上 下
38 / 101
第二章 王都脱出

第十九話 おっさん準備をする

しおりを挟む

 まーおっさんとカリン糸野夕花は、ラインリッヒ辺境伯との話し合いを終えて、食堂に移動していた。

「まーさん?」

「どうした?」

 膝に、バステト大川大地を載せて、モフモフの毛並みを堪能しながら、カリンがおっさんに、”なに”か、聞きたいような素振りを見せる。
 正面に座ったイーリスをチラチラ見ることから、イーリスに聞かせたくないことだろう。

「イーリス。悪いけど、なにか飲み物を頼む」

「え?あっそうですね。わかりました。まー様は何がいいですか?」

「俺は、そうだな・・・。アルコールという気分じゃないから、噴水の所で屋台を出しているボッさんの所のミックスジュースを頼む」

「また、そういう面倒なことを・・・。カリンも、同じでいいですか?」

「あっ・・・。うん。ありがとう。私も、まーさんと同じ物をお願い。イーリス。ありがとう」

「いえいえ。それでは、行ってきます。あっ。まー様。カリン様。食堂と厨房には、人が居ませんので、なにか食べたいのならご自分でご用意ください」

 カリンの態度と、おっさんの言い方で、席を外したほうが良いだろうとイーリスは判断した。
 食堂に待機しているメイドも一緒につれていくと宣言した。おっさんは、イーリスの気遣いに感謝をしながら、軽く手を揚げるだけにとどめた。

 イーリスがドアから出ていって、食堂のドアが閉められたのを確認して、おっさんはカリンに話しかける。

「心配事?」

 カリンは、バステトを撫でる手を止めて、おっさんを見る。

「う、うん」

「何?必ず、解決できるとは言わないけど、話してみない?」

「まーさん。そこは、”俺に任せろ”くらいは言って欲しい・・・。と、思うけど?」

「出来もしないことを言うような、蛮勇は持ち合わせていません。それに、おっさんには、似合わないセリフだと思うよ?」

「えぇそんなことはないですよ?まーさんは、十分・・・」

「十分?」

「なんでもない!」

 カリンは、咳払いをしてから、バステトをまーさんに渡した。
 まーさんは、渡されたバステトを腿の上に乗せて顎の下をなでてやると、バステトは気持ちよさそうに喉を鳴らしてまーさんの腿で丸くなった。

「それで?」

「うん。まーさん・・・」

「なに?」

「お酒・・・。お酒を飲んでみたい!この世界なら、成人しているし!いいよね?ダメ?」

「・・・。ん?いいと思うぞ?」

 おっさんは、カリンが、すごく深刻な表情で悩んでいたから、なにか深刻な事態になっているのかと思って、人払いをした。それが、お酒を飲んでみたいと言われて、拍子抜けしてしまった。

「まーさん?」

「そうだな。カリンも、辺境伯の領に移動したら、ギルドに出入りするだろうし、アルコールの限界は知っておいたほうがいいだろう」

「うん!うん!」

「そうだな。聖魔法のレベルアップはしておこう」

「え?」

「アルコールは”毒”と同じだから、”解毒”で酔いがひく。自分にかけるとして、どこまで飲んだら、発動できなくなるのかは知っておいたほうがいいぞ」

「わかった。”解毒”ができるようになったら、お酒を飲ませてくれる?」

「そうだな。でも、王都では辞めておこう、王都を脱出してからにしよう」

「うん。わかった」

 カリンは、おっさんとお酒を飲んでみたいと思っていた。大人というには、見た目が若くなってしまっているが、おっさんは、おっさんだ。大人の男性と触れ合ってきていなかったカリンにとっては、父親を覗いて始めて信頼ができる大人な男性なのだ。

 おっさんは、カリンの話を聞きながら、王都を出てからのことを考えていた。

「まーさん?」

「すまん。それで、準備は大丈夫そうなのか?」

「うん。イーリスに渡す物は作ったし、あとは移動の時に必要になる物くらいかな?」

「そうか、武器はどうする?盗賊や山賊の退治は、辺境伯の護衛がしてくれるとは思うけど、自分の身は守れるようになっておいたほうがいいと思うぞ」

「え?」

「王都は、安全だと言われているけど、裏路地とかで、しっかりと襲われたからな」

「・・・。えぇぇぇぇ。襲われたの?大丈夫だったの?」

「あぁ。王都でも、治安は悪いからな。辺境伯の領地までに何があるかわからない。最低限の武装は必要だろう?」

「うっうん」

「女子だと、学校で体育でも習っていないよな?」

 おっさんは、古い人間で、剣道や柔道だけではなく、抜刀術なんて物を中学の時に習っていた。所謂、”左目の邪眼が・・・”的な病気の時に、刀がかっこいいと思っていた。剣道や柔道は授業で習っただけなので、基礎の基礎程度だが、抜刀術は”心の病中二病”が治ってからも、通い続けた。家族と一緒に居るよりも、道場の主と一緒に居たほうが心地よかったからだ。

「うん。あっでも、まだパパが・・・。ううん。子供の時に、護身術を習ったよ?あと、弓道をやっていたよ?」

「そうか、護身術は、身体能力が上がったから使えるかもしれないな。弓道は微妙だな」

「え?弓があるよね?」

「あぁ・・・。有るけど、見てみるか?」

「うん!」

 おっさんは、ドアの前で待機しているメイドにお願いして、おっさんの部屋にある短弓と長弓を持ってきてもらった。
 カリンは、弓を見て、眉を寄せる。日本で使っていたものとあまりにも違い過ぎたからだ。品質という意味もあるが、丁寧に作られた物だが、競技用の弓との違いは歴然だ。

「う・・・」

「どうだ?俺には、使えなかったから、カリンが使えそうなら渡すぞ?」

「借りていい?試してみる」

「いいぞ。でも、弓はコストを考えると面倒だぞ?」

「うっうん」

「矢が違い過ぎて、自分で作られないのなら、金銭的にも高く付く上に、決定力を上げる方法を考える必要がある」

「わかった!弓は試すけど・・・。あっ!まーさん。武器があるなら、貸して欲しい。試してみる」

「いいぞ。護衛たちが庭で訓練しているから、模擬戦用の武器が有ったはずだぞ」

「あ!そうだった。試してから決めるね。そう言えば、まーさんの武器は?」

「あぁ・・・。鍛冶屋に作ってもらった、刀もどきだ」

「刀!日本刀!みたい!」

「いいぞ」

 まーさんは、刀を取り出した。予備に作ってもらった太刀だ。まーさんにはちょうど良かったが、カリンには大きい物だったが、カリンはステータスの力を借りて、綺麗に振り抜いた。

「え?」

 振り抜いた、カリンがまーさんよりも驚いていた。
 二人で、話し合って、カリンも武器は”刀”にすることにした。実際には、刀が馴染んだのではなく、まーさんが刀を作るときに、手に馴染むようにいろいろと注文を付けていたのが、カリンにも合っただけなのだが、気持ちがいいと感じてしまったので、カリンは”刀”を武器とすると決めてしまった。そもそもの話として、カリンの職制ジョブは、”聖女”だ。刀を持って、戦うのではなく、後方で支援するのが正しい戦い方だ。まーさんも、カリンも、すっかり”聖女”だということを忘れていた。

 その後は、帰ってきたイーリスを交えて、移動に必要な準備の打ち合わせを行った。準備は、主にイーリスが行ってくれることになった。
 カリンは、護衛たちに混じって、模擬戦用の武器を試した。結局、杖を持つ可能性を考慮して、脇差と杖と太刀を持つことにした。

 移動の準備は、1週間の時間が必要だった。
 その間に、おっさんと一緒に鍛冶屋に行ったカリンは、脇差と太刀を作ってもらった。同時に、自分にあう弓の制作を頼んだ。カリンの武器と防具が完成したのは、出発の2日前だった。

 そして、出発日の翌日が”勇者たち”のお披露目が中央広場で行われると、王都に告知された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

虐げられた魔神さんの強行する、のんびり異世界生活

雲水風月
ファンタジー
 ある日、奇妙な事故に巻き込まれて異世界に転移してしまった主人公。  そして、何故かその世界では、人間たちから忌み嫌われる闇の魔力を身につけていた。  町の権力者たちからは理不尽な扱いを受けるが、しかし主人公はあまり動じないマイペースな性格だった。大様な人物だった。  主人公エフィルアは、彼を取り巻く激動の世界を尻目に、今日ものんびり異世界生活を強行する。美味なる食材を手に入れ、慕ってくれる仲間、モフモフがいつのまにやら集まってきて。  王国の守護神獣や、冥府魔界と地獄の統率神までもが同居を始めたとしても、けっきょく彼はただ、温かくて清潔なお風呂を皆で楽しむ事なんかを目指すのだった。 ※、「闇属性で虐げられたけど思い切って魔神になってみたら」という作品の別バージョンになります。シリアス成分が減ってゆるめに。美味ごはん無双や育成要素が増えてる仕様。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

処理中です...