スキルイータ

北きつね

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第二十九章 鉱山

第二百九十六話

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 船は、海原を進んでいく、何度かウミの魔物が襲ってきたが、ライが仕留めた。吸収したが正しいのか?

 甲板で、海原を眺めていると、よく知る気配を持つ者が近づいてきた。
 誰なのかわかっているので首も動かさずに、殺気を向ける。視線を向けることで、認識していると説明をした。つもりだ。

 俺が”何を”したのか解ったのだろう。慌てては居ないが、周りを見回している。魔物が居ると誤解したのだろう。
 周りに、危険がないと判断して、少しだけ大きめの声で俺を呼んだ。

「カズト・ツクモ!」

 よく見ると、ルートガーの後ろに4人の従者(正確には、クリスティーネの従者)が一緒に来ている。
 何かあったのか?それなら、ルートガーだけで来るはずだ。

 船には、専任の護衛が居る。魔物が出現したとか、問題が発生しているのなら、乗組員が一緒に来るはずだが、ルートガーだけだから、大きな問題では無いのだろう。報告なら、後ろに居る4人が一緒に来る必要はない。

 それに、ルートガーが俺だけではなく、カイとウミとライが一緒に居るのを確認している。

「ん?ルートか?どうした?」

 身体を半分だけ起こして、ルートガーたちが居る方向を見る。

「どうした?あ?お前が、船長と話をしたいと・・・。『船長の時間ができたから、話ができる』ことを伝えに来た」

 おぉ今日も、ルートガーはルートガーだな。
 安心だ。俺に遠慮がない者が、もっと増えてくれると嬉しいのだけど、難しいのだろうな。

 船長に、いろいろ話を聞きたいとルートガーに頼んだのが昨日だ。
 まだ時間がかかると思ったけど、早かったな。

「お!さすが!ルートに頼んで正解だ」

「・・・。それで、何を話す?」

 何を?

「世間話?」

「殺すぞ」

 冗談くらい言ってもいいと思うのだけど、ダメなのか?

「怖い。怖い。クリスに告げ口をしよう。ルートに殺されそうになったって泣きながら縋りつこうかな?」

 解りやすい。
 クリスティーネの名前を出せば、話を変えようとする。惚れた弱みなのだろう。

 本当に、解りやすい。
 今回も、”クリスティーネが来る”というのを、いろいろ理由をつけて思いとどまらせたに違いない。ヴィマやヴィミやラッヘルやヨナタンを連れてきていないのも、関係しているのだろう。

「いいから、説明しろ」

 はい。はい。
 納得できる理由が欲しいのは解るけど俺にだけきつく当たっていると、まわりが勘違いをするぞ?

「船長は、中央大陸だけではなく、他の大陸にも移動をしているよな?」

「そう聞いている」

 乗船の時に、船長が挨拶にきて、何気ない話だったが、教えてくれた。
 てっきり、中央大陸の一部とチアル大陸を往復していると思ったが、違ったようだ。出身は、チアル大陸だと言っていたが・・・。少しだけ怪しい。

「陸に居るよりも、船の上、海原に居る方が長い?」

「あぁ。そうらしい」

「船長に聞きたいのは、2つ・・・。いや、3つかな?」

 正確には、二つだが、二つ目の答えによって新しい質問が産まれる可能性がある。

「??」

 ルートガーには、解らないようだ。
 多分、解らないと思っていた。俺が、船長に聞きたいことも、今、俺たちが置かれている状況は、外からチアル大陸を眺めてみないと解らない。

「一つは、他の大陸の様子を知りたい。俺たちの大陸と、中央大陸の一部とエルフ大陸は、解ってきているが、他の大陸の情報がない」

 これは、わかりやすいと思う。
 今後、俺たちの大陸が安泰だと考えるほど、安全だとは思っていない。どこかの大陸が攻め込もうとした時に、海が使われる。ならば、海を舞台に舞っている船長なら、他の大陸の情報を持っている可能性が高い。
 話して大丈夫だと思っている範疇でも、俺たちが持っていない情報の可能性が高い。

