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第二章 ギルドと魔王
第二十七話 【連合国】ギルド
しおりを挟む私は、連合国にあるギルドで働いている。
名前?それは、内緒でお願いします。
今、連合国のギルドは盛り上がっている。盛り上がっている理由は、情けない事に、中央部に産まれた新しい”魔王”のおかげだ。緩やかな衰退に向かっていたギルドだったのが、趨勢を見守る必要がなくなった。私の給金もしっかりと支払われるようになった。
以前から、ギルドの中は2つに分かれていた。変革派と温故派だ。変革派は、人族での運用をすすめる人たちで権力に近いところにいることが自慢だと思っている人たちだ。温故派は、獣人たちを含めて多種族での運用が必要だと考えている人たちだ。私は、後者の考えだ。種族で人を判別するのは愚かなことだと考えている。そして、ギルドの設立理念でもある。
ギルドは、ギルド長だったメルヒオール様のおかげでバランスが取れていた。中枢は、変革派で固められているが、地方では温故派が多くなる。特に、連合国内のギルドは変革派で占められているが、帝国は温故派で固められている。
微妙な状態だがバランスが取れていた。しかし、ギルド長であるメルヒオール様が、ギルドを辞めてしまったのがきっかけとなって、ギルドが分裂してしまった。
あの時に辞めておくべきだったと後悔もしたが、現在は辞めなくてよかったのかも?と、思い始めている。
でも、向こうに移った子から、話を聞くと、移動してもいいかも・・・。と、思ってしまう。お給金が、遅れないのは魅力だ。支払いの遅れがないだけでも、私としては一考する価値が産まれてしまう。
私や、私の家族には人族しか居ないが、ギルドというよりも、連合国は”人族”以外への偏見や差別が酷い。立場上、ギルドへの登録者には平等に接するという不文律があるのだが、半数以上の人が守っていない。
メルヒオール様が居なくなってしまってから、規則を守っている人は輪をかけて少なくなってしまっている。
規則遵守が受付に求められる最低限のルールだが、そのルールさえも無くなってしまいそうな雰囲気がある。
種族で”差別”をしない。このルールだけは、ギルドが立ち上がった時に作られたルールだと教えられた。しかし、このルールを、変革派の人たちは序列一位のエルプレから言われて撤廃しようとしている。
メルヒオール様がギルド長をしていた時には、エルプレからの圧力を跳ね返していた。しかし、偉そうにすることだけは、メルヒオール様の10倍以上は上手い。今の上層部では抵抗ができない。抵抗する気もないのだろう。
私としては、お給金さえ貰えれば文句はない。
多少、空気が悪い位なら、お給金の上乗せが期待できる現状から逃げ出す必要はない。私には、妹と弟が居る。両親は、魔物に殺されてしまった(と、聞かされている)。
そろそろ休憩の時間だけど、交代の人たちが戻ってこない。
どうせ、いつものさぼりだろう。
そんな事を考えながら、業務の引継ぎの準備をしていた。
どれだけ待っても誰も戻ってこない。
これは、いつもの”やつ”だな。はぁ溜息しか出てこない。しっかり、仕事をして欲しいとは思うけど、本当に最低限の事さえもできなくなってしまっている。
どうせ、私の勤務時間を勝手に書き換えて・・・。その分、お給金が上がればいいのだけど・・・。
はぁ今日も帰りが遅くなってしまう。
ギルドが約束を守らない。正直、きっかけさえあれば・・・。
嘆いても、仕事は減らない。誰かがやらないと、結局・・・。私たちのような弱い立場の者に皺寄せがくる。わかっている。だから、ここで、しょうがないと思って、仕事を片付けてしまうから、また彼らが調子に乗る。そして、私たちに皺寄せがくる。悪循環になっている。
愚痴を言っても、残っているのは私だけ・・・。
私と同じ考えだった人たちは、すでに辞めてしまっているか、ギルドに来なくなってしまっている。弟と妹が、首都を出る許可が出たら・・・。
結局今日もギルドに泊まってしまった。
10代の女の子がする仕事ではない。でも、私がギルドを辞めると、困る人が多い。私がこの支部を支えている。
明日は、帰る。
