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第二十九章 鉱山
第二百九十二話
しおりを挟むファビアンの話を聞いても、よく解っていないことだけが解った。
「本当か?」
ファビアンが知っている限りだという前提だが、中央大陸にはドワーフ”だけ”が住む街や村は存在しない。エルフの様に、大陸を支配しているわけではない。
「はい。過去には、一つの大陸をドワーフ族が支配していましたが・・・」
「どうした?」
「いえ、ご存じだと・・・」
「いや。俺は、歴史に詳しくない。説明してくれると助かる」
「わかりました」
ファビアンが知っている。
中央大陸とドワーフ族の関わりと、ドワーフ族の公になっている歴史を教えてもらった。
「なぁドワーフは馬鹿なのか?」
「え?」
「やつらは、鍛冶をしなければ、タダの酒飲みだろう?」
「え?あっ・・・。はい」
ドワーフ族への評価は、認めるべきではないが、認めるしかないのだろう。
酒飲みなのは、皆が知っていることだ。ノービスのガーラントも、酒を飲んでいない時は、鍛冶をしている。どちらかだろう?ナーシャが甘味絶対主義なのと同じで、ガーラントは酒:鍛冶だと辛うじて鍛冶が勝つが、鍛冶が出来なければ、酒100%になる。間違いない。誰が保証しなくても、俺が保証する。
「ふぅ・・・。現状が理解できた。それで、その元ドワーフ大陸は、今はどうなっている?誰も居ないのか?」
「え・・・。わかりません。居ないと・・・・」
「調べないとダメだな。鉱石が残っていないのなら、ドワーフは居ないだろうけど、アトフィア教が隠れ家に使っていたら厄介だ」
ファビアンもそこまで考えていなかったようだ。
ドワーフ大陸が放棄されてから、既に数百年が経過している。現状は・・・。ガーラントに聞いても解らないだろう。ノービスの連中に依頼として、確認してきてもらうか?ナーシャが反対するか?面倒なことになった。
そして、元ドワーフ大陸にあった鉱山から鉱石が出なくなると、ドワーフ族は各地に散らばって、鉱山を漁った。枯渇すると、他の鉱山に移動する。
ドワーフたちは、各地を荒らして回った。
俺たちの大陸には?
もちろん、ドワーフ族はチアル大陸にも上陸していた。
しかし、当時は鉱山が見つからずに無用な大陸だと切り捨てたようだ。同じ理由で、エルフ大陸にもドワーフ族は上陸して、すぐに出て行った。
それが今になって、チアル大陸に上陸を求めてきた。
ファビアンの話では、ドワーフ族の集団は勝手にチアル大陸に上陸を試みた。
しかし、入国は審査をしている状況だ。
ドワーフ族は、正直に・・・。
『鉱山を支配するため』だと言い切った。そして、『鉱山はドワーフ族が神から与えられた物だ。長といえ、人族が管理すべきではない。ドワーフ族で優秀な我たち一族に管理をさせろ』と言ってきたようだ。
もちろん、上陸は許さずにそのまま帰している。
ドワーフ族は、チアル大陸にある鉱山がダンジョン由来の物だと知って、他の大陸にあるダンジョンを探したようだが、鉱石が効率よく出るのは、チアル大陸だけだと”勝手に”結論付けている。
確かに、チアル大陸にあるダンジョンなら鉱石は枯渇しない。
それだけではなく、産出する量の調整ができる。
だからこそ、ドワーフ族に管理を任せられない。
「ファビアン。それで、どうしたらいい?」
「え?あの・・・。ツクモ様?」
そうだよな。
ファビアンは、対応に困って、俺の所に来た。
チアル大陸を追い出されたドワーフ族は、チアル大陸と繋がりがあるデ・ゼーウ街に行ったのだろう。
迷惑な話だ。後で、補填と保証の話をするように、ルートガーに言っておこう。
俺が、屋敷に籠っている間に、ルートガーには外遊で出てもらおう。
次いでに、ドワーフの問題も解決してもらおう。
ダメだ。
ルートガーは、文句を言いながら受けてくれるが・・・。
