スキルイータ

北きつね

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第二十四章 森精

第二百四十四話

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 ルートが用意した、商船の中にある客室で過ごしている。
 変わらない風景と同じような音に飽きてきたのか、エリンは俺とシロの間で眠ってしまっている。

 シロは暫くは、剣や防具の手入れをしていたが、それも飽きてしまったようだ。

「カズトさん。なんで、船で行くのですか?」

「ん?あぁエリンたちに乗っていかないかってことか?」

「はい」

「うーん。いくつか理由はあるけど、エルフたちに余計な詮索をさせないためだ。本音の話として、”俺がシロと一緒に居る時間が欲しかった”も付け加えておく」

「カズトさん。いろいろ台無しです。でも、わかりました。エルフ族を刺激しないように・・・。ですね」

「そうだな。刺激しないように、する必要があるかわからないけど、なにかあった時に、エリンは切り札になりえる」

 俺の膝とシロの間で船を漕いでいるエリンを見る。

「そうだ。ステファナ!」

 船の中だが、飲み物は手配出来る。
 お茶を持ってきてくれたステファナに聞いておきたいことがあった。

「はい」

「里の位置はわかるのか?」

「大丈夫です。港から、馬車で3日程度の距離です」

「そうなのか?」

「はい。エルフ大陸は、港の周り以外は、森になっています。道が整備されているので、迷わないと思います」

「わかった。馬車の手配を任せて大丈夫か?」

「お任せください」

 それから、モデストが隷属しているエクトルを見る。

「エクトル。お前の、雇い主の所に行こうと思うが案内を頼めるか?」

「なっ・・・。わかった」

 エクトルには、目的を告げていない。
 モデスト経由で聞いたのかもしれないが、俺たちがエルフ族と敵対するつもりはないと宣言しているのを、信じたようだ。相手から攻撃されたら反撃を行うが、わざわざ自分から出向いていって攻撃するほど暇人ではない。
 まだまだ作りたい物も沢山ある。それに、シロといろいろな所を見て回りたい。
 シロもアトフィア大陸の教会がある総本山が置かれている街からはあまり外には出ていないので、一緒に回ってみたい。
 それだけではなく、遠くにある大陸にも足を運んでみたい。全方位で喧嘩を売るつもりはない。売られた喧嘩なら高値で買い取るつもりだけど、自分から売るつもりはない。モデストと基本方針を話している時に、エクトルは近くに居た。

