上 下
132 / 143
第四章 スライムとギルド

第五十三話 今後の話(5)

しおりを挟む

「家の場所が決まったみたいです」

 貴子嬢が、茜嬢と真子とライ殿が話している内容を教えてくれた。

「貴子。奥に敷地が増やせるようなら、増やして病院兼研究所を作ろう」

 貴子嬢の説明では、通りには間口が狭い通路を作って、通路の両脇には”草木”を植える。
 通りに繋がる場所には、門を設置する。

 門から、奥の家に繋がる通路は約20メートル。
 その先に、離れを作る。離れは、真子と茜嬢が生活をする場所になると言っているが、この場所がギルドの支部になるのだろう。

 その先に今のところは3つの空き家があり、それらの敷地を買い取って、一つにする。
 そこに、貴子嬢の別邸を建てる計画だ。貴子嬢の希望で、地下室も作るようだ。理由は、聞かなかったが、地下室があると嬉しいようだ。

 敷地内に池を作る。他にも、草木を植える計画があるようだ。

 横道に繋がる場所には、高めの塀を設置する考えのようだ。

「そうですね。同じ敷地内に在ったほうが楽ですよね」

 円香の考えでは、通りとは別に側道があり、側道に繋がる場所に、病院を建築して、後ろに研究所を設置すれば、貴子嬢の別邸が隠せるうえに、近くに住んでいる人には、病院の先生が住んでいる家だと誤認識させることができる。通りに繋がる道も、私道で病院の関係者が使う道だと思わせることができる。

 貴子嬢の家が狭くなってしまう分は、奥の家を買い取ることで増やす考えだ。
 奥の家は、売りには出ていないが、空き家なのは、すぐに茜嬢が確認している。持ち主が不明になっている物件なので、市が管理している可能性があるのが面倒だが、ギルドの施設を作ると言えば、売買は可能だろう。

「貴子の家族は、誰が来る?」

「まだ決めていませんが、ライは確定として、私の分体が常駐するつもりです。あとは、街中に居ても不思議ではない者たちを交代で連れてきます」

「わかった。野鳥は出来れば、裏山をベースに考えて欲しい」

「え?」

「野鳥に餌付けすると、条例違反になる可能性が高い。奴らが付け入る所は、そういうつまらないことを突いてくる」

「そうなのですね。わかりました。カーディナル・・・。猛禽類は大丈夫なのですか?」

「猛禽類は、役所に届ける必要がある。孔明!」

「貴子嬢。他に、どんな種族が居ますか?海洋生物とか、河川に居る生物は、役所に届ける必要がある場合が少ないので、今は猛禽類や動物ですね。あっカミツキガメとかワニとかは届け出が必要です。解らなければ、種族を教えてください」

「えぇーと・・・」

 貴子嬢の家族の話を聞いて絶句した。
 種が多い。それだけの動物が居たのかと思ったが、どうやら、いろいろな場所から集まって来たらしい。それでも、外来種と言われるような者たちまで居るとは思わなかった。

 外来種を捨てるような奴が居たのだろう。
 タヌキは、昔から居た可能性はあるが、アライグマやハクビシンや台湾リスやヌートリアやキョンは外来種だ。外来生物が繁殖しているのは以前から問題になっていたのだが・・・。

 もしかしたら、貴子嬢に頼めば外来生物を魔物にしてしまえば、繁殖を抑止できるのでは?でも、ギルドが考える事ではない。

「円香?」

「ダメだな」

 俺も同じ考えだ。
 貴子嬢の家族を、登録したら・・・。

「え?何がダメなの?」

 貴子嬢が絶望した表情をする。
 円香の言い方が悪い。

「あぁ貴子嬢がダメと言っているわけではない。これだけの外来種や動物を登録すると、目立ってしまう」

「あっ」

 そうだ。
 これだけの動物が登録される。
 それも、一人の未成年の女性だ。問題にはならないが、マスコミの格好の的だ。スライムだと知られる心配はないと思うが、どこから情報が流れるか解らない。それに、戸籍が残っている限り、どうやって大金を稼いだのか?憶測で書かれたゴシップ記事が出てしまう可能性もある。そのうえで、ギルド職員だと知られたら、日本ギルドの奴らが動き出すのは間違いない。

「それに、これだけのを登録すると、マスコミが寄ってくるかもしれない。対応が面倒になる」

「そうですね。無登録だと何か問題が・・・。あるのですね」

 無登録でも大丈夫だとは思うが、日本ギルドのことを考えれば、登録はしたい。
 数よりも種類が問題になりそうだ。貴子嬢も、俺と円香の表情から、問題はないが、問題になると判断したのだろう。

「あっ!孔明。教授に、動物の登録を行わせて、施設で飼育してもらうことは出来ないか?保護していると言えば問題はあるが、問題にはならない。そのうえで、ギルドで保護していることにすれば、マスコミが寄ってきても、ギルドの権限でシャットアウトできる」

 円香の出した妥協点が、唯一の逃げ道の様に思える。

「円香・・・」

「どうした?」

「病院や研究所を作るのはいいが、貴子嬢の予算内でやるのはダメだぞ?」

「あっ」

 円香は、すっかり予算のことが抜けていた。
 病院を居抜きで揃えるのなら低予算で収まる可能性もあるが、新規で作るとなると、億単位の金が必要になる。教授の実家から体裁を揃えるだけの機材は持ってくるとしても、まとまった金が必要になる。

 確かに、貴子嬢には10億単位で金が入ってくるが、ギルドの施設を作るのに、貴子嬢の金をあてにするのは間違っている。

「私は、別に・・・。あっ!そうだ。ギルドで、オークションを行う利益で、賄えませんか?将来のことは別にして、ギルドで雇ってもらえて、給与が出るのなら、私はそれで十分です。あっ給料はあるのですよね?」

「ははは。もちろんだ。ギルド職員の給与体型は、ギルドの売り上げに依存するが、基本給は決められている。役職なしの場合は、支給額で25だ。賞与は、ギルドの売り上げに依存だ」

「へぇ」

 一応、税金の話もしておいた方がいいだろう。
 今の日本は税金が高すぎる。

「貴子嬢。25だと、半分くらいは国に持っていかれる」

「そうなのですね。それでも、12-3万くらいは貰えるのですね。十分です」

 やはり、税のことはあまり考えていなかったようだ。半分は、大げさだけど、似たような感じだ。
 十分と来たか・・・。
 持ち家があって、貯金があれば十分だと言えるのだろう。

「ははは。ボーナスは期待していい」

「はい!あっ。その前に、血液やら、いろいろ考えないとダメですね」

「まぁダメだったら、抜け道を考える」

「いいのですか?」

「いいも何も、イレギュラーな状況だからな。一つのイレギュラーに、二つ目が加わるだけだ。対して変わらない」

「そうなのですね」

「ギルドは、歴史が浅い組織だから、イレギュラーが発生した時の対応が柔軟な所が、素晴らしいからな」

「そうなのですね。よかったです」

「おっ」

「孔明?」「孔明さん?」

「あぁ蒼からだ。魔石の生成が出来たそうだ。追試もOKだ。申請書類にまとめると言ってきた」

「公開は、待つように伝えてくれ」

「大丈夫だ。蒼も、いつでも申請ができる様にしておくと言っていた。あとシャレで特許の申請を行う書類も作るようだ」

「特許?実用新案ではないのか?」

「あぁ一応、特許で試してみるのだろう。個人の技能に寄らない作成だから、特許でよいとは思うが、特殊技能だからな。判断が分かれるだろう」

 特許とは、蒼も面白い事を考えたな。
 確かに、特許の申請が通る可能性は低いだろう。しかし、実際に魔石が出来てしまう方法だからな。審査は、ギルドに連絡が来るだろうが、そのギルドが提出した特許だ。そうなると、もう一つの組織に追試や正当性が流れる可能性がある。
 面白い事になりそうだ。
 ギルド内部の情報公開では、奴らの所に届くまでや、マスコミに届くまでにタイムラグが発生する。
 しかし、特許なら奴らにも届くだろう。そして、奴らなら、マスコミに簡単にリークしてしまうだろう。特許庁の口の軽い奴らが、情報を流す可能性もある。

 流れの確認をしてから、役割分担を考えなければ、それにしても人が少ない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

フルハピ☆悪女リスタート

茄珠みしろ
恋愛
国を襲う伝染病で幼くして母親を失い、父からも愛情を受けることが出来ず、再婚により新しくできた異母妹に全てを奪われたララスティは、20歳の誕生日のその日、婚約者のカイルに呼び出され婚約破棄を言い渡された。 失意の中家に帰れば父の命令で修道院に向かわされる。 しかし、その道程での事故によりララスティは母親が亡くなった直後の7歳児の時に回帰していた。 頭を整理するためと今後の活動のために母方の伯父の元に身を寄せ、前回の復讐と自分の行動によって結末が変わるのかを見届けたいという願いを叶えるためにララスティは計画を練る。 前回と同じように父親が爵位を継いで再婚すると、やはり異母妹のエミリアが家にやってきてララスティのものを奪っていくが、それはもうララスティの復讐計画の一つに過ぎない。 やってくる前に下ごしらえをしていたおかげか、前回とは違い「可哀相な元庶子の異母妹」はどこにもおらず、そこにいるのは「異母姉のものを奪う教養のない元庶子」だけ。 変わらないスケジュールの中で変わっていく人間模様。 またもやララスティの婚約者となったカイルは前回と同じようにエミリアを愛し「真実の愛」を貫くのだろうか? そしてルドルフとの接触で判明したララスティですら知らなかった「その後」の真実も明かされ、物語はさらなる狂想へと進みだす。 味方のふりをした友人の仮面をかぶった悪女は物語の結末を待っている。 フ ル ハッピーエンディング そういったのは だ ぁ れ ? ☆他サイトでも投稿してます

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...