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第二十四章 森精
第二百五十話
しおりを挟む「旦那様。よろしいのですか?」
「何が?」
「”完全回復”を、私が・・・」
「うーん。一番の適任だと思うけど?シロはどう思う?」
「僕も、カズトさんの考えに賛成です。僕やカズトさんが持っているよりも、ステファナが持っていて、僕たちに何か有った時に、使ってくれると嬉しい」
「・・・。わかりました」
ステファナの許可も得られたし、シロも賛成してくれている。ルートや元老院は文句を言うかもしれないけど、居ない者の心配をしてもしょうがない。
ステファナを説得して、レベル9”完全回復”を仕えるようにした。
モデストが主導して行っていた、移動の準備が終わったと連絡が入った。
「ステファナ?」
「旦那様。モデスト殿と合流して、準備の確認をしてきます」
「わかった。それから、モデストとエクトルに、”完全回復”の手順を説明しておいてくれ」
「かしこまりました」
ステファナが、俺とシロに頭を下げて部屋から出ていった。
「カズトさん」
「どうした?」
「ありがとうございます」
「シロの為にやったことじゃない」
「それでも、ステファナに居場所を作ってくださいました」
「そうだな。でも、それは俺のためでもあるし、これから産まれてくる可能性がある子どもためでもあるからな」
「あっ・・・」
ステファナは、種族的に俺たちより長命になる可能性がある。子供の教育係にはもってこいだろう。
シロが、ステファナに何を重ねたのかわからないが、可愛がっているのもわかっている。
「さて、俺たちに行くか?」
「はい!」
シロを立たせて、部屋を出る。
一階に降りると、モデストが待っていた。
モデストに鍵を渡すと、チェックアウトの手続きを宿の主に行っている。
宿から出ようとしたところで、目の端に4名の見たことがある奴らがいることに気がついた。
「どうした?まだ何かあるのか?」
「あっ」「(姫様!)」「(頑張ってください。姫様がご自分から言い出したのですよ)」
周りの雰囲気から、俺に何か言いたいのだろう。
「何も無いのなら、行くぞ?お前さちの里に行く必要がありそうだからな」
「え?あっ・・・。待って・・・。ください。です」
「あ?」
「ひっ」
声が裏返ってしまった。
表現すると、”あ”に点々が付いたような声が出てしまった。ムーが、怯んだのは怖かったからだろう。
「カズトさん。ムー殿は、カズトさんにお礼が言いたいのですよ」
ムーを見ると頷いているので、シロが言っているのが合っているのだろう。
「お礼?」
「ツクモ殿。我らの主を、その、あの、ありがとう。です」
支離滅裂ほどではないが、自分が何を言っているのか、よくわからないで口にしている。
ムーの頭を撫でてやる。それが正しいかわからないが、シロが頷いているので、間違いではないのだろう。
ムーが感謝しているのがわかった。それだけでも収穫があったと思うことにする。
「いくぞ」
「うん!」
ちょろい。いいのか?
