93 / 293
第六章 神殿と辺境伯
幕間 混乱!?
しおりを挟むツバキが運転するアーティファクトの座席数は21だが補助椅子を使えば25名まで座る事ができる。
夜の帳が降りてきた事からツバキはライトを付けて速度を落として運転している。
「ツバキ殿。どのくらいでユーラットに到着しますか?」
ダーホスが運転するツバキに気を使いながら尋ねる。
「そうですね・・・・」
ツバキは、ヤスからカーナビの表示のレクチャーを受けている。目的地をユーラットにしているので、到着予定時刻が表示されている。
「朝方には到着できます。ダーホス様。おやすみください」
「・・・。そういうわけには・・・」
「ユーラットには、マスターも伺うとおっしゃっていました。ダーホス様がお疲れでは、私がマスターに叱責されてしまいます。私の為だと思ってお休みください」
ツバキの言っている話が自分を考えての嘘だという事は解っている。
解っているが疲れているのも事実だ。今でも身体を椅子に預ければすぐにでも眠ってしまいそうだ。
「しかし・・・」
運転するツバキの表情を見ると運転に集中しているようにも見える。
「わかりました。お言葉に甘えます」
「はい。ユーラットにつきましたら起こさせていただきます」
「はい。お願い致します」
移動は順調に進んだ。道も石壁に沿って移動したほうが安定しているので早い。
元々の街道は馬車が通っていたが、土でできていて整備されていない。そのために、轍がひどい事になっていた。石壁沿いは、セバスの眷属たちが土を固めて居る。岩を埋め込んだ部分もあるのでかなり快適に移動する事ができる。現在進行系で街道として整備が進められているのだ。固めた土や岩の上に細かく砕いた石を敷き詰めているのだ。砂利道を走るような物だ。アスファルトに比べたら安定はしていないが轍ができた街道を走るよりも格段に走りやすい。
予定されていた時間よりも早くユーラットに到着した。
護衛としてイザークの部下たちが出てしまっているので、ユーラットの正面が閉まっている。
急いでいるわけではないの、ツバキはバスを門の正面に停める。
音を聞きつけてイザークが出てくるまで10分くらいの時間が必要だったが、バスを見てすぐにヤスの関係者だと判断したイザークは近づいて確認した。
起こされたダーホスがバスから降りてきて事情を説明した。
ユーラットは大混乱になる一日はこうして始まった。
ダーホスは、イザークに引っ張られるようにしてギルドに移動を開始した。
カスパルは、帝国から連れてこられた女性と一緒にゆっくりと移動を開始した。
縛られた男たちはバスに寝かされたままだ。尋問を待つ状態になっている。王国に仇なす存在だと判断されたのだ。
男たちの尋問はイザークが行う事になった。すごくまっとうで、人道的な尋問だったようで、6人の男たちのうち最後まで生きていたのは一人だけだった。それで得られた情報は少なかった。詳細は教えられていなかったようだ。
カスパルが匿っていた女性にも話を聞いた。カスパルが同席して居たので女性も安心して話をしたようだ。
やはりスタンピードを起こす事が目的だった。方法が不明確だったのだが、アフネスが方法に心当たりがあった。
「魔力の誘爆を利用しているのか?」
尋問されているわけではないが女性は俯きながらうなずいた。
「アフネス殿。その誘爆とはなんだ?そんな事で、スタンピードが起こるのか?」
「ダーホス。魔物が発生する理由は知っているよな?」
ダーホスは教科書でも読み上げるように魔物の発生について話をする。
「もちろんだ。魔力が集まって魔物は生まれる。その後は自然繁殖も確認されて居る」
アフネスだけではなく皆が知っている事だ。
「そうだな。それではスタンピードは?」
これも憶測だが確定している事実としてダーホスが語りだす。
「神殿や神殿と関係が深い場所に魔力溜まりができるとスタンピードが発生する。そのときに、魔力の爆発が発生する」
「そうだな。だから、辺境伯の領地には多いときには数ヶ月に一度程度の割合で規模の違いはあるがスタンピードが発生していた」
アフネスが補足したが、辺境伯やユーラットでは神殿がある事でスタンピードが発生していると思っていた。
「神殿が攻略されていないからしょうがないと思われていた」
ダーホスが補足したように、神殿が攻略されていないために魔物が統率されていないと考えていた。
「ダーホス。不思議に思った事はないか?」
「何を?」
「スタンピードの発生場所だ」
「え?」「あ!」
ダーホスは首をかしげるだけだったが、話を聞いていたイザークには心当たりがあるようだ。
「どうした?イザーク?」
「え?あっ勘違いならいいのですが、今の話を聞いて・・・」
「だから?何がいいたい?」
ダーホスが少しだけ苛ついた声で話を急がせる。
「スタンピードですが、帝国側でしか発生していませんよね?ユーラットや魔の森でも発生は確認されていますが、数年に・・・。いや、十数年に一度でしか発生していません」
「だから、その代わりに、帝国側で多く発生しているのでは・・・」
