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第八章 セキュリティ・キャンプ
第三話 確認
しおりを挟む「篠崎くん。それで、受けてくれますか?」
「はい。受けます。それで、実習室の使用許可をください。あと、レギュレーションにあるように、OSが入っていない同型のパソコンが10台ほど欲しいのですが、ありますか?」
「完全に同じでは無いですし、スペックが低いのですがいいですか?」
「チップセットとGPUが同じなら多少の違いは大丈夫」
戸松先生が空いているパソコンを考え始める。
流石に、10台は難しいか?オヤジに相談して、古いスペックの珠が転がっていないか聞いてみよう
「そうだ。戸松先生。篠崎くん。有志の選別は、電子科と情報科でいいのですよね?」
「はい」
俺は、別にどうでもいい話なので黙って頷いた。
「パソコン倶楽部の一年生の女子二人が、こちらに参加したいと言い出しているのですが?」
「スパイですか?」
「篠崎くん!」
戸松先生が、声を荒らげるが、この時期に有志として参加させたいと言ってくるのは、スパイと考えるのが妥当だろう。
「ハハハ。そうですね。スパイとして育て上げられたら良かったのですが、単純に北山君への反発ですね」
「北山?だれ?」
名前に聞き覚えはない。
「篠崎くんを怒鳴った生徒ですよ」
「あぁ彼ね」
「彼は、パソコン倶楽部の副部長でしてね。ちょっと今回は、気合が空回りをしていまして・・・。昨日もあの後、女子生徒の二人が、君のことを戸松先生に聞いたら、急に怒り出して、女子生徒の二人を選手から外すと言い出しましてね。それで、彼女たちは、倶楽部を辞めると言ってきまして、それなら・・・。と、思ったのですよ」
「はぁまぁいいですよ。実際の選手に選ばれるか、俺は約束しませんよ?」
「それでかまいません」
「そうだ、津川先生。参加要項を読むと、学校推薦は1枠だけですが、自主参加の枠は決められていませんよね?複数の参加も可能なのですか?」
「可能です。去年は、県主催ではなかったのですが、東高校からは、3チームが自主参加してきました」
「津川先生は、去年も参加したのですか?」
「えぇ参加しましたよ?」
「主催が代わって、違ってくるのは理解していますが、去年の話でいいので教えてほしいのですが」
「はい。なんでしょう?」
「会場に入ってから、チーム同士の打ち合わせは出来ますか?」
「基本的に出来ません」
「そうですか・・・。お風呂で偶然会ったり、食堂ですれ違ったり、休憩中に雑談する程度なのですね」
「そうですね。え?あっスパイの心配ですか?」
「スパイは、それほど心配していません。それよりも、妨害工作や欺瞞情報を流したり、それこそチームで共闘したりはなかったのか、知りたいのです」
「・・・?」
「津川先生。レギュレーションを読むと、サービスの起動時間とありますが、公平性を確保するために、決められたサーバに数秒か数ミリ秒単位でセッションを張って、決められた情報を伝達しているのではないですか?」
「え?去年は・・・・。起動したサービスを、情報収集端末から接続して、レスポンス時間を競い合っていました」
「それなら、止める簡単な方法があるのですが、どの高校も実行しなかったのですか?」
「え?」
「DoS攻撃です。それも、一箇所からではなく、3台のノートパソコンを3チームで一気に一箇所を狙ってDoS攻撃を仕掛ける。対策が出来ていないチームならこれで、サービスは停止します。停止しないまでも、レスポンスの低下は避けられません」
「あ・・・。そうですね。皆、ハッキングばかりに気を取られて・・・」
「でしょうね。なんなら、ルータを攻撃してもいいと思いますよ。市販のルータを使っていれば、簡単に機能が止まります」
「・・・」
「よくもまぁ・・・次から次へと・・・」
呆れ気味の戸松先生は置いておくとして、今は、どうやって、有志をレベルアップさせるのかを考えたほうがいいだろう。
それに、30名。5チームで参加したい。最低でも、3チームは欲しい。そうしたら、いろいろ仕込める。
ソフトウェアはライセンスの問題がなければ、ダウンロードして使っても良いようだ。それなら、チーム別に持っていって、融通し合うほうがいい。他のチームの邪魔をするために、外部のサーバにファイルを置いて、ダウンロード速度を低減させてもいいかも知れない。
「津川先生。レギュレーションでは、スマホやタブレットの持ち込みは許可されていますよね?」
「はい。問題はなかったです」
「台数は?器材は、パソコン等となっていますが、2in1のパソコンはダメですか?ネットを閲覧する端末だと言って、ポータブルゲーム機の持ち込みは?」
「ちょっとまってください。スマホやタブレットは、常識の範囲内となっています。2in1のパソコンはダメです。ポータブルゲーム機はわかりませんが、大丈夫だと思います」
「タブレットなら大丈夫なら、全員にWindowsタブレットを持たせても大丈夫ですよね?」
「え?」
「スマホも、SIMを入れていない物が、家にはゴロゴロありますから、一人あたり3台は持ち込めます。大丈夫ですよね?」
「・・・。大丈夫ですが、何をするのですか?」
「え?ハッキングですよ?」
レギュレーションや当日の様子を津川先生に確認した。
かなり、真剣にハッキングやセキュリティに関して考えているようだ。だけど、実践的ではない。
「戸松先生。それで、有志は集まりそうですか?」
「そうですね。大丈夫だと思いますよ。30名以上になっても大丈夫ですか?」
「大丈夫だとは思いますが、大会に行ける予定の者を優先してください。それから、津川先生。パソコン倶楽部からあぶれた女子生徒の二人はOKです。それと、ポータブルゲーム機の持ち込み。タブレットの持ち込み。小型ルータの持ち込みを確認してください。あと、モニター切り替え器も聞いておいてください」
「わかった」
「それから、4チームの自主参加を申請してください。メンバーの提出はギリギリで間に合うのですよね?引率は先生に限りますか?例えば、俺が引率として名前を出すのは可能ですか?」
「大丈夫です」
「外部の人間は?」
「外部と言うと?」
「そうですね。俺のオヤジとかオヤジの会社の人とかですね」
「助言は出来ませんが、引率なら問題はないと思います」
「引率は必須ですか?」
「私が一緒に行きますから大丈夫です」
うーん。
まだなにか、穴がありそうだけどな。自分だけが利用できる穴なら良いけど、他の人間たちが利用できる穴なら塞いでおきたい。自分たちが利用できないと不利だ。何ヶ月か前からレギュレーションを読んでいた連中も居るだろう。そいつらを上回るなにかを見つけるか、裏道を探さなければならない。
それも、自分が行うのではなく、実行出来るように教えるのだから、考えなければならない。
考え方を教えるのは当然としてテクニックを伝えなければならない。
あとは、情報の収集方法だな。今回の大会のためだけじゃ面白くない。その後も役立つようになってもらおう。
先生たちと契約を結んだ。
食堂は、先生からチケットを預かった。一部で出回っている先払い済みのチケット60枚だ。1ヶ月を30日で考えてくれて、俺とユウキの分で60枚を用意してくれた。発行された日付を見ると、数年前の物もある。どうやら、使わずに取っておいた物のようだ。
うまく先生に乗せられた感じはするが、しばらくは昼には困らない。ユウキと生活し始めて、流石に朝に昼飯を作る元気は無くなった。
起きてから、汗を流すためのシャワーを浴びる日が多くなったからだ。
教員室を出て、ユウキに連絡をいれる。
「ユウキ。話は終わったぞ?」
「大将の所に居る!タクミもなにか食べる?」
「大将に聞こえるようにしてくれ」
「うん」
「おぉタクミかどうした?」
「大将。焼きそばを大盛りで、たこ焼きを大皿で」
「辛子は?」
「いらない」
「はいよ。あっユウキがなにか話があるらしいぞ」
「タクミ。僕、かき氷が食べたい!」
「わかった。誰か一緒に居るのか?」
「もう帰るって」
「わかった。いいぞ、好きなものを食べろ」
「うん!」
後ろで、大将が調理を始めた音がし始めた。
自転車に乗るので、ユウキとの通話を切った。2-3分で大将の店に到着する。ソースの焦げるいい匂いがしてくる。
大将の焼きそばは、ほぼ麺だけだ。キャベツは多くても5切れくらい。ブタ肉も細かく刻まれた物が少しだけ入っている。たこ焼きは反対に大きなタコが入っている。それで両方とも500円だ。普通盛りなら400円だ。工業高校生だけの値段らしいが、大将の商売が成り立っているのか心配になってしまうが、夜になるとアルコールを出して、利益率の良い商品で稼いでいると言っていた。ゲームも置かれていてレトルトゲームだが、50円で出来る。ハイスコアを記録していて、月間で最高得点の者には、焼きそばかたこ焼きのタダ券が配られる。ゲームは、全部で10台ある。工業高校生や近くのサラリーマンが昼や放課後にゲームをしている。古いレトルトゲームで、攻略法なんかもない。だからこそ、やり込むしか無く、かなり儲かっていると笑っていた。
魅惑的に美味しい焼きそばとたこ焼きを食べて、ユウキと一緒にかき氷を食べてから、家に帰った。
「ユウキ。学校からの依頼の書類を作るから、先に寝ていいぞ?」
「うーん。それなら、邪魔しないから、秘密基地に居ていい?」
「いいぞ?でも、面白くないぞ?」
「うん。でも、いい!タクミと一緒に居たい」
「あぁ」
風呂に入ってから秘密基地に移動した。
今日はしっかりと寝間着を来ている。秘密基地は、空調が効いていて、常に22度になっている。
レギュレーションを取り込んだし、さて作戦を考えるか・・・。
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