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第十六章 眷属
第百六十四話
しおりを挟む「エーファ。ティア。ティタ。レッチェ。レッシュ。エルマン。エステル狭い所で悪いな」
『マイロード。問題ありません』
最初、俺とシロの部屋を一つ開放する考えだったのだが、眷属を含めた皆から、反対された。本人たちも、それはできないと言われてしまった。
妥協案として、オリヴィエとリーリアとステファナとレイニーとアズリがログハウスに移動する事になった。
洞窟内は、カイとウミとライとエリンと新しく眷属になった者が使う事になった。
「シロ。おつかれ」
「カズトさん。ありがとうございます」
「どうした?」
「僕のために、エーファとレッチェです」
「俺のためでもあるのだからきにするな。今度時間を作って、アズリを交えてスキル構成を考えような」
「はい」
「ステファナとレイニーがいるから戦闘特化にしたいと思います」
「俺も同じ考えだよ。エルマンとエステルは隠密行動が種族的に得意のようだからそっち系だけど、ティアとティタはペット枠だな」
「はい!」
魔核の在庫を確認しておかないとな。
レベル5以下の魔核は結構需要があるからな・・・。ん?
眷属に吸収させるのだから別にレベル5にこだわらなくてもいいのか?もっとレベルの高い普段値段的に釣り合わない魔核を使ってもいいのだな。ひとまず、オリヴィエとレイニーで魔核とスキルカードを集めてもらおう。
今日は、いろいろあって疲れたし、シロも疲れているようだから、風呂に入って休む事にしよう。
---
「カズトさん」
「ん?」
「カズトさん。ルートガー殿がログハウスでお待ちです」
「あぁわかった。ありがとう」
いつの間にか寝てしまったようだ。
シロと、眷属に関して話していたのは覚えている。結論は、カイとウミの耳としっぽが手触りを含めて最高だという事で落ち着いた。ただ、夏場にライを抱きしめて寝るのも最高だと言う話になった・・・。ことまでは覚えている。それ以降何を話したのか覚えていない。覚えていないほどくだらないことだったのだろう。
頭を振って、記憶を取り払ってから起きる事にする。
リビングに移動すると、リーリアが待っていた。
今日の服を持ってきてくれているようだ。
「ご主人様。お食事はどうされますか?」
「ログハウスに用意しておいてくれ」
「はい。奥様はどうされますか?」
「僕も、一緒でお願いします」
「かしこまりました。それから、何度もお伝えしておりますが、奥様。私達に対しては、ご命令ください」
「うん・・・。解っているのだけど・・・」
「なら実行してください。お願いします」
「リーリアも、シロがなれるまで時間がかかるから長い目で見てやってくれ」
「はい。ご主人様。しかし、示しがつきませんので、これからもご指摘させていただきます」
「あっうん。頼むな」
「はい」
リーリアが一礼してから部屋から出ていく。
「シロ。悪いな」
「ううん。でも、僕、リーリアと友達になりたいのだけど・・・」
「そうだな」
「カズトさん。ログハウスに行かないと!」
「あぁそうだったな」
支度を済ませてから、ログハウスの食堂に向かう。
俺とシロの朝食が用意されていた。
皆はすでに済ませたと言っている。
執務室に向かうと、ルートガーが立ち上がって俺を見ている。
ルートガーにはどこから説明しなければならない?
