スキルイータ

北きつね

文字の大きさ
上 下
267 / 323
第二十六章 帰路

第二百六十七話

しおりを挟む

 港に到着する前にやっておきたいことがある。

「モデスト。ステファナ」

 二人が、俺の前に来て、跪く。

「二人には、俺とシロから離れて、隠れてもらうよ」

 二人の顔に不満を示すマークが浮き出る。

「二人は、港を制圧する仕事があるから、俺たちと一緒にいる所は見られないほうが、最初はやりやすいでしょ?」

 ステファナとモデストは、お互いに顔を確認して、ステファナが前に出る。

「旦那様。私とモデストは、離れまして、夫婦として港に入ります」

「そうだな。その方が目立たないな。モデストの眷属を、従者として残してくれ」

「もちろんです」

 ステファナが、モデストに目で合図を送る。お互いの表情からは、すでに夫婦としてやっていけそうな雰囲気が漂っている。

 眷属が二人、俺とシロの後ろに移動してきた。
 従者になるようだ。名前は、モデストから聞かないで欲しいと言われている。モデストの眷属だと認識をしていればよいのだろう。呼びかけの必要があるときにも、モデストを名前として利用したい旨が告げられた。どうやら、眷属も同じ名前で問題はないようだ。
 シロが可愛く、”?”の表情を浮かべるので、頭を撫でておく。

 ステファナとモデストが、簡単に引継ぎを行う。
 シロの従者が居なくなるが、モデストの眷属がシロの従者の役割も行うようだ。眷属の二人は、男性と女性のペアになっている。

「シロ。大丈夫か?」

 女性のモデスト?と、話をしている。
 俺の問いかけに、頷いて答えるので、まだ少しだけ不安なことがあるのだろう。ステファナがシロの態度を見て、近づいていく。

「旦那様」

「どうした?モデストは、引継ぎはいいのか?」

「従者の仕事は、ほとんど・・・」

「そうなのか?」

「旦那様。お考え下さい」

「え?」

「お着替えは、旦那様が自分で為されますし、食事もほとんど、ご自分で準備をされます。従者の仕事は、カイ様とウミ様のお世話ですが、それも必要になることは少ないです」

「・・・。そうだな。基本、自分でやったほうが・・・。そうか、それで、従者としての仕事がないのだな」

「はい。他の方との連絡係のような者です。”旦那様と奥様のお側にいる”のが仕事になっています」

「そうか、なんか悪いな」

「今更なので、大丈夫です」

「そうか・・・。おっ。ステファナの引継ぎも終わったのか?」

 ステファナとシロが頭をさげる。
 シロの引継ぎは、荷物の引継ぎが多いようだ。外に出していない荷物もあるから、それらの調整はステファナの仕事だ。

 細々した引継ぎも終わって、モデストとステファナは、一度、俺たちから離れる。
 新しく、今までは隠れて護衛していた二人が従者に変わる。

 俺とシロと二人の従者は、歩いて港に入る。
 ステファナとモデストは、馬車を使う。

 カイとウミは、まだ持ってきていない。二人なら大丈夫だろうと、気にはしていないが、シロが少しだけ心配になってきているようだ。

「カズトさん。カイ兄とウミ姉は?」

「森の探索をしているからな。港で落ち着いたら、合流してくるだろう」

「そうですね」

 シロが後ろを振り返ると、遠くに森が見えるだろう。
 カイとウミが何をしているのか解らないが、好きにさせておこう。

 ステファナの里帰りという意味合いもあるが、カイとウミの里帰りの意味合いもある。

「心配しなくても大丈夫だろう」

「はい」

 シロが、俺の横に来たので、頭を撫でておく、手を出すと腕を絡めてきた。

「どうした?」

「いえ・・・」

「ん?」

「”帰る”場所が有って、待っている人が居るのが嬉しくて・・・」

 ”帰る場所”
 確かに、俺たちの帰る場所だ。

 皆が待っている。待っていてくれると嬉しい。

「そうだな。早く帰らないと、文句を言い出しそうな連中が多いな」

「・・・」

 ルートは確実に文句を言ってくるだろう。
 他にも、数名の顔が浮かぶ。

「ルートとか、遅いとか平気でいいそうだ」

「そうですね。あと、意外なところで、カトリナ嬢も文句をいいそうですね」

 そうだな。
 カトリナには、何か”ネタ”になりそうな物を与えないと納得しない可能性がある。遊戯施設は作っているだろうから、今度は”おもちゃ”でも作るか?

