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第七章 王都ヴァイゼ
閑話 テンプルシュテットでは・・・
しおりを挟む「リーゼ!それはダメだと思うの!」
姦しい声が地下のカート場に響いている。
神殿のカート場に居るのは、ハーフエルフのリーゼ。帝国から連れてこられたディアス。神殿近くに領地を持つ辺境伯の娘であるサンドラ。
それと、ドワーフの方々だ。
「何がダメなの!問題は無い!ね!サンドラもそう思うでしょ?」
「私を巻き込まないでよ。わたしは、調整で忙しいの!」
3人で会話をしているようにも聞こえるが実際には違っている。
リーゼとディアスはカートでならし走行をしている。サンドラは、ドワーフにお願いして愛機をいじってもらっている。
ヤスとドーリスが王都に向かったタイミングで、サンドラがカートにはまった。
自分で操作できるのが嬉しいのだろう。リーゼとディアスに挑んだ。
3人の中で最初にカートを動かしたのはリーゼだが、カートを理解したのはサンドラではないだろうか?
サンドラは、リーゼとディアスに負けたタイミングで、ツバキに連絡をした。サンドラの要望は、ツバキではわからなかったので、セバスに伝えられてマルスに伝わった。マルスは、ヤスに許可を求めて、ヤスはOKを出した。
サンドラの希望は、カートを専有したいという願いだった。
身長が、リーゼやディアスと比べると低いサンドラでは、カーブのときなどに踏ん張れない。リーゼのラフプレイで外側に弾かれてしまうのだ。
ヤスからのOKが出たサンドラはすぐに行動を起こした。領都に居た時に知り合っていたドワーフが神殿に移住してきたのを確認して、カート場に入られるか確認した。
ドワーフたちは、工房に入ってヤスからの情報提供を受けた。魔道具に関する情報だけでなく、ドワーフたちが調べてもわからなかった新しい酒精のレシピの情報を得て、神殿への帰属意識が高まった。工房に出入りしているドワーフはカート場にも出入りできる状況になっている。
サンドラは、カートの一台に自分の名前を刻んだ。
ドワーフに依頼を出して、ペダルの位置や座席を改良した。それだけではなく、ハンドルの位置など操作しやすいように細かい改良をいれている。
サンドラがカートの改造を始めれば、当然それはリーゼとディアスが改造を始める切っ掛けにもなる。
リーゼとディアスが揉めているのは、リーゼがタイヤにガードを付けて接触した時に相手を吹き飛ばす機構を組み込んだのだ。
リーゼのタイヤカバーは、攻撃に使われるだけではない。コーナーの入り口で強引にイン側に飛び込む時にも有効に作用する。各コーナーのイン側にもアウト側にもタイヤで作られたバイアが存在する。アウト側には、縁石を設置してある場所も有るのだがイン側にはラインがひかれているだけだ。リーゼは、タイヤカバーがあるので、インに強引に飛び込んでも、タイヤバリアにカバーが接触するだけだ。カバーがなければタイヤが接触してバランスを崩すのだが、リーゼは少しだけバランスを崩すだけで曲がれてしまう。
リーゼとディアスの差は、どのコースでも1周回って1秒以内になっている。小さなミスで逆転されてしまうのだ。
「ねぇサンドラ!」
「サンドラ!」
「はい。はい。聞いていますよ。リーゼもディアスもわかったわよ。一緒にルールを考えましょう」
「そうね」
「うん!」
カートは当然だがヤスが用意した時には、同じになっている。討伐ポイントで出しているので当たり前といえば当たり前だ。
エンジン部分や駆動系を含めた足回りはドワーフにも(まだ)改造が出来ない。現状で可能なのはフレームの強化やペダル位置の調整や座席などの調整だけだ。ブレーキの仕組みが解ってきて、ブレーキに手を入れることもできるようにはなってはきている。
3人は、かなりの時間を使ってルールを決めた。
カートは体重の影響は無視できない。
3人の体型は似ていないが、体重にはそれほどの差はない。一番軽いのはディアスだが身長は一番高い。今までの環境が環境だったので肉付きが良くないのだ。リーゼが一番重いのは3人の中ならしょうがないことだろう。サンドラは身長は低いが3人の中である一部が発達している。
三人はお互いの体型を見て、カートの重さ+体重を規定以上にする事が決められた。
リーゼが作ったタイヤガードはルール違反となった。
カートの全長と全幅は、ノーマルのカートから越えてはダメとしたためだ。
レース中のルールも決めた。