エクトルが、少しだけ呆れているような表情で、ムーを見ている。
「マスター。馬車は、街の外にあります」
「わかった」
モデストが先頭になって馬車まで移動を始める。
「ん?モデスト。エクトルの集落に向かうのなら、中央じゃないのか?」
「一旦、海岸線にある道に沿って川エルフの集落に向けて進みます。その後、集落に向けて移動します」
「そうか、何か掴んだのか?」
「いえ、まだ確実な情報では無いのですが、森に動きがあるようです」
「そうか、わかった」
後ろを振り向いて、エクトルやムーを見ると神妙な表情をしているのは、モデストから事情を聞いているのだろう。
一秒でも早く集落に移動したい気持ちはあるが、ステファナを無事に移動させないと意味がないのもわかっているのだろう。もしかしたら、モデストがしっかりと言い含めたのかもしれない。
街の外に出るのは簡単だった。
入るのには検閲があるが出るのには必要がないようだ。
「モデスト?これか?」
「はい。準備は終わっています。マスターとシロ様は前の馬車をお使いください」
「わかった」
モデストたちが用意した馬車は、聞いていたものよりも豪華になっている。それなりのスキルカードを渡していたから、粗末な物にはならないと思っていたが、俺の想像を軽く越えた。
二連馬車と言えばいいのか、前と後ろに分かれている。二つの馬車が繋がった状態になっている。
馬は4頭だ。二頭が先頭で似等がサイドになっている。曲がる時の補助にでも使うのか?先頭に、モデストが座って、横に繋がれている馬にモデストの部下が座るようだ。前の馬車は、本当に俺とシロのためだけに使われるようだ。ステファナも一緒に乗り込んでいるが、給仕をするために一緒にいるだけのようだ。
後ろの馬車は、大きさ的には俺たちが乗った馬車よりも大きいが、荷物とムーたちが乗り込むので、手狭に感じてしまう広さのようだ。野営ようの機材も積み込まれているようだ。護衛は、モデストの部下たちがメインになっている。抑止力のために、ムーと一緒に襲撃してきた連中を完全武装させて、歩かせている。
実際の護衛は、カイとウミだ。通常サイズでくつろいでいる。ウミは、俺たちの馬車の中に居て、カイは馬車の上に周りを警戒している。
『カズ兄。外に出てきていい?』
「ん?どうした?」
『身体を動かしてくる』
「わかった。近くに、魔物が居ないか探索も頼む。新種が居たら戦わずに帰ってきてくれ」
『わかった』
ウミが身体を起こして、馬車から出ていった。
上で、なにやらカイと話しているようだ。ウミが離れていくのがわかった。
それから、半日ほど馬車が進んだ。
ムーの従者たちは、護衛の格好をして歩かせているので、歩く速度での移動になる。馬車が二連だというのもあり、無理しない速度を考えると、これで十分なのだろう。急ぐ旅でもない。ムーたちが焦っているが、それは”完全回復”を早く使って欲しいからだ。
俺たちも鬼ではないし、使うのはもう決定事項だ。
エクトルが俺に説明した限りでは、1日や2日でどうにかなるものではない。ただ、1年後にはどうなるかわからないというレベルのようだ。
モデストが、ゆっくり進んでいる理由をムーたちにしっかりと説明したことで焦りの気持ちが少しは収まったようだ。
二回ほど、野営を行ってから、街道から外れた道を進む。
「モデスト。そろそろ、説明をしてくれてもいいと思うが?」
「・・・。マスター。いつから?」
「ん?最初は、不思議に思っただけだ。だが、荷物の量から考えると、1ヶ月程度は過ごせそうな量だ」
誰かを待っているのか、何かを待っているような雰囲気がある。
偵察に出ているウミが何も行ってこないから危険ではないと判断している。カイも俺に黙っているわけが無い。
モデストの他には、ステファナも何か知っている雰囲気があるが、ステファナは聞かされているだけなのだろう。エクトルは、知っている雰囲気がある。
「はい。出発前に、草原エルフから、私宛てに詫び状が届きました」
「モデスト宛て?」
「はい。エクトルを生かしてくれたことと、ムー殿を連れてきてくれていることです」
モデストが申し訳無さそうにするのは、俺ではなく自分が”詫び”を受けたことに起因する。気にしなくてもいいとは思うけど、気になっているのだろう。
「そうか、草原エルフからの迎えが来るのだな」
「はい。勝手に、交渉してもうしわけございません」
「いや、いい。そのほうが安全なのだろう。それに、モデストに一任したのだから、モデストが必要だと思ったようにしてくれればいい」
「ありがとうございます」
「それで迎えなのか?合図なのか?」
「エクトルの同僚が来る予定になっております」
「また、戦闘になるようなことはないよな?」
「大丈夫です。部下たちが周りを警戒しております。接触してきたら、確認を行います」
「そうか、わかった」
「それに、カイ様とウミ様の姿を見たら、襲ってくる者はいません」
「そうなのか?」
「はい。間違いなく」
街道から外れた場所で、待っていると、ステファナと同じ様な肌の色をした者がこちらに向かってきた。
カイとウミの姿を見て、ひざまずきそうになっているが、近くに居たモデストの部下たちが、立たせて、俺の前まで連れてきた。
やっと、草原エルフの里に迎える。
ステファナの墓参りだけの予定だったが、なんだか面倒な感じになってしまっているな。
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