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第二十六章 帰路
第二百六十二話
しおりを挟むモデストの行動は早かった。
俺からの指示を受けて、即座に行動を開始した。
俺たちへの頼み事もしっかりと忘れない辺りは、ルートに通じるものがある。遠慮がなくなってきたのはいいことだ。俺やカイやウミにしかできないことを、無理にやろうとして失敗するよりはいい。
モデストの要請を受けて、草原エルフからの里から、森エルフの里にまっすぐに伸びる一本の道を作成した。
木々をなぎ倒して、道を通した。同じように、沼エルフと草原エルフも道を通した。
沼エルフと草原エルフの道の間には、モデストからの依頼通りに、関所を設置する。壁を迂回されたら、関所の意味はないが、関所を閉じるというオプションを考慮できるようにする。モデストの語り口調から、エクトルたちは森エルフと沼エルフが共謀して草原エルフに襲いかかっても怖くないと思っているようだ。実際に、エクトル一人では難しいだろうけど、草原エルフを鍛えることができれば十分対応は可能だろう。
関所の壁は、草原エルフの里に作る予定の堀や壁まで伸ばす。ここまでは、俺の方で手配した。村を守るための壁は、草原エルフたちが作ることになる。エクトルが姫に進言して決められたようだ。俺たちが作っても良かったのだが、モデストから”草原エルフが、依存する”のは避けたいようだ。
「さて、行くか!」
後ろを振り返ると、シロがステファナの背中を押している。
俺の言葉で、シロとステファナとカイとウミが歩き出す。
草原エルフの里で、解ったことだが、ステファナの母親の墓標は、森エルフたちに破壊されていた。父親の墓標は、そもそも存在していなかった。
今、俺たちが向かおうとしている場所は、ステファナの記憶から、母親と訪れたことがある場所だ。遺骨は存在していないが、ステファナの両親が安心して眠れる場所を作ろうと思っている。
暫く、森の中を進むと、視界が開けた。
丘から崖になっている場所まで移動したようだ。
「あぁぁ・・・」
ステファナが、走り出して、崖の手前に生えている木に近づいた。
この場所で間違いはないようだ。
何の木かわからないけど、ステファナは木に縋り付くようにして泣き始める。
「シロ」
「はい」
シロにはステファナの近くに居てもらう。何が正しいのか判断はできないが、ステファナを一人にするのは間違っている。
シロが、ステファナに寄り添うようにしている。美形二人だから絵になっている。ステファナが、シロに抱きついているのを見ると、大丈夫なようだ。シロを拒絶するようなら、なにか考えなければならなかった。
「カイ。ウミ。少し、俺は少し周りをみたい。どちらか、一緒に来てくれ」
”にゃ”
ウミが俺の近くまで来た。
「カイ。シロとステファナを頼む」
カイは、頭を下げて、シロとステファナの居る場所に移動する。
「ウミ。辺りを見回るぞ」
『うん。カズ兄。崖の下に、魔物が居るよ?』
「あぁ簡単に降りられるのなら、始末しておこう」
『わかった』
俺の索敵にも引っかからないし、本当にこの森は死んでいる。
上位に位置していたフォレストキャットを追い出して、草食動物を食用として狩っていた。小動物や魔物が少なくなれば、それを捕食する動物や魔物が減るのは当たり前で、そうなると草食動物が餌にしている物が減る傾向にあり、減ってしまった草木を人が手入れをしていないから、下草が育たたなくなる。今はまだ、その程度で止まっているが、この状態で10年もしたら木を支える土が悪くなってしまうだろう。土は固くなっているし、森が限界だ。
「ウミ。行くか!」
『うん』
ウミを連れて、森に戻る。
迂回するようにして、崖の下に到着した。
確かに魔物は居たが。
『カズ兄』
「あぁ」
目の前で、弱っては居ないが、狩る必要性を感じない。
