64 / 101
第三章 帝国脱出
第二十三話 少女考える
しおりを挟むおっさんは、目の前で必死に考えている子供たちを見回した。
「(バステトさん。近くに、魔物が居たら倒してくれますか?)」
”にゃ!”
おっさんは、バステトにお願いをした。実際には、おっさんでも倒せるのだが、子供の前から離れたくなかった。逃げられても困らないが、逃げた子供たちが魔物の餌になるのが困る。そして、魔物の餌だけなら、”子供たちに運と力がなかった”と、考えれば済む話だ。しかし、魔物ではなく野犬や野生動物に襲われたら・・・。野生動物が人の味を覚えるのは、おっさんとしては避けたい。
バステトは、子供たちを見だ。少しだけ考えてから、森に向けて走り出した。おっさんの考えが解ったのだ。自分に何が求められているのか、正確に把握してから、身体能力をフルに使って、森の奥に居る魔物を捕まえてこようと考えたのだ。
まだ子供たちは言い争っている。
バステトがおっさんから離れてから、15分が経過したが、少年少女たちはお互いの主張が正しいと譲らない。
リーダ格の少年がおっさんに、突っかかって行きそうになるのを、年長の少女が必死に止めている。
そんな図式が変わろうとしていた。
「バステトさん。大物を狩ってきましたね」
おっさんの声にいち早く反応したのは、アキと呼ばれていた年長の少女だ。
少年少女たちは信じられない物を目の前で見せられている。
小型の猫で、おっさんのペットだと思っていたバステトが、咥えながら引き摺ってきたのは、領兵が4-5人で仕留めれば上出来で、犠牲者が出ても不思議ではない魔物だ。
「それは・・・」
アキと呼ばれた少女は信じられない思いで漏れた声を手で覆う。
「りっぱな蜥蜴だな?バステトさん」
おっさんは、少年少女たちを無視してバステトに話しかける。
”にゃ”
バステトは、おっさんが何をやりたいのか解って、口に咥えていた、ファイアリザードを放り投げる。
まだ完全に死んでは居ない。魔物は、最後の一撃をおっさんに向けて放とうとしているが、おっさんは、腰を落して、取り出した刀を構える。やっとできるようになった抜刀術だ。タイミングと纏わす魔力が正しいと、抜いた刀身が光で包まれる。当たらなくても、衝撃波が飛ぶようなスキルだ。
抜刀して、ファイアリザードを真っ二つにした。おっさんは、刀を振ってから納刀した。
少年少女たちは、一連の流れでおっさんとバステトが何をしたのか解らなかった。
わかったのは、バステトが自分たちでは見つかれば一撃で殺されるような魔物を引き摺って来る位の強者で、おっさんはそんな魔物が弱っていたと知っても、一撃で真っ二つにする強者だということだ。
おっさんは、ファイアリザードに近づいて、心臓辺りにある魔石を抉りだす。持っていた布で、魔石を拭うと、真っ赤な魔石が姿を表した。無造作に、ポケットに突っ込んでから、バステトに向かってお願いを始める。今度は、魔石だけを持ってきてほしいというお願いだ。ファイアリザードは、食べることもできるが、あまりおいしくない。素材としては優秀だが、おっさんはイエーンに困っていない。
固まっている少年少女を一瞥してから、バステトにファイアリザードの後始末をするようにお願いをする。おっさんの指示を受けて、バステトはスキルを発動する。少年少女に解りやすいように、浄化の炎だ。知らなければ、ただ燃やされたと思うだろう。アンデットになるのを防ぐ、”浄化”を行う炎だ。
「あっ!」
誰が声を発したのか解らないが、少年少女は燃えるファイアリザードを見て、おっさんを見る。
多分、ファイアリザードを正規の方法で、売ることが出来れば、少年少女たちが1か月は食べられるだけのイエーンが貰える。あくまで、しっかりとした取引が行われれば・・・。だ。
少女は、燃えるファイアリザードを見ながら、考える。
おっさんの行動の意味を・・・。自分たちに、何かヒントを与えているのではないかと・・・。
---
目の前で、行われた行為が信じられなかった。
でも、漂ってきている匂いは、目の前で行われた行為を証明している。
「アキ姉!」
「・・・。あっ。イザーク?どうしたの?」
「逃げよう」
「ダメよ。ファイアリザードが居るような場所を・・・」
「おっさんを脅して・・・」
「できると思うの?イザーク。現実を見て、お願い」
イザークが黙ってしまった。
解っているのだろう。脅せるはずがない。あの人は、私たちを殺そうと思えば簡単にできる。ペットだと思っていた猫さえも私たちよりも強い。猫を捕まえて、脅すのも無理だ。
生き残るために、何ができる?
