スキルイータ

北きつね

文字の大きさ
上 下
250 / 323
第二十四章 森精

第二百五十話

しおりを挟む

「旦那様。よろしいのですか?」

「何が?」

「”完全回復”を、私が・・・」

「うーん。一番の適任だと思うけど?シロはどう思う?」

「僕も、カズトさんの考えに賛成です。僕やカズトさんが持っているよりも、ステファナが持っていて、僕たちに何か有った時に、使ってくれると嬉しい」

「・・・。わかりました」

 ステファナの許可も得られたし、シロも賛成してくれている。ルートや元老院は文句を言うかもしれないけど、居ない者の心配をしてもしょうがない。

 ステファナを説得して、レベル9”完全回復”を仕えるようにした。
 モデストが主導して行っていた、移動の準備が終わったと連絡が入った。

「ステファナ?」

「旦那様。モデスト殿と合流して、準備の確認をしてきます」

「わかった。それから、モデストとエクトルに、”完全回復”の手順を説明しておいてくれ」

「かしこまりました」

 ステファナが、俺とシロに頭を下げて部屋から出ていった。

「カズトさん」

「どうした?」

「ありがとうございます」

「シロの為にやったことじゃない」

「それでも、ステファナに居場所を作ってくださいました」

「そうだな。でも、それは俺のためでもあるし、これから産まれてくる可能性がある子どもためでもあるからな」

「あっ・・・」

 ステファナは、種族的に俺たちより長命になる可能性がある。子供の教育係にはもってこいだろう。
 シロが、ステファナに何を重ねたのかわからないが、可愛がっているのもわかっている。

「さて、俺たちに行くか?」

「はい!」

 シロを立たせて、部屋を出る。
 一階に降りると、モデストが待っていた。

 モデストに鍵を渡すと、チェックアウトの手続きを宿の主に行っている。

 宿から出ようとしたところで、目の端に4名の見たことがある奴らがいることに気がついた。

「どうした?まだ何かあるのか?」

「あっ」「(姫様!)」「(頑張ってください。姫様がご自分から言い出したのですよ)」

 周りの雰囲気から、俺に何か言いたいのだろう。

「何も無いのなら、行くぞ?お前さちの里に行く必要がありそうだからな」

「え?あっ・・・。待って・・・。ください。です」

「あ?」

「ひっ」

 声が裏返ってしまった。
 表現すると、”あ”に点々が付いたような声が出てしまった。ムーが、怯んだのは怖かったからだろう。

「カズトさん。ムー殿は、カズトさんにお礼が言いたいのですよ」

 ムーを見ると頷いているので、シロが言っているのが合っているのだろう。

「お礼?」

「ツクモ殿。我らの主を、その、あの、ありがとう。です」

 支離滅裂ほどではないが、自分が何を言っているのか、よくわからないで口にしている。
 ムーの頭を撫でてやる。それが正しいかわからないが、シロが頷いているので、間違いではないのだろう。

 ムーが感謝しているのがわかった。それだけでも収穫があったと思うことにする。

「いくぞ」

「うん!」

 ちょろい。いいのか?
 エクトルが、少しだけ呆れているような表情で、ムーを見ている。

「マスター。馬車は、街の外にあります」

「わかった」

 モデストが先頭になって馬車まで移動を始める。

「ん?モデスト。エクトルの集落に向かうのなら、中央じゃないのか?」

「一旦、海岸線にある道に沿って川エルフの集落に向けて進みます。その後、集落に向けて移動します」

「そうか、何か掴んだのか?」

「いえ、まだ確実な情報では無いのですが、森に動きがあるようです」

「そうか、わかった」

 後ろを振り向いて、エクトルやムーを見ると神妙な表情をしているのは、モデストから事情を聞いているのだろう。
 一秒でも早く集落に移動したい気持ちはあるが、ステファナを無事に移動させないと意味がないのもわかっているのだろう。もしかしたら、モデストがしっかりと言い含めたのかもしれない。

