は、マルスの計算では片道1,200キロで、移動時間の目安は、36時間と算出された。野営は、5回を予定している。王国内なら、ヤスの使うアーティファクトは知られているので、街に入って宿を利用する方法も考えられるが、王国から出てしまうと、いろいろと問題が出てくることが予測されている。
ヤスは、リーゼに野営の可能性があることを告げた。アーティファクト内で寝れば問題はないと返事が来たが、ヤスは大きめ(4人が入られる程度)のテントを取り寄せた。神殿の素材で、テントを作り直して、持っていこうと思っているのだ。
神殿の素材で作り直して、魔石を組み込んで、テントの魔改造を考えている。その後に、ルーサやエアハルトから難民を休ませる場所にも使えるようになると考えたのだ。ギルドに貸し出して、迷宮区や魔の森でも安全に身体を休めるようにすれば生存率が高くなる。
準備を進めるヤスの下に、テントの作成を依頼されたイワンがやってきた。
「ヤス!なぜ作り直す?これは、このままでも十分ではないのか?」
イワンの指摘は当然だ。
テントは、テントとして完成している。作り直す必要性があるとは思えないのだ。
「神殿で揃えることが出来る素材だけで作って欲しい。そうしたら、値段は高くなるかもしれないが、魔の森でも使えるようになるだろう?」
ヤスは、再度、イワンにテントを作り直す意図を説明する。
しばらくは、イワンにヤスが説明を行って、作り直すときに追加して欲しい機能を依頼している。
イワンが、納得して工房に戻っていくまで、リーゼは二人のやり取りを聞いていた。
「ねぇヤス。僕、ヤスと一緒でもいいよ?」
「ん?テントか?」
「それもあるけど、アーティファクトの中で一緒に寝ればいいよ?」
「うーん。リーゼが気にしない・・・。とか、じゃなくて、単純にアーティファクトの中で寝ると、寝返りが難しいし、身体が痛くなるぞ?1泊とかなら大丈夫だろうけど、連泊はきつい。それに、俺が風呂にも入りたい。飯もしっかりと食べたい」
「あっ・・・。わかった」
風呂と言われて、リーゼは顔を赤くして下を向いた。ヤスとの出会いを思い出してしまったのだ。
「ねぇヤス。僕のモンキーだけど、ヤスの後ろに乗るのはダメ?」
「ん?俺の後ろ?道が荒れていなければ大丈夫だけど、ラナからは東門と同程度の道って聞いているからな。タンデムは難しいかな?」
「そうなの?それは、速く移動する場合だよね?ゆっくりでも難しい?」
「どうだろう?道を見ていないからな。岩や木の根があるようだと難しいな」
「うーん。わかった。ごめん」
「いいよ。そうだ。リーゼ。出発までは、それほど時間はないけど、アフネスに連絡はしなくていいのか?」
「ラナがしていると思うし、必要ないかな?」
「そうか、わかった」
ヤスは、アフネスに知らせるというよりも、知らせないで出発した場合に、あとでロブアン知ったら面倒だと考えた。出発の前日のよるに、伝言させることを考えた。
「そうだ!ヤス。集落にも行くよね?」
「ん?里に着いてからになるけど、集落に行く必要があるのだろう?」
「うん。誰か、案内が居るとは思うけど・・・。僕・・・。多分、歓迎されないから・・・」
ヤスは、手の甲でリーゼの頭を”コツン”と叩いた。
「?」
叩かれた場所を、手で覆いながらニヤけるリーゼを残念な娘を見るような目だが、ヤスはどこか優しげな目線を向ける。
「そうか、案内か・・・。リーゼ。森の中は安全なのか?里は、結界で覆われていると聞いたけど、集落への道には結界は施されているのか?」
「うーん。多分、道までは、結界で覆ってないと思う。ハイエルフでもそこまでの魔力はないと思うよ?(だから、神殿が異常なんだよ)」
「ん?なんだ?」
「ううん。なんでもない。集落までは、結界は無いと思うよ」
「そうか・・・。だとしたら、魔物が居るよな?」
「うん。そこまで詳しくはないけど、魔物は居るよ。あと、魔の森と同じくらいかな・・・」