ファイアリザードを目の前で倒した意味は?
何か取り出した・・・。そして、燃やした。
いらないの?
なら、私たちに・・・。ダメ。施しを・・・。ん?
施しでなければいいの?
落ち込んでいるイザークを見る。
「イザーク」
イザークの肩に手をおいて、あの人が私から見える位置にイザークを誘導する。
「なに?」
イザークは意味がわからない表情で顔を上げる。イザークを騙しているようで、気が引けるが、一つ一つの行動を考えながら、行わなければ・・・。
もしかしたら、これは、今の環境から抜け出せるチャンスなのかも・・・。
「イザークたちなら、ファイアリザードを解体できる?」
イザークたちが、肉屋の下請けの下請けをしているのは知っている。
「解体?うーん。ファイアリザードはないけど、リザードならある。違わないから、道具さえあればできる」
問題は、道具だ。
イザークだけじゃなくて、他の子も巻き込めば・・・。
でも、それだとギルドと・・・。ううん。それは、私たちが考えることではない。
「道具は、何が必要?」
「うーん。肉屋では、ナイフと作業をする場所と・・・。あとは、壺かな?」
「壺?」
「うん。リザードの内臓は食べられないけど、薬の材料になるから、仕分けるために必要。あと、リザードはダメだけど、血が錬金の材料になる魔物も居る」
イザークの話を復唱していると、あの人は私を見つめて来る。
方向性は間違っていない。でも、まだ何かが足りない。あの人は、見るだけで一歩も動いていない。視線も変わっていない。
「そういえば、解体した肉を貰ってくるよね?」
「うん。端の方で、売れない物を、手間賃とは別にくれることがある」
「そう。あれだけでも、嬉しかったよね」
「うん!アキ姉が作るスープ。おいしいから好き!」
イザークだけではなく、他の子も話に加わってくれる。
建設的な話ではないけど、あの人に私たちの情報を伝えるのには丁度いい。
「そういえば、イザークは、カカたちを連れて、外に逝くけど、あれは何をしているの?」
イザークが不思議そうな表情をしている。イザークが感じていることは解る。私も、カカたちが何をしているのか知っている。でも、今は、カカたちが何をしているのかを、あの人に知ってもらう方が大事だ。
「アキ姉?」
「ほら、私、カカやイザークたちと一緒に行かないでしょ?森に行って何をしているの?」
「森?あっ。サンドラの姉ちゃんたちとの話?」
サンドラさんたちは、イザークやカカを利用している人たちだ。荷物持ちとして、森に連れて行っている。何度か、遭遇したことがある。あまり深入りをしないようには言っている。あの人たちは、イザークやカカたちを平気で見捨てる。
あの人が、私たちを見捨てないとは・・・。言えないけど、サンドラたちのように優しそうに声をかけてきて利用するだけの関係にはならないと思う。私の感だけの話だから、イザークたちには言っていない。
「そうそう。危ないから、森には行って欲しくないけど・・・」
「大丈夫だよ。サンドラの姉ちゃんたちは強い」
強いのは認めるけど、信頼ができない。
「そうね。それで?森では、何をしているの?」
「うーん。サンドラの姉ちゃんたちが倒した魔物の運搬とか、野営の準備とか、あと食べられる物の採取かな。野草とかも教えてもらって、採取している」
「そう。持って帰ってくるのは、その一部?」
「うん。魔物はダメだけど、木の実や食べられる草は持って帰っていいって言われている」
やはり、サンドラさんたちは信頼できない。
荷物運びをしていたら、1割が報酬のはずだ。騙しているとは言わないけど、いいように使っている。でも、いえば、少ない報酬さえも貰えない。
違う。
私は、皆を守る。だから、考えなくては、今が重要な場面だ。
あの人を見ると、私だけではなく、イザークを見る目も優しそうに見える。他の子たちを見ている目も、最初の頃に比べると、優しい。
10
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
世界樹を巡る旅
ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった
そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった
カクヨムでも投稿してます
妹に長女の座を奪われた侯爵令嬢、『文官』加護で領地を立て直す
