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第二十六章 帰路
第二百六十九話
しおりを挟むカイとウミなら心配する必要がない。
カイとウミなら、港にすぐに到着するだろう。問題の解決は無理でも、原因に繋がるヒントくらいは探し出してくれるだろう。
「カズトさん。ぼくたちも・・・」
「そうだな」
シロと腕を組んで、港に向かう。
喧噪が大きくなってくる。
しかし、港から逃げ出した者が居ないのが気になる。
逃げるとしたら、海に逃げるか、俺たちがいる街道方面に逃げるしかない。
「カズトさん。もしかしたら、街道方面から、港に何かが入ったと・・・」
その可能性も考えられるが、俺たちを追い越していった者は存在しない。
カイやウミのように、草原を横切ってきたのかもしれないが、それでも2-3日の間は居なかった。
ゆっくりとした速度で、港に近づいていく、状況がはっきりと見えるようになってくる。
やはり、平原から侵入した者。多分、新種なのだろうけど、それが港の方向に、暴れたのだろう。エルフだけではなく、港に居たと思われる者や武装した者たちが死んでいる。
「シロ!」
「ダメです」
シロが首を横に振る。
すでにこと切れている。
カイとウミは?
どこかで、戦闘している雰囲気が伝わってくる。まだ戦っているのだろう。
「カズトさん!この方は」
最初に泊まった宿屋の主人だ。
息があるのか?
「シロ。頼む」
ステファナと分かれたのは、間違いだったかもしれない。今、居ない者を考えてもしょうがない。スキルカードは十分とは言わないが・・・。揃っている。完治は無理でも、動けるくらいにはなるだろう。
「シロ。レベル5治療は、何枚ある?」
「ぼくは、7枚です。レベル7回復は、3枚あります」
「わかった。レベル8範囲が2枚ある。使ってくれ」
「はい」
まずは、人手を確保する。
2回しか使えない。
「シロ。レベル6隠密を使うぞ」
姿を完全に隠すのは無理でも、認識をし難くはできる。現状では、これ以上は無理だ。
「え?」
「助からなかった者の家族から恨まれたくない」
「わかりました」
トリアージ。
緊急は状況で、助けられる数にも限界がある。その時には、必ず発生する。
”なぜ”自分の家族を助けてくれなかったのか?
運が悪かった。
助ける側からしたら、この言葉に限る。しかし、助けられた者でも、助けられなかった者との違いを”運”だけで片づけてしまうには重すぎる。
「おい」
「・・・」
「おい」
治療を終えた、宿屋の主人に声をかける。
「うぅぅぅ」
「大丈夫だ。治療を行った」
「・・・。誰だ?」
「俺は?お前を助けた者だ」
「・・・」
「何があった?」
「わからない。いきなり、町の中で魔物が暴れだした。同時に、街道から、見たこともないような魔物が現れた」
「それで?」
「俺は、腕を・・・。あれ?腕の傷が・・・」
「レベル7回復で治した。違和感はないと思うが?」
俺が持っていた、回復だ。これで、俺が持っている回復は無くなった。
「レベル7!」
「きにするな。それよりも、やって欲しい事がある」
「なっなんだ。レベル7に相当するような物はないぞ?」
「大丈夫だ。できるだけ助けたい。それで、息のある者を集めて欲しい」
「集める?」
「そうだ。それで、レベル7回復かレベル5治療を使う」
「え?」
「レベル8範囲を知っているか?」
店主は、首を横に振る。知られていないようだ。
「そうか、レベル8範囲は、スキルを範囲化するスキルだ。同時に使う事で、範囲が広がり、対象が複数になる」
「え?レベル8?」
「そうだ。できるだけ助けたい。手伝ってくれ」
「わっわかった。でも、魔物は・・・」
「そっちは、俺の眷属が対応している」
「大丈夫なのか?港の護衛や、ついてきた護衛もかなりの数が・・・」
「大丈夫だ。まずは、女性と子供から助けよう」
「わかった」
店主は、港では顔が知られている。俺たちが、説得するよりも安心してもらえるだろう。
それだけではなく、避難している者たちが居るとのことだ。
まずは、軽傷者を集めてもらって、レベル5治療で対応を行う。
治療した者は、店主から事情を聞いて、重傷者を集める。
範囲内に居れば、回復は可能だ。多少は、無理でもやりきるしかない。店主から、1回でひとまずは治療を行うことを提案された。元々の町の住民を優先したいようだ。この辺りのトリアージは、店主と雑貨屋の女性に頼むことにした。俺には判断が・・・。面倒だ。
治療系は、シロが使ったほうが、効果が高い。
治療と回復を使い切った所で、カイが合流してきた。
「カイ。ウミは?」
『ウミは、魔物を運んできた者たちを監視しています』
「ん?運んできた?」
『事情が複雑なのですが、白い装束を纏った者たちが、港に魔物を放ったのは間違いないようです』
アトフィア教か?
あとで、尋問しないとダメだな。そうだ。港にいる連中に、任せてしまえばいい。
「それで?」
『そこに、”できそこない”が乱入してきたようです』
「あぁ新種か?街道?草原からか?」
『わかりません』
「魔物と新種・・・。”できそこない”は?」
『討伐しました。”できそこない”は、倒した瞬間に黒い煙になって消えました。スキルカードは落としました』
「ん?スキルカードを落としたの?」
『はい。レベル7複製と、レベル6分析です』
「うーん。そうなると、ダンジョンの下層と同等だな」
『はい』
「わかった。ありがとう」
俺とカイのやり取りを心配そうに見ているのは、宿屋の店主と雑貨屋の女将だ。
「魔物は始末した。証拠は、スキルカードだけだけど、納得してもらえるか?」
「え?スキルカードが?」
「あぁ俺たちは、新種。”できそこない”と呼んでいるが、奴らを倒すと、必ずレベルが高いスキルカードを残す。素材にはならない」
「それは、ダンジョンの・・・」
「そうなる。だが、まだ何も解っていない。それよりも、警備隊の生き残りは居ないのか?」
二人とも、顔を見合わせて、解らないと伝えてきた。
居ないのなら、しょうがない。
そこで、港を仕切っているのは、森エルフの者たちだと教えられた。問題の解決を、エクトルに丸投げするのが決まった瞬間だ。
「そうか、それなら、港に魔物を持ち込んだ者たちがいる。どうする?」
「”どうする?”とは?」
「俺の眷属が捕まえているが、どうやらアトフィア教の関係者らしい。個人的には、何も知らないフリして、森エルフに送ってしまうのがいいと思う」
「あぁ・・・」「アイツら・・・。また・・・」
”また”女将は、何かを知っているのか?
「女将さん。”また”って何か、知っているの?」
「アイツら、何度か、森エルフに貢物だと言って、何かを運んでいた。それから、森がおかしくなった」
「・・・。それを含めて、知らなかったことにするのをお勧めするけど?」
「そうだな。貴方の言っている通りにしよう。厄介ごとは、責任がある立場の者に頼むのがいい」
どうやら、宿屋の主人と雑貨屋の女将が、この辺りを仕切っている者のようだ。救えたのは、僥倖だ。
エクトルたちとの顔つなぎには丁度いいだろう。
「俺は、カズト・ツクモ。草原エルフの所に、エクトルという者がいる。その者に、捕えた者や今までの経緯を説明してほしい」
「え?」「は?」
二人の名前を聞いて、エクトルに持って行ってもらう書類を記述する。
これで、エクトルが動けば大丈夫だろう。
もしかしたら、エルフの里を潰して、エルフが持っている物をアトフィア教の奴らは奪い取ろうとしていたのかもしれない。
現状の情報だけからは、これ以上は推測にしかならない。
モデストとステファナに頑張ってもらおう。
シロも戻ってきた。
治療を行って来たようだ。シロも解っているようで、感謝の言葉は受け取るが、感謝は”エクトル”に集中するようにしたようだ。草原エルフの統治が簡単にできるように考えたようだが、俺の思惑とも一致する。
スキルカードを使ったのは、シロだけど、スキルカードを渡して自由に使うように言ったのが、”エクトル”の主人であると伝えたようだ。間違っていない。嘘ではない。
俺が、それで”エクトル”に指示を出したことにすればいい。あとは、口裏を合わせれば、統治のために使った事にすればOKだ。
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