ホーンラビットが数匹居るだけだ。崖に、クレバス?があって、その中に住んでいるようだ。クレバスの幅は、4-5cmで人が入るのは難しい。小動物がギリギリだろう。
『カズ兄。中を見てきていい?』
「いいぞ。敵対しないのなら、討伐しなくていい。襲われてからでも、ウミなら対応できるだろう」
『わかった』
ウミが、クレバスに入り込んでいく、奥は広くなっているのか、入り口さえクリアできれば、すんなりと入っていけるようだ。
崖の周りには、草木がなく、水も見当たらない。小動物が生活するのには、厳しい状況なのかもしれないが、森の中で、森エルフたちに狩られるよりは良いのかも知れない。小動物が減っているのなら、増える方法を考えなければならないし、そのためには、しっかりとした間引きを実行できる状況にならないとダメだろう。
シロを待っている時間を利用して、この辺りの環境整備を考えてみよう。
そもそも森エルフたちが考えなしに、フォレストキャットを討伐したのが問題なのだ。森エルフだけの問題なら、無視して帰ろうと思うのだが、草原エルフにも影響が出てくるだろう。それだけではなく、この大陸に住んでいる者たちには影響が出てしまう。
何をどうしたら良いのかは、エクトルや草原エルフに任せるとして、主な方向性は指し示したほうがいいだろう。
生き物が少ない森だと思ったが、本当に死に向かいつつ有る森だとは思わなかった。
クレバスを見ていると、ホーンラビットだけではなく、虫が出入りした雰囲気がある。水辺があるのかもしれない。クレバスの周りに、小動物が身を隠せる場所を作成すれば良いかも知れない。
『カズ兄。中は、すごく広い。明るい場所もあって、草もある!』
『水はあるのか?』
『うん。上から、ポタポタたれている』
光が差し込むような場所があるのなら、中の環境は心配するほど悪くない。
『わかった。ウミに攻撃してくるような生物は居ないのだな?』
『うん。でも、みんな・・・。弱っている』
『そうか・・・。ウミ。話せる生物はいるか?』
『ダメ』
『ホーンラビット以外は、虫とかか?』
『うん。あと、小さいやつばっかり』
『魔物は?』
『うーん。ホーンラビット以外には、ネズミが居る。あっコウモリも居る』
果物があればいいだろうけど、クレバスでは難しいだろう。
『シロ!シロ!』
『はい。カズトさん』
『ステファナの状況は?』
『落ち着いて、墓標を作りました』
『わかった』
一旦、シロとステファナとカイと合流してから考えたほうが良いだろう。モデストを呼び出してもいいかもしれない。
崖の上に戻って、墓標に手を合わせてから、モデストに連絡した。
モデストも森の異変には気がついていたようで、こちらに向ってくるようだ。
「旦那様。ありがとうございます」
「あぁ、悪いな。俺とシロの旅行に付き合ってもらって、巻き込んでしまったな」
「・・・。いえ」「ステファナ。これからも、シロを頼むな」
「はい!」
ステファナも解ってくれたようで、それ以上は感謝の言葉も、謝罪の言葉も口にしない。
「それで、ステファナ。教えて欲しい。この森は、こんなにも静かなのか?」
「いえ・・・。私の記憶では、この辺りには、魔物は少なかったのですが、狼系の動物が群れで生活をしていたはずです」
「そうだよな。下のクレバスで、ホーンラビットを見かけたが、それだけだ。異常な状態だよな?」
「はい。何があったのかわかりませんが、鳥たちの声や、虫の鳴き声も聞こえないのは異常だと思います」
「シロ。何か、大きな動物や魔物の気配は感じるか?」
墓標に祈りを捧げているシロに話しかける。
「いえ、何も感じません」
さて、どうしたものか・・・。
クレバスの中だけでも、しっかりと生態系が整えば、少しは変わるかもしれないな。
俺ができるのはそこまでで、あとは、エクトルと草原エルフに対応を頼むとするか・・・。支援物資が必要になるかもしれないな。食料とか・・・。
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