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第三章 帝国脱出

第四十三話 そのころ(1)

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 おっさんが拠点の構築を進めている頃に、カリンは森の探索を行っている。

 おっさんには、森の状況を確認すると伝えている。

 実際には・・・。

「バステトさん。朱雀か玄武が居るのですよね?」

”にゃ!”

 バステトも、本当に居るのかは解らない。
 気配を感じているのだが、どこに潜んでいるのかは解らない。

 ただ、自分が近づけば出てくると確信している。

 朝の早い時間に拠点を出立して、日が落ちるまでには戻ってくる生活をカリンは行っている。

 おっさんは、カリンが自分に相談をしないで、行動しているのは解っていた。何も言ってこないので、バステトにしっかりと護衛を務めるようにお願いするに留めている。

---

 カリンが、聖獣を求めて森を探索している頃・・・。

 領都では、おっさんから齎された情報に関して、辺境伯を交えて会議が連日にわたって行われている。

「ダストンは、まーさんから渡された資料を読んだのだろう?」

 今日は、代官としてダストンが呼ばれて会議が行われている。
 おっさんが領都に送った資料は、拠点(おっさんとカリンのダミー拠点)の近くにあったダンジョンに関する事だ。

 それ以外にも、森には龍種が住んでいて、”邪悪な者を封印していると思われる”と書かれていた。

 他にも、森の全域を龍種の長である黄龍が結界を張っているが、綻びがあり、魔物が領都や近隣諸国に溢れる可能性が言及されていた。

 そんな爆弾を受け取った、ロッセルとイーリスは、ダストンに書類を読ませてから、王都で社交パーティーへの参加を行っていた辺境伯に連絡をした。おっさんからの報告の内容は伏せた。

 イーリスの機転で・・・。
”まーさんからの新しい報告があり、辺境伯にご相談したい。領都だけではなく、領内に関係する案件”

 フォミル・フォン・ラインリッヒ辺境伯は、必ず出なければならないパーティーだけに出て、あとは領内でスタンピードの兆候があると言って、領都に向った。
 そこで、渡された書類を読んで、関係者を集めて会議を開いている。

「はい」

「それで?」

「え?」

「はぁ・・・。そうだな。まずは、黄龍様の件は、置いておこう。まずは、まーさんの拠点だ。他にも、ダンジョンに関しての話もしなければならない。解っているのか!」

「はっはい!」

 ダストンは、おっさんからダンジョンが森に存在していて、領都からダンジョンの入口に向かう道を作っていると書かれていた。

 森は、どこの国にも属していない。
 誰の領土でもない。しかし、不文律として、開拓した場合には、その土地は開拓した者が領有を宣言できる。
 これは、帝国でも近隣諸国でも同じだ。

 森の開拓した場所は、帝国でも近隣諸国でも、おっさんとカリンの領地となる。
 二人が、帝国に所属すると言えば、形だけの貴族に叙せられて、領主としての権限を与えられるだろう。

 しかし、おっさんは最初から、帝国には属さないとはっきりと宣言をしている。
 これも、辺境伯としては、頭の痛い問題だが、”法”が定めている不文律として、貫こうと思っている。

