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第四章 建国騒動
第六話 少年奮闘する
しおりを挟むイザークは、ラインリッヒ公国と森の拠点で過ごしている。
ダンジョン内で訓練を行って、ラインリッヒ公国で文字や計算の勉強を行う。
訓練は、カリンが一緒に行ける時には、深い階層に行くこともあるが、基本は低階層での戦闘訓練を行っている。安全マージンを十分にとって、一緒に居るアキやラオだけではなく、仲間たちが単独でも倒せる場所で戦っている。
武器に慣れるように戦っている。仲間たちと連携を確認するように訓練を行っている。
カリンと朱里が居れば、皆で連携すれば倒せる階層に潜っている。ギリギリの戦いでも、カリンが居れば、安全に戦うことができる。
その日は、カリンがおっさんとラインリッヒ公国に行っている。
イザークは、いつもの待ち合わせ場所に到着した。先に着いていたメンバーに話しかける。
「アキ。ラオ。他のやつらは?」
「疲れが溜まっていたから・・・。カリンさんが来られないから、休ませた」
「そうか・・・。わかった。アキとラオも休んでいいぞ?」
「イザークを一人にできない。それに、早く強くなって、まーさんの役に立ちたい!」
カリンがイザークと一緒に居たいと考えていると、イザークは脳内変換をしている。
アキとイザークのやり取りを聞いているラオは、二人が微妙に噛み合っていない事に気が付いているが、あえて指摘しない優しさを学んだ。
「イザーク兄ちゃん。アキ姉ちゃん。今日はどうする?3人だけでダンジョンに行くの?」
ラオは、空気が読める。
このまま、イザークとアキが話し始めたら、面倒なことになりかねない。一度は、カリンの前で言い争いになってしまった。その時には、カリンが二人を諫めたが、今日は要になるカリンが居ない。ラオが代わりを務められるとは思えない。ラオ自身も、無理だと思っている。でも、二人が言い争いになるのを未然に防ぐことはできる。
「そのつもりで来たけど、3人だと・・・。5階層には行かないほうがいいだろう?そうなると、別々に採取した方がいいかな?」
「あっ!それなら、私はラオと連携の訓練をしたい。イザークとは、何度も連携の訓練をしているけど、ラオとはしたことがない・・・。よね?」
アキが、イザークに向けて提案する。
アキも採取を行いたいとは思っているけど、それよりも訓練が大事だと思っている。
「あっアキ姉ちゃん。それなら、イザーク兄ちゃんが採取をして、僕とアキ姉ちゃんが、イザーク兄ちゃんの護衛をするような訓練をしない?」
ラオは、妥協案を一生懸命に考えた。
イザークは、前で戦う事を好む。アキも、皆の前に出て、皆を庇いながらスキルを行使する。イザークは、スキル構成も性格的にも、前で戦うのには優れている。しかし、攻撃に意識が振られて、防御がおろそかになる事が多い。イザークの隙を埋めるのが、アキの役割になっているが、アキは本質的には”タンク”よりの性格で、スキル構成は後衛よりだ。アキは、器用貧乏ではないアンバランスな状況を、持って生まれたセンスで補っている。ラオは、バランス型と言ってもいいかもしれない。器用貧乏になりがちだが、それ以上に周りに気を配ることに長けている。隠密系のスキルを持っている。
ラオの提案を聞いて、アキは少しだけ考えてから了承の意思を伝えた。
イザークは、アキと一緒に探索ができるのが嬉しいのか、ラオの提案を素直に受け入れた。
訓練と考えても意味がある。
おっさんの望んでいる10階層や20階層の拠点の維持のためには、物資の何割かは現地で調達しなければならない。
低階層なら、採取をしながらでも周りをきにする程度で大丈夫だと思えるが、階層が深くなれば、役割分担は絶対に必要になってくる。
「そうね。私は、いいと思う。イザークは?」
「そうだな。俺は、採取が苦手だから・・・。採取に集中できると嬉しい」
アキとイザークが了承した事で、ラオの提案が受け入れられた。次は、採取を行う階層だが・・・。
