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第三章 帝国脱出
第五話 カリン訓練をする
しおりを挟む黒鉄と白銀を、鞘に納める。
上位属性の問題は、大丈夫。刀に纏わせるだけならわからない。
「カリン様?」
「ん?あっ大丈夫。そう言えば、上位属性は何ができるの?」
「え?カリン様?私が、今から、カリン様に聞こうと思ったのですが?」
「・・・。え?」
あっ・・・。そうか、イーリスも、日記の中に出てきた項目を読んだり、研究資料を読んだり、書物の中で出てくるだけだから、知らなくて当然だよね。
私は、そもそも、火も水も風もわからない。
飛ばせるの?
「イーリス。上位属性は別にして、火属性や水属性や風属性は、何ができるの?」
「難しいですね。護衛の中に、風属性が得意な者が居ますので、見たほうが早いと思います」
「うん。お願い!」
テンションが上がる!
剣術も楽しいけど、魔法はそれ以上に楽しみ。
イーリスが、護衛に話をしている。
脇差を抜いて、銘を見る。しっかりと黒鉄と白銀と打たれている。私の武器だと思うと、嬉しくなってくる。
聖属性と闇属性のこともまだ良くわかっていない。
バステトさんは、まーさんの所に行っているのだろうか?
姿が見えない。本当に、まーさん以上にバステトさんも不思議な存在だ。私たちの話している言葉は確実に理解ができている。たしか、バステトさんの本当のジョブは、”聖獣”だったはずだ。猫だったはずが、大出世したことになる。
ふふふ。
私も、まーさんに毒されているのかもしれない。さっき、イーリスに言われるまで、同級生のことを忘れていた。忘れようと思っていたわけではない。自然にどうでも良くなって、忘れていた。
「カリン様!」
イーリスが、話をしてくれた護衛のようだ。
「はい?」
確か、魔法が使える者だったはずだ。
「僕は・・・。あっ。私は、ジョテオ。風魔法の使い手です」
「あっ。カリンです。護衛と違うお願いで申し訳ない。言葉遣いも気にしなくて大丈夫です」
「いえ!光栄です!まーさん様は、剣術や槍術の訓練だけで」「ジョテオ様!」
イーリスが、ジョテオの話を途中で遮った。
今の話では、まーさんが訓練をしているように聞こえる。それも、剣術や槍術?まーさんは、スキルを持っていなかったと思うのだけど?
「はぁ・・・。口止めは、されていませんでしたから・・・」
「イーリス?」
「まー様は、王都にある。辺境伯の屋敷を守護している者たちの所で、訓練をしていらっしゃいました」
「え?なんで?」
「王都を出れば、安全が保証されない。カリン様を守ることは出来なくても、自分の安全を確保できれば、護衛が守るのはカリン様だけになるとおっしゃって・・・」
「まーさんが?私を守る?」
「はい。守られないのなら、護衛の”邪魔にならないようになる”と訓練に参加されていました」
「イーリス。確かに、口止めはしていないけど、脚色して話さないように・・・」
「まーさん!」「まー様」
馬車の中に居ると思っていたまーさんが、いつの間にか、私たちの近くに来ていた。声を賭けられたのも驚いたが、声をかけられるまで気が付かなかったのにも驚いた。
「まぁその・・。カリン。気にしなくていい。カリンがやりたいことの邪魔にならないように体力をつけようと思っているだけだからな」
「はい!そうですよね。私も、体力をつけるような訓練をします」
「そうだな。無理はしないように・・・。な」
「はい!今度、まーさんが訓練をする時には、誘ってください。私も、剣術を学びたいと思います」
「うん。カリンは、俺と同じで、帝国で教えている近習の剣術を相手にするための方法を学ぼう。その方が有効だろう」
「・・・。あっ。うん。わかった」
まーさんが、仮想の敵に、近衛を想定しているのがわかってしまった。
確かに、私たちが気にしなければならないのは、勇者(同級生)だけではない。勇者たちと敵対する状況になったら、帝国の半分以上が敵に回る。そして、敵に回る可能性が高い中で厄介なのが、近衛兵だろう。イーリスからも、近衛兵の強さは教えられている。技量だけなら、貴族に召し抱えられている者や、ギルドに登録している者も居るだろう。しかし、近衛兵は武装がほかよりも、一段も二段も上の物を使っている。それだけで十分脅威になりえる。
照れくさそうに笑うまーさんは、大人の表情ではなく、見た目通りの若い男性がする照れ笑いだ。かわいいと思ってしまった。
「まーさん!魔法は?」
「うーん。まずは、剣と槍かな。魔法は、スキルの獲得が出来たら考えるよ」
それだけ言って、足下に居たバステトさんを抱きかかえて、馬車に戻ってしまった。
本当に、不思議な人だ。多分、私を見ていてくれたのだろう。それで、自分から説明した方が、ジョテオがイーリスから叱責される可能性を潰したのだろう。ぶっきらぼうに見えて優しい人だ。
異世界に来てよかったと思うのは、”本当の”優しさと”本当の”強さが、わかってきたことだ。まだ理解は出来ていないが、自分が子供だったことや、優しさを勘違いしていたことは理解が出来た。漠然と”強い”と思っていたことも、違うのだろうという印象になっている。
「ジョテオ様。風魔法を見せて下さい」
「はい!カリン様。私は、呼び捨てにしてください」
「わかりました。ジョテオさん。教えてもらう立場なので、”さん”は付けさせて下さい」
「わかりました。カリン様。いくつかの魔法を発動します」
「ありがとうございます」
ジョテオが、風魔法を発動する。狙うのは枝だ。枝を的の代わりにしている。
詠唱をしてくれているが、ジョテオは詠唱を破棄できるようだ。練習を繰り返せば、詠唱は必要ないらしい。
実際の魔法の発動は、詠唱をすることで、魔法に指向性を与えて、イメージを乗せることで発動するらしい。
よくわからないが、やってみると、不思議なことにイメージで発動した。
完全に詠唱破棄は出来なかったが、中学生が罹患する病気のような詠唱は必要なかった。発動のトリガーが技名になってしまった。
「水刃!」
お!出来た。
「カリン様!今・・・。何を・・・。成されたのですか?」
「え?ジョテオさんがやっていた、風の刃を水でやってみただけですよ?」
「・・・。え?は?水魔法で?」
「はい。そうだ!火や氷でもできるかな?ちょっとやってみますね」
イメージは簡単だ。
刃の形を形成して飛ばせばいいだけだ。魔法が使えるのは嬉しいな。
イメージで魔法が使えるのなら、いろいろできそうだ。あとで、まーさんに相談しよう。
闇魔法で、闇属性の刃とかカッコいいかな?
雷属性があるから、ライトニングとかいって雷を飛ばすのもありだな。レールガンとか撃てたら、物理攻撃に雷属性を乗せられるのに・・・。指でコインを弾く練習をしようかな。足に、雷を纏わせて・・・。あっだめだ。この世界では、鉄筋コンクリートが無いから壁走りは出来ない。
「カリン様?」
「イーリス。慌てて居るけど、どうしたの?」
「忠告に来ました」
「忠告?」
「はい。今、カリン様が発動しました、水刃や氷剣や炎剣は、初代さまが使われた魔法で、秘匿魔法です」
「え?」
「王家の者で、魔法特性がある者が使える魔法です」
「うーん。私たちなら、最初にイメージする魔法だと思うよ?」
「そうですか・・・。まー様にも、注意をしておいたほうが良いかもしれないですね」
「うん。お願いしていい?風刃は問題がないようだから、風魔法だけの練習をするよ」
「はい。風刃も、魔法師団に入る者にだけ教えられる秘匿魔法ですが・・・」
「そうなの?うーん。ねぇイーリス。秘匿魔法を知っているのは、皇帝は確実として、他は誰なの?」
「近衛の中で、特に魔法特性が高い者には特別に教えられることがありますが・・・」
「あっ違う。違う。秘匿魔法を使える者じゃなくて、水刃が秘匿魔法だと知っている人は?」
「・・・。そうですね。私は知っていますが・・・。そう言えば、あまり知っている人は居ない・・・。です」
「それならよかった。森とかで使うのなら問題はなさそうだね」
「・・・。はい。あまり、使わないほうがいいとは思いますが・・・」
イーリスは、渋々だが納得してくれて、まーさんにも情報を伝えるために、馬車に向かった。
私は、もう少しだけ魔法の訓練を行うことにした。
ジョテオが言うには、魔法に込める魔力にムラがあるようで、このまま使い続けると、無駄に疲れたり、狙いが定まらなくなったり、発動ミスが発生すると指摘を受けたので、構成する魔力に注意をしながら、2時間くらい魔法の訓練を行った。
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