27 / 101
第二章 王都脱出
第八話 おっさん使者に会う
しおりを挟むおっさんは、朝から不機嫌な気持ちを隠そうとしていない。周りに当たらないだけ大人なのだろうが、不機嫌な態度は大人として正しくない。まーさんは、イーリスの研究所で、まーさんを訪ねてきた者と対峙していた。正確には、まーさんを訪ねてきたわけではない。客の素性を聞いて、まーさんはカリンではなく、自分だけが話を聞くことにした。
イーリスに頼んで作らせた、黒の作務衣に愛用していた濃い色が付いている丸サングラスをしている。その状態で、椅子に座って足を組んでいる。手には、蒸留して作ったアルコールに軽く匂いと味を付けた物をコップに入れて持っている。研究員に作らせた”氷”を丸くした物を浮かべている。
まーさんの目の前に座るのは、王宮からの使者だ。
宰相を名乗っている豚からの書簡を持ってきている。まーさんは、書簡の受け取りを拒否した。イーリスや居合わせたロッセルからも、受け取る必要はない。宰相よりも、異世界から来た”まーさん”や”カリン”の方が、地位が上だと説明された。
その上で、受取拒否をしたことでの問題点を上げたが、まーさんは問題がないと判断した。
「それで?」
「宰相閣下からの書簡を受け取ってください」
テーブルに載せた書簡を使者は、まーさんの方に押し込む。
まーさんは、テーブルを足で蹴り上げるようにして、書簡が乗ったトレイごと使者に突き返す。
「断る。帰ってくれ。俺には、俺たちには、王城に行く理由がない」
顔を真っ赤にした使者がまーさんを睨むようにしているが、さすがに手を出してこない。
「そちらになくても、こちらにはあるのです」
使者が使ったこの言葉をまーさんが待っていた言葉だ。
わざと、不機嫌な態度を取り、上位者だと思っていた使者を小馬鹿にする発言を繰り返す。
手を出してくれれば、最良だったが”封蝋がされている書簡の内容を口走った使者”が目の前に座っている。
まーさんとしては、十分だと言える成果だ。
「ほぉ・・・」
アルコールが入っていたコップを、テーブルに叩きつけるように、置いた。
一連の動きは、洗練されているとは言い難いが、まーさんがやると絵になる。ドアの隙間から、スマホで録音しているカリンは感心している。
「な、なにを?」
まーさんは、組んでいた足を解いて、身をまえに乗り出す。
「あぁなに、馬鹿な俺に教えてくれ、貴殿はなぜ、偉大なる宰相であるブーさんの書簡の内容を知っている?」
「え?」
「貴殿は、本当に王城から書簡を持ってきた使者なのか?」
「何を!?」
「もし、正式な使者ならば、封蝋がされている書簡の内容を盗み見るような事は無いだろう。盗み見るような奴が持ってきた、本物なのか不明な書簡は受け取らない。それに、使者を語るような奴と一緒に行くのは恐怖を感じる。俺は、俺たちは、王城にはいかない。イーリス!」
カリンと一緒に様子を伺っていた、イーリスが扉から出てくる。
突然の登場に、使者は驚きの表情を見せる。それを見て、まーさんは、使者が3流以下の人間だと判断した。イーリスが所有する館で、たしかにイーリスが常に居るわけではないのだが、まーさんとカリンが居るのに、”イーリスが居る”と思えないのは、知恵が回らない表面しか見ていない者だと判断した。
「まー様。これを」
イーリスが差し出したのは、まーさんと使者のやり取りを多少の脚色を施した議事録だ。
「いい出来だ。イーリス。ありがとう」
まーさんは、イーリスから議事録を受け取って、唖然とした表情を浮かべている使者に視線を戻した。
イーリスは、そのまままーさんの隣に腰を下ろす。そして、扉の外側に居るメイドに命令をだして紅茶を自分の文だけ持ってこさせた。
「さて、使者殿。この議事録を、王城に届けてほしい。1日で十分だろう。1日だけ待ってやる。その間に、宰相から正式な謝罪と貴殿が犯した罪に対する罰が王城から発表されなければ、この事実を公にする」
「なっ!なぜ!?」
「なぜ?使者殿。俺たちが、この屋敷に居るのは、秘匿されている。使者殿は、どうして俺たちがここに居ると解った?それだけではない。館の主人が居るのに、挨拶をしないで、『俺たちを出せ』と、おしゃった。これも、使者のプロトコルとしては間違っている。そのうえで、宰相閣下は自分よりも立場が上に当たる俺たちへの書簡を封蝋がされているのにも関わらず使者殿に内容を教えている。これも、プロトコルとしては最低だ。この一点だけでも謝罪を要求するのにも十分だと思うが?違うのか?」
まーさんは、使者を断罪するように言葉を重ねる。
「貴殿は、俺たちを下に見ていただろう?」
「いえ、そのような・・・」
「イーリスは、王女殿下だ。貴殿たちからみたら、何も権限を持たない者かもしれないが、王女殿下であることには違いはない」
まーさんは、ここで、言葉を切って、イーリスを見る。
イーリスは、苦笑しながらも、まーさんに話の主導権を渡すような仕草をする。
「貴殿は、この段階になっても、イーリスに謝罪の言葉を渡していない。それだけではない!現在の立場を理解されていない。はっきり言わないとわからない程度の者を、宰相閣下は使者に使っているのか?宰相閣下の見識を疑ってしまう」
「それは・・・」
「貴殿は、どうされたいのだ?」
「え?」
使者が驚くのも当然だ。
自分は、使者でしかなく、宰相の謝罪まで持ち出されるとは思っていない。それだけではない。使者の役目を果たさないで、宰相に報告を行ったら、身体は首の重さを感じなくなってしまう。もしかしたら、家族にも影響があるかもしれない。
使者として、”なんで”こうなったのか考えているが、自分の対応は”今までと”変わりがない。
目の前に座っている人物が”今まで自分が相手をしてきた”人物と違うという簡単なことに気がついていない。今更気がついても、手遅れだが、まーさんは逃げ道も会話の中に用意してある。
まーさんの用意した逃げ道にも気が付かない程に使者は動揺していた。
まーさんの隣に座ったイーリスは苦笑しながら、テーブルの上に置かれた紅茶を口に含む。
イーリスは、紅茶のカップをテーブルに置いて、まーさんを見る。イーリスが何をしようとしているのか気がついて、まーさんは頷きを返す。
「使者殿。貴方は、宰相の指示に従っただけですよね?」
「え?」
使者は顔を上げて、イーリスを見る。
そして、イーリスが投げかけた言葉の意味を考える。
「あっ!」
使者は、イーリスの話を考えて一つの可能性に行き着いた。そして、まーさんを見た。
使者は、勢いよく立ち上がって床にひざまずいた。土下座のような格好になり、謝罪の言葉を口にした。謝罪と言えば聞こえはいいが、自己弁護でしかない。別に、まーさんも使者が死のうが殺されようがどうでもいいのだが、使える駒が増える可能性がある程度には考えていた。
そして、土下座する使者を冷ややかな目で見ているイーリスが口を開く。
「使者殿。事情はわかりました。しかし、貴方が行った行為をなかったことにする事はできません」
「え?」
絶望で顔色を悪くする使者は、上げていた頭を床にこすりつけるようにして懇願する。
「しかし・・・」
使者は、イーリスの言葉を聞いて、顔を上げて期待を込めた目でまーさんとイーリスを見る。そこには、尊大な態度は見られない。
「まー様。今日は、誰の訪問も受けていませんよね?」
「そうだな」
まーさんとイーリスの猿芝居が始まった。使者は、猿芝居を不思議な表情で見守るが、イーリスが語った”誰の訪問も受けていない”を聞いて一縷の望みを感じている。二人の言葉のやり取りを、固唾を飲んで見守っている。
「イーリス。今日は、辺境伯と会う約束だけだ」
「そうでしたか・・・。あっ。まー様。もうしわけございません。宰相からの使者が、辺境伯にお会いしたいと訪ねてきていたのをすっかり忘れていました」
「そうなのか?それなら、使者を連れて、辺境伯の屋敷に行った方が良くないか?」
「そうですね。使者は、宰相が行った不正を辺境伯に報告したいと言っていました」
「へぇ・・・。イーリス。でも、それだけじゃないよな?」
「そうですね。なんでも、”定期的に辺境伯に情報を流したい”と相談されました」
「スパイになると言っているのか?」
「そうです」
使者は、自分が生き残れる道をしめされて、床に頭を打ち付けながら何度も何度もイーリスとまーさんにお願いの言葉を紡いでいる。
満足な表情を浮かべながら、まーさんはイーリスに話しかける。
「イーリス。俺は、部屋に戻る。それと、辺境伯には、俺からも謝罪をしておく、よろしく頼むな」
「まー様。わかりました」
土下座のままの使者に目線を向けるだけで、まーさんはイーリスに手を軽く振って部屋を出ていった。
10
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
【完結】魔獣の傷をグチャグチャペッタンと治したらテイマーになっていました〜黒い手ともふもふ番犬とのお散歩暮らし〜
k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
★第四回ファンタジーカップ参加作品★
主人公は5歳の誕生日に両親から捨てられた。
真っ黒な髪に真っ黒な瞳。
そして、授かったスキルは回復属性魔法(闇)。
両親のスキルを授かることが一般的な世界で、主人公は異質の存在、悪魔と呼ばれた。
そんな彼は森で血だらけに倒れているウルフ三匹と出会う。
いざ、スキルを使うとグチャグチャと体を弄る音が……。
気づいた時には体一つに顔が三つくっついていた。
まるで地獄の門番ケルベロスにそっくりだ。
そんな謎のウルフとお散歩しながら、旅をするほのぼので少しダークなファンタジー。
お気に入り登録、コメントどんどんお待ちしております!
コメントしてくださると嬉しいです٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
スキルイータ
北きつね
ファンタジー
俺は、どうやら死んでしまうようだ。
”ようだ”と言ったのは、状況がよくわからないからだ、時間が止まっている?
会社のメンバーと、打ち上げをやった、その後、数名と俺が行きつけにしているバーに顔をだした。デスマ進行を知っているマスターは、何も言わないで、俺が好きな”ギムレット”を出してくれる。
2杯目は、”ハンター”にした、いつものメンバーできているので、話すこともなく、自分たちが飲みたい物をオーダした。
30分程度で店を出る。支払いは、デポジットで足りるというサインが出ている。少なくなってきているのだろう事を想定して、3枚ほど財布から取り出して、店を出る。雑踏を嫌って、裏路地を歩いて、一駅前の駅に向かった。
電車を待つ間、仲間と他愛もない話をする。
異世界に転生したら、どんなスキルをもらうか?そんな話をしながら、電車が来るのを待っていた。
”ドン!”
この音を最後に、俺の生活は一変する。
異世界に転移した。転生でなかったのには理由があるが、もはやどうでもいい。
現在、途方にくれている。
”神!見て笑っているのだろう?ここはどこだ!”
異世界の、草原に放り出されている。かろうじて服は着ているが、現地に合わせた服なのだろう。スキルも約束通りになっている。だが、それだけだ。世界の説明は簡単に受けた。
いきなりハードプレイか?いい度胸しているよな?
俺の異世界=レヴィラン生活がスタートした。
注意)
ハーレムにはなりません。
ハーレムを求める人はこの作品からは探せないと思います。
異世界の物流は俺に任せろ
北きつね
ファンタジー
俺は、大木靖(おおきやすし)。
趣味は、”ドライブ!”だと、言っている。
隠れた趣味として、ラノベを読むが好きだ。それも、アニメやコミカライズされるような有名な物ではなく、書籍化未満の作品を読むのが好きだ。
職業は、トラックの運転手をしてる。この業界では珍しい”フリー”でやっている。電話一本で全国を飛び回っている。愛車のトラクタと、道路さえ繋がっていれば、どんな所にも出向いた。魔改造したトラクタで、トレーラを引っ張って、いろんな物を運んだ。ラッピングトレーラで、都内を走った事もある。
道?と思われる場所も走った事がある。
今後ろに積んでいる荷物は、よく見かける”グリフォン”だ。今日は生きたまま運んで欲しいと言われている。
え?”グリフォン”なんて、どこに居るのかって?
そんな事、俺が知るわけがない。俺は依頼された荷物を、依頼された場所に、依頼された日時までに運ぶのが仕事だ。
日本に居た時には、つまらない法令なんて物があったが、今では、なんでも運べる。
え?”日本”じゃないのかって?
拠点にしているのは、バッケスホーフ王国にある。ユーラットという港町だ。そこから、10kmくらい山に向かえば、俺の拠点がある。拠点に行けば、トラックの整備ができるからな。整備だけじゃなくて、改造もできる。
え?バッケスホーフ王国なんて知らない?
そう言われてもな。俺も、そういう物だと受け入れているだけだからな。
え?地球じゃないのかって?
言っていなかったか?俺が今居るのは、異世界だぞ。
俺は、異世界のトラック運転手だ!
なぜか俺が知っているトレーラを製造できる。万能工房。ガソリンが無くならない謎の状況。なぜか使えるナビシステム。そして、なぜか読める異世界の文字。何故か通じる日本語!
故障したりしても、止めて休ませれば、新品同然に直ってくる親切設計。
俺が望んだ装備が実装され続ける不思議なトラクタ。必要な備品が補充される謎設定。
ご都合主義てんこ盛りの世界だ。
そんな相棒とともに、制限速度がなく、俺以外トラックなんて持っていない。
俺は、異世界=レールテを気ままに爆走する。
レールテの物流は俺に任せろ!
注)作者が楽しむ為に書いています。
作者はトラック運転手ではありません。描写・名称などおかしな所があると思います。ご容赦下さい。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。
誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。
アルファポリスで先行(数話)で公開していきます。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です
途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。
ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。
前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。
ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——
一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——
ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。
色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから!
※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください
※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる