スキルイータ

北きつね

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第二十五章 救援

第二百五十一話

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 案内役だと思っていた奴が放った暴言から始まった威圧と殺気が止まらない。

「・・・」

 どうにかしてくれ。
 ひとまず、身内からどうにかしないと駄目だな。

「カイ。ウミ。まず、殺気を抑えろ。俺が、お前たちと離れるわけがない。お前たちから、離れたいと言っても、許可しない。いいか、お前たちは、俺の家族だ」

 跪いているエルフは、いきなりカイとウミに”里で過ごしてください”と言い出した。これには、モデストだけではなく、エクトルも絶句した。
 眷属を解除する方法も里ならあるとまで言い出したのだ。ステファナが呆れるような表情で、出迎えに来た者を見ている。シロは、腰に下げている剣に手を添えて、殺気を隠していない。

 呆れる俺と、殺気を隠さない、カイとウミとシロ。そして、オロオロとしながら俺を見るエクトル。モデストは、逃げ道を塞ぐ場所に移動している。ムーたちは馬車から降ろさないようにしているので、状況があまりわかっていないようだ。

 カイとウミは、俺の足元に来て座る。頭を撫でてやると喉を鳴らして擦り寄ってくる。カイとウミから出ている殺気は収まったが、より激しく殺気を放っているものが居る。

「シロ!控えろ」

「カズトさん。でも」

「いい。カイもウミも、俺の家族だ。家族は、俺が守る」

 シロを見つめると、わかってくれたようだ。
 殺気を放っていると、話が進まないのだ。

「はい。わかりました」

 シロが剣から手を離した。変わりに、モデストの配下が、俺の刀を持ってきた。
 刀を受け取って、使者?の肩に、抜刀しない状態の刀を置く。

「話を聞こうか?いいか、俺たちは別に草原エルフの姫がどうなろうと、お前たちが森エルフに滅ぼされようと関係はない。自分たちの立場を考えてから口を開け」

 使者は、俺を睨んでくる。
 カイとウミが俺の側から離れないのを見て憎しみを込めた目線を向ける。

「脆弱な人族が!青猫ブルー・キャット様を騙して!すぐに解放しろ!」

「それが貴様たちの考えなのだな!居るのだろう。出てこい!」

 近くに見える岩に向かって、問いかける。

「何を!」

「出てこないのなら、こいつの首は、軽い頭を支える苦痛から解放されるぞ!今から、10を数える。それまでに出てこい」

 聞こえるように、1から数え始める。
 7を数えたところで、動きがあった。

「お待ち下さい!」

「待たないね。8!」

「わかりました」

 岩の影から2人が出てくる。

「あと一人!居るのだろう。9!カイ!ウミ!魔法を準備、岩を取り囲むよう範囲攻撃。遠慮はいらない!」

「殿下!」

 先に、岩から出てきた連中が、後から現れた人物を”殿下”と呼んだ。

「よい」

 殿下と呼ばれた人物は、俺よりも年上に見える。エルフのようなので、実際の年齢はわからないが、見た目だけなら20代の半ばから後半だろう。

 俺の前まで来て立ち止まる。
 使者?の横に立ってから、頭を俺に向けて下げた。

「なんの真似だ。頭を下げればいいと思っているのか?」

「そうではないが、まずは謝意を示したい」

「頭を下げる前にやることがあるのだろう。俺は、家族を”差し出せ”と言われたのだ。そして、俺を慕ってくれている家族を”解放しろ”と言われたのだ」

「すまない」

「あ?”すまない”。たったそれだけの言葉で終わらせるのなら、俺は、お前たちを無視して、墓参りだけして帰る。ムーとかいう奴らとエクトルは、どうしようと構わないな」

 俺の宣言を聞いて、モデストは俺の意思を受けたような動きを行う。
 ステファナも同じだ。冷めた目で”殿下”を見てから、シロのところに走り寄っている。

 俺は、片膝を付いている使者?と殿下を抜刀すれば切り伏せられる位置のまま二人を睨みつける。

「どうしたら・・・」

「あ?」

「妹を、里を、守りたかっただけ・・・」

「お前たちの事情が俺になんの関係がある?お前が、家族を、里を大事に思っているのなら、なぜ俺たちは違うと考える。自分たちだけが良ければいいのか?」

「え?」

「名乗りもしない。道案内をすると思っていたら、いきなり家族をよこせ。それだけじゃない。最初からお前たちは間違っている。”俺たちに頭を下げて、泣いて、助けてください”となぜ言えない。スキルカードが欲しければ、なぜ対価を提示しない。そもそも、俺のことを調べるのは勝手だが、俺がお前たちを知っていると思うのがおかしい。お前たちは、最初から、全部が違う。間違いだらけだ。勝手に滅べ!」

