スキルイータ

北きつね

文字の大きさ
上 下
283 / 323
第二十八章 新婚

第二百八十三話

しおりを挟む

 ルートガーも実際に使われ始めた時期や言葉が産まれた経緯は把握していなかった。クリスは、俺が何を問題にしているのか解っていない。ルートガーもクリスも小さな村や町の・・・。支配層の人間だ。

 支配層から見れば、身分は解りやすい指標になる。対応する態度を簡単に選択ができる。

「わかった。ルート。他には?」

「他?」

「言葉遊びで、他人を傷つけている連中が居るのか?」

「わからない」

 ルートガーを見つめているが、本当に解らないようだ。
 長老衆よりも、市井に詳しい人間に聞いた方がいいのか?

 クリスも俺が気分を悪くしているのは解っているが、根本の理由が解っていない。
 俺もそうだが、身分による差別を受ける事がない状況で生活していると、感じなくなってしまうのだろう。

 出会った頃のシロは酷かったが、あれは偏見からの差別だ。偏見が無くなれば、ルートガーやクリスよりも身分による差別を行わない。元々の価値観が壊れてしまったから、身分に拘らない状況が自然だと思えているのだろう。

 身分を使って交渉することは容認できる。
 対外的な身分は必要になってくる。

「カズトさん。まずは、”ダンジョン孤児”という言葉を禁止するのではダメですか?」

 クリスが言いたい事もわかるが・・・。

「それでは、違う言葉が産まれるだけだ。多分だが”ダンジョン孤児”という用語を使っているのは、同じ孤児や流れてきた者たちが多いのではないか?」

 ルートガーがクリスの言葉を引き継ぐように質問をする。

「産まれる言葉を禁止し続ければ、治まるのでは?」

 放送禁止用語がどうなっているのかを知っている。
 一つの言葉を禁止すれば、別の団体や別の考えを持つ者たちから、横やりが入って、”禁止”用語が増えていく
 そんな堅苦しい状況は勘弁して欲しい。

「無理だな。現実的ではない」

「なら、どうしたらいい」

「産まれた言葉は消えない。だからこそ、使った者に罰を与える。そうだな・・・。行政区で使っている者を処罰すればいい」

「・・・。え?処罰?」

「当然だ。行政区で働く者たちは、エリートなのかもしれないが・・・。解りやすく言えば、身分制度を作った場合には、行政区で働く者たちは、産まれたばかりの赤子よりも身分としては下だ」

「え?」「は?」

 二人が、驚いて俺を見て来る。
 何を驚く所がある?

「なんだ?」

「それは・・・。さすがに無理があるのでは?」

 ルートが言葉を選んで、苦言を呈している。
 俺も、実際には無理があるとは思っているけど、権力に近いほど身分は下に置いておかないとダメだ。建前だけになるかもしれないが・・・。

「なぁルート。気になったから聞いておくけど・・・」

 やはり、問題が出始めているのか・・・。”ダンジョン孤児”なんて言葉が産まれていることからも、行政区は特権階級だと勘違いをし始めている者たちがいるようだ。

「行政区は、住民の生活をサポートする。この大陸のサーバントだ」

 やはり、身分制度は必要なのか?
 役割では理解ができないようだ。

「サーバント?使用人ということか?さすがに無理があるぞ?」

「何が無理だ。行政区の作業は、この大陸の生産に何も寄与していない。選ばれた者たちではない。ただ、集められたスキルカードの使い道を考えて、できるだけ公平に、そして無駄が無いように再分配するだけだ。違うか?スキルカードを税として集めなければ、再分配の必要はない。その代わり、皆が自分の困らないように、道を作って、ルールを決めて、自分や家族を守ればいい。それができれば、行政区はなくても困らない」

「秩序が守られている!」

「秩序?誰の為の秩序だ?」

「それは・・・」

「ルート。気が付いているのだろう?俺やお前や長老衆が居なくても、社会は成り立つ」

「違う。違う。必要なのは、権力と秩序だ」

「秩序は必要だが、行政区が必要な理由にはならない。行政区が無くなれば、力が秩序を作る。弱い者が搾取されるだけの、力が基準な社会が構成されるだけだ。俺は、力やスキルカードの数で決まる社会がいいとは思っていない。だから、行政区を作った。力以外の曖昧な基準で運営できるようにした」