「ダーホス。それならなんで発生したスタンピードがこちら側を目指して移動する?おかしいと思わないのか?確たる証拠もなかったから疑問に思っていても口にしなかったことだろう?違うかい?」
アフネスの言っている事に心当たりがありすぎる。
冒険者ギルドもスタンピードの頻度が高すぎるためにユーラットの神殿の脅威を上げていたのだ。
「それで・・・。アフネス殿?」
ダーホスが話を戻す。
「魔力の誘爆だったな。あの方から聞いた話で、実証ができていない・・・。知っている方法を帝国が用いた確証はない。そのつもりで聞いてくれ・・・」
アフネスの話を聞いて、ダーホスは唸ることしかできなかった。
魔力を持っている魔物を殺して放置すればそこから魔力が漏れ出す事は以前から言われていた。それを大量に行う事で意図的に魔力溜まりを発生させる事ができるという事だ。魔力溜まりができる場所に魔物を集めて一気に退治する事でスタンピードが発生するという考えだ。
「アフネス殿。それは?」
「だから言っただろう実証できていないと・・・。そもそも、ゴブリン程度の魔物をいくら倒してもダメだ。それこそ、ドラゴンを討伐して放置するくらいでないと意味がない」
アフネスはここまで語ってからカスパルの横に座る女性を見る。
「それで、あんたにも話を聞く必要がありそうだな?」
女性は顔を上げて話始めた。
自分の名前から始まって一族のことを話し始めた。
「驚いた、あんた。アラニス族なのかい?」
「はい。アフネス様は・・・」
「私は普通のエルフ族だよ。それ以上でも、それ以下でもないよ」
女性は、アフネスを見つめるが納得はしていないが、これ以上アフネスの素性を暴いてもしょうがないと判断した。
「わかりました。そうです。アラニス族・・・。最後の一人です」
「最後の一人?」
「そうなります。兄が居たのですが・・・」
「そうか・・・」
「アフネス殿。二人だけで納得していないで教えて下さい」
ダーホスが情けない声で割り込んできた。
「ダーホス。アラニス族の事は知っているだろう?」
「どっかで聞いた事があるのは間違い無いのですが・・・」
「あ!思い出した。建国の英雄!」
イザークが急に大きな声を上げた。
興奮しているのは間違いない。しかし、場違いな事も間違い無い。皆の視線が集中して興奮も一気におさまってしまったようだ。
「はい。その本流です」
「え?しかし、英雄の子孫ですよね?それがなんで殺されるような事に?」
「本流で間違いは無いのですが、私たち家族だけがアラニスなのです。今帝国でアラニスを名乗っているのは、アラニスから別れた傍流です。詳しくは・・・ご勘弁いただきたいのですが、すでに帝国は私たちアラニスを必要としていないのです」
「そうか、アラニス族の本流ならドラゴンを超えるような魔力があるのは納得できる」
「はい。それを・・・」
事情が解ってきた。
帝国の事情はアラニスの女性はわからないと言っている。事実を知らないのだろう。家族を順番に殺されていったのだと言っていた。帝国に帰る気がないことも告げていた。できればユーラットで過ごしたいと皆に頭を下げる。
「無理だな」
アフネスが一刀両断する。
「え?」
ダーホスもイザークもカスパルも驚くがアフネスが言っている事が正しいのだ。
「ダーホス。考えてみれば解るだろう?アラニスの本流をユーラットで匿っていると知られたら・・・。それだけで帝国と王国の火種になる」
「あっ」
「それに、帝国としては認めることができないだろう?」
「それは・・・」
「だから、あんたは、神殿に匿ってもらいな」
「え?神殿?」「は?」
「あぁ乗ってきたアーティファクトの持ち主さ。領都から来ている者たちを受け入れてくれるようなお人好しだよ。あんたの事情を言えば匿ってくれるだろうよ」
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
転生少女は欲深い
白波ハクア
ファンタジー
南條鏡は死んだ。母親には捨てられ、父親からは虐待を受け、誰の助けも受けられずに呆気なく死んだ。
──欲しかった。幸せな家庭、元気な体、お金、食料、力、何もかもが欲しかった。
鏡は死ぬ直前にそれを望み、脳内に謎の声が響いた。
【異界渡りを開始します】
何の因果か二度目の人生を手に入れた鏡は、意外とすぐに順応してしまう。
次こそは己の幸せを掴むため、己のスキルを駆使して剣と魔法の異世界を放浪する。そんな少女の物語。
ある月の晩に 何百年ぶりかの天体の不思議。写真にも残そうと・・あれ?ココはどこ?何が起こった?
ポチ
ファンタジー
ある月の晩に、私は愛犬と共に異世界へ飛ばされてしまった
それは、何百年かに一度起こる天体の現象だった。その日はテレビでも、あの歴史上の人物も眺めたのでしょうか・・・
なんて、取り上げられた事象だった
ソレハ、私も眺めねば!何て事を言いつつ愛犬とぼんやりと眺めてスマホで写真を撮っていた・・・
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる