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第三章 託された手紙
第二話 星
しおりを挟む唯の話に補足を入れているユウキの言葉が余計に話を複雑にして大人たちを翻弄した。
どうせいつも通りだろうと、その場に居た者たちは唯とユウキの話を聞き流していた。
「遅くなってごめんなさい」
警察の取り調べが終わった鈴が丸大飯店に入ってきた。進が書いて置いた伝言を見て来たのだ。
「鈴。遅かったな」
「桜さん。”遅かったな”じゃないわよ。私に聞いたって何も知らないわよ」
鈴は話を聞くという取り調べを受けていた。
桜が関係していないのは知っているのだが、当たりたくなる気持ちもわかる。
「そうだろうけど・・・。な」
「うー。いいわよ。同じ内容を聞かれるだけだし、新しく思い出した情報なんてないと伝えるだけだし、そもそも、思い出したくないわよ!」
「そうだな。進。良かったな。これで飲めるな」
桜が強引に、話の方向を変える。
鈴にも解ったのだろう。でも、不毛な会話を続けてもしょうがないと思って、桜の切り替えをありがたく思った。
「桜さん。私が飲むから、進さんには勧めないで!」
「はい。はい」
「ママ!」
「どうしたの?唯?お話は終わったの?」
「ううん。あのね。あのね。肝試しをやったの!」
「肝試し?」
「うん!先生が怖い話を話して、星のお墓を1人ずつ回るの!」
唯の説明を聞いて、大人たちも思い出した。
仏舎利塔を回って手紙を渡す肝試しが昔から行われていた。伝統行事と言っても良いかも知れない。
「まだ続いていたのだな」
「そうだな。あの時には・・・」「進!」
唯とユウキは桜が声を荒げたのでびっくりしてしまった。
それほど桜は大きな声を出さない。美和や克己や沙菜も子どもたちをあまり怒らない。怒る場合でも、声を荒らげることなど無い。
「あっ・・・。すまん」
進は、桜の気持ちを考えて素直に謝罪した。
「いや、俺が悪かった」
大人たちの沈黙は、子供の沈黙を誘発してしまう。
雰囲気を感じて、唯もユウキも黙ってしまった。
「ねぇ唯ちゃん。それで、星の周りをどうやって回ったの?」
仏舎利塔や過去の話しは聞いているが、沙奈は直接関係していない。なので、仏舎利塔や紫陽花の話が出ても深く考える必要がないので話を聞けるのだ。
「あのね。唯が鳴海ちゃんに手紙を渡したの!」
沙菜が唯の話を聞くようだ。ユウキは、鈴に一生懸命にタクミたちとご飯を作ったと自慢している。
「それじゃ唯ちゃんが最後まで待っていたの?」
「うん!」
「怖くなかった?」
「最初は、怖かったけど、町の明かりを見ていたら怖くなくなった。お家の明かりを教えてもらったの!」
沙菜は、常識で考えて、唯が待っている間に怖くないように、先生が適当な明かりをお家の明かりだと教えたと考えた。
「へぇー。そうだったのね。唯ちゃんも手紙を貰ったの?」
「うん。貰ったよ」
「良かったね」
沙菜は、友達が1人休んでいたことを知らない。
「楽しかったよ。菜々もお休みしなければよかったのにね」
「菜々ちゃんはお休みだったの?」
「うん。ね。ユウキ。菜々。お休みだったよね?」
「うん」
---
桜と進と鈴は、鈴の体験を聞いていた。
テーブルの上の食べ物は少なくなっているが、ビールはコップに注がれた状態から変わっていない。
「でね。桜さん」
「聞いているよ。詳細は回ってきていないけど、実現は不可能だという話だぞ?」
「だよね・・・」
「なぁ桜・・・。本当に、関係はないのか?」
進が桜に何をききたいのか解っている。
桜も、質問の内容を確認しようとはしない。
「防犯カメラにも映っていない。本部は、街中の防犯カメラ映像を入手して調べているけど、当日だけではなく数日前でも映っていない」
「・・・」
桜は捜査には加わっていない。関係者ではないが、捜査対象に、幼馴染や旧知の者が居る。そもそも、資料課には捜査本部に加わるタイミングなど無いのだ。
「大規模な捜査をしたようだが、二人を見たという話は出てきていない」
桜にも、独自の情報網があるのだが、秘匿されるような情報が出てきていない。”何も解っていない”ことだけが”わかった”だけだ。
マスコミ各社も第一報を勢いよく放送したが、新しい情報がない状況では独自の展開など出せるわけもなく尻窄みになっている。
「あれ?鈴も来たの?」
外で電話をしていた美和が帰ってきた。
「うん。美和さん?え?それじゃ克己さんとタクミの二人だけで?」
「そうだけど?」
美和が不思議な者を見るような目で鈴を見る。
鈴が”おかしな”感じになっているが、おかしいのは桜や美和だ。克己とタクミは、桜の母親に呼び出されているのだ。
「鈴さん。この人たちに常識を期待してもダメだと思うわよ」
子供の相手をしていた。沙菜が振り返って鈴に忠告をする。
鈴も解っているのだが、やはりどこかで突っ込みたくなってしまったのだろう。
「沙菜さんだけですよ」
「沙菜ママ!それでね。タクミに手紙を渡したの!」
「そう。よかったね」
「うん!5人だけど楽しかったよ!ハルちゃんも鳴海ちゃんも頑張ったよ!」
「そうだよ。私も、沢山我慢したよ!ママ!手紙も貰ったよ!」
唯は嬉しそうに鈴に報告をする。
「ん?」
「ねぇ唯は、最初に手紙を渡したのだよね?」
「そうだよ!私が最初!」
「それで手紙を貰ったの?」
「うん!」
鈴は、おかしな事実に気がついた・・・。
「ユウキちゃんは、誰から手紙を貰ったの?」
「僕?僕は、ハルちゃんから貰って、タクミに渡したよ?」
「晴海君は、鳴海ちゃんから受け取ったのかな?」
「うん。唯は、鳴海ちゃんに渡したよ」「うん!私は、鳴海ちゃんに渡したよ」
唯は、誰から手紙を貰ったのか覚えていない。受け取った事実は間違いないのだが、誰から受け取ったのか覚えていない・・・。マホの名前を思い出せなかったのだ。
「ねぇ唯。唯は、誰から手紙を受け取ったの?」
「え?」
「手紙を受け取ったのだよね?」
「うん!そう!受け取ったから、先生の所に戻ったの!」
鈴は、唯のテンションが高いのも不思議に思えた。普段は、もう少しだけ物静かな感じなのに、今日はテンションが高い。
何か必死に隠している雰囲気は感じない。
「どうした?なんだ?」
鈴の様子がおかしいので、進が心配そうに声をかける。
「沙菜さん。美和さん。すまん。少し、鈴を連れて外に出てくる」
子供たちに聞こえないように進は声を抑えて鈴と桜を外に連れ出そうとした。
「ママ?どうしたの?」
唯も鈴の様子がいつもと違っていると思って心配になったのだ。
「なんでも無いよ。ママ。車の中に荷物を忘れたから取りに行ってくるだけだよ」
「ふーん」
「ねぇ唯ちゃん。それで、タクミはどんな料理を作ったの?」
沙菜が気を利かせて唯の気をそらす。美和がユウキと話始める。
進は鈴と桜を外に連れ出した。
「桜?」
進は、桜が何か考えていると感じて桜も一緒に連れ出したのだ。
あんな事件があってから鈴の心が疲れているのではないかと思ったのだ。子供の前で泣き出すわけにはいかないので、連れ出しただけだが、桜が素直について来ているので、”何か”有るのではないかと思っているのだ。
「進」
「なんだよ?」
「お前、仏舎利塔は知っているよな?」
「あぁ」
「形を覚えているか?」
「星型だよな?」
「そうだ。星型だが、肝試しで使う仏舎利塔は・・・」
「進さん。仏舎利塔は、”ダビデの星”・・・」
「鈴の言うとおりだな。さっきの唯とユウキの話でも奥にある仏舎利塔だと言っているし、手紙をおける場所があるのは、ダビデの星になっている仏舎利塔だけだ」
「だからそれがどうした?」
進は、桜と鈴が気にしている仏舎利塔は解っているが、だから何だと思っているのだ。
「進。お泊り会の唯たちの班は1人休んだのだろう?」
「菜々ちゃんだったか?休んだみたいだな」
「肝試しは、仏舎利塔の頂点から頂点に歩くよな?」
「そうだな」
「唯が最初なら、唯は先生から手紙を渡されるよな?」
「え?だったら先生から受け取った・・・。のでは・・・。ないのか?」
「進さん。唯は、先生から手紙を受け取っていないわよ。だって、唯はさっき・・・”先生の所に戻ったの”と言っていたわよ」
「進。それに、”ダビデの星”の頂点は6つだ。1人休んで5人になった子供たちに先生がプラスされても、唯が手紙を受け取れない」
「ちょっと待て!桜。唯は誰から手紙を受け取ったのだ?」
「・・・」「・・・」
1人足り無い状況だ。ダビデの星の周りを回るだけの肝試しが・・・。
唯が手紙を受け取った事実が確かなら、あの時、あの場所に、子供が6人居たことになる。
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