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第四章 連合軍

第六話 フォリの覚悟

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「どうなっている!」

 豪華な天幕で怒鳴っているのは、王国からの遠征軍を率いている任命されたばかりの将軍だ。

「はっ。現在。未確認のアンデッドと交戦中」

「解っている。神聖国はどうした!アンデッドなら、奴らなら対処ができるだろう!」

「それが、神聖国も交戦中で、戦力を送ることができないと・・・」

「ふざけるな!何とかしろ!」

 『何とかしろ』は、指示ではない。
 将軍は、王国の男爵家の次男で、勝てる戦だと思い込んで、自分を売り込んでいた。長男の跡継ぎを追い落とすために、魔王ルブランおよび魔王カミドネの討伐作戦に参加を決意した。

 かっこよく言えば、王国のために、魔王を討ち滅ぼす。

 実際には、神聖国からの言葉を信じて、軍を出した愚か者だ。男爵本人も、次男が魔王のどちらかを倒して、凱旋する。神聖国の作戦は、王国にも男爵にもメリットしか感じられなかった。
 男爵は、勝てる戦だと確信した。陞爵を夢見て次男の出兵を許可した。

 王国軍は、既に撤退のタイミングを逃している。

「煩い!」

 奥から天幕に戻ってきた。
 そこには、軍議をしていたはずの者たちではなく、部下”であった”者たちが存在しているだけだった。

 男爵の次男は、部下たちの姿を見て、気を失った。
 将軍の位を持っていたが、実践は初めてだ。男爵家の次男は、気を失ったことを感謝した方がいいだろう。

「イドラ!」

 トレスマリアスの長女のマリアが、森狼から進化したイドラを呼び戻す。
 魔王カミドネの眷属であるイドラは、魔王カミドネがポイントを使って、最初に呼び出し契約した眷属だ。それから、常に寄り添っていた。なかなか進化が出来なかったが、最近、進化することが出来た。複雑な気持ちだったが、魔王カミドネから、イドラの名を貰い。常に一緒に居た自負がある。
 その魔王カミドネから、頼まれた仕事を忠実に実行して、結果を出した。

 イドラは、進化の過程で眷属召喚のスキルが使えるようになった。
 その眷属召喚の中に面白い特徴があった。殺された眷属を、アンデッドとして呼び出せる。イドラは、進化の時に強くなるように願い、進化を受け入れた。新しいスキルは、眷属同士を調合することが出来た。新しいスキルを得たイドラは、恐怖して、感謝した。

 イドラは、呼び出した眷属たちと話をして、一つの実験を行った。
 イドラが呼び出す眷属は、イドラと魔王カミドネの為に戦って死んでいった者たちだ。死して、魔王カミドネの為に戦おうとする意思が強かった。しかし、元々は森狼だ。強さで言えば、最底辺ではないが、魔物の中では弱い種族だ。進化しても、ランクでは、中位以上にはなれない。イドラたちも解っている。強さを求めるには、特殊進化を行って、その上で限界を突破する必要がある。
 イドラは、魔王カミドネのために、限界突破に挑戦するために、アンデッドたちを自分自身に取り込んだ。

 それだけではなく、呼び出す眷属も、アンデッド同士を組み合わせて強化した。

 その結果、イドラの眷属は上位の下位程度のアンデッドに進化をした。イドラは、半アンデッドとなり種族が代わり、子孫が残せなくなったが、望んだとおりに、限界を突破し、さらに進化した。今では、上位の中位の魔物になった。その話を聞いた、魔王カミドネは驚いて、イドラを思いっきり叱ってから、抱きしめた。そして、涙を流しながら”ありがとう”と連呼した。

 進化したイドラの眷属が、侵攻してきた王国軍の天幕に忍び込んで、スキルを使った。

 抵抗が出来なかった者を、意識なきアンデッドにしてしまうスキルだ。
 食欲しか残らないグールとなった兵士たちは、生きる者を食い散らかすだけの魔物となる。グールに食われた者も、同じグールになってしまう。王国から侵攻してきた軍は、イドラの眷属によって、混乱の極致にいた。

 その間に、トレスマリアスに翻弄されていた神聖国の侵攻軍は、撤退を行い。軍の再編成を行おうとしていた。

 すぐに、魔王カミドネに連絡が入った。

「フォリ。どうしたら?」

「カミドネ様は、神聖国を滅ぼしたいですか?」

「正直に言えば、神聖国が攻めてきても、怖くない。王国も同じだ。それなら、民衆には被害が出ないようになればいいと・・・。甘いか?」

「いえ、カミドネ様のお考えが解りました。これからの決定は、私が考えて実行します。カミドネ様には、なんの非はありません」

「え?」

「いいですね」

「フォリ?何をするつもりだ?」

「カミドネ様は・・・。いえ、カミドネ様。フォリが独断でした事です。いいですね」

「ダメだ。フォリ。何をしようとしている!」

「大丈夫です。カミドネ様には、眷属はカミドネ様のお味方です」

「ダメだ!フォリ!」

 フォリは、魔王カミドネの腕を振り払おうとして失敗した。

「カミドネ様。私の話を聞けば・・・」

「いい。聞かせて欲しい」

「魔王様から殺されるかもしれませんよ」

「大丈夫だ。一度、失った命だ。怖くはあるが、大丈夫だ。フォリを失うことに比べれば・・・。それに、魔王様なら、私が居なくても、他の者は・・・」

「わかりました」

 フォリの進言はシンプルなものだ。
 魔王との取り決めで、神聖国の領域を削れるだけ削ってしまおうと決まった。フォリも、その場に居て話を聞いている。

 フォリは、その決定を覆そうとしていた。
 嘘の報告を使って、神聖国の集落がある手前までで、進軍を止めようと考えたのだ。大恩ある魔王を裏切る行為に思える。魔王が許しても、配下が許さない可能性もある。その時には、フォリは自分の命だけで許してもらえないかと交渉をするつもりでいた。その為に、魔王カミドネが作戦を知らなければ、魔王カミドネの眷属は助かると思ったのだ。

「フォリ。今から、魔王様の所に言って、作戦を説明しよう」

「え?」

 魔王カミドネが、いきなり立ち上がって、端末を起動する。魔王へのアポイントをとる為だ。

 アポイントの理由を聞いた魔王からの返事は簡潔だった。

”魔王カミドネに任せた戦場だ。終わらせ方も、魔王カミドネに任せる。神聖国が攻め込んできても大丈夫なら、問題はない。それに、面白い副次効果もありそうだ。フォリ。魔王カミドネのサポートを頼む”

 魔王は、フォリの作戦を聞いて、別の場所で行われている戦いを楽にするために、今回の停滞を利用する事を決めた。そして、魔王カミドネとフォリに実行は、任せるとしながらも一つの作戦を委ねた。

「魔王様は凄いな」

「そうですね。恐ろしい方です」

 魔王カミドネとフォリは、魔王が考えた作戦を実行する為に、戦線を下げた神聖国を牽制するために、イドラを向かわせた。そして、イドラが攻め込むタイミングで、トレスマリアスの三姉妹を下げた。三姉妹には、カミドネダンジョンまで戻るように指示を出した。

「カミドネ様。トレスマリアス。御前に」

 長女のマリアが代表して宣言をする。

 三姉妹に、フォリが魔王から聞いた新たな作戦案を説明する。

「大筋の作戦は、魔王様から頂いた。実現する為の、戦術レベルの作戦を考えたい」

 5人は、魔王から与えられた新たな作戦を戦術レベルで実現する為に、作戦を考えた。

 そして、イドラが牽制していた神聖国に動きが見えたタイミングで、作戦を実行にうつした。

 イドラが眷属を使って、グールになってしまった王国兵たちを誘導して、神聖国にぶつける。距離は、それほど離れていない為に、難しい作業ではない。誘導は、角兎の進化体のキャロが行う。誘導されたグールたちは、そのまま生者である神聖国を襲い始める。王国兵の軍備のままだ。そして、戦場になっている場所は、神聖国内だ。
 人が決めている国境に、魔王たちは縛られないが、人は国境に拘りを持っている。

 グールが神聖国に襲い掛かるタイミングで、イドラが眷属のアンデッドを引き上げる。
 神聖国から見ると、アンデッドを使っていたのは、王国の人間たちに見えてしまう。そして、王国側から見ると、神聖国がアンデッドを倒しきれなくて、王国に押し付けた。その結果、アンデッドが王国兵に襲い掛かったように思える。

 神聖国と王国兵は、混乱の末に、敗退した。
 お互いに、相手側の作戦が失敗したと思い込んだ状態だ。
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