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第二章 スライム街へ
第六話 凶報
しおりを挟むパパとママが離婚する。
別に、僕としては問題ではない。僕の意見を聞いてくれて、パパと今の場所に住むことになった。ママは、やはり奴が出てきたら、一緒に生活をしたかったらしい。パパは、反対した。僕もイヤだと言い放ったら、僕を殴ってきた。
僕が、スキルを発動する前に、パパがママと僕を引き離して、ママに”出ていけ”と言ってくれた。
ママは、奴と一緒に住むことにしたようだ。
僕には、関係がない。もう他人だ。
気分がいい。パパは、仕事で名古屋に行ってしまった。
この家には僕しかいない。
学校も、連絡が来て、しばらくはオンラインでの授業になるようだ。福音だ
アイツらに会わなくて済む。それに、学校がスキルを確認しなくなるようだ。ギルドの組織が大きく変わった。それに合わせて、ハンター制度が出来る。静岡は、多くの狩場候補地があり、ハンターになる者たちが多くなる。学校でも、ハンターやスキルを教えることに決まったようだ。そのために、ギルドからの要請で、学校でスキル持ちを差別できなくなった。
学校に、”子供にスキルを持たせるのは悪だ”と通達を出していた営業が解体されたのが大きな理由らしい。各、学校にスキル判定装置を高値でレンタルしていた。静岡市だけで、月額で数千万のレンタル料を支払っていたようだ。
ギルドは、持ちビルから一軒家のような場所に移設したようだ。完全に、都落ちだな。僕のような優秀な人間を招き入れないから、愚かにも力を失うのだ。本当に、3-4百人居たスタッフは、5人にまで減ったらしい。本当に、愚かな組織だ。そうだ。僕が、英雄である僕が、ギルドを仕切り直してもいいな。
ハンターになるための講習があるらしいが、ハンター登録には、講習は必須ではない。登録だけなら、誰でも出来るようだ。
そうだ!優秀で、英雄になるのが確定している僕に足りないのは、実績だ。ハンターになって、魔物を狩れば、実績にもなるし、僕の素晴らしいユニークスキルを使えば、どんな魔物でも怖くない。
ハンターで名を上げて、僕という存在を認識させてから、ギルド改革を行えばいい。
世界的な組織だ。僕ほどの優秀な人間なら歓迎されるだろう。
そう言えば、学校からの通知で、一人の女子が休学するとか言っていたな。僕には関係はない。そんな負け組に、かまっていられる時間はない。
スキルを育てて、偉大な僕に相応しい、新しいスキルを得なければならない。
ママも居なくなった。パパも帰ってこない。
僕は、自分のミスを認めて成長が出来る天才だ。
スキル魔物化で、スライムにするときに、込める魔力を調整できるのは解っていた。最弱の状態のスライムにしていた。だから、僕が得られる経験値も少なくなっていたのだろう。だから、天才で優秀で有能な僕は、スライム化するときに、込める魔力を少しずつ増やした。最高の手段を持つ僕なら、スライムにしてしまえば簡単に始末ができる。魔力の量で貰えるスキルが違う可能性を考慮した。
家に居ると、それほど多くの経験値が稼げない。パパもママも居ない。僕は、夜に抜け出して、野良犬や野良猫を魔物化している。社会のゴミにしかならない奴らを僕が始末しているのだ。感謝されているに違いない。ゴミを綺麗にしているのだ。感謝以外の選択肢はない。
そうだ、僕は、偉大な指導者になるべき人間だ。
僕の行動は、全て感謝されなければならない。僕に感謝を捧げて、導かれて、僕に”頭を垂れる”だけが愚民に許された行為だ。
なんだ、簡単なことだ。
僕が、ハンターになり、魔物を狩り。腐敗した大人たちを始末して、僕が指導者になればいい。
---
「孔明!蒼は、どこに居る!」
「円香、それに、茜もどうした?」
二人は、揃って、孔明のデスクに駆け寄る。
「連絡は、まだ入っていないのか?」
「だからどうした?」
「天子湖は知っているか?」
「あぁ人工湖だよな。それがどうした?封鎖場所に指定されているよな?」
「・・・。そうか・・・。茜。千明。地図を頼む。孔明!」
用意された地図を見て、孔明は天子湖を探す。場所は解るが、正確な位置は不明だ。それに、キャンプ場がある場所なので、封鎖は山側に偏っている。