 未知は恐ろしい、しかし、中途半端な”知”はもっと怖い。だから、中途半端になりやすい船長からの話は足がかり程度だと考えておけばいいだろう。

「・・・。商隊ではダメなのか?」

 ルートガーならそう考えるだろう。
 実際に、商隊と合わせて、他の大陸に行った人から情報を買い取っている。

 大陸の情報ではあるが、不完全な情報になる。生きている情報になりえない。
 商隊は、商品を運んで金銭を得る。そのための情報が必要になる。何を”欲している”情報は欲しいが、俺が欲しいのは、”何を忌避”しているのか?生活に密着した情報だ。それも、多角的に欲しい。
 それは、商隊からの情報では不足してしまう。

「ダメだ。もちろん、商隊の情報も欲しい。しかし、情報ソースは多い方がいい」

「・・・。残りは?」

 ルートガーは、この話を掘り下げてもしょうがないと思ったのだろう。

「一つは、俺たちが呼び始めた”できそこない”。他では、新種と言われている魔物は、海原でも出現するのか?」

 ここで、やっと俺が本当に船長に聞きたいことが解ったのだろう。
 目を見開いている。ルートガーも、”できそこない”の話は必要になってくると解るのだろう。特に、これから、中央大陸のダンジョンを攻略したら、ゼーウ街とチアル大陸の間は活発に船が往来する。
 港で軽く聞いた所では、港で”できそこない”が現れたことがあったようだが、船に乗っているときには遭遇していない。

 港で話が聞けた連中は、近海で漁をしている者だ。あと、チアル大陸の周囲を回る程度だと言っていた。

 チアル大陸の近海では見かけないだけで、他の大陸は?それこそ、海原で遭遇したことがあるのか?

「あっ」

「追加の確認になるけど、新種を見た事があるのなら、新種への対応を確認したい」

「わかった。確かに必要なことだな。船長からは、離岸してから遠洋に出れば、時間ができると聞いている」

 ルートガーは納得してくれたようだ。

「もう大丈夫なのか?」

 問題がなければ、船長に話を聞きに行こう。

「大丈夫だ。おい。待て!お前が先に動くな!先ぶれを出して、船長の予定を確保しろ!」

 大丈夫と言ったから、立ち上がったのに、”待て”とは?
 それに、予定?だったら、俺が船長の所まで移動して話を聞けばいい。片言で、聞ける話ではないだろうから、そこで改めて、別日になるのならしょうがない。出直せばいいだけだ。

「はぁ?面倒だ」

「お前は・・・。本当に残念なことに・・・。お前は、チアル大陸の代表だ。残念なことに・・・。船長も、事情は知っている。だが、ダメだ!」

「何度も、”残念”を繰り返すのなら、お前が代表になればいい。俺は、いつでも変わってやる」

「ふざけるな!お前は!!はぁ・・・。ロッホス!」

 眉間を指で叩きながら俺をにらむな。殴りたくなってしまう。

「はい」

 後ろに控えていた、クリスティーネの従者が一人、ルートガーの横まで移動して、俺に深々と頭を下げる。別に、そんな頭を下げる必要は無いのに、毎回、同じような態度だ。

「この馬鹿の話は聞いていただろう?船長に、都合を聞いて来てくれ」

「・・・。わかりました」

 ルートガーの言い方には文句の一つや二つや三つや四つや五つを言いたいけど、グッと答えて飲み込んで、ロッホスを見送る。
 イェレラたちの表情は、”やれやれ”という感じだ。俺が悪いわけではない。9割以上は、ルートガーが悪い。

 船長の予定が確定するまで、俺は部屋に戻ることにした。
 ルートガーに告げて、立ち上がった。そのまま片手を上げて、船内に戻る。

 戻る時に、ルートガー以外が俺に深々と頭をさげる。
 必要がないと言っているのに、改める。毎回、言うのが面倒になって、受け入れるようにしている。

 俺に割り当てられた部屋に戻って、”何を”しようか考えていると、ノック音が聞こえた。
 船長の都合がいいので、夕飯の後の時間をもらうことに決まった。事前打ち合わせは必要ないが、話の内容によっては、他には聞かせたくない内容が含まれる可能性があるから、会話の場所は俺に割り当てられている部屋で行うことになった。

 夕飯を食べ終わって、待っていると、ルートガーが部屋にやってきて、状況を確認して、ロッホスに船長への連絡を指示した。

 さて、どんな話が聞けるか楽しみだ。
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