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第二十六章 帰路
第二百六十一話
しおりを挟む「何者だ!」
わらわらと、エルフたちが湧いてくる。
確かに美形揃いだけど・・・。
シロを見ると、シロが不思議そうな表情で俺を見る。
森エルフたちが俺たちを威嚇するが、無視を決め込んで、カイとウミが作った道を進む。
横を通り過ぎる時にも、目を向けるのも面倒だ。
攻撃してきたら、受け流して、殺してしまえばいい。シロには、レベル5の結界と障壁を使わせている。
「カズトさん?」
「いいよ。どうせ、何もできやしない」
「そうですが・・・」
「どうした、なにか気になるのか?」
「いえ、ステファナとモデストの気配だと思いますが・・・」
気配?
強い者たちが急いでいる雰囲気はあるな。確かに、ステファナとモデストだろう。
「シロ。少しだけここで待ってみるか?」
「はい。それが”よい”かと思います」
「わかった。カイ!ウミ!湧いて出てきた、ゴミを無力化できるか?」
『容易く』『うん。大丈夫!』
「そうか、腕や足くらいなら、切り落としてもいいけど、殺すな」
『かしこまりました』『うん』
カイは、俺たちを見てから、森から出てきたエルフ族に攻撃を仕掛け始める。ウミは、俺たちを見ないでそのままエルフどもに突撃を仕掛ける。数は、30名程度だろうか、完全武装をしているところを見ると、どこかに攻撃を仕掛ける途中で森の異変に気がついてこちらに来たというところだろう。
「カズトさん」
「うーん。俺たちは動かないほうがいいだろう」
「わかりました」
ステファナとモデストが、何を判断したのかわからないけど、二人だけで向っていることを考えれば、エクトルを残していく予定なのだろう。眷属たちをどうするのか話を聞けばいい。
森からは、怒号に近い悲鳴が聞こえてくる。カイとウミが、森エルフたちを無力化しているようだ。森の木々が倒れない状況を見るとかなり手加減をしても問題にはならない程度の連中なのだろう。モデストや眷属たちでも十分に制圧が可能だったかも知れない。
「旦那様」
考え事をしていたら、モデストが俺の前で跪いていた。
「モデスト。ステファナは?」
「あちらに・・・」
モデストは、微妙な表情を浮かべて、シロが居る方向を見ている。確かに、ステファナはシロに従属しているけど・・・。メイド服に着替えて、シロの後ろに控えている。すでに、シロが持っていた荷物を受け取っている。シロは、少しだけ大雑把なところがアルのだが、ステファナは許せないようで荷物の整理を始めている。
「はぁ・・・。ステファナが無事ならいい。それで?」
「はい。草原エルフの姫は、ステファナ様のスキルで無事に回復しました」
「そうか」
モデストは、その後の展開を説明したが、頭が痛くなる。残っていた、愚か者たちが、ステファナを拘束して森エルフに渡せば、自分たちの地位が向上すると考えて行動に移った。モデストたちが出るまでもなく、エクトルが撃破した。姫が望んだことではあるが、エクトルは間違えなかった。
「そうか、エクトルはエルフの姫のところに居るのだな?」
「はい。護衛で残しました。あと、沼エルフの捕虜を監視させています」
「・・・。そうか、そっちの問題もあったのだな」
頭痛の種だが、蒔いてしまった種が芽吹いたのだ。収穫まで面倒を見る必要があるだろう。無視しても良いかも知れないが、どこに問題が潜んでいるのか判断が難しい状況では、無視して放置するのは愚策だ。
「エクトルは、エルフの里に派遣する領事官ってことでいいよな?」
「領事官?」
「簡単に言うと、俺の変わりに、草原エルフとの連絡係だな」
「・・・。わかりました。ついでに、沼エルフの監視もやらせましょう」
「そうだな。森エルフは難しいか?」
「どうでしょう?大丈夫だと思います」
「カズトさん」
「どうした?」
シロが心配した表情で俺とモデストの話に割り込んできた。
「捕虜にした者たちは・・・」
「すっかり忘れていた。エクトル。連れて行った者たちは?」