「そうだ。おばばから、薬草の納品を頼まれていた。イザークの採取は、薬草でも大丈夫?」
「大丈夫だ。そうだ!あと、姉ちゃんたちへの差し入れも持っていきたい」
「イーリス様と呼ばないと・・・。カリン姉に怒られるよ?」
ラオがイザークに苦言を呈するのは珍しいが、ラオが憧れるイーリスを”姉ちゃん”と呼ぶのは許せない。最近になって、マナーを習い始めたことも、言葉使いに注意するきっかけになっている。
「・・・。わかっている」
「うーん。本当に、言葉遣いを直さないと・・・」
ラオは、イザークに注意しながら、アキを見る。ラオが何を言いたいのか、イザークは解っている。注意していても、アキやラオと居る時には、気が緩んでしまう。ラオも、解ってはいるが、早めに直さないと、イザークだけが取り残されてしまう可能性がある。
ラオもアキも、自分たちのリーダーはイザークだと思っている。
カリンも、リーダーはイザークだと考えている。拠点の運営を考えるのなら、イザークがしっかりした対応が出来なければ、問題になってしまう。
「わかっている!」
アキの視線を感じて、分が悪いと思ったのだろう。イザークは、無理矢理、話を変えようとした。
アキもラオも、イザークの気持ちはわかるから、これ以上は言わない。イザークも、解っていて直そうとしているが、気が緩んだ時には出てしまう。特に、アキとラオの前では・・・。
「どの階層にする?」
「うーん。3階層かな?薬草の採取もできるし、食べられるキノコもあるよな?」
採取は、イザークよりもアキの方が得意だ。
前から、薬師に薬草を持っていっていたために、薬草の知識もある。その流れで、食べられる物の知識もイザークよりも豊富に持っている。
採取場所を決めた3人は、決められた手続きを行って、ダンジョンに入る。
急いではいないが、三階層までは採取も討伐も最小限になるように移動する。
ラオが頑張って、二人を誘導している。イザークは直進して採取は別にして、接敵が多く討伐に時間がとられてしまう。アキは、接敵は少ないが慎重になりすぎるために、移動速度が制限されてしまう。ラオは、戦闘を最小限に抑えつつ移動するのに長けている。
「イザーク!」
「任せろ!」
ラオでも、全部の戦闘を回避するのは不可能だ。
低階層なら、ラオやアキでも対応は可能だが、イザークが居るのなら、イザークが対応した方が安全だ。
それに、言葉遣いで注意されて、少しだけ不貞腐れていたイザークに花を持たせる意味合いもある。
数回の戦闘で、三階層に辿り着いた。
「イザークは、採取を初めて、私とラオがイザークの護衛を行う」
「わかった」「了解」
アキの言葉で、二人は動き出す。
イザークは、アキに指摘されながらも薬草の採取を行う。キノコを探すが、なかなか見つからない。
アキからヒントを貰いながら、キノコを探す。
「あった!」
「ダメ!毒!」
イザークが手を出しそうになったキノコは、猛毒を持っている。
触ってしまうと、胞子が飛び出して、毒状態になってしまう。アキのスキルで毒異常の回復はできるが、スキルは使わないのなら、その方がいいに決まっている。
その後も、イザークの採取を見守りながら、ラオとアキは近づいてくる魔物の対処を行った。
薬草とキノコの数が揃う頃には、倒した魔物の素材が持ち切れなくなっていた。
低階層の魔物の素材は、食用に適した物だけ持ち帰ることにした。
カリンやおっさんから教えられた事を、イザークとアキとラオはダンジョンで実践した。訓練の延長だが、3人は確実に成長している。
特に、ラオの成長は見守っているカリンの予想を大きく越えている。
おっさんに助けられたラオは、恩を返そうと、自分ができる事を確実にこなすことを考えていた。
アキも同じように思っているのだが、違う思考が入り込んでいるために、ラオほどの成長はしていない。イザークは、アキにいい所を見せたいと空回りしてしまう事が多く、成長はカリンの予想の範疇に収まっている。
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