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第二十八章 新婚
第二百八十八話
しおりを挟む湖の集落に行く前に、フラビアとリカルダから報告を受ける。
湖の集落は、ギュアンとフリーゼが仕切っていたのだが、人が増えた。フラビアとリカルダも運営の手伝いを行ったが、限界が近いようだ。
元々は、別荘地にする予定で整備を行っていた。
そのために、交通の便や、移動のしやすさや、生活を行う為の設備が少ない。
フラビアとリカルダは、馬車の本数を増やして対応を行っていた。
「そもそも、湖の集落は、別荘地だぞ?そこに、利便性を求めるような奴は、他に移動した方がいい」
俺の言葉に、フラビアが反応した。
どうやら、最初はそのつもりで受け入れを行っていたのだが、近くには自由区しかなく、商業区のような大量に購入できる場所がなかった。
そのために、商業区まで買いに行くと、今度は荷物の運搬に時間がかかるようになってしまう。
この循環が悪い方向に転がってしまった。
「そうか・・・。商店か・・・。ちなみに、”湖の集落”の戸数は?」
「把握できているのは、23です」
「ギュアンとフリーゼを入れてか?」
「はい」
23。増えるとしても30位だ。限界集落よりも少しだけ多いと考えると・・・。辻馬車の本数を増やすよりも、移動販売を行う馬車を作った方がいいかもしれない。
「フラビア。リカルダ。これから、言うような施策を行ったとして、十分に満たせられるか考えてくれ」
「??」
不思議そうな表情をする。二人に、移動販売を行う馬車を説明する。
行商と同じ仕組みだ。
それを、”湖の集落”と商業区を、往復させる。
「行商ですか?」
行商と同じだが、同じ場所を繰り返し移動するのだから、移動販売がしっくりくる。
途中の自由区に寄ってもいいけど、決められた時間に、決められた場所に行くように調整すれば、それは商店と同じような物だろう。
代理購入に近いけど、比較的、購入頻度が高い物や消耗品は、常に仕入れておけばいい。
これは、行商と同じだ。フラビアとリカルダもイメージがしやすいだろう。
「そうだ。行商は、荷馬車を使うけど、こっちは馬車を使う。人も一緒に運べるようにする。馬車を連結させる」
「連結ですか?」
人を運ぶようにしておけば、”購入が出来なかった”と文句を言われた時に、商業区まで連れて行けばいい。そのための足として利用ができる。
「そうだ。しっかりとした道を作れば、馬の負担も少なくなるだろう」
道の作成が大前提だけど、できるだけ直線にしておけば、負担も減るし、レールを引くことも可能になる。
最終的には、電車とは言わないけど、レールの上を走らせたい。
「大規模な行商だと考えれば・・・」
イメージが難しいのだろう。
大規模な行商だと思ってくれれば十分だ。
「そうだな。商隊だと思えばいいだろう。”湖の集落”に商店を作るよりはいいだろう。移動販売に無いものなら、そのまま馬車に乗って商業区に買出しにいけばいいだろう?」
「人選が難しいです」
「そうだな。商品は、スキルカードでのやり取りではなく、各商店と”客”とのやり取りを考えている」
「??」
通貨の導入だ。
二人に説明を行う。
元の世界にあったような、通貨制度の導入は難しいと、考えている。
状況に合わせて、やってみればいいと考えている。まずは、スキルカードの代わりに行政区が発行する札を使うようにする。
”湖の集落”に住んでいる者たちは、行政区で”割符”を購入する。
この購入時に、移動販売を行う者の報酬が加算される。その後、購入する時に、割符で移動販売馬車から商品を購入する。商店は、貰った割符を行政区でスキルカードと交換する。
割符なので、切った枚数は把握が可能だ。不正はできるだろうけど、メリットが少ない。
割符が扱える商店を行政区で選別すればいい。この仕組みを、広げていけば、いずれは通貨と同じように取引ができるようになる・・・。と、いいな。
「どうだ?」
「解ったような・・・」
シロは、話を聞いていたが途中で諦めた様だ。
ギュアンとフリーゼに話を聞きに行くと言っていた。
フラビアとリカルダも、どちらかがシロに着いていこうとしたが、二人で話を聞くようにつたえた。
「ひとまず、理解したことをまとめてくれ、あと、移動販売馬車の責任者は二人にするからな」
「「??」」
ここまで話をしたのだから、わかるだろう?
それに、シロの従者なら、どちらかが居ればいい。常に二人で居る必要はない。
「それで、神殿区に居る子供たちを使って欲しい。いわゆる、手伝いだな」
神殿区の子供たちは、一時は数が減っていると報告があったが、昨今、他の大陸・・・。主に、中央大陸から流れてきた集団の中に、子供が多くいる場合があり、神殿区で子供たちを保護しなければならない状況になっている。
「え?」
フラビアは、状況をなんとなく感じたのだろう。
納得した表情をしている。
「リカルダ。子供に移動販売を教え込んで欲しい」
「あっ!はい!」
理解ができたのだろう。
神殿区では、子供たちに文字の読み書きだけではなく、簡単な計算も教えている。
最終的に、どんな職業を目指すにしても必要な知識だ。
それらを実践で試す機会を与えようとしている。
テストケースとなれば、行政区から委託される形で、洞窟区やヒルマウンテン、ブルーフォレストとのやり取りを行ってもいいと考えている。それぞれには、行商が居るのだが、行政区が仕切るのは、行商よりも値段は高くなるが、行政区からの割符での商売が可能だという部分に、メリットを感じてくれたら嬉しい。
失敗してもいい施策なので、気楽に考えていられる。
失敗したら、貨幣の導入を遅らせればいいだけだ。
「わかりました。子供たちの為・・・」
「そうだな。それと、”湖の集落”に商店を作る必要がなくなるメリットが大きい」
「え?」
商店は作りたくない。
せっかく、商業区という場所を決めたのに、それを無視して商店が作られるのなら、いろいろな場所に出来てしまう。
それは避けたい。商人が嫌いではないが、目の届く範囲に留めておきたい。
「移動販売が商店だろう?毎日は無理でも、隔日くらいには、小さな市が開かれることと同じだぞ?常設の商店が欲しければ、それこそ、”湖の集落”に住むな・・・。と、いいたい」
小さな市になる位の馬車が必要だな。
2連結では足りない可能性があるけど、多くなっても30戸だろう?気にしなくていいかもしれない。
3連結くらいまで考えておけばいいだろう。
「・・・」
フラビアもリカルダも内容は理解ができるのだろうけど、何か釈然としない雰囲気がある。
「なにか?考えや疑問があるのなら、聞くぞ?」
二人から、切実な訴えとして、『”シロの従者”を辞めたくない』と言うのをいろいろな言い方で、告げられた。
「ん?辞めなくていいぞ?むしろ続けて欲しい」
「え?」「??」
「最初の事は、交代で移動販売に着いて行く必要があると思うけど、しばらくしたら、冒険者たちを雇ってもいいし、それこそ神殿から巣立った者たちの仕事としてもいいと思うぞ?」
二人は、お互いの顔を見て、納得できたのか、計画実施に当たっての考えられる疑問をぶつけてきた。
すぐに答えられる質問は、答えを告げた。答えられそうにない質問は、時間を置いて検討すると約束した。これは、ルートガーに投げないほうがいいだろう。そろそろ苦情の嵐が吹き荒れそうだ。
ひとまず、”湖の集落”商店問題は、方向性が決まった。
責任者の二人は、お互いでまだ何か確認を行っているが、疑問点が出たらまとめておくように伝えて、ギュアンとフリーゼの所に向かった、シロを探すことにした。
本来の目的である。ギュアンとフリーゼとの話し合いは、すんなりと終わるといいな。
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