 街の外に出るのは簡単だった。
 入るのには検閲があるが出るのには必要がないようだ。

「モデスト?これか?」

「はい。準備は終わっています。マスターとシロ様は前の馬車をお使いください」

「わかった」

 モデストたちが用意した馬車は、聞いていたものよりも豪華になっている。それなりのスキルカードを渡していたから、粗末な物にはならないと思っていたが、俺の想像を軽く越えた。
 二連馬車と言えばいいのか、前と後ろに分かれている。二つの馬車が繋がった状態になっている。
 馬は4頭だ。二頭が先頭で似等がサイドになっている。曲がる時の補助にでも使うのか?先頭に、モデストが座って、横に繋がれている馬にモデストの部下が座るようだ。前の馬車は、本当に俺とシロのためだけに使われるようだ。ステファナも一緒に乗り込んでいるが、給仕をするために一緒にいるだけのようだ。
 後ろの馬車は、大きさ的には俺たちが乗った馬車よりも大きいが、荷物とムーたちが乗り込むので、手狭に感じてしまう広さのようだ。野営ようの機材も積み込まれているようだ。護衛は、モデストの部下たちがメインになっている。抑止力のために、ムーと一緒に襲撃してきた連中を完全武装させて、歩かせている。
 実際の護衛は、カイとウミだ。通常サイズでくつろいでいる。ウミは、俺たちの馬車の中に居て、カイは馬車の上に周りを警戒している。

『カズ兄。外に出てきていい?』

「ん?どうした?」

『身体を動かしてくる』

「わかった。近くに、魔物が居ないか探索も頼む。新種が居たら戦わずに帰ってきてくれ」

『わかった』

 ウミが身体を起こして、馬車から出ていった。
 上で、なにやらカイと話しているようだ。ウミが離れていくのがわかった。

 それから、半日ほど馬車が進んだ。
 ムーの従者たちは、護衛の格好をして歩かせているので、歩く速度での移動になる。馬車が二連だというのもあり、無理しない速度を考えると、これで十分なのだろう。急ぐ旅でもない。ムーたちが焦っているが、それは”完全回復”を早く使って欲しいからだ。
 俺たちも鬼ではないし、使うのはもう決定事項だ。
 エクトルが俺に説明した限りでは、1日や2日でどうにかなるものではない。ただ、1年後にはどうなるかわからないというレベルのようだ。

 モデストが、ゆっくり進んでいる理由をムーたちにしっかりと説明したことで焦りの気持ちが少しは収まったようだ。

 二回ほど、野営を行ってから、街道から外れた道を進む。

「モデスト。そろそろ、説明をしてくれてもいいと思うが?」

「・・・。マスター。いつから?」

「ん?最初は、不思議に思っただけだ。だが、荷物の量から考えると、1ヶ月程度は過ごせそうな量だ」

 誰かを待っているのか、何かを待っているような雰囲気がある。
 偵察に出ているウミが何も行ってこないから危険ではないと判断している。カイも俺に黙っているわけが無い。

 モデストの他には、ステファナも何か知っている雰囲気があるが、ステファナは聞かされているだけなのだろう。エクトルは、知っている雰囲気がある。

「はい。出発前に、草原エルフから、私宛てに詫び状が届きました」

「モデスト宛て?」

「はい。エクトルを生かしてくれたことと、ムー殿を連れてきてくれていることです」

 モデストが申し訳無さそうにするのは、俺ではなく自分が”詫び”を受けたことに起因する。気にしなくてもいいとは思うけど、気になっているのだろう。

「そうか、草原エルフからの迎えが来るのだな」

「はい。勝手に、交渉してもうしわけございません」

「いや、いい。そのほうが安全なのだろう。それに、モデストに一任したのだから、モデストが必要だと思ったようにしてくれればいい」

「ありがとうございます」

「それで迎えなのか?合図なのか?」

「エクトルの同僚が来る予定になっております」

「また、戦闘になるようなことはないよな?」

「大丈夫です。部下たちが周りを警戒しております。接触してきたら、確認を行います」

「そうか、わかった」

「それに、カイ様とウミ様の姿を見たら、襲ってくる者はいません」

「そうなのか?」

「はい。間違いなく」

 街道から外れた場所で、待っていると、ステファナと同じ様な肌の色をした者がこちらに向かってきた。
 カイとウミの姿を見て、ひざまずきそうになっているが、近くに居たモデストの部下たちが、立たせて、俺の前まで連れてきた。

 やっと、草原エルフの里に迎える。
 ステファナの墓参りだけの予定だったが、なんだか面倒な感じになってしまっているな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

処理中です...