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第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国
第十八話 嫌がらせ作戦実施中??
しおりを挟むヤスは、ユーラットの駐車スペースに戻ってきた。メイドにカードを渡して、FITのロックを外す。
運転席に乗り込んだ。
『マスター。東門に向かう。ルートが構築されました』
『お!どんなコースだ』
『ディアナに転送しました』
カーナビに、レイアウトが表示される。上から見たコースと高低差が解るようになっている。表示が切り替えられるようになっている。
『マルス。なんで、130Rからの高速S字が有ったり、立体交差が有ったり、わざわざ登ってから下りながら90度ターンをするようなコースになっている?』
『マスターの満足度から判断したコースです。問題はありますか?』
『なんで2つのコースを作った?』
『ラリー用のコースも用意しました』
『ラリーは、FITでは難しいな。モンキーでも無理だろうから、何かあった?ヤリスは買ってなかったからな・・・』
『ラリー用ではありませんが、シビックType-Rなら走破が可能です』
『そうか、雪道使用にしてあったやつだよな?』
『はい』
『わかった。試走を兼ねて東門ルートを通ってみる。幅は?』
『スリーワイドでも大丈夫な幅を確保しています』
『よし。走ってみなければわからないな。S660のほうが楽しめそうだけど・・・』
ヤスは、スマートグラスを取り出して装着する。
コースの情報が表示されるので、ナビで確認する必要がなくなる。
Sモード走行に切り替えて、パドル操作を行う。エンジンの回転数を2000以下に落とさないようにコーナを抜けていく。加速しながらコーナを抜けると、身体に外向きのGがかかる。タイヤが路面を掴みきれずに徐々に外側に流れていく。ヤスは、タイヤを滑らせながらコーナの出口に向かって加速する。タイヤが路面を掴んだ瞬間にアクセルを踏み込んだ。
ヤスは心の底から楽しいと感じている。
最後のコーナを抜けると、東門にたどり着く。
ヤスは、アクセルを踏み込んで、門の前に作った広場に滑り込んだ。タイヤの焼ける匂いを残しながら、ヤスが運転するFITは停まった。
『マルス。何箇所か修正を頼む。ランオフというよりも逃げ場所を作っておいてくれ、もう少し攻められると思う』
『了』
ヤスは、ディアナにコースを表示させて、アクセルとブレーキのタイミングを表示させた。コーナの修正をマルスに指示をしてから、東門を通って神殿に入った。
地下工房に移動して、FITのメンテナンスを頼んだ。
執務室に入ってすぐに端末を起動して、討伐ポイントを確認する。欲望に忠実なヤスは、討伐ポイントが足りている状況を確認してから、S660を交換した。シビックType-Rと迷ったが、まずはS660にしたようだ。
S660の準備ができるまで暇になったヤスは、カイルとイチカの様子を確認するために、運転練習場に向かった。
「あ!ヤス兄ちゃん」「ヤスお兄様!」
ヤスが近づいたのが解った、カイルとイチカがモンキーに乗った状態で近づいてきた。他にも、何人か子供が居て、自転車の練習をしていた。
「だいぶ乗れるようになってきたな」
「うん!」「はい」
「他の子も、だいぶ自転車に慣れたな。これなら、神殿の中なら、自転車で手紙の配達とかできそうだな」
『マスター。賛成です』
「え?」
「カイル。イチカ。お前達は、モンキーを使って、ユーラットと関所の村に手紙や伝言を届けて欲しい」
「うん」「はい」
二人にはすでに伝えてあるが、再度頼まれた事で、二人はより強く仕事として認識したのだ。
「さっき、ユーラットで聞いてきたけど、ギルド経由で手紙が大量に届いているようだ。そこで、自転車に乗れる子供たちが、ギルドで手紙を受け取って、配達を行って欲しい」
「いいのか?兄ちゃん!」
「ギルドに依頼を出して、達成されたら知らせを伝えなければならない。本当なら、依頼を出した者が見に行くのだが効率が悪い。ギルドには話しておくから、子供たちが依頼人に知らせに行けばいいだろう。子供たちもギルドから駄賃がもらえる。依頼人も確認する手間が省ける。ギルドも対応が減って楽になる」
ヤスのこのアイディアは、自転車に乗れる前提で考えていたが、自転車がない場所でも通用する。孤児がスラム街やストリートに居着いてしまう状況は、王国でも少なくない領地で問題になっているのだ。子供に与えるような簡単な仕事がなかったが、メッセンジャーなら特別な技能が無くてもできるので、多くのギルドで採用する様になっていく。孤児の救済が表向きの理由だが、別の理由があった。依頼人に寄っては毎日の様にギルドに顔を出して、依頼の達成を確認していく者も居る。毎日ならそれほど苦痛では無いのだが、ひどい依頼人だと数時間おきに確認しにきて、ギルドの職員に文句を言っていく、そういった者への対処として期待されたのだ。実際に、導入したギルドでは依頼の確認回数が減った実績もあったが、迷惑行為を行う人物は減らなかった。
ヤスは、カイルとイチカを連れてギルドに移動した。
ギルドで、ドーリスに説明をして受け入れられた。最初は、ギルドの職員が着いて行くが、大丈夫だと判断したら、子供だけで配達を行うことが決まった。
「ヤスお兄様。ありがとうございます」
「皆、頑張っているからな。仕事だから、しっかりやれよ」
「はい」
ヤスは、イチカとカイルの頭を両手で撫でた。方向を示したので、あとはドーリスがカイルとイチカと話をするのだと言っていた。
時間が出来てしまったヤスは、ギルドの掲示板に張り出されている依頼を見るが、自分ができそうな依頼がないので、落胆した表情を浮かべて、ドーリスとカイルとイチカを見てから外に出た。
久しぶりに、アフネスに会ったので、リーゼにでも会いに行くかと考えて、地下に向かおうとした。
『マスター。個体名カスパルと個体名ディアスが戻ってきました』
『今どこだ?』
『神殿の守りです。通過までしばらく時間が必要です』
『わかった。地下駐車場に案内して、工房の執務室で話を聞きたいと連絡しておいてくれ』
『了。同乗者はどうしますか?』
『同乗者?』
『はい。カードを持っていない幼体が12名同乗しています』
『ツバキを呼んでおいてくれ、それから、子供は神殿の前でおろして、ツバキが健康状態のチェックと食事を与えて風呂に入れろ、その後は寮に送り届けろ』
『了』
指示を出してから、ヤスは急いで執務室に戻った。
情報端末から情報を得るためだ。確かに、子供は12名だ。人族だけの集団のようだ。健康状態もひとまずは大丈夫だろう。食事を与えて、風呂で綺麗にしてから、寝れば大丈夫だろうと判断した。駄目なら、ツバキが対処するだろうと考えた。
ヤスは、ディアスやカスパルから事情を聞かなければならない。状況は、ディアナに記憶されているので、マルスに命令して該当箇所を調べた。
どうやら帰り道で、子供だけの集団を見つけて、保護したというのが映像から判明した。
厄介事にならなければいいとは思っているが、子供を見捨てる選択肢は持っていない。ヤスは保護した子供たちをカイルとイチカに預けるのがいいかと思っている。ヤスから見て、カイルは大丈夫だとは思っているのだが、イチカは成人して妹や弟がしっかりと生活できるようになったら、復讐するために神殿を出ていく可能性が高いと思っている。そうならないように、見えない足かせを嵌めようと思っていたのだ。
この子供たちが、イチカの足かせになるのなら受け入れる理由としては十分だと思ったのだ。
ヤスが情報端末で確認していると、ドアがノックされた。
「旦那様。ファイブです。カスパル様。奥様のディアス様が面会を求めていらっしゃいました」
「入ってもらってくれ、俺に適当な果実水を頼む」
「かしこまりました」
ドアが開いて、カスパルの腕をしっかりと握ったディアスが耳まで真っ赤にして居た。カスパルは、何を緊張しているのか、直立不動でヤスを見ている。
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