「あっ」

「カズト・ツクモ様。シロ・ツクモ様。私に、もう一度だけチャンスをください」

「・・・」

 殿下が、頭をしっかりと下げる。
 しかし、それだけだ。謝罪の意思はあるようだが、何に対して謝罪しているのか一切わからない。

「私は、草原エルフの里長の長子。シャリスです。今までの不手際、本当にもうしわけありません」

「不手際?違うだろう。お前たちは、”人族”の俺からなら奪っても許されると思っていたのだろう。エクトル!違うか?」

「・・・」「シャリス様。どう言い繕っても意味がありません。ツクモ様を侮っていたのは間違いないのです。もう、俺やムーたちの命だけで済む話じゃなくなっています」

「・・・。どうしたら?」

「シャリス様。それを考えるのが、里長たちです。上が責任を取らなければ、俺たちは無駄に命を散らすだけです」

 シロに何かを話していたステファナが、後ろに回り込んでいたモデストに近づいて、何か耳打ちをしている。

「動くな。一歩でも動いたら、シャリス殿の手か足が身体から離れるぞ!」

 岩陰に隠れていた二人がスキルカードを取り出そうと動いたのが見えた。武器は持っているようには見えなかったが、スキルカードは持っていたのだろう。低レベルのスキルカードなら使われても大丈夫だと思うが、リスクは回避しておきたい。

「動くな!モデスト!」

「はっ」

 モデストの配下が、二人の背後に回った。いつでも刺せる位置だ。

 モデストが俺を見ている。そして、ゆっくりと視線をずらしていく。
 そういうことだな。モデストが、また俺をみたので、目だけだがサインを送る。モデストが頷いたので、俺の意思が伝わったのだろう。

 ステファナが最近になってできるようになったようだが、念話を始めスキルスロットに固定したスキルを起動する場合でも、魔力が流れているらしいのだ。俺やシロはわからなかったが、ステファナやモデストがなんとなくわかると言っていたので試してみたら、念話を始めた瞬間に魔力が流れ出したらしい。今、それを止める方法を模索中だが、こうして敵対している勢力が居る時には、スキルを使っているのはばれないほうがいいだろう。

「マスター」

 モデストが、俺の意思を受けて、横から口を挟んできた。

「どうした?」

「この場は、私に一任をして頂けないでしょうか?」

「どうするのだ?」

「はい。私と配下の者で、ここに来た者たちを連れて、草原エルフの里に行ってきます。ステファナ殿にも同行していただきます」

「・・・。それで?」

「エクトルとムーたちを、開放する対価を要求してきます」

「それだけか?」

「いえ、このシャリスという者たちも同様に、賠償を要求します」

「わかった。ステファナを連れて行く意味は?」

「最悪は、ステファナだけでの墓参りに、なってしまいますが・・・」

「そうだな。ステファナ。それでもいいか?」

 シロの横に立っているステファナは、俺の問いかけに笑顔で頷いた。シロは、俺と一緒にここで待つことになった。

「モデスト。無理に交渉しなくていい。面倒なら、全員を殺しても構わない。どうせ、森エルフに殺される運命なのだろう、少しだけ命日が早まるだけだ。誰か、眷属を呼び出すか?エリンを連れていけば余裕だろう?」

「竜族の姫では、過剰戦力です。私だけで十分です。それに、ステファナ殿もいれば大丈夫でしょう」

「わかった。モデストに、一任する。ステファナ。サポートを頼むな」

「はっ」「はい!」

 何か、グダグダと言っていたが、威圧したら急に黙ってしまった。
 ムーたちは、どこか途中から声が聞こえていたのだろう、どこか諦めた表情をしている。エクトルは、俺とシロがこの場に残るので、最悪の事態は回避出来たかもしれないと思っているようだ。実際に、俺に対する暴言が続けば、ウミがキレていたかもしれない。

 モデストもかなり”やばい”性格だからな。
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