「支部の設置は、まだ行われていない。封鎖は山側だけだな」
「常駐している者は?」
「居ない」
「円香。天子湖で何があった?」
「そうだな。その説明をしていなかったな」
円香は、警察から提供されたデータを桐元孔明に見せる。
数枚の写真だ。壊れた小屋と、何かが争ったように荒らされた草木。
そして、一人の男性が着ていたと思われる服の残骸と荷物だ。そして、社員証が残されていた。
「円香?」
「山本だ。社員証を千明に確認してもらった」
「そうか・・・。でも、こちらに回されてくる理由がわからない」
「次の写真を見れば解る」
「ん?」
そこには、森に向って逃げる様子の魔物たちが撮影されていた。人の腕のような物を持っている様子も写されていた。
「そうか・・・。でも、円香。おかしくないか?」
「あぁ孔明。この写真は・・・。あぁ動画もあるが・・・。魔物が複数で行動している様子が確認できる」
「・・・。円香?ギルドで、魔物の集団行動は確認されているか?」
「いや。だから、孔明と蒼に確認をしたかった」
ギルド日本リージョン本部のドアが激しく開けられた。
入ってきたのは、上村蒼だ。
「孔明!円香!大変だ!魔物の大量発生がうた・・・。がわ??」
部屋に入ってきて、上村蒼は、皆が一箇所に集まって、自分が持ってきた写真と同じ物を見ているのに気がついた。多少のアングルの違いはあるが、ほとんどが同じものだ。ただ、上村蒼が持ってきたのは、魔物が居たと思われる証拠として、床に散らばった魔石が写されていた。
「そうか・・・。警察経由か?」
「あぁ呼び出しがあった。蒼は、自衛隊か?」
「そうだ。現場は、警察が封鎖したが、キャンプ場には自衛隊が隊員を派遣した。魔石は、警察と自衛隊が確保した」
「蒼。魔石の買い取りは出来るのだよな?」
「大丈夫だ。自衛隊にも、警察にも話はしてある。それに、奴らでは魔石が使えない」
「そうか、千明。蒼から窓口を聞いて交渉を頼む」
「はい!」
魔石の買い取り金額は決まっている。
サイズと色で違いがあるだけで、あとは一律になっている。なので、魔石を記念で持っておきたいという人以外は、金額は自動的に決まってくる。また、オークションなどの転売を行うのは、世界的に禁止されている。そのために、ネットオークションでは魔石の出品は出来ない。見つかった場合には、最悪は起訴される可能性まである。
「魔石は、千明に任せるとして・・・」
千明が、蒼を連れて、交渉に取り掛かっているのを見ながら、榑谷円香と桐元孔明は、大量の魔石と逃げていく魔物の姿を見ている。
「円香さん。孔明さん。魔物が統率された行動を取っているのは、置いておくとして・・・。この山本でしたっけ?この人が魔物を倒したのですよね?」
「状況から見ると、そうだな」
「魔石の数から考えると、10や20ではないと思うのですよ」
「・・・。そうか、ドロップ率か?」
「はい。魔石は、出やすいと言われていますが、2-30%です。魔石の量から、30%として考えても、30体以上の魔物を倒したことになりませんか?」
「あっ」「・・・」
「そうなると、スキルも、最前線で戦っている人たちと同じか、それ以上を得ていますよね?」
「・・・」「・・・」
「武器や防具が有ったようには見えないのですが、30体の魔物を倒せるだけの人物を殺せるだけの魔物が存在することになりませんか?」
「寝込みを襲われた可能性もあるが・・・。俺は、それ以上に・・・」
「どうした?孔明?なにか、あるのか?」
「あぁ山本がスキルを得たのは、間違いはないだろう」
「そうだな」
「魔物たちは、山本を食べている」
「・・・。そうか、今までは、魔物は食事をしないと思われていた」
「そうだ」「あっ!円香さん。この前の資料。少し、待って下さい」
里見茜が自分のデスクにある端末を操作し始める。
桐元孔明と榑谷円香は、写真から伝わる不気味さと、里見茜がもたらす情報を考えていた。
「円香!孔明!天子湖のキャンプ場が・・・」
「どうした!」
「魔物に占拠された」
「え?」「は?占拠?」
上村蒼の叫び声が、ギルドの中に響いた。
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