オリヴィエとリーリアが、奥に入っていって、飲み物を用意してくれるようだ。
俺とシロがルートガーの正面に座る。
「ツクモ様。魔の森の問題は終息したと思っていいのですね」
「あぁ問題はティリノとアズリだ引き起こしていたからな」
「わかりました。それで、魔の森をどうされるのですか?」
「ん?どうとは?」
「ペネムと同じ様にされるのですか?」
「ルートはどうしたらいいと思う?一応、橋頭堡は作ろうとは思っているのだけどな。あと、海に出た所に港は作るぞ」
ルートガーは、やれやれという雰囲気を出してから
「ツクモ様。それは開発を推し進めるという事ですか?」
「え?あっ違う違う海からの恵みがほしいから”ロックハンド”という港は作ろうとは思うけど、魔の森にかんしては・・・。ルートなら問題ないな」
ルートに、今回の問題になったティリノとアズリを紹介する。
エルダー・リッチとダンジョン・コアの組み合わせで、魔の森をダンジョン化していた事や、魔物核の話をした。
「あんた・・・。そんな事をさらっと言わないでくださいよ」
「え?ルート。お前がペネムと同じとかいうから大丈夫だと思ったのだぞ?」
「そこじゃありませんよ。アズリさん?の権能の話ですよ。魔物核を作られるのですよね?」
「おっおぉ」
「そういう事は、低位のスキルカードが簡単に手に入るということですよね?」
「そうだな。上位種や進化種も呼び出せるらしいけどな」
ルートは、額に手を当てて、頭を左右にふる。何かを忘れたいようだ。
「いいですか。ツクモ様。アズリさんの権能に関しては、俺以外には話さないでください。できれば、俺も忘れたい」
「え?」
「まさか、誰かに話していますか?」
「それは大丈夫・・・だよな?シロ?」
「え?あっ大丈夫です。眷属内でとどまっています」
「そういう事だ。ルート」
「それはしょうがないでしょう。それから、ツクモ様。アズリさんの権能は偽装をしておいてくださいね。見えなくするのは当然だとして、名前も普通のスキルに見えるようにしておいてください。いいですか?」
「おっおぉ」
ルートガーの勢いに押されたわけじゃないぞ?
普段以上に怖かったのは事実だけどな。
「ふぅ・・・まだお気づきになりませんか?」
「だから何だよ?」
ルートガーは、俺とシロを見比べるように目線を動かして
「色に溺れたわけじゃないようですね。本当に、その権能の異常具合に思い至らないようですね」
ルートガーが言いたい事がわからない。
呆れているのは解る。
「ツクモ様。アズリさんの権能を使えば、たとえばツクモ様達にしか討伐はできないかと思いますが、ギガントミノタウロスあたりの希少な魔物を生み出す魔物核を作って、魔物を倒し続けたらどうなりますか?」
「どうなるって、そりゃぁ・・・あぁそうか、スキルカードや魔核が大量に入手できてしまうのだな」
「そういう事です。まさかもう配置したりしていませんよね?」
「・・・」
「したのですか?」
「眷属の集落の食糧事情の改善のために、ホーンラビットが産まれる魔物核を作って配置した」
「ホーンラビットだけですか?」
「そうだ」
「ホーンラビットだと、スキルカードはレベル2かレベル1ですよね」
「そうだな。スキルカードも魔核も殆ど出ないな」
「・・・それなら大丈夫でしょうけど、ペネムダンジョンに配置なんて絶対しないでくださいね。いろいろ問題が有りすぎます」
「わかった。わかった。実験する時には、魔の森かチアルダンジョンでやることにする」
「・・・実験もしてほしくないのですけど、それは無理なのでしょうね」
「あぁ無理だな」
実験はするし、便利なスキルは使わなければもったいない。
認知した魔物しか出せない事から、未知のスキルカードを出す魔物は無理だろう。
でも、魔核は大量に取得できるようになる。
「カズトさん」
「なんだ?」
「ルートガー殿の言っている事もそうなのですが、僕としてはスキルカードがあまりにもカズトさんの所に集中しているのが気になります」
ルートガー。その我が意を得たりの顔をやめろ。俺の嫁だぞ!クリスにいうぞ!
「なぜだ?」
「カズトさん。僕たちは、魔の森探索でかなりのスキルカードを使いましたよね?」
「あぁ使ったな。かなりの赤字だっただろう?」
「・・・。やはりですか・・・。僕とリーリアとステファナで覚えている限りまとめました。ルートガー殿。カズトさんが持っていったスキルカードはだいたい認識していますよね?」
「えっ。そうですね。新しく得た物はわかりませんが、スーン殿からの報告もありますので、概ねは認識しています」
「そうですよね。これを見て、カズトさんが言った”かなり使った”という言葉を説明してください」
シロが、ルートガーに紙の束を渡す。
あんなに使ったのか・・・。かなりの赤字になっているのかもしれないな。
「あんた馬鹿だろう?」
「あ??使いすぎか?」
「逆だ。あんなに持っていくから、全部使ってくるかと思ったら、1/10も使ってないな?最低でも1/3程度は使ってきたかと思ったのに!!」
え?使わなくて怒られるの?
