上 下
73 / 110
第三章 魔王と魔王

第十三話 【カミドネ】戦闘

しおりを挟む

 戦闘開始のトリガーは、私が持つことに決まった。

 ルブラン殿から、戦況を見るために、モニタールームを作ることを提案された。
 魔王様から作成に必要なポイントを貰ってきてくれているようだ。

 魔王様に感謝しながら、モニタールームを作成した。

「カミドネ様。これなら・・・」

 モニタールームの見学に来たフォリは、これなら私が前線に立たなくて済むと安心してくれた。
 それは嬉しいのだが・・・。

「魔王カミドネ。貴殿の眷属である。フォリ殿に、”念話”スキルを与えて、各眷属との連絡要員にしたいが、大丈夫か?」

「え?連絡要員?」

「そうだ。魔王様から、スキルスクロールも預かってきている。貴殿の眷属に与えれば、ダンジョンの敷地内なら会話が可能だ。ただ、会話ができない眷属に与えた場合に、どうなるのか実験の意味があるのは許して欲しい」

 実験?
 そうか、魔王様の眷属には獣タイプが居ない。皆が、言葉が話せる者ばかりだ。
 私の場合には、キャロやイドラが居る。他にも、数体の眷属が獣タイプだ。

 渡されたスキルを、眷属たちに適用する。

「カミドネ様!」

「どうした?」

「キャロ殿とイドラ殿から・・・」

「会話ができたのか?」

 会話ができるのなら、私も”念話”を取得しよう。

「いえ、意思が伝えられたというのが正しいと思います。会話ではありません」

「それは、どういう事だ?」

 フォリが具体例をあげて説明をしてくれた。
 会話はできないが、意思は伝わってくるのだと言っている。

 感情のような物が伝わるのと、肯定なのか、否定なのか、感情と合わせれば、状況の判断ができる。
 フォリの説明を聞いて、ルブラン殿は納得していた。そのうえで、眷属たちが進化をしたら、会話ができる可能性に言及した。

「これで、フォリ殿は、魔王カミドネの副官として、モニタールームに残ってもらうことに決まった」

 ルブラン殿が、配置を少しだけ変えた。
 確かに、私では連絡ができない。フォリが、モニタールームで私と一緒に居て、状況を皆に伝えれば、作戦がより安全に行える。

「魔王カミドネ。我らは、準備に入る。神聖国の監視をお願いする」

「わかった。動きがあれば、トレスマリアス経由で連絡をする」

「わかった」

 ルブラン殿が差し出した手を握る。
 ダンジョン外での戦闘は、初めてだ。それも、これだけの人数を巻き込んでの戦闘は、聞いたことがない。ダンジョンの戦闘ではなく、普通に”戦争”だ。規模が小さい戦争だと考えれば、情報を多く入手した方が有利に進められる。
 モニタールームがあるだけで、我らが有利な状況になっている。

 もしかして、魔王様が常勝無敗なのは、モニタールームをうまく使っているからなのか?

「カミドネ様」

 映し出されている情報を見ると、既にルブラン殿やアンデッドたちの配置が終わっている。

「神聖国の奴ら、獣人族を前に出してきたな」

「はい。しかし、まだ後方にも・・・」

 そうだ。野営地の後方にまだ獣人族の集団が居る。荷物を持たされているのだろう?
 あの集団が合流して、前線に送られてきたら、戦闘を開始してもよさそうだ。

「カミドネ様」

「なに?」

「神聖国が陣を作成した場所では、西日が眩しいのではないでしょうか?」

「西日?」

「はい」

 フォリがモニターに写っている物を変更する。神聖国の奴らが居る場所を映し出している。
 確かに、西日で、アンデッドたちが居る森がよく見えない。

「わかった。フォリ。魔王ルブランと情報共有してくれ、現場での感じ方が違うかもしれない」

「わかりました」

 フォリが少しだけ離れた位置で、耳に手を当てながら、スキルを発動している。
 耳に手をやるのは、余計な音をシャットアウトするためだと説明された。

「カミドネ様。ルブラン殿から、夕方から夜になるタイミングがいいだろうと言われました」

「わかった。あと、1時間くらいだな。丁度、後ろの部隊が合流して前線に出されるタイミングだな」

「はい。トレスマリアスやキャロ殿。イドラ殿からも了承が伝えられました」

 考えてみると、私の初陣だな。
 緊張はしていないと思っていたけど、喉が渇く。ミニタールームで遠隔地の様子を見ているだけなのに、すぐ側で見て感じているような気がしてしまう。

 フォリが近くに居てくれるだけで、安心は出来ている。
 もしかして、ルブラン殿は私の為に、フォリを残してくれたのか?