「はい。もうしわけありません。連れて行った者たちは、エクトルに預けました。姫が治ったこともあり素直に従っています」
「そうか、戦力には難しいかもしれないが、手は足りているのだな」
「はい。それから、戦力なのですが・・・」
「どうした?」
「はい。エクトルが言うには、訓練を行えば、沼エルフや森エルフの相手ができると言っています」
「ん?それなら、訓練をすればいいのだな?」
俺に許可を求めるようなことではないと思うのだが、なぜかモデストは俺に許可を求めてきた。
「カズトさん。モデストは、エクトルが訓練をして、エルフが戦力を持つことを許可して大丈夫なのか考えているのです」
シロが珍しく、しっかりと指摘をしてきた。
「そうなのか?」
「はい。せっかく無力化した草原エルフが戦力と呼べる者たちを従えるのは・・・」
「別に”良い”と思うぞ?問題になるとは思えないからな」
「え?」
シロは、俺の回答が予想できていたのだろう。驚いた表情をしたモデストを見ているだけで、驚いた様子ではない。
「エクトルが鍛えても、スキルの付与には到達しないだろう?」
「あっ」
「それに、カイやウミだけじゃなくて、眷属たちも居るし、エリンだけでも過剰戦力だろう?」
「・・・」
モデストは、忘れていたわけではなく、自分たちだけで対処するつもりで居たようだ。
エクトルを開放するわけではない。エルフへの対処を任せるだけだ。一時的に、”姫”に預けることにはなるが、モデストの配下なのは変わらない。
「それに、モデスト。エクトルは、俺たちの戦力を把握しているよな?把握した状態で、裏切ると思うか?エルフの大陸が沈むぞ?」
「・・・。無理ですね」
「それに、エルフたちは知らない可能性もあるが、エクトルは”新種”を知っている。対抗できるのは、俺たちだけだ」
「そうですね。新種の話は、エクトルや姫様に説明します」
「頼む」
「それに・・・。考えてみれば、沼エルフとは格付けが終わっていますし、森エルフが頼みにしていた森の結界も・・・」
モデストは、倒された木々を見る。それだけではなく、一直線に道ができてしまっている。結界も破壊が終わっている。
「結界は、張り直せないのか?」
「無理だと・・・」
「そうなのか?」
「はい。森の木々を使っての結界ですので、木々が倒されて、道ができてしまうと、結界の効力が弱まります」
「そうか・・・。森エルフたちが、結界を貼り直そうとしても、エクトルが阻止すればいいだけだな」
「はい」
「詳細な指示は、モデストに一任する」
「かしこまりました。私も残った方がいいでしょうか?」
「うーん。モデストには、まとめ役として、俺たちと一緒に戻って欲しい。それに、ステファナの墓参りも終わっていない。2-3日あればエクトルとの条件や、沼エルフや森エルフを支配下に置くことはできるだろう?」
エクトルは、返事はしなかったが、俺に向って頭を下げて了承の意思を伝えてきた。
俺たちは、一度草原エルフの村に向かった。そして、俺は姫と面談をして、感謝を伝えられた。エクトルを残すことを伝えて、今後の関係をモデストと決めて欲しいと説明した。
俺は、草原エルフの屋敷に滞在していることにした。
「それでは、カズトさん。行ってきます」
「あぁ。ステファナ。カイ。ウミ。シロを頼むな」
代表して、ステファナが一歩前に出て、頭を下げる。
「はい。旦那様」
ステファナの横にシロが立って、俺の目をしっかりと見る。
「カズトさん。ステファナのご両親への挨拶をしてきます」
「頼む。俺も行こうかと思ったが・・・」
シロとモデストから、俺は草原エルフに残ったほうがいいと言われた。理由は、草原エルフだけではなく、森エルフも安心するだろうという事だ。
モデストは、エクトルへの説明を終わらせると、森エルフの里長と沼エルフの里親を呼び出した。俺が居ないほうがいいかと思ったのだが、草原エルフの屋敷に滞在しているという体裁が大事だと説明された。
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