「ダストン。まーさんは、利用料の領収はしないと言っている」

「はい。よくできた御仁です」

「違う。ダストン。まーさんは、確かに”領収はしない”と言っているが、利用料は、何を利用するための料金だ?まーさんに確認はしたのか?」

「え?」

 カリンもロッセルも驚いた表情をしている。
 流石は辺境伯だ。おっさんの書き方の危険性に気が付いている。

 素直に読めば、利用料は”ダンジョンや拠点に繋がる”道の利用に必要な料金だと思える。
 しかし、おっさんは、”道”の利用料とは書いていない。

「いいか、開拓をまーさんがしている。ここまではいいな?」

「はい」

 カリンもロッセルも頷いている。
 辺境伯は、他に会議に出ている者たちを見回して、皆が納得しているのを確認する。

「帝国の法では、開拓した者が領有権を主張できる」

 辺境伯は、ここで言葉を切って、皆を見回す。
 この場にいる人間で、領有権の話を質問するような人物は居ない。

「よし。まーさんは、”利用料”は取らないと言っている」

 これも、書類を読めばはっきりと書かれている。

「森に入る時や、ダンジョンに入る時に必要になる。料金には言及していない」

「それは・・・」

「そうだ。帝国の法では、森に入る。ダンジョンに入る。街に入る。これらは、”利用料”だ」

 これも初代が定めた定義だ。王都と呼んでいるのと同じで、初代が”自分”がわかりやすいように定義した言葉だ。
 おっさんは、王都と呼ばれている事情を知ってから、”法”を調べていた。

 そして、ミスリードを誘うような書き方をしたのだ。

 ロッセルとイーリスは、辺境伯が懸念している状況の理解が出来た。

「フォミル様」

「イーリス様。私も・・・。まーさんが、帝国と言うよりも、辺境伯領の領都に不利な契約はしてこないと、思っています。しかし、今の状況では、彼があまりにも有利な状況なのは、わかっていただけたと・・・」

「そうですね」

 イーリスと辺境伯のやり取りは、現状の確認が出来ている者にしか解らない。
 具体的に言えば、辺境伯とイーリスとロッセルだけだ。

「ラインリッヒ辺境伯様。しかし、手が出せないのも事実なのでは?」

「そうだ。まーさんが、我々の庭先を使うことで・・・。多少でも安くしてくれることを祈るしかない」

「あっ!」

 ダストンが何かを思い出して、声を上げた。

「どうした?何か、思い出したのなら、全ての情報を出してくれ」

「はい。まーさんと、森の入口で話をした時に・・・」

 おっさんは、ダストンを呼び出して書類を渡した。
 ダストンを呼び出すのに、イザークたちを使ったのだ。

 その時に、ダストンやアキやスラムに住んでいた者たちに”森の開拓を手伝わせたい”から許可が欲しいと言っていた。
 ダストンは、スラムの者たちなので、下に見ていた。その者たちを使うのなら勝手に使ってくれて大丈夫だと伝えていた。

「・・・」

「・・・」

「え?え?」

「ダストン。領都に住んでいたスラムの人間たちが手伝ったのだな」

「はい。多分・・・」

「フォミル様!」

「イーリス様。アキ嬢やイザーク君は知っていますか?」

「はい。二人から話を聞きます」

「まーさんと交渉をお願いします」

「わかりました。工賃はどうしますか?」

「まーさんが提示しているイエーンの倍は・・・さすがに・・・。そうですね。5割増しでお願いします。諸経費も払いましょう」

「わかりました。提示されていなかったら?」

「そうですね。その時には、まーさんと話し合ってください。工賃は、一般的なイエーンを支払うことにしましょう」

「わかりました」

 辺境伯とイーリスの話は、一気にまとまった。
 おっさんの思惑通りに進んだことになるのだが、辺境伯としても、これ以上の手がないのも事実だ。

 これで、森の開拓に、辺境伯領が手を貸したことになる。

 主な開拓が終わっている事から、今から森の領有を主張するのは難しい。
 辺境伯もイーリスもロッセルも解っている。

 そして、おっさんが帝国に”属さない”と明言していることから、”通行料”という定義が、おっさんの領域で通用しないことになる。
 言葉遊びのような話だが、”法”では言葉遊びが重要になることも多い。

 そして、おっさんはダストンにスラムの人間を使うと伝えている。
 ダストンは、”どうぞ”とおっさんに答えている。

 おっさんが、工賃は”ダストンが持つ”と思えるような言い方をしている。
 辺境伯とイーリスは、今更開拓には加われないことが解っている。しかし、道の開拓に力を貸した事実を持って、今後の通行料や税に関しての交渉を行える土壌を作った。

 おっさんは、スラムの人間たちに、武器や防具の提供。食事の提供を行っている。工賃も、通常の工賃を日払いで渡している。

 辺境伯とイーリスは、この支払いの全額を辺境伯で持つという提案をおっさんに行おうとしている。
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