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第七章 王都ヴァイゼ
第六話 アーティファクトは偉大です?
しおりを挟むドーリスが各ギルドを回って神殿への不干渉を取り付けて冒険者ギルドに戻ってきた。
「ちょうど良かった。ドーリス。塩を積んだ馬車と護衛が到着した」
「よかった。それでは行きましょう。ヤス殿が待っている・・・。と、思います」
「なぜ言い切らない」
「アーティファクトの中で寝ている姿が想像出来たので・・・」
「寝られるのか?」
「寝られます。私は入っていませんが、リーゼとアフネス様とダーホスとイザークは乗ったと言っていました」
「そ、そうか?でも、アーティファクトと言っても安全では無いのだろう?寝るとは・・・」
コンラートは、ドーリスの話を聞いたが、まだどこか信じられなかった。
ドーリスとコンラートを先頭に馬車は正門に近づいた。
護衛している守備隊に緊張が走る。
ドーリスとコンラートにもはっきりと戦闘音が聞こえてくる。正確には、魔法の着弾音だ。
「誰かが魔法を使っている?剣戟の音もしている。戦闘が行われているかも知れない!コンラート殿。ドーリス殿。数名を先行させたいのですが許可をいただけますか?」
コンラートがドーリスを見る。今は、コンラートではなく建前上はドーリスが隊長なのだ。
「許可します。領都の中で、辺境伯の印がついた馬車を襲う馬鹿は居ないでしょう。最低限の人数を残して先行してください」
「感謝します。御者と護衛二人を残して他は我に続け。正門の横で戦闘が行われている可能性がある速やかに移動して鎮圧する!」
隊長は素早く指示を出し、自分は先頭で正門に移動を開始した。
「隊長!」
ドーリスが正門と聞いて一つの可能性を思いついた。
「なんでしょうか?」
「正門の横には、神殿の主が操作しているアーティファクトがあります」
「え?アーティファクトは、ギルドの近くに止められていた馬が無くても走る馬車ですか?」
「そうですが、違う種類です。大きさで言えば、数倍あります。馬車の4-5倍の大きさです」
「・・・。ありがとうございます。危険は無いのですよね?」
「神殿の主・・・。ヤス殿が出てこられたら、絶対に攻撃しないでください。まずは声をかけて、私の名前を出してください。それでわかってくれると思います」
「助言、感謝いたします。攻撃の音が激しくなってきました。手遅れかも知れませんが、急ぎます」
「はい。お願いします」
走り去る隊長を見送ったドーリスとコンラートはお互いの顔を見て、お互いに渋い顔をしているのに気がついて笑いそうになってしまった。
ドーリスは、ヤスやアーティファクトが傷つけられないだろうと予測しているが攻撃しているのが第二分隊の連中だと辺りをつけている。後始末に時間が取られてしまうだろうと頭が痛くなりつつ有った。
コンラートは、ドーリスが考えている内容をほぼ正確に予測した上で、後始末を自分が行うのだろうと嫌な気分になってしまった。
二人が後始末に思いを馳せている頃。隊長はもっと現実的な危機を考えていた。
(ドーリス様の話から、第三の奴らがアーティファクトに攻撃している可能性が高い。そうなると・・・。やはり!)
「戦闘準備!」
正門に到着すると、魔法を展開して攻撃を仕掛けている第二分隊が目に入る。同時に、結界のような場所に剣や槍で攻撃をしている者も居た。
「どうなっている!なぜ、攻撃出来ない!アーティファクトを確保すれば、俺たちは一気に近衛にもなれるはずだ!」
駆けつけた第一部隊のメンバーから『近衛にはなれないから!』というツッコミが聞こえてきそうだったが第二分隊の連中にも考えがあった。アーティファクトを取得して、神殿の主を殺せば、自分たちの隊長が神殿を把握できる。そうなれば、自分たちは晴れて新しく立ち上がる国の近衛兵になれて今まで以上に活躍できる。と、本気で思っていたのだ。
「貴様たち!何をしている!領主様から、アーティファクトと神殿の主に手出しするなとお達しが出ていただろう!」
「知らねぇよ!俺たちは腰抜けの領主に従う義理なんて無い!ランドルフ様が俺たちに好きにしていいと言ったから従っていただけだ!」
「貴様ら!もういい。捕縛しろ!抵抗するのなら攻撃性の魔法の使用も許可する。だが殺すな!突入体制!」
「お上品な第一部隊サマは戦い方もお上品ですね。俺たちに勝てるか!」
「そんな装飾多寡の鎧を着て、訓練を怠るような連中に負けるわけがない!」
隊長は抜剣して、剣を振り下ろした。
まずは魔法使いが攻撃性の魔法を放つ。一部がそれて結界に当たってしまった。
すべては結界に優秀な第一部隊の魔法師が魔法を誤射したために決着がついてしまったのだ。
『マスター。結界の損傷が0.2%です』
「ん?さっきまで攻撃していた奴らか?」
『いえ、攻撃していた者たちを攻撃した者からの誤射と思われます』
ドーリスやコンラートが聞けば『なんてのんきな会話だ』と言われてしまうような話をヤスとエミリアは行っていた。
「エミリア。最初に攻撃していた奴らの拘束は可能か?」
『無傷での拘束は不可能です。移動力を奪う攻撃を行います』
「うーん。殺さなければいいかな。できるか?」
『問題ありません』
「よし、実行!」
『了』
ディアスが張っている結界に属性が付与された。
雷属性だ。派手な装飾品をつけた部隊に結界から雷が放たれる。一瞬の出来事で避けられた者はいなかった。エミリアは追撃の準備をしたのだが、状況を判断して必要ないと考えた。
第一部隊の隊長は何が発生したのか理解出来なかったが、アーティファクトから何かしらの攻撃が行われて、第二分隊の9割が倒れたのだ。
「奴らを捕らえよ。首謀者を逃がすな!」
この状況で逃したらそれはそれですごいと思うような状況だが隊長としてはそれ以外に言葉がなかった。
目の前では、魔法に打たれてピクピクしている者や口から泡を吹いて倒れている者・・・。数名、アーティファクトから距離がある場所に居た者は辛うじて立っているが逃げ出せる状態ではなさそうだ。
「連れて行け!」
第二分隊の連中を連れ出そうとしたときに、ドーリスたちが正門を通り抜けた。
「隊長!」
「ドーリス殿。コンラート殿。無事、捕縛できました」
ドーリスが一歩前に出て隊長から感謝の気持ちを受け取る
「それはよかった。それで、ヤス殿は?」
「気がついていると思います。アーティファクトから攻撃が行われました。おかげで捕縛が簡単に行えました」
「そうですか・・・。隊長。待ってください。ヤス殿に来てもらいます。それから、捕縛した者たちも待っていただければ、帰りは馬車に放り込んでおけば移動が楽になると思います」
「そうですね。そうしていただけると助かります。神殿の主に挨拶ができれば嬉しいです。それに・・・。本当に、これがアーティファクトで高速で動くのですか?」
「はい。私も実際にユーラッのト近くから乗ってきました」
なぜか神殿とは言いたくなかった。恐怖が蘇ってしまったのだ。
「そうですか、神殿の主が疲れて休んでいるのも当然ですね」
隊長はなにやら自分の中で折り合いをつけていた。
アーティファクトは操作する者の魔力を利用して動作する。目の前にある巨大な馬が無くても移動できる馬車がアーティファクトだとすると動かすのに大量の魔力が必要になる。動かせたとして披露は凄まじいものがあるだろう。なので、アーティファクトを使って指導してきた神殿の主が疲れて休むのも当然だと考えたのだ。
前提条件が違うのだが、ドーリスもコンラートも違うと思っていてもヤスから説明されていないので、憶測で説明するわけにはいかないと考えて、肯定も否定も出来ないでいた。二人が黙ってしまったので、隊長は自分の予想が当たっていると自信を持ってしまったのだ。
『マスター。個体名ドーリスが近づいてきます』
「わかった。思った以上に早かったな。さて起きるか!」
ヤスが居住スペースから出て、外に出る。ドーリスが運転席の近くまで来ているのが見えたので、ヤスはドアを開けて外に出た。
「ドーリス。終わったのか?」
「大丈夫です。それで、ヤス殿いくつかお願いがあるのですが・・・」
「なに?」
「まずは、私以外が近づけない状況をなんとかして欲しいのですが・・・」
ヤスの目には結界から近づけないコンラートと守備隊が映った。
それと多くの縛り上げられた者たちも目に入って面倒そうな表情を浮かべたのだった。
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