ルールは、サンドラが記憶してツバキにお願いしてカート場に張り出される。
セバスとツバキの予想からカート場にはかなりの者が降りてくる状況になると思われたからだ。
ドワーフたちは頑張ってタイヤだけは作られるようになった。
タイヤは消耗品で交換しなければならない。タイヤの交換は、自分のカートを持っている(リーゼ。ディアス。サンドラ。ドーリス)は自分で交換しなければならない。共有のカートを使ってレースをしている場合は、ドワーフがタイヤ交換をする。
常に2-3名のドワーフがカート場に常駐する状況になった。提示された報酬はユーラットならエールを数杯飲める程度だが、ドワーフたちは技術力のアップとアーティファクトを改造できる状況を喜んだ。
ヤスとドーリスが物資を持って、神殿の都に帰ってきた時には、3人の人族と2人のエルフ族の女性がカート場にはいる資格を持った。
---
カスパルは、アーティファクトを操作してユーラットに来ていた。
「お!カスパル。操作には慣れたみたいだな」
「えぇまだまだですが、なんとかできるようになりましたよ」
「そりゃぁよかった。今日はどうする?」
「魚が欲しいです。あと、素材の買い取りをお願いします」
「わかった。素材は、ギルドに持っていってくれ、魚はギルドに持っていくように伝えておく」
「お願いします」
カスパルは、決められた場所にKトラックを置いた。ヤスが、カスパル用に交換した物だ。専用ではない。これから、アーティファクトの操作ができる者が増えてきたら運ぶ物でアーティファクトを選ぶようになると教えられている。
今は、ヤスとカスパルとツバキとセバスと眷属だけがアーティファクトの操作が可能なので、ユーラットへの運送はカスパルの役目になっている。眷属はバスを使って、神殿の都を定期運行している。神殿の守りから神殿の入り口までを巡回するバス。西門と神殿の入り口と東門を巡回するバス。神殿の都の外周を巡回するバスが運行されている。
ユーラットに裏門から入ったカスパルは、眷属が採取してきた素材を持ってギルドに向かった。
「ダーホスさんは?」
ユーラットのギルドは以前よりも混み合っている。
神殿が攻略されたと言う情報が流れた事や、領都での事情を聞いた者たちがユーラットにやってきているのだ。攻略されたばかりの神殿は美味しいというのが一般的な認識だ。したがって、ユーラットから神殿に向かおうとする者も居るのだが、結界に阻まれて入られない者が多く出た。手順に従って”神殿に害意”がなければ許可が降りるのだが、一部の者はアーティファクトを奪取するのが目的だったり、神殿の再攻略が目的だったり、許可が降りなかったのだ。一部の者たちは、そのままユーラットに滞在している。行く場所もないので、ギルドと魔の森を往復して日銭を稼いでいる状態なのだ。
そんな状況のギルドに、カスパルが大量の素材を持ち込んでいる。
領都から商隊が向かっているという話もあるので、今後は護衛の任務が生まれるだろう。屯している連中も捌けるだろうが、今は混沌とした状態になっている。
奥の部屋からダーホスが出てくる。
「カスパル。今日も買い取りで良いのか?」
「お願いします。それで、いつもの所に入れておいてください」
「わかった。なにか買っていくのか?」
「魚を頼まれています」
「わかった。料金は買い取りから出せばいいのか?」
「お願いします。俺は、いつもの場所で待っています」
「わかった」
一度、買い取り金額を受け取って帰ろうとしたら、裏門を出た所で襲われたので、それから買い取りで発生した金額はヤスのカードに入れるようにしている。素材も今の所は、眷属が採取してきているので、ヤスが全部を貰っても誰も文句を言わない。
カスパルは、ギルドを出て裏門を抜けた。アフネスに挨拶しようかと立ち寄ったが不在だった。
そのままアーティファクトで待っていると30分くらいしてから魚を大量に持ったギルド職員がやってきた。アーティファクトに積み込んだ。魔道具を発動してから、アーティファクトを動かして神殿に戻る。
朝にKトラックで素材を運搬して物資を持ち帰る。昼にバスに乗り換えてユーラットに向かう。神殿からもユーラットに向かう者が居るためだ。ユーラットから神殿に向かう者たちを載せて帰る。夕方も同じようにバスを使って人を運ぶ。神殿とユーラットの運送がカスパルの仕事となった。
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