eggy
ファンタジー
「フラヴィニー侯爵家息女マリリーズ、お気の毒だが私に貴女と婚約する気はない!」
夜会で侯爵家次男から突然そんな宣言をされた14歳のマリリーズは、一歳下の妹ミュリエルの謀にはまったことを知る。
マリリーズが4歳のとき侯爵の父が死亡し、国の決まりで長女が15歳で成人するまで叔父が暫定爵位についていた。
しかし再婚した叔父と母は、ミュリエルが長女であると偽って国に届けてしまった。
以後マリリーズは三人から虐げられて生きている。
このままではミュリエルが15歳で爵位を継ぎ、マリリーズは放逐されることが予想される。
10歳のとき加護を賜る儀式で、ミュリエルは強力な火魔法を、マリリーズは聞いたことのない『ブンカン』という加護を得る。いろいろ事務仕事に役立つが、極め付きは読める場所にある文書を書き換えられることだ。
文官に役立つ能力を得たということで、それからマリリーズは男装をして叔父とともに王宮に通い、執務を手伝うことを命じられた。
ほとんど使用人と変わらない扱いの日々が続く。
そんな中でマリリーズは領地の窮状を知る。当てにならない叔父には秘密に、家宰の協力を得て、マリリーズは加護の能力をさまざまに利用して領地の立て直しを目指すことにした。
「この現状を捨て置くわけにはいかない、ここで目を逸らしたら絶対後々に悔いが残る!」と。
領地救済と成人後の自立を目指して、マリリーズは行動する。
自称平凡少年の異世界学園生活
木島綾太
ファンタジー
特に秀でた部分も無く、自らを平凡と自称する高校生──暁黒斗(アカツキ・クロト)は長年遊び続けているMMORPGをプレイしていた。
日課であるクエストをクリアし、早々とゲームからログアウトしようとしていた時、一通のメールが届いている事に気づく。
中身を確認したクロトは不審がり、そのメールを即座に消去した。だがそれには彼の人生を左右する内容が書かれていて……!?
友達とバカやったり、意地張ったり、人助けしたり、天然だったり、アホだったり、鋭かったり。
これだけの個性を持っておいて平凡とか言っちゃう少年が織りなす、選択と覚悟の物語。
異世界に飛び込んだクロトによる、青春コメディ学園ストーリーが始まる!
注意!
・度々、加筆・修正を行っていたり、タイトルが変わる可能性があります。
・基本的に登場人物全員が主人公だと思っていますので視点がコロコロ変わります。なるべく分かりやすく書いていくのでご了承ください。
・小説家になろう様、ハーメルン様、カクヨム様で同作者、同名作品で投稿しております。
君に、最大公約数のテンプレを ――『鑑定』と『収納』だけで異世界を生き抜く!――
eggy
ファンタジー
高校二年生、篠崎《しのざき》珀斐《はくび》(男)は、ある日の下校中、工事現場の落下事故に巻き込まれて死亡する。
何かのテンプレのように白い世界で白い人の形の自称管理者(神様?)から説明を受けたところ、自分が管理する異世界に生まれ変わらせることができるという。
神様曰く――その世界は、よく小説《ノベル》などにあるものの〈テンプレ〉の最頻値の最大公約数のようにできている。
地球の西洋の中世辺りを思い浮かべればだいたい当てはまりそうな、自然や文化水準。
〈魔素〉が存在しているから、魔物や魔法があっても不思議はない。しかしまだ世界の成熟が足りない状態だから、必ず存在すると断言もできない。
特別な能力として、『言語理解』と『鑑定』と『無限収納』を授ける。
「それだけ? 他にユニークなスキルとかは?」
『そんなもの、最頻値の最大公約数じゃないでしょが』
というわけで、異世界に送られた珀斐、改めハックは――。
出現先の山の中で、早々にノウサギに襲われて命からがら逃げ回ることになった。
野生動物、魔物、さまざまな人間と関わって、『鑑定』と『収納』だけを活かして、如何に生き抜いていくか。
少年ハックの異世界生活が始まる。
[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ
エルリア
ファンタジー
第一部完結済み
どこにでもいる普通の中年オタクサラリーマンが、ひょんなことからダンジョンの店長を任されて成長していきます。
もちろん、目的は店舗だけにあらず。
ダンジョン拡張、村の拡大、さらには人を雇って最後はどこに行きつくのか。
え、お店以外のことばかりしてるって?
