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第三章 魔王と魔王
第十九話 【帝国】
しおりを挟む七番隊の隊長だったティモンが、領地となっている城塞街から帝都に戻ってきていた。
魔王ルブランが、魔王カミドネを支配下に置いて、神聖国からの討伐部隊を一蹴した。その後、公式には認められていないが、斥候からの情報で、神聖国と王国の連合で討伐部隊を組織したが、魔王カミドネに完敗している。損傷率7割にもなる。大惨敗だ。
魔王カミドネは、自分が治める領地とでもいうつもりなのか、柵を設置した。
そして、柵の中に獣人族を住まわせた。森となっている場所や、水場があり、獣人族は以前よりも安心して生活ができる状況になった。
帝国を取り巻く状況も大きく変わった。
まず、5番隊に代表される獣人族を奴隷として使っていた部隊は解体された。
また、帝国の膿となっていた違法な奴隷商人は駆逐された。帝国の辺境には、貴族の庇護を受けた奴隷商人が居るが、不正が見つかった場合には、庇護を行っている貴族ごと潰している。
それほど、帝国は魔王ルブランに恐怖を覚えている。
魔王の寿命は、”ない”と言われている。
討伐されない限りは、魔王は生き続ける。長命で知られる種族は居るが、魔王は寿命の概念がない。帝国の資料には、魔王の眷属となった者たちも寿命の概念が無くなるとなっている。
そのために、魔王に与して寿命を伸ばそうとする権力者は多くいる。
しかし、魔王の眷属となるには、代償が必要で、魔王によって異なるとされている。
謁見の間ではなく、皇帝が使う私室に、ティモンは案内された。
部屋でティモンが待っていると、皇帝が部屋に入ってきた。
執務を行う机ではなく、ソファーに腰を降ろして、いきなり本題を切り出した。
「ティモン。座ってくれ。わざわざ来てもらったのは・・・」
ティモンは、皇帝に勧められるままに、ソファーに腰を降ろした。
皇帝がティモンを呼び出したのは、定期報告では読み取れなかった状況を確認するためだ。
「それでは、城塞街では、問題はないのだな?」
「はい。魔王ルブランの目を気にしていましたが、目を感じることはありません。また、耳もありません」
ティモンは断言したが、実際には”わからない”が答えだ。
しかし、何か見られて困ることはない。聞かれて困るような話はしていない。帝国に不利益になるような話をしないのは当然だとして、魔王ルブランに不利益になるような話や、獣人族に対する話をしていない。
ティモンは、自分の部下たちを使って、城塞街や近隣の街や村を調査したが、魔王ルブランが影響していると思われる物や者は見つからなかった。魔王ルブランの方が上手だと言われればそれまでだが、自分たちで見つけられないのなら、無駄だと考えて、”探す”指示を撤廃した。
探すのは、神聖国や王国や連合国からのスパイだけになっている。
そちらは、面白いくらいに見つけることができた。皇国からのスパイも見つかった。
定期報告での提出している報告とそれほど変わらない報告を、ティモンは皇帝に行っている。
「わかった。それで、ティモン。貴様から見て、魔王ルブランはどんな人物だ?」
皇帝が一番に聞きたかった事だ。
「わかりません」
「貴様でも見抜けないのか?」
「はい。もうしわけありません」
「そうか・・・。魔王カミドネには会ったのか?」
「まだですが、今度、魔王カミドネがカプレカ島に来た時に、会います」
「そうか。貴様だけか?」
「いえ、ギルドのボイドとメルヒオールが一緒です」
「ギルドか・・・。城塞街には、新設されたギルドの本部があるのだったな」
新生ギルドは、獣人族を積極的に職員として採用している。
「はい」
皇帝は、いまだにギルドとの距離感が掴めていない。
勢いがあるのは、新生ギルドなのは間違いない。
「ティモン。ギルドは、何を求めている?」
「はっ。今回は、魔王カミドネからの要請です」
「なに?」
「魔王カミドネが支配領域に定めた場所が、帝国が定める国境と接しています」
「そうなのか?」
皇帝が把握していないのにも理由がある。
魔王カミドネが領有を宣言した場所は、森の中だ。森に接する場所を帝国が領有していただけだ。森は、利用価値がないと放置されていた。ティモンが率いていた七番隊が他国に潜り込むときに都合が良いために利用していたくらいだ。
「はい。魔王カミドネが領有を宣言した場所に住まう獣人族と、城塞街およびカプレカ島との交易を求めています。ギルドが橋渡しを行う予定です」
「そうなのか?しかし、ギルドが間を取り持つ必要はないと思うが?」
「私も、ボイド殿もメルヒオール殿も、陛下と同じ考えですが、魔王カミドネから、ギルドに話が有ったようです」
「そうなのか?」
「はい。魔王カミドネの側近がカプレカ島を訪れて、ギルドに依頼をしたようです」
「なぜだ?直接魔王ルブランと話をすればいいのではないか?」
「陛下。城塞街は、帝国の領地です。魔王カミドネは、カプレカ島と同じくらい城塞街との交易に期待をしているようです」
「交易?交易なら、他の帝国の街や村でもいいのではないのか?」
「はい。獣人族は、今まで・・・」
ティモンが、そこで言葉を切った。
皇帝にも、ティモンが何を言いたいのかわかった。
今までの、帝国では獣人族は平等に扱うと宣言をだしていた。宣言を出さなければならない状況になっていた。5番隊のような部隊が存在していた。建前は、奴隷になった獣人族を使っていることになっていたが、違っていた。
皇帝も、解っていながら黙認をしていた。
魔王カミドネは、帝国と交易を行うことを決めた。
その為に、魔王ルブランに仲介を頼んだのだ。魔王ルブランは、城塞村にある新生ギルドを呼び出して、魔王カミドネ領内に居る獣人族との交易の意思があるのか確認した。
その席上で、メルヒオールが魔王ルブランではなく、魔王カミドネとの話し合いを希望した。
魔王ルブランは、メルヒオールの提案を承諾する代わりに、ティモンの出席を希望した。
ティモンは、定期報告の書類に、これらの流れを書いて、報告した。
皇帝は、内容は把握していたが、実際にティモンからの報告を聞いてから判断することにした。
「ティモン。獣人族との交易はどうなる?」
「はい。まず森の恵が得られます。こちらからは、穀物などが考えられます。また、一部の獣人族は鉱石や岩塩などもあるようです」
「何!岩塩!」
「はい。未確認です・・・。岩塩があると・・・。事前交渉で、品物は受け取っています」
「わかった。ティモン。任せた」
「はっ」
皇帝は、ティモンに任せると言ったが、何を任せるのか、どうしたらいいのか?
細かい指示は出さない。
”解っているだろう”が、指示の内容だ。
実際に、この指示で問題はない。皇帝の意思を汲み取って、動くだけだ。違っていたら、首が物理的に飛ばされるだけだ。
ティモンも、獣人族から提供できる品物を見て、交易を行う必要を感じた。
帝国は、塩を一部の貴族が握っているために、皇帝の権威が傷つけられることがある。しかし、交易でも別のルートができるのなら、皇帝は貴族家に強く出られる。数年分の備蓄が出来れば、最良の結果だ。そこまで出来なくても、貴族への牽制ができるようになれば、話は大きく違ってくる。
他にも鉱石も帝国は欲しい物だ。
金や銀の鉱山は、まだ枯渇していないが、銅や鉄の鉱山は、先細りになっている最盛期の1/5にまで落ち込んでいる。
軍事に鉄を取られて、不足を補うために、日用品を銅で生産したために、銅の枯渇も始まっている。数年で、無くなる程ではないが、新しい鉱山が見つからない限りは、先細りは間違いない。
この二つの問題だけでも、大きなメリットになる。
そのうえで、魔王ルブランや魔王カミドネとの繋がりが強くなれば、彼の地から産出する物を帝国が受け取れる可能性が出て来る。
皇帝が、そう計算して、ティモンに指示を出した。ティモンも、帝国の状況は理解出来ているので、皇帝が望んでいる事を的確に感じ取っていた。
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