シロもそう思っていたのか?
「奥様。この資料は正しいのですか?」
「概ね正しいと思ってください」
「思った以上に魔物が少なかったのですか?」
「逆です。多すぎました。一日平均で5,000体を倒していました」
「はぁ?それじゃ?」
「はい。ルートガー殿の思っているとおりです。カズトさんは、新しく得たスキルカードを優先的に使っていました。ステファナやリーリアが最初に持たされたスキルカード以上になって帰ってきました」
「・・・そういう事は、増えているのですね?」
「えぇ残念ながら」
え?なに?俺が悪いの?
魔物が思った以上に弱かったからしょうがないよね?
「奥様。魔物が弱かったのですか?」
ルートガーに先回りされてしまった。
「カイ兄さまやウミ姉さまがでなければならない程度には強かったですよ。僕の記憶が正しければ、一度も治療も回復も使っていませんけど・・・」
「ちょっと待ってくださいね。奥様。強さはどの程度ですか?」
「そうですね。オーガの進化体がいましたから、そこそこの強さですね」
「・・・。冒険者では手が出せない状況だったのですね」
「そうなると思います」
「そうなると、スキルカードは?」
「得ています。レベル6程度ですね。レベル7を数枚程度は取得していると思います」
ルートガーが頭を激しく振ってから、俺を見る。
「ツクモ様。いい奥様ですね」
「そうだろう!最高の嫁だぞ!何を今さら?」
「えぇツクモ様。どこが赤字なのですか?単純に枚数比較だけしたのですか?」
「え?」
「魔核も大量に持って帰ってきていますよね?」
「あぁ穴あきは分けてあるぞ?」
「聞いています。工房区から喜びの声が聞こえてきました」
「ほら、良かっただろう?」
「だから・・・。ツクモ様。この街にスキルカードが集まりすぎているのです」
「そう思って、今回も使ったぞ・・・。(足りなかったかもしれないけどな)」
「何か言いましたか?」
「いや、なんにも」
「それでですね。スキルカードを集めすぎています。アナタが、珍しいスキルカードを集めるのはこの際は認めましょう。しかし、収集目的以外はなるべく使ってください」
「それじゃ、冒険者に配ればいいだろう?」
「何の名目で?」
「名目?必要なのか?」
「当然です。このスキルカードは、アナタと奥様と眷属の皆さんで得た物です。チアル街が得た物ではありません。それに、冒険者に配っても酒屋か甘味処で使われて結局は多少減らしてアナタの所に戻ってくるだけです」
そんな酷い事になっているのか?
「そんなにか?」
「えぇそうですね。ミュルダ殿やシュナイダー殿が困り果てていました」
「そうなのか?」
「えぇ攻撃系のスキルカードは、守備隊の備品として与える事ができますので守秘されますが、それ以外のスキルカードを給与して渡しても、街中で使うので戻ってくるのです」
「そりゃぁそうだよな。この大陸全部がチアル街なのだから自然と中央に集まってくるのだろうな」
「そういう事なのです。それに、他の大陸から買い付けにやってきますから、増える一方です。ゼーウ街の支援で多少減りましたが、その分パレスケープの交易が増えてすぐに取り戻しました」
「え?もう取り戻したの?」
「はい」
シロやルートガーの言っている事がわかってきた。
でもなぁしょうがない部分は認めてほしいよな。
「シロ。アズリを呼んでくれ、それから、ルートガー。魔核が集まるのは問題ないよな?」
「まったく問題が無いわけではありませんが、スキルカードが集まるよりはいいです」
「アズリですね。隣に控えています」
シロが席を立って、控室に声をかける。
「旦那様。奥様。お呼びでしょうか?」
「アズリ。ルートガーだ。俺の命を狙ったクズだけど、俺の右腕だ」
瞬間的に、アズリから殺気が漏れる。
「あんた。何を!」
「事実だろう?アズリ。大丈夫だ。コイツの嫁は、お前の姉さんになるクリスティーネだ。仲良くする必要はないが殺す必要はない。それに、俺に勝てない程度のゴミクズだからな」