「カミドネ様!」

 モニターの一つに動きがあった。
 前に出ていた獣人族が、森に近づいている。

「マリアが担当している場所です」

「フォリ。マリアに伝達。それから、魔王ルブランに連絡して!右翼に攻撃が始まるのに合わせて、本体にマルタとマルゴット隊を突っ込ませる」

「はい」

 突発的に始まった戦闘は、最初は相手の有利に進んだが、10分もしたら、形勢は逆転した。

 アンデッドの一団が、本体に突入する。
 狙うのは、獣人族を奴隷にしている者たち・・・。判別が難しいが、ルブラン殿の指示で、腕輪をしている者から中心的に狙う。効果が現れ始めてからは早かった。
 戦線を支えていたマリアたちの圧力が弱まった。獣人族が、操り糸が切れたかのように座り込んでしまったからだ。
 全員ではないが、指示が届かなくなったのか、右往左往する者も多く見られた。

 それから、アンデッドの集団が、本体を取り囲む。
 神聖国から来ている神官たちが、”ターンアンデッド”を発動するが、皆が連れているアンデッドは、”聖”に対する耐性が強いので、”ターンアンデット”では倒せない。どちらかというと、”闇”系のスキルに弱い。本当に、魔王様は何を考えているのだろう。こんな、極悪なアンデッドを大量に使役して何をしたいのだろう。戦闘が終わった後のことは・・・。今は、目の前の戦闘に集中しよう。

 既に、戦闘という程の状況ではない。
 時間は、1時間程度は過ぎていた。

 フォリが現場からの情報を伝えてくれる。

「獣人族の確保が終了。ダンジョン内に移送中。30分で終了」

 目的の半分が終了した。
 奴隷の解除は、まだ出来ていないが、移動は可能だ。
 ダンジョンに攻め込むつもりで来ているので、”奴隷への命令”とは矛盾していない。これも、ルブラン殿からの指示だ。奴隷は、最後にされた命令に反する行動を取ると痛みが加えられて、暴れだすことがある。だから、命令に反しないような行動をさせる。

「カミドネ様」

 モニターには、神聖国の神官たちが討たれたり、捕えられたり、逃げ惑う姿がうつされている。
 殺されたはずの神官が、アンデッドになって、生き残っている神官を襲うのは悪夢だろう。

「終わったな」

 既に、本体は”集団”の役割を持っていない。
 散り散りになって逃げるのがやっとだ。

 しかし、その逃げた先で、イドラに率いられた”森狼”の一団が襲い掛かる。普段なら、余裕で戦える神官や騎士たちが、森狼に翻弄されている。
 ルブラン殿から”一人も逃がすな”と指示が出ている。逃がせば、こちらの戦力が分析されてしまう。偵察されて、戦力の一端が相手に知られるのとは意味合いが違うのだという。

「はい」

 実際に、一人も逃がしていない。
 見ている範囲でだが、現場からも逃がしたという報告は入っていない。後方の補給を行うために待機していた部隊も急襲している。こちらは、キャロに率いられた混成部隊だ。小動物が多いのだが、暗くなった状況では混乱するには十分な状況だ。
 姿を見せない状況で、補給部隊の半数を撤退に追い込んで、残り半数は捕縛か自軍の攻撃で死んでいる。

「思っていたよりも、あっけなかったな」

 私の言葉に、フォリも頷く。
 大兵力。これは、ダンジョンの攻略を目的とした攻撃ではない。村を含めた者たちへの攻撃で、計画されて、準備が行われた。戦争だ。

「そうですね。でも・・・」

 それが、正味2時間くらいで終了した。

「解っている。私も、より一掃・・・。考えなくては・・・」

 フォリの懸念は、解っている。
 魔王様は、理知的で私たちにも寛大な態度をしてくれている。それが、永劫続くのか解らない。解らないからこそ、私たちは今日の戦争を忘れてはダメだ。自分たちが強者ではないと認識して、魔王様に逆らおうなどを考えないようにする。
 どんなに、魔王様に隙があろうとも・・・。

 私たちは忘れてはならない。神聖国が、どのような道を辿るのか・・・。しっかりと見極めて、しっかりと考えて、しっかりと伝えなければ・・・。他の魔王が、どう考えて対応するのか・・・。私には判断はできない。
 でも・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...