ドワーフ族の件は、後で考えよう。
まずは、中央大陸というよりも、デ・ゼーウ街との関係だ。
「ファビアン。デ・ゼーウ街は、何を望んでいる?」
「え?」
「ドワーフ族の問題だけなら、書簡で済む。貴殿が来て、わざわざ俺に面会を求めてきた。チアル大陸の情報は持っているのだろう?腹の探り合いも、たまにはいいけど、毎回だと胃もたれの原因になる。それに、面倒だ」
ファビアンは、態度は変えていないが、目線が動いている。
直球で問いかけられるとは思っていなかったのだろう。
「ツクモ様」
「まとまった量の鉱石を・・・」
「支払いができるほどのスキルカードはあるのか?ドワーフ族が作る武器や防具ならいらない」
国ではないが、大陸と街との取引だ。
情で動けない。それに、俺が認めると、それで動いてしまう。商人たちがチアル大陸で買い付けて、デ・ゼーウ街に持っていけばいい。そうしない理由が何かあるのだろう。検討は付いている。割に合わないのだろう。
鉱石は、そのままでは使えない。不純物が多すぎる。ダンジョン産の鉱石でも同じだ。
ガーラントに確認したときには、不純物だけなら”マシ”だと言われた。どうやら、チアル大陸から産出される鉱石は、一部を除いて、混じった状態になっているようだ。鉄と銀が混じっている。二つ以上が混じり合っている。だから、他の大陸に持っていくにしても費用の計算が難しい。
黙って、俯いているファビアンを見つめる。
部屋には、俺の指がカップを弾く音だけが規則正しく響いている。
考え事をしている時にやってしまう。昔からの癖だ。転移しても、癖は変わらないのだな。
「ツクモ様。デ・ゼーウには・・・」
「支払えるだけのスキルカードは無いのだろう?だったらどうする?」
「・・・」
「そもそも、デ・ゼーウが鉱石を必要としている理由は?」
カップを叩く指を止めて、ファビアンを見つめる。
黙って俯いてしまった。
通常の街が鉱石を求めるのは、いくつかの理由が考えられる。鉱石を取引として求められる場合。街で武器や防具や日用品を作成するための材料が枯渇している場合。
他にも、考えられることはあるが、全てが必要な物は加工品で、鉱石を求める必要はない。
取引として求められている場合には、デ・ゼーウが”鉱石を持っている”ことが前提になってしまう。
鉱石が産出する場所は近くに無いのは、周知なことで、取引を持ちかける方に問題がある。
「ツクモ様。デ・ゼーウ街は・・・」
そこまで話して黙ってしまった。
「どこかに侵略を考えているのか?」
「ち、違います!前デ・ゼーウとは違います!そのようなことは・・・」
「それなら、言えるよな?もしかして、森か?それでも、武器や防具を買い求めればいいだけだ?違うか?」
「・・・。違いません。しかし・・・」
「なんだよ?はっきりしないな」
少しだけイライラしてきた。
「ツクモ様。我ら、デ・ゼーウ街が求めているのは・・・」
そりゃぁ無理だ。
鉱石を求めるのは意味が解らないが、作られた物を買い付けて持っていくのは無理だ。そもそも、デ・ゼーウが求める物は、もう作っていない。と、思う。
それに、今ならドワーフが滞在している。鉱石を融通すれば、作らせる事ができると考えたのだろう。
種族の問題でなく・・・。
地域差からくる価値の違いが、ここまで大きくなっているとは思わなかった。
チアル大陸では、武器や防具は大量に出回っている。
それらを、買い付けようとしても、他大陸の人には難しい問題がある。輸送の問題を解決したとして、売れ筋が違いすぎて、数が出回っていない。武器や防具だけではなく、日用品も同じで、既にチアル大陸では作られていない物もあるようだ。
そのために、チアル大陸の鍛冶職に注文を出すのなら、鉱石を仕入れて街に居る者たちに作らせる方がいいだろうと考えたようだ。
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