「わかりました。旦那様。ルートガーと覚えておきます」
「おぉそうだ。アズリ。お前の魔物核生成だけど、スキルカードを産まない魔物を出す事はできないか?」
「やってみた事はありません。そんな物が必要なのですか?」
「あぁそれができたら、配置して冒険者が苦しむだけの罠ができそうだからな」
「わかりました、実験は必要だとは思いますが作ってみます」
「頼む。実験には、エーファたちを連れて行ってくれ、安全を考えて、カイかウミのどちらかにも同行を頼んでくれ」
「かしこまりました。それでは、実験をしてきます。旦那様。奥様。失礼いたします」
ルートガーに視線を移さずに俺とシロだけを見て退出していった。
「あんた。やっていいことと悪い事があると習わなかったのか?」
「習ったぞ?習ったから、嘘を言わないで”本当の事”だけを説明したのだが、ダメだったのか?」
「はぁ・・・。まぁいいですよ。それで?スキルカードを産まない魔物が・・・そういう事ですか?」
「そうだ。ペネムダンジョンの一つで踏破したら、大量の魔核が入手できるダンジョンを作成して、そこの魔物はスキルカードを産まない。冒険者が踏破しても得られるのは、魔核だけだ」
「それだけじゃなくて、既存のダンジョンの中にもそういうトラップを何箇所か設置すればいいだろう?」
「そうですね。足りませんが、やらないよりはましでしょう。お願いできますか?」
足りないなどと言ってきやがった。
どうしろというのだ?
「足りない?」
「そうですね。それでも、街の財政には響かないでしょう。そもそも、冒険者が持っているスキルカードですから意味は殆どないです」
「そうだよな。この前作ったようなフードコートや遊技場を大量に作っても意味がないよな」
「えぇ意味ないですね」
「細かく削るか?」
ルートガーに説明する。
さすがに、魔の森の中に作る橋頭堡はスーンたちに一気に作らせるが、橋頭堡は、木の上の高さまで持ち上げる事を考えている。そこまでは作るけど、それ以上は作らない。俺がスキルカードを出して、内装工事を行わせる。ロックハンドに関しても、港の基本的な構造までは作るけど、それ以降は時間をかけて作らせる事にする。
これだけでは足りないのはわかっている。
そこで、新しく俺の持ち物になったゼーウ街のスラム街の開発を進めて、コロッセオのような物を作る。毎月なのか、隔月なのかは相談になるが、闘技大会を行う。その優勝賞品の一つとしてスキルカードを提供する。
客席と闘技場の間は、防壁と障壁と結界で覆えばある程度は安全になるだろう。
そこで、賭けを行う。胴元に集まったスキルカードは、そのまま優勝者に還元されるようにすれば、永遠に赤字経営になるだろう。
俺達の大陸でスキルカードが足りなくなってきたら、還元率を絞ったり、優勝賞品を変えればいい。
細かい修正は入ったが概ね納得してくれた。
書類にまとめてくれるという事だ。来週の全体会議で議題に載せる事が決定した。
ルートガーが、入れ直した珈琲を飲んでから退出していった。
「カズトさん。ごめんなさい」
「なにがだ?」
「僕が余計な事をしたばかりに・・・」
「ん?余計な事なんてなかったぞ。シロが気がついてくれなかったら、問題が先送りになって取り返しが付かない事になっていたかもしれないからな」
「うん。僕、カズトさんの役に立ちたくて・・・」
「わかった。わかった。シロ」
「はい?」
シロを抱きしめた。
「シロ。ありがとう。これからも、俺が足りないと思った事をやってくれ、俺はお前を頼りにしている」
「はい!」
軽くキスをして身体を離す。
『マイロード』
ティリノが何か有るのか?
「どうした?ティリノ?」
シロに聞かせるという意味もあるが、念話ではなく普通に答える。
『はい。魔の森のダンジョンはどうしましょうか?それと、この建物はダンジョンにしないのですか?』
「え?ダンジョンにする?どういうこと?」
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