 クリスは、ルートガーの袖を握っている。
 俺とルートガーが喧嘩別れするのがクリスにとっては悪夢なのだろう。ルートガーが持っている力は、俺から貸し与えられている物だと勘違いをしている。ルートガーの力は、権力でも知力でも魅力でも武力でもない。調整能力だと、クリスだけではなく、ルートガー本人も気が付いていないのだろう。

「なら、何が必要だ!」

「ルート。落ち着けよ。民衆が求めるのは、公平な税制と公平な裁判だ。そして究極的に・・・。民衆が求めるのは、”甘い毒”だ」

「甘い毒?」

「そうだ。『収入の半分だった税が6割を税で取られるが、毎月レベル3のスキルカードを5枚。行政区で”平等に配布”する』のと、『収入の半分だった税を収入の4割5分にする』では、前者を好む者が多い。まぁ数字は適当だから、しっかりと調べないとダメだろうけど・・・」

 俺の言葉を受けて、ルートガーは考え込んでしまった。

「カズトさん。ルートも、行政区も、長老衆も、しっかりと皆に不満を与えないように平等に、いろいろな事を実行していますが、”ダンジョン孤児”という言葉が産まれてしまいました。これ以上は、難しいのでは?」

 クリスが、自分で答えを語っているのに気が付いていない。
 ”不満が無いように平等に”考えていたから産まれたのだ。

 別に、言葉が産まれたのは自然な流れで、ある程度はしょうがないと思う。しかし、気持ちが悪い言葉だ。人を見下し、差別し、自分の優位を確保しようとするくだらない思考が見え隠れする。人と比べなければ、自虐で終わっているのなら出てこない感情の表れだ。
 ただ、まつりを行う者が許容していい話ではない。

 たしかに、民衆が勝手に身分を作って、勝手に差別し始めるのは、楽だ。
 勝手に、対抗意識を持ってくれる。それが、まつりの失策だとしても、”平等”という甘い言葉でごまかしができる。その上で、公平にしようとする者を平等ではないと、貶すことが出来てしまう。民衆が民衆を差別して、まつりの失策を隠してくれる。タブーを作って、言論を自由を権利を義務を放棄してくれる。これほど簡単で楽なことはない。

「クリス。それは、解っている。ルートたちがしっかりと考えているのも、俺が言ったことを忠実に守ろうとしてくれているのもよくわかる」

 ルートガーも考え込んではいるが、話は聞いているようだ。

「なら・・・」

「だからこそ、”ダンジョン孤児”なんて言葉が産まれてしまった。もしかしたら、探せばもっとあるかもしれない」

「それは・・・。でも!だったら・・・」

 不可能だと言いたいのだろう。
 クリスがルートガーや長老衆の処罰を心配しているのなら、杞憂だ。主に、俺が楽をするために・・・。
 だから、いい着地点を探したい。俺の本音だ。

 俺は、家に籠って好きなことだけをしていたい。

「クリス。俺は、”平等”が嫌いだ」

「え?」

「平等は、差別を産む」

 平等になってしまっているから、劣等感や不公平感が産まれる。これが実際に”劣等”や”不公平”なら対処ができる。しかし、そう感じてしまっているだけなのだ。だから、対処ができない。ルートガーたちはよくやっていると思う。
 よくやっているからこそ産まれてしまった。

「カズトさん。言っている意味が解りません」

 そうだろうな。
 ルートガーはまだ何かを考えている。クリスには、解らないだろう。差別されたとしても、困らない生活をしていた。
 ”ダンジョン孤児”という言葉を作った者たちは、自分たちは頑張っているのに、いい暮らしをしている人たちが居る。自分たちよりも、不幸になっている者たちが必要だっただけだ。

「完全な平等は、存在しない。そんな物ができるとしたら、皆が平等に不満を持って過ごしている世界だけだ」

 ”ダンジョン孤児”という言葉が、見下す意味になってしまっているのを覆せばいい。

「ツクモ様?」

 思考がまとまったのか?ルートガーがクリスを目線で制してから俺に向き直った。

「どうした?」

「先ほどの話で、平等と公平と言われましたが、私には解りません」

 まぁそうだよな。
 両方とも、耳障りがいい理想を語るときに言われる言葉だからな。明確な違いは、平等に扱われたことがある人にしか解らないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...