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第二十七章 玩具
第二百七十九話
しおりを挟む俺は、カトリナと打ち合わせをするために、カトリナの事務所に残る事にした。俺に、話を聞く為に、ルートガーがついている。事後で話を聞いたり、まとめられた書類を読むよりも、最初から話を聞いていた方が良いと判断したようだ。
シロは、フラビアとリカルダが待っていると、ルートに教えられて、カトリナに挨拶だけをして、湖の畔にある家に急いだ。馬車は、シロがそのまま使うことになったが、御者だけはカトリナから借りることになった。ルートガーが連れてきた御者は、ルートガーの護衛を兼ねている。
俺の前には、カトリナが居る。
ルートガーは、俺の後ろに控える形になるのが正しいのだが、将来の長老衆候補であるルートガーは、カトリナとしても無視してよい相手ではない。
カトリナと詳細の話を始める前に、シロが家に向かった。湖の家に帰る前に、行政区でクリスティーネにルートガーの言葉を伝えることになる。伝言は、カトリナから借りた机で書いた物だが、口頭でも”ツクモ様の用事に付き合うことになった。詳細は、書簡にした”と言い訳とも愚痴とも取れる内容だ。シロは、俺の顔を見ていたが、別に困る内容でもない。事実だけなので、そのままクリスティーネに伝えてもらう。
シロの見送りに出ていたカトリナが戻ってきて、先ほどまで座っていた場所に座る。
メイドだろうか、飲み物を持って入室してきた。
「それで・・・。ツクモ様」
「玩具というか、娯楽用の遊びをいくつか流行らせてほしい」
用意していたメモ書きをテーブルに出して、二人に見せる。
「それだけですか?」
カトリナは、玩具の図案を見て、問題は無いと判断したのだろう。
「・・・。そうだな。ひとまずは、だな」
流れが出来てしまえば、あとは、流れを加速させて、終着点を用意すればいい
「ひとまず?」
「最終的には、カジノ。そうだな。賭け事だけじゃなくて、イベントを執り行う場所を作りたい」
「え?」「は?」
二人の表情は理解できる。
一度は、麻雀やトランプを作った時に、計画して撤回した。ヨーンたちも賭け事は好きだが、家族を顧みない奴らではない。それに街の規模が大きくなり、皆が求める物が変わってきている。
頭がいい奴は、行政区で働いたり、商人になったり、前よりは道が開けている。力がある者は、コアたちのダンジョンに挑戦してもいい。素早い奴も同じだ。しかし、人はそれだけではない。特技を活かせる場所を作りたい。カジノは、そのおまけだ。
「なぁ?」
横から、ルートガーが俺を覗き込むように話しかける。横を向くのが面倒なので、ルートガーにはカトリナの横に移動するように目線で伝える。息を大きく吐き出しながら、場所を移動する。
「なんだ?」
「カジノはいいのか?」
「あぁ”カジノ”と言っているけど、実際に賭けるのは”コイン”にする」
「「コイン?」」
実は、こいつら中がいいのではないのか?
見事にシンクロしていた。
「あぁカジノの入口で”コイン”を購入する。そのコインで、カジノを楽しむ」
「ツクモ様。それでは、結局スキルカードがコインに変わっただけなのでは?」
「そうだな。スキルカードとコインの変換は、カジノの入口でできるけど、コインをスキルカードへの交換は行わない」
「「え?」」
ほか、絶対にタイミングが合っている。
「なぁそれじゃ、賭け事にならないのでは?それに、遊ぶだけになるのだろう?意味があるのか?」
今度は、ルートガーが質問なのか?
交互に質問するルールでもお互いに作っているのか?
「ルートが言った遊びだよ。カトリナ。ボーリングの状況は?」
カトリナが”はっ”とした表情を浮かべる。
「盛況です」
予想通りだ。
数字を見ていれば解るのだけど、それでもカトリナやルートガーが考えて、自分で言わせるのに意味がある。
「どうせ、低いレベルのスキルカードを賭けているのだろう?」
「はい」
「それは、問題ではないが、今後、それを仕切るような奴が出てくると困る」
「仕切る?」
「あぁルートは、ボーリングは?」
「時間がない」
「クリスたちは?」
「何人か、やっている」
「そうか、その中で、飛びぬけてうまいやつが居たとして、周りで見ている奴らが、クリスたちの誰が勝つのか賭け始めたとして・・・」
二人とも、ここまで言えば解るのだろう。
「そうか、その賭けを仕切る奴が出るのがまずいのだな」
「そうだ。その賭けを仕切っている奴が大儲けしようと思ったら、ボーリングのうまいやつに負けるように脅したり、道具に細工したり、いろいろ考えられるだろう?」
「「・・・」」
この世界は、よく言えば純粋だ。
「そうなる前に、賭け事を、カジノを作って、長老衆やルートや行政の仕切りにしたい」
「なぁそれなら、別にスキルカードで返してもいいと思うぞ?」
「ダメだ」
「なぜ?」
「楽を覚えてしまうからだ」
「”楽”?」
「そうだ。カジノで、スキルカードを稼いで、日々の生活ができる奴が現れるのは、しょうがない。しかし、一回の賭けで、レベルの高いスキルカードを得た者が、その成功体験がある為に、『今日は”運”が悪かった。明日なら・・・』と、のめり込むのが怖い」
「それは、コインでも同じではないのか?」
「そうだ。だけど、コインで得られるのは、少しだけ入手が難しい玩具だったり、家具だったり、ちょっと高めの食事処のチケットだったり、そういう物が入手できる」
「それなら・・・。ツクモ様。その商品は?」
「カトリナたちに用意してもらう。行政や運営団体が買い付ければいいだろう?」
「それで、この玩具との繋がりは?」
「それは、大会を開きたい。そのカジノ・・・。で!」
「「はぁ?」」
また、タイミングがピッタリだ。本当に、お互いに嫌いなの?
「大会?ボーリングだけじゃなくて?」
「そうだ。例えば、カジノで、1,000枚のコインを時間内に誰が一番増やせるか賭けてもいい。もちろん、優勝者には賞品だけではなくスキルカードを出してもいい。それを、玩具ごとでやれば盛り上がるだろう?」
「・・・」
「ツクモ様。その仕切りは?」
「仕切りは、行政区か長老衆だな。賞品の仕入れや会場の設営や運営を、商人たちに頼みたい。もちろん、人が集まるのだから、食べ物や飲み物も必要だろう?」
「なぁ本当に、玩具が必要なのか?」
「必要じゃないと言えば、必須ではないけど、なるべく、多くのプレイヤーが産まれて欲しい」
「プレイヤー?」
「そうだ。ボーリングが得意な奴は、麻雀が強いか?違うよな?」
二人とも黙ってうなずく。
「だから、沢山の玩具があれば、それだけ、その玩具を得意とする奴が出てくるだろう?行政で働けない。商人にも向いていない。でも、ボーリングはめちゃくちゃうまい。なら、最初は難しいかもしれないが、ボーリングで生活ができるようになったらいいと思わないか?」
「はぁ・・・。まぁいいです。俺は、貴方のやりたいことを、サポートするのが仕事ですし、頼まれていることです。今回は、先に教えていただけたので、対処が間に合いそうです。それで、計画書は?」
「ない。全面的に、ルートとカトリナに任せる」
「「はぁ?」」
「あぁあと、ノービスの連中に任せている、ロックハンドに、大きめのカジノを作りたい」
「ちょっと待て!」
「ん?できるよな?構想で解らないことは聞きに来てくれ」
「わかった。わかった。まずは、少しだけ、本当に、落ち着け。俺とカトリナに投げるのはいい。場所が、ロックハンド?いいのか?」
「ノービスの連中も、何か目玉が欲しいだろう?鍛冶をやっているから、音で住民も増えないだろうから、丁度いいだろう?歓楽街にしてしまえ」
「わかった」
「ツクモ様?」
「ん?」
「歓楽街というのは?食べ物や飲み物を提供して、遊びの場所で、合っていますか?」
「概ね、カトリナの考えている通りだ」
「わかりました。ノービスを巻き込んでいいですよね?」
「あぁ」
「わかりました。何が必要で、何をしたらいいのか、計画にまとめます」
「頼んだ。ルートもいいよな?」
「はい。はい。行政の手続きと、仕切りは”どこ”がいいのか調整する。多分、最初は長老衆になると思う」
「わかった。そうだな。最初は、長老衆で権利を委譲する方がすんなりと行きそうだな」
「そうだな。わかった。もう一つの平行になるから、優先はどっちだ?」
「カジノ計画は、カトリナの玩具開発が先行しないとダメだ。だから、カジノは後でいい」
「わかった」
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