 忘れては”ダメ”な二人を思い出す。

「そうだな。シロ。フラビアとリカルダへの土産を買って帰ろうな」

 シロを慕っている二人なら、シロから渡せば、問題はないだろう。

「はい!クリスティーネにも・・・」

 すっかり忘れていた。
 シロに言われて、思い出した。ルートと対になるような物でいいかと思うけど、エルフ大陸に、そんな都合がいい物があるか?
 土産物屋なんて見なかった。商店はあるが、どう見ても”仕入れ”が、主な業務に見えた。

 そりゃぁそうだよな。
 ”観光”なんて考えられない世界だし、”土産”も同じだ。

「解っている。ギュアンとフリーゼにも買っていこう。それにしても、関係者が増えたな。」

「?」

「最初は、俺とカイとウミだけだったからな。それから、ライが来て・・・」

 最初は、どうなるかと思った。
 カイとウミが居なかったら、それから・・・。

「はい」

 昔はなしなど、意味がないと思っていたが、いろいろあった。
 物語の最終回が近づいてきたときの演出だが・・・。

 まぁ考えても仕方がない。

 シロと一緒に、港を目指す。

 港が見えてからが遠い。
 徒歩だから、当たり前と言えば、それまでだが、移動手段くらいは確保しておけばよかった。

 もう、遅い。
 今から確保しても、馬車を待っている時間で、港まで到着してしまう。

「カズトさん?」

「あぁ・・・。馬車が必要だったかな?と、考えただけだ」

「うん。ぼくは、カズトさんと歩けるので、馬車がなくても・・・。ないほうがいいです」

「そうか?」

「はい!」

 シロが嬉しそうにしている。
 疲れていないのなら、問題はないな。

「そういえば、シロは、訓練は続けているのか?」

「もちろんです!カズトさんを守る、最後の砦がぼくです。カズトさんが強いのは解っていますが・・・」

「そうだな」

 エルフ大陸に来てから、身体を重ねた時に、シロにお願いされたことがある。

 心境の変化なのかわからないけど、シロは俺には一秒でも長く生きて欲しいと伝えてきた。
 凶刃に倒れるのなら、自分が先に死ぬ。一秒でも、俺が居ない世界で生きていたくない。だから、死ぬときは一緒だとは言わない。”1秒でも、1分でも、1時間でも、1日でも、1年でも、長く生きて欲しい”らしい。
 俺も、むざむざシロを死なせるようなことはしない。
 俺も同じ気持ちだ。だけど、シロの言葉を尊重する。実際には、その時になってみないと・・・。俺はシロよりも長く生きるつもりはない。

 そのうえで、死ななければならない状況になっても、みっともなくても、汚くても、どんな方法でも、二人で生き残る方法を考える。

 俺の考えは、シロには伝えていない。
 だけど、二人で生き残る道を探そうとだけ伝えた。シロが納得しているか解らないが、”死”を選択して欲しくない。”死”を選ぶよりも、難しく、困難で、醜く、汚く、みじめかもしれないけど、シロとなら大丈夫だ。すべてを失っても、シロが居れば・・・。

「あ!」

 シロが指さす方向に、港の柵が見え始める。
 この大陸では、港を襲う勢力は皆無だ。

 港以外は、エルフが治めている。治めていた。力が無ければ、無条件で殺される。そんな場所だ。

 最初に感じた違和感は、森でわかるのだが、魔物が極端に少ない。小動物が少なくなっているから、捕食する魔物も少なくなっているのだろう。生態系が崩れたのは、森だけではなかったようだ。島全体がおかしくなっている。

 森エルフも、草原エルフも、農業をしているようには見えなかった。
 ”森の恵”だけで生活していたのか?

 根本から、変えないとダメかもしれないな。
 これだけの土地があり、水がある場所で、農業をするという発想にならなかったのか?

 豊かな森ならよかったのだが、どこかでバランスが崩れたのだろう。最初は、些細なことだったのかもしれない。
 それが、大きなうねりになって、エルフ大陸を覆いつくすまでに大きくなってしまった。

 ん?
 港が騒がしい?
しおりを挟む
感想 193

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

慟哭の時

レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。 各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。 気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。 しかし、母には旅をする理由があった。 そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。 私は一人になったのだ。 誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか…… それから母を探す旅を始める。 誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……? 私にあるのは異常な力だけ。 普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。 だから旅をする。 私を必要としてくれる存在であった母を探すために。 私を愛してくれる人を探すために……

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...