ギルドが借りている部屋はお世辞にも綺麗ではないが、私の部屋だ。お給金から引かれている。理不尽に思っても、それがルールだ。勤務時間にふさわしいお給金がもらえたら絶対に引っ越しをしている。
でも、私は、いろいろなギルド支部を回される。それこそ、人手が足りない場所に飛ばされる。
今は、ギミックハウス近くの集落に作ったギルドにいる。
本当に、ルブランという魔王は謎だ。全方位的に喧嘩を売っているとしか思えない。でも、討伐隊を私が知っているだけでも3度は撃退している。それだけではない。噂話だが、魔王ルブランは帝国との間に交易を行う場所を作ったらしい。それだけではない。魔王ルブランは、元奴隷たちを開放して、知識を与えて、武器を与えている。
現在の上層部は、取るに足らないことだと無視しているけど、現場に近いと、ギルド員・・・。ハンターたちの声を聞いていると、反応は違う。魔王ルブランが”武力”を持っていると考えている。正確な数字は、ギルドでは把握できていないが、最低でも2-3千。多いと、数万の軍だ。連合国では、一つの国では対抗ができない。
魔王ルブランは、魔王だけど、一つの国を作り上げた。だけど、ギルドは認められない。だから、まだ魔王ルブランが作った魔王領の攻略をギルドが主導で行えると思っている。現場では、すでに魔王ルブランは攻略対象ではなくなっている。
もっとも、現場では魔王ルブランのギミックハウスは重要なスキルが得られる場所として認知されている。
帝国側には、ダンジョンが用意されているようで、向こう側に移動した知り合いが忙しいと嬉しそうにしている。お給金が3倍になったと嘘のような話もしてきた。
今日は、無事に帰ることができる。
約束の時間を過ぎたが、家で誰かが待っているわけではない。弟と妹は、ギルドの・・・。首都に作られたギルドの施設で生活している。上層部の許可がなければ、首都から出ることができない。いろいろ言い繕っているが、人質だ。私だけではない。他にも、メルヒオール様の考えに賛同した者たちの身内を保護するという名目で、上層部は首都の施設で生活させている。それに逆らう力が私たちには、存在しない。
家?寮?までは、ギルドから5分ほどだ。
食事は、ギルドの食堂で済ませた。
明日も早い。さっさと身体を拭いて、横になろう。睡眠不足を少しだけでも・・・。
「お姉ちゃん!」
空耳かな。
疲れているのかも・・・。
「お姉ちゃん!」
「え?どうして?なんで?」
私の部屋に、妹と弟がいる。夢じゃない。声を聞いた。抱きしめて、体温も感じた。夢じゃない。
「あのね!これ!」
「え?」
妹から手渡されたのは手紙だ。
手紙は封蝋で閉じられている。見たことがある封蝋だ。メルヒオール様の封蝋だ。なぜ?私のような、窓口職員に?
手紙には、エルプレの首都で暴動が発生して、ギルド本部の建物が破壊された。その時に、人質になっていた者たちを、開放したと書かれていた。人質だった者たちは、魔王ルブランの配下の者たちによって、それぞれの家族の下に届けられた。
「お姉ちゃん。はい。これ」
「これは?」
「狐人のお姉ちゃんが、お姉ちゃんが読み終えたら渡して欲しいって・・・」
「ありがとう」
今度は、見たことがない封蝋だ。
中身は手紙のようだ。
え?
うそ・・・。
お母さん。お父さん。
そうだったの・・・。やっぱり・・・。
手紙には、お父さんとお母さんが、エルプレの人間に殺されたと書かれていた。私を騙す嘘かもしれない。最後の署名は、”魔王ルブラン”と書かれている。そして、復讐を考えるのなら、証拠と一緒に力を授けると書かれている。
復讐は考えない。私には、弟と妹がいる。
もう一枚には、復讐を考えないのなら、新生ギルドで働かないか?と、いうお誘いだ。お給金は今の2倍。でも、弟と妹と一緒に住める家を用意すると書かれていた。
連合国からの脱出の方法も書かれていた。
私は迷わずに、弟と妹を連れて、カプレカ島に向かう決断をした。
部屋の窓に、黄色のハンカチを吊るしておけばいいだけのようだ。
弟と妹と過ごせるのなら、魔王ルブランの国でも構わない。
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