気のせいですよ気のせい。
ゲーム好きのオタクが妄想と知識を振り絞って他力本願全開で頑張ります。
ムフフもあるよ!(多分)
異世界の物流は俺に任せろ
北きつね
ファンタジー
俺は、大木靖(おおきやすし)。
趣味は、”ドライブ!”だと、言っている。
隠れた趣味として、ラノベを読むが好きだ。それも、アニメやコミカライズされるような有名な物ではなく、書籍化未満の作品を読むのが好きだ。
職業は、トラックの運転手をしてる。この業界では珍しい”フリー”でやっている。電話一本で全国を飛び回っている。愛車のトラクタと、道路さえ繋がっていれば、どんな所にも出向いた。魔改造したトラクタで、トレーラを引っ張って、いろんな物を運んだ。ラッピングトレーラで、都内を走った事もある。
道?と思われる場所も走った事がある。
今後ろに積んでいる荷物は、よく見かける”グリフォン”だ。今日は生きたまま運んで欲しいと言われている。
え?”グリフォン”なんて、どこに居るのかって?
そんな事、俺が知るわけがない。俺は依頼された荷物を、依頼された場所に、依頼された日時までに運ぶのが仕事だ。
日本に居た時には、つまらない法令なんて物があったが、今では、なんでも運べる。
え?”日本”じゃないのかって?
拠点にしているのは、バッケスホーフ王国にある。ユーラットという港町だ。そこから、10kmくらい山に向かえば、俺の拠点がある。拠点に行けば、トラックの整備ができるからな。整備だけじゃなくて、改造もできる。
え?バッケスホーフ王国なんて知らない?
そう言われてもな。俺も、そういう物だと受け入れているだけだからな。
え?地球じゃないのかって?
言っていなかったか?俺が今居るのは、異世界だぞ。
俺は、異世界のトラック運転手だ!
なぜか俺が知っているトレーラを製造できる。万能工房。ガソリンが無くならない謎の状況。なぜか使えるナビシステム。そして、なぜか読める異世界の文字。何故か通じる日本語!
故障したりしても、止めて休ませれば、新品同然に直ってくる親切設計。
俺が望んだ装備が実装され続ける不思議なトラクタ。必要な備品が補充される謎設定。
ご都合主義てんこ盛りの世界だ。
そんな相棒とともに、制限速度がなく、俺以外トラックなんて持っていない。
俺は、異世界=レールテを気ままに爆走する。
レールテの物流は俺に任せろ!
注)作者が楽しむ為に書いています。
作者はトラック運転手ではありません。描写・名称などおかしな所があると思います。ご容赦下さい。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。
誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。
アルファポリスで先行(数話)で公開していきます。
【完結】断罪されなかった悪役令嬢ですが、その後が大変です
紅月
恋愛
お祖母様が最強だったから我が家の感覚、ちょっとおかしいですが、私はごく普通の悪役令嬢です。
でも、婚約破棄を叫ぼうとしている元婚約者や攻略対象者がおかしい?と思っていたら……。
一体どうしたんでしょう?
18禁乙女ゲームのモブに転生したらの世界観で始めてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる