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第三章 スライム今度こそ街へ

第十八話 スライムとギルド

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 新しい服の購入は諦めた。諦めたというよりも、私のことを簡単に説明する方法を考えついた。

 制服姿になって、待ち合わせ場所で待っていることにした。
 ライはギルドの人に解りやすくするために、スライムの姿で待っていることにした。

 私もライも、結界を張って、隠蔽のスキルを発動すれば、認識は難しい。
 家の近くで試してみたが、誰も私が居るとは気が付かなかった。テストの仕上げは、最寄り駅の駐輪場で行ってみたが、誰にも気が付かれなかった。

 スライムの状態で、カーディナルとアドニスに乗って移動をして、待ち合わせ場所で制服を着て、結界を張って、スキルを発動して待つことに決定した。ライが人になれるのは秘密にする。
 私が、スライムなのは説明をするが、信じて貰えない可能性を考慮して、スライムに変わる所を見せることに決まった。

 情報が無い状態なので、何が正解なのか解らない。

 いろいろ考えて、皆と話し合ったが、結局はギルド側の対応で変えようという曖昧な話で終わった。

 約束の日になった。
 私がカーディナルに、ライがアドニスに乗って、約束の場所に向った。

 上空で待機をして、人が居なくなったタイミングで地上に降りた。

 付いてきた者たちが、近くで待機している。
 大げさだと思ったが、誰も帰ろうとはしない。昼間には適さないダークまでが、待機すると言い出した。ダークたちが昼間に移動していたら目立つので、今回は家を守ってもらう事で納得してもらった。
 同じように、集団で居たら目立つ者や、浅間神社辺りでは見かけない者たちには、今回は我慢してもらった。別に戦いに行くわけではない。私の護衛なら、カーディナルとアドニスで十分だ。それに、本体は家に残る。浅間神社に行くのは、私の分体だ。

 カーディナルとアドニスが私とライの横で待機することになってしまった。
 鷲と梟が同時に居たら目立つだろうけど、私とライの結界の中に居て、カーディナルとアドニスもスキルが発動できるので、”見られることはない”と押し切られてしまった。

 約束の場所

 駿河国総社静岡浅間神社
 大山祇命を主神とし、日本武尊を配祀する。麓山神社。

 麓山神社の近くにあるベンチに座って待つこと、15分。到着と同時に、お参りは行った。なんとなく、軒先を借りるので、先に挨拶をしておいた方がよいように思えた。魔物なので、人の神にはしっかりと筋を通しておこうと思った。

『マスター。ギルドのメンバーが、階段を上がってきます』

 近くで待機していた、ドーンからの報告だ。
 人数は、予想よりも多い・・・。ライからの報告で聞いていた、公園に来ていたメンバーだ。

 先頭を歩いていた女性だけが、私たちの存在に気が付いたが、私の方を見ながら”まだ来ていない様だから、お参りをしておこう”といって、麓山神社に向った。

 二礼二拍手をして、手を合わせた状態で、私に聞かせる為だろう。

”ライ殿のあるじと有意義な話ができる事を望む。願わくは友好的な関係が築ければ幸いだ”

 完全に、私が居る事が前提のセリフだ。
 そして、合わせていた手を降ろして、深々と頭を下げる。

 私が現れるべきタイミングを作ってくれているようだ。

 ギルドのメンバーが、揃って頭を下げた。
 私は、スキルを解除して、結界を最低限の形での展開に変更した。

 頭を上げたギルドのメンバーが振り向けば、私に気が付くだろう。

 やっぱり、先頭を歩いていた人だけは驚かなかった。

「君がライ殿のあるじか?」

「そうです」

「君は・・・。その前に、私は、榑谷円香だ」

「榑谷さんですね。私は」

 榑谷さんは、片手を上げて、私の名乗りを遮る。

「君の事情は解らないが、その制服を着ている状況で、ライ殿のあるじになったのなら、何か事情があるのだろう。名乗りは必要ない。そうだな。あるじ殿と呼ばせてもらうが、問題はないか?」

 もともと、偽名を名乗ろうと思っていたが、私にも何か事情があるのだと考えてくれたようだ。
 それで、”あるじ殿”と呼んでくれるらしい。

「わかりました。榑谷さん。私の事情は、ライから聞いた話の後でご相談と合わせて、話を聞いてください」

「わかった。あるじ殿。最初に教えて欲しい。あるじ殿は、人なのか?魔物なのか?」

 見つめられていて、鑑定に似たスキルを感じた。

 人を鑑定しても、名前は解らない。でも、名前が解っている人だと、名前が表示される。
 榑谷さんに”鑑定”や類するスキルが無いのは解っている。

「どちらでしょう?自分でもわかりません」

「・・・。そうか・・・」

「ライ。私の膝に乗って、カーディナルは、肩に止まれる?アドニスは、近くの木で待機」

 榑谷さんが、私の横を見たので、皆にベンチを空けるように指示を出す。

「桐元孔明よしあき。上村蒼。周りを見回ってくれ、誰も近づけないでくれ」

「わかった」

「孔明。神社の事務所とい交渉してくれ。調査の為に麓山神社を封鎖すると通達してきてくれ」

「円香。俺の名前は、よしあきだ!孔明ではない!が、わかった。柚木千明。一緒に来てくれ」

「はい!孔明さん」

 わざと、名前が解るようにしてくれているのだろう。理由はわからないが、名前が解るのは嬉しい。

「蒼!」

「おぉ!俺は、山の方を見て来る。里見茜嬢は、階段から誰かが上がってくるか見ていてくれ」

「蒼さん。わかりました。でも、もう一つは?」

「そちらは、千明が見ていればいい」

「はい。わかりました」

 多分だけど、今の会話から最初から、神社の事務所には事情を通しているのだろう。
 それでなければ、千明さんが孔明さんと離れて階段ではない道の監視はできない。多分、孔明さんは事務所には行かないだろう。

『マスター。ドーンとアイズが、監視をします』

『うん。でも、過剰に警戒はしなくてよさそうだよ』

『はい。一番の強者は、蒼と呼ばれていた男ですが、スキルを使えばコペンでも対応が出来そうです』

『そうだね』

 さすがに、体格差があるから厳しいとは思うけど、ギブソンとかノックとかラスカルとかパロットなら対処は可能だろう。
 強さで言えば、オークの色違いと同じくらいかな?少しだけ厳しいかな?

あるじ殿。お待たせしてもうしわけない」

 榑谷さんが、私の横に座ってきた。

「いえ。ありがとうございます」

「まずは、念話の魔石と結界の魔石ですが・・・」

「壊れましたか?」

「そうではなく、あるじ殿が作られたと、ライ殿から聞きました」

「そうですね。私が、魔石にスキルを付与する形ですが、作製しました」

「魔石があれば、量産が可能だということですか?」

「条件次第では・・・。しかし、量産する予定はありません」

「それはなぜ?」

「まずは、価値がわかりません。そうだ!私が作る為のレシピを提供したとして、ギルドで量産が可能ですか?質問に質問で返してもうしわけありません」

「・・・。無理だと思います。そもそも、結界や念話のスキルは、世界で初めて見つかったスキルです」

 榑谷さんは、少しだけ考えてから、私が求めていた言葉を返してくれた。
 やはり、見つかっていないスキルなのだ。

「そうですか、それなら余計に量産する予定は無いです。興味もありません。私は、スキルを付与するだけの存在になりたくないです」

「わかりました。現在、ギルドに預けられた物だけが、存在する念話石と結界石だと考えて差し支えないですか?」

 念話石とか、結界石とか、いい呼び名だ。

「念話は、そうです。結界は、使い道がありますので、少しだけ多めに作っています」

「使い道?」

「秘密です」

「そうですよね。残念ですが・・・。わかりました。それでは、預かっている魔石は、買い取りでよろしいですか?」

 少しも残念そうな表情ではない。
 前置きが長いが、必要な儀式だと思って諦めよう。

「はい」

「買い取りの条件などは?」

「条件?別に、考えていません?」

「それでは、我らギルドが、魔石を分析して、同じ物を・・・。劣化バージョンだとは思いますが、作ってもいいのですか?」

「いいですよ?」

 別に作られたからと言って私は困らない。
 私は、私の生活を変えてしまった者に復讐をしたいだけだ。それ以外には興味がない。

 できるだけ、平穏に暮らしたいと思っている。
 そのために、まとまったお金が必要になるから、ギルドに接触したいと思った。ギルドがダメなら、どうにかする方法は、他にもある。

 ひっそり暮らすためにも、是非ギルドと取引を・・・。ただ、それだけだ・・・。ギルドに拘りはない。
 取引として適しているのがギルドだということだ。
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