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第六章 神殿と辺境伯

幕間 ディアス(1)

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 私は、ディアス。アラニスの姓は捨てた。
 今は、ただの”ディアス”です。王国にあった神殿に保護された・・・。一人の女です。

 ”大木の都ヒュージツリーラント”に住み始めてから数日が経った。

 神殿の主は、広場と呼んでいたが、私とカスパルとリーゼとサンドラで決めた呼称が”大木の都ヒュージツリーラント”だ。住んでいる場所を、神殿の都テンプルシュテット。門を神殿の守りテンプルフートと呼んでいる。

 最初は、私達だけでわかる呼称がほしかったのだが、ギルドにサンドラ様が来られて”仮称”で名前を決めようということになった。

 名前がすでにあるのなら教えて欲しいとツバキ殿に聞いたらセバス殿が来られて”私達で名前をつけて欲しい”と言われた。

「旦那様のご許可を頂きました」

「え?」

 私を含めてリーゼ以外がなんとも言えない表情をする。
 当然なことだと思う。ヤス様が攻略された神殿の名前を住まわせてもらっている私達が・・・。名称を決めていいと言われたのだ。

「???」

「ディアス様。何か?」

 そうとう不思議な顔をしたのでしょう。セバス殿に質問されてしまった。

「いえ?名称ですよ?」

「はい。旦那様にお伺いをいたしましたが問題ありません」

「それは、私達がいくつかの候補を出して、ヤス様にお聞きすればよろしいのですか?」

「いえ、旦那様からは決めて欲しいと言われました」

「ディアス。いいよ。ヤスが”いい”と言っているのなら決めちゃおうよ」

 リーゼが気楽に言いますが、私は気楽に考えられません。
 神殿の名前ですよ?
 公文書に使われるのはもちろんギルドの名前やヤス様の家名に使われるのですよ?

「そう言えば、セバスさん。ヤスに家名があったよね?」

「はい。お聞きしています。”オオキ”です」

「ふーん。どういう意味?」

 え?
 リーゼは何を言っているの?意味?”オオキ”が姓ならそのまま使えばいい。

「はい。旦那様にお聞きしたところ、”おおきな木”という意味だと教えられました」

「へぇ・・・。ねぇあと・・・。ヤスはなにか言っていた?」

「なにかとは?」

「うーん。オオキの別の言い方とか?」

 ナイスです。
 リーゼさんがセバス殿から情報を引き出してくれています。

「”ビックツリー”や”ヒュージツリー”とおっしゃっていました」

「ふぅーん。ねぇディアス。僕は、ヒュージツリーがいいと思うけどどう?」

 急に話を振られても困りますが、私はヤス様に関わりがある名前なら良いと思っています。

「名前ですか?」

「うん!」

「私は、問題ないと思います。そう言えば、サンドラさん。王国の貴族にヒュージツリーという家名はありますか?」

 帝国のことはわかりませんが、ここは王国に該当するので、サンドラさんに聞くのが良いと思いました。

「ないと思う。しっかり調べる必要はあるかと思うけど・・・。でも・・・」

「「でも?」」

 リーゼさんとかぶってしまいました。

「気にしなくていいと思います。ヤス様は独立した国になるのですし、最悪な場合でも自治区になると思います」

「そうですか・・・。リーゼ。サンドラさん。カスパル。私は、”大木の都ヒュージツリーラント”でよいと思いますがどうでしょうか?」

「うん。僕は賛成」「異論はございません」「いいと思う」

 私の意見が通ってしまう形になりましたが、”大木の都ヒュージツリーラント”はいい名前だと思います。

「それでは、住んでいる場所は、神殿の都テンプルシュテットでユーラットから続いている道にある門は神殿の守りテンプルフートですかね?」

 サンドラさんが纏めてくれます。
 なんとなく、広場やゲートと呼んでいましたが確かに名前があったほうがわかりやすいです。

 あとはセバス殿がヤス様に最終確認して貰えば・・・。ヤス様が承諾されれば良いことになるのですね。

「皆様。ありがとうございます。旦那様にご報告いたします」

「わかった」「お願いします」

 リーゼとサンドラさんがセバス殿にお願いしたので、話が終わるのだろう。

 一応聞いておいたほうが良いかもしれないので聞いておきましょう。

「セバス殿。それで、ヤス様はいつくらいに決定を下してくれるのですか?ギルドの名前や書類を作成する必要がありますよね?」

 サンドラさんに聞いていた話をセバス殿にも伝えます。

「いえ、先程の大木の都ヒュージツリーラントが神殿を含めた領域の名前で、今まで広場と呼称していた場所が神殿の都テンプルシュテットでカードを発行する場所の名前が神殿の守りテンプルフートで決まりです」

「え?」

「旦那様からは皆さんが決めた名前でいいと言われています。旦那様にはご報告をいたしますが、却下されることはありません」

「・・・。決定なのですか?」

「はい」

 神殿の主を除いた人間で名前を決めてしまって良いのでしょうか?
 ”良い”と言っているので良いのでしょう。なんか釈然としませんが納得することにします。

 この街はいろいろ規格外です。
 先日から練習をしているカートというアーティファクトですがすごいスピードで走ります。それを、私やリーゼに貸し出して遊びに使っているのです。
 確かに”ウンテン”は楽しいです。嫌なことも全部忘れることが出来ます。負けたときには悔しいのですが何度も走って新しい”ウンテン”の方法を探すのが楽しいのです。リーゼも同じ気持ちなのでしょう。今はカートを動かせるのは、私とリーゼとカスパルを除くとヤス様と眷属の皆様になってしまいます。20名まで増えたら勝負を開催してくれるとヤス様が約束してくれました。

 リーゼがヤス様にカートで勝負を挑みました。
 何が違うのかわかりませんが、10周の勝負でリーゼは1周のハンデをもらっておきながら1周遅れで負けました。私も勝負したのですが同じくらいの差をつけられて負けました。カスパルも同じです。セバス殿たちは善戦しましたがそれでも1周以上の差がついていました。
 リーゼが、ヤス様が乗っているアーティファクトのほうが早いと言い出して、アーティファクトを交換して勝負しましたが同じ結果になってしまっています。
 悔しいという気持ちがわかないほどの差を感じました。それから、アーティファクトは個人所有してよいと言われて、私専用のアーティファクトが決定しました。ドワーフの皆さんにお願いすると調整してくれます。私は、リーゼよりも少し身長があるので、座る場所を調整してもらったりしています。

 話がそれてしまいましたが、こんなに楽しい物がある場所だとは思いませんでした。
 寝る場所もあるし、食べ物にも困らない。お風呂に長く入っても怒られない。それこそ毎日でも大丈夫。

 夢のような場所です。

 名前を決めてカスパルと家に帰ると、ヤス様のメイドが家の前で待っていました。

「なにかありましたか?」

「ディアス様。マルス様がお呼びです。ご都合が良いときに神殿の地下迷宮の入り口にお越しください」

「わかりました。すぐでも大丈夫ですか?」

「問題はありません。私が案内いたします」

「おい。ディアス!俺も行く!いいよな?」

「カスパル様。もうしわけございません。マルス様から”ディアス様だけをご案内するよう”にと言われております」

「・・・」「カスパル。大丈夫よ。マルス様が私になにかするわけがないでしょ?」

「そうだけど・・・。いや、そうだな。わかった。部屋で夕ご飯を作って待っている」

「うん。ありがとう。あまりしょっぱくしないでね」

「わかった。えぇーと」

「わたしはファイブです。カスパル様」

「ごめん。ファイブ。ディアスを頼む」

「かしこまりました」

 マルス様からの呼び出し。
 姿を見たことはありませんが、ヤス様と一緒に神殿を攻略された方だと認識しています。神殿の最奥部にいらっしゃって声で指示をされています。ヤス様に従っていらっしゃるので眷属の一人ではないかと私達は考えています。
 神殿のことだけではなくいろいろな知識を持って・・・。一部では”賢者”ではないかと言われているお方です。

 そんな方が・・・私になんの用事があるのでしょう?
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