リーゼのセリフを聞いて、ヤスは少しだけもみあげを指で触りながら考えてから、信頼するマルスを呼び出す。
「マルス!」
話を聞いていたマルスは、即座に問題を解決する手段を提案した。
『マスター。個体名狼と個体名猫と個体名鷲をお連れください』
「わかった。眷属でいいのか?」
『いえ、リーダをお連れください』
「そうなのか?」
『はい。FITでの移動中の問題は存在しませんが、モンキーでの移動中は個体名リーゼの安全が担保されません』
「わかった。準備を頼む。FITに乗るか?モンキー2台は後部座席を倒せば大丈夫だろう。イワンに固定する器具を作ってもらおう」
『マスター。モンキーを固定する器具は、すでに個体名イワンに依頼済みです』
「え?そうか、出来上がったら、試してみればいいな。助かったよ」
『了』
リーゼには、マルスの言葉は聞こえていない。マルスの声は、基本はヤスにだけ聞こえているが、会議室などではスピーカーから聞こえるようにしている。
ヤスの独り言のように感じているが話の内容から、マルスと話しているのだろうと感じて、リーゼは黙っていた。
「ヤス?」
「あぁモンキーを積むときの機材を、イワンに頼むのを忘れていたから、マルスに確認した。あとは、集落に向かうときの護衛が必要だろう?」
「え?あっそうだね。僕とヤスだけだと・・・」
「あぁだから、眷属を3体、連れて行く、いいよな?」
「うん!誰?」
「あっ狼と猫と鷲を考えている。森の中で戦闘になっても、魔の森と同程度なら大丈夫だろうからな」
「そうだね。僕も、安心出来る!」
「そう言えば、リーゼは狼と仲が良かったよな?」
「うん。時々、家に遊びに来るよ?泊まっていくこともあって、毛並みがふかふかで気持ちがいいよ」
「そうか、それなら、野営のときに、一緒に居てもらえばいいな」
「うん。ヤスも一緒だよね?」
「そうだな。寝るときは、テントをリーゼが使って、護衛に狼をつければ大丈夫だろう?」
「え・・・・。うん。ヤスも、一緒にテントを使おうよ」
「俺は、FITで寝るよ。慣れているからな」
「えぇダメだよ。ヤスもテントで寝よう?」
リーゼが考えている内容も、ヤスは解っている。自分で操作してみて、アーティファクトの連続した操作は、疲れるのだ。リーゼは、ヤスがFITの操作を自分にさせるつもりが無いのは理解している。そのヤスがアーティファクトの中で寝るのは、疲れが取れないのではと思っているのだ。なので、リーゼはヤスにテントを使うように言っているだけで、一緒に寝ようと誘っているわけではない。
「そうだな。イワンに連絡して、テントを大きめに作ってもらって、中に仕切りをつければいいか?」
「うん!ベッドは無理だけど、毛布は持っていけるよね?」
「大丈夫だ。食料は、リーゼが持っていってくれるよな?」
「うん!任せて!」
ヤスも食料は持っていけるのだが、リーゼに任せようと思っている。
道案内として連れて行くと言っているが実際には、”鍵”のような扱いなのだ。里までの道は、マルスがすでに把握している。結界を超えるときに、リーゼの力が必要だ。里から先の集落も、リーゼは一緒に行くが、案内は別に用意される。リーザは、ヤスの荷物にはなりたくなかった。ヤスから、アイテムボックスに食材を入れて持っていくだけの役割だが、リーゼにしかできないと言われて嬉しかったのだ。
リーゼは、ツバキと一緒に食料を調達することに決まった。
リーゼが”素材”を持っていても料理ができないと、ファーストが進言したために、ツバキたちが食材を加工してリーゼのアイテムボックスに入れていくことになった。温めれば食べられる物や、下味が付いている肉などが大量に作られた。
準備が整い、明日の朝に出発することが決まった。
ツバキは、ラナにスケジュールを伝えた。ツバキは、その足でユーラットに赴いて、アフネスに”エルフの里に向かう”と伝言を頼んだ。
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