「馬車で行けるのか?」

「途中までだ。そこから、森の中を2日ほど歩く」

「わかった。ステファナと話をして場所を確認してくれ、順番は二人に任せる。モデスト!」

 前に座っていたモデストに話しかける。

「はっ」

「予定が決まったら、物資の調達を任せる。護衛は最小限・・・、必要か?」

「ステファナ嬢とエクトルの話を聞いてみないとわかりませんが、カイ様とウミ様が一緒で、エリン様まで居るのなら、必要ないと思います」

「抑止力は?」

「それは?」

「エルフ大陸にも、魔物は居るだろう?魔物なら、護衛がいても襲ってくるだろうけど、盗賊なら護衛の質が良ければ、襲ってこないだろう?」

 モデストが首を横に振る。

「そういうことなら、護衛はいても同じです」

「どういうことだ?」

 エクトルが俺の前に来た。

「どうした?エクトル?」

「ツクモ様。モデストの言い方では誤解してしまいます」

「どういうことだ?」

「はい。森の中を進みます」

「あぁ」

「エルフ族の盗賊がいたら、護衛がいても防げません」

「そうなのか?」

「はい」

「ふーん。それなら、抑止力を求めて、護衛を雇う必要はないのだな」

「ありません。ステファナ嬢は、元奴隷だったとは思えませんので、御者台に座っていれば、エルフ族からの襲撃は皆無だと思います」

「ふーん。仲間意識が強いのか?」

「部族意識は強いのですが、それ以上に”エルフ”以外が嫌いなのです」

「あぁわかりやすい。俺たちに、敵意がない事をしめす方法はなにかないのか?」

「どうでしょう?ステファナ嬢は、なにか知っていますか?」

 いきなり、話を振られたステファナが目を大きく見開いて、俺とエクトルとモデストを見る。

「聞いたことはありません。でも、港で、エルフ族の護衛を雇えばいいと教えられました」

「?」

 今までの話の根底を覆す話が出てきた。

 モデストを見ると、苦笑いをしながら首を横に振っている。
 なにか事情を知っているのかもしれない。エクトルは、少しだけ渋い顔をする。

「モデスト」

「ステファナ嬢が言っているのは、間違いではありませんが、正しくもありません」

「え?」「あぁマッチポンプか?」

「「まっちぽんぷ?」」

 横で聞いていたシロの疑問とステファナの疑問が重なった。
 モデストとエクトルも言葉の意味がわからないようだ。

「あ・・・。ようするに、護衛と盗賊が繋がっていて、盗賊から守ってやったのだから、報酬の上乗せを要求したり、なにか寄越せと迫ったり、最初の取り決め以上に報酬を要求する。断れば、盗賊に襲われる」

「・・・」

 ビンゴのようだ。
 エクトルの表情から、驚愕が読み取れる。

「エクトル。どうした?」

「いえ・・。モデスト。今のツクモ様の推測は・・・」

「あぁ我が調べたから間違いない」

 エクトルが、モデストを睨んでいる。
 もしかしたら、エクトルの”姫様”の集落がなにか関わっているのかもしれない。

「一部ではないのか?」

「いや、一部ではない。港に居るエルフ族の護衛は、ほぼ全て盗賊か近い者の関係で、ツクモ様の話していたようなことが行われている」

「モデストも、エクトルも、今、言い争っても意味はない。ひとまず、護衛は雇わないで、行こう」

「「はっ」」

 シロが俺の服の袖を引っ張って居る

「カズトさん。盗賊は、別にして、魔物への対処はどうします?僕が出ますか?」

「それこそ、ウミとカイに任せるよ。それに、いざとなれば・・・」

 横で眠っているエリンを見たら、シロも納得が出来たようだ。
 エリンがでなければならないような魔物が出るようなら、エルフ大陸だけの騒ぎにはなっていないだろう。それこそ、新種が大量発生している可能性を考えたほうがいい。魔物は、それほど怖いとは思わない。普段から使っている道だろうから、急に強い魔物が出てくるとは思えない。なので、警戒すべきは、盗賊だけだ。

「まずは、馬車と物資の手配だな」

「「はい」」

 ステファナとモデストが返事をする。
 エクトルも頷いているので、手伝ってはくれるようだ。

「モデスト。港に滞在する必要があるよな?」

「はい。宿を取る必要はあります。その間に情報を収集します。私が知っている情報から変わっている可能性があります」

「わかった。予定は?」

「準備に3日を考えています。その間に、情報収集を行います。余裕を見て、5日の滞在はダメですか?」

「大丈夫だ。安全を優先してくれ」

「はっ」

 船旅は、順調に進んだ。
 もともと、交易品を運んでいたので、客室は少ないが、ルートが手配した船なので、必要以上に俺たちに干渉してこないのは嬉しい。
 朝と昼と夜に、航行の進捗と予定を告げに来てくれるのも嬉しい。

 俺たちも、指定された場所以外への立ち入りはしていない。
 食事は、携帯食を食べている(ことになっている)。いろいろ隠し事があるので、干渉されないのは嬉しい。

 エルフ大陸には、予定通りに到着できそうだ。

---

 ツクモたちが船で大陸を離れていから、ルートは忙しく動いていた。

 代官が手配した。船が、ツクモたちを追うように出港しようとしたのを止めた。理由は、何でもよかったが、”検閲”を行うと伝えたら、すぐに代官がやってきて、ルートに詰め寄ったが、ルートの許された権限なので、執行した。
 ルートと代官の駆け引きは続いた。

 ルートは、代官の暴発を待っていた。
 船の”検閲”は必要な手続きではなかったが、出港を遅らせることには成功した。何か、出てくるとは思っていなかった。

 2日の足止めが成功した。

 明日には、クリス(クローン)が到着する。
 先触れが、代官に連絡をいれた。暴発するのは、このタイミングだと思っているルートは、先触れからの連絡を受けたが、何も動きを見せていない。知